008(R) 俺達の領地
教会の礼拝堂がこの廃村で唯一の屋根のある建物だ。
数日出発を延ばして、開拓と家作りに必要な品物を買いだすことになる。
集まった俺達の仲間は、俺達6人、コキュートスの石牢から救出した5人と王都のミーシャの仲間のこそ泥が10人。貧民街からの3家族は5人、5人、7人の17人。それに、ハリウス達が勧誘した貧農の3家族は6人、5人、8人の19人になる。最長老は貧農のおばあちゃんで今年70だそうだ。最年少は、そのおばあちゃんのひ孫の男の子で今年5歳らしい。
よくも年齢がバラついたものだけど、総数57人は思っていたよりも数が多い。これからも増えるだろうから、最初はこれで十分だろう。
「南東の島を領地として頂いた。税は取れるようになってからで十分だ。それも2割以内に抑えるつもりだ。税は、収穫物の売値に掛ける。収穫量には掛けないから生活に困ることは無いと思うが?」
「それで領主さまは困らねえのか?」
農家の重税は目に余る。収穫高の4割以上を持って行くときもあるらしい。
売値の2割は、破格に違いない。
「全員を養えるだけの金はある。だが、全て使い切ればお前達の子供達が苦労するだろう。だから俺達に金があるうちに開墾を済ませる。開墾した土地で食べるだけの作物を作り、商人に売るための作物は別に作る。俺の考えている作物はブドウだ。ワインを売ることになる」
「全部をブドウ畑にすることにならねえか?」
「半分で良いだろう。ワインで暮らして行けるようなら、収益の悪い畑を潰すことになるだろうが、それを決めるのは俺達では無くお前達だ」
農民や貧民たちが互いに目くばせしている。判断に迷ってるのかな?
自給自足よりも貨幣経済に持っていければ、いろいろと便利なんだけどね。
「それに、もう一つの産業を作る。畑を耕しても、ワインを作っても暮らせぬ時は、それで食料を手に入れるつもりだ」
「そんな都合のいい産業何てあるの?」
今度は、ミーシャが疑い深そうな目で俺を見てるな。
「あぁ、塩だ。作るのは簡単だ。だが、手間を掛けねばならないことも確かなんだけどね」
「穀物栽培と、ワイン作り、それに塩の生産を手掛けるということか?」
「そうだ。修道士達が島で開墾を失敗しているらしい。たぶん自分達の食べる分だけを考えたんだろうな。確かに島の生産性は乏しいだろう。
だが、多角的な生産を考えれば足りない物を売って、生活物資を手に入れることができるはずだ。もっとも、直ぐには無理だろうが、俺達がコキュートスから持ち出した金塊は100年ほどの長さで島の開発を行うことができる」
「それ以上だろう。俺は賛成するぞ。おもしろそうだからな。それと、商人を1人仲間に入れたいところだ。俺達が島に行けば荷馬車の必要は無くなるだろう。荷車を商人に与えて後々の不足分を定期的に買い込むことができるようにする必要はあるんじゃないか?」
そう言ったのはハリウスだ。良いところに気が付いてくれた。確かに島に行けば荷馬車は無用の長物に違いない。
「となると、船も欲しいな。畑の開発なら南向きだ。島にはちょっとした山があるようだから荷馬車で越えるのは問題だぞ」
「ラバを買えば良いじゃろう。山道でもかなりの荷を背負えるぞ」
ラバなら開墾した畑の耕作にも使えそうだ。この案も取り入れてみよう。
そんな話し合いが夜更けまで続き、翌日は荷馬車が何台か近くの町や村へ必要な品を買い付けに向かった。
「私達も出掛けてくるね」
「あまり深入りしないようにしといてくれよ。それに両替を頼んだぞ」
ミーシャとロディが馬に乗って西に向かった。
金塊を金貨に替えるのは、大きな町でないと無理だろうし、同じ重さの金貨と交換というのは俺達があまりにも不利な気もするな。
とはいえ、金塊では物を買うにも苦労する。金貨と銀貨の袋に金塊が何本か化けてしまいそうだ。
出掛けた2人は、イヌとネコで大丈夫かなと思ってるんだけど、それなりの能力の持ち主ではある。両替をしながら俺達の追手の状況を確認する仕事は、彼女達以外に向かわせられない。
残った俺達はハリウス達が仕入れてきた布地を使ってテント作りの準備をしておく。元々が幌馬車の幌用の生地らしいからテントには最適だろう。毛布を分配したり、食器を分配したりと大変な騒ぎだ。食器が足りないらしく、慌ててバドスとケーニッヒが近くの町まで買いに出掛けたようだ。
俺はのんびりと廃村を巡って使えるものはないかと家探しを始めた。
廃村になってからだいぶ経っているようで、そんなものはどこにも無かったが、昼頃になって面白いものを見付けてしまった。
何と、鶏がいるじゃないか! この村でどうやって生きてきたかは分からないけど、間違いなく鶏だ。十数匹が群れている。これは何としても捕まえねばなるまい。島に持って行けば少なくとも卵は食べられる。
教会に戻ってくると、急いでカゴを探す。焚き木を入れた大きなカゴが2つあるからこれを頂こうか。
次にミーシャの仲間を探すと、教会の中をあちこち家探ししていた。何か見つかったのだろうか? 気になって聞いてみたら銅貨を2枚見付けたらしい。それで、躍起になってるんだな。
そんな彼等に鶏がいると言ったら目の色が変わったぞ。今夜食べるんじゃないと言い聞かせたんだが、目を輝かせて頷いているところが何としても安心できないところだ。
場所を教えた途端、俺の持ってきた大きなカゴを持って走って行った。無事に生きたまま捕まえてくれるのを祈るばかりだ。
夕方近くに荷馬車が帰って来る。遅くなったのはラバを3頭を引いて来たためのようだ。
ミーシャ達は夕食が終わったころに帰ってきた。少し待てば皆で一緒に食べられたのだが、いつ戻るか分からなかったんだからしょうがないだろう。
食後のお茶代わりにワインを飲みながら状況の確認を行う。
「近くの村までやって来たらしいわ。2日程前だと武器屋のおじさんが教えてくれたの。
そうそう、武器を少し仕入れたわ。弓が6丁に矢が100本。槍が6本よ。片手剣は3本を買い込んできたわ」
「ラバが3頭に穀物を10袋。明後日に商人が10人やって来る。中規模の商店の次男三男ですから荷馬車の提供を喜んでたぞ。来る時に、ラバを3頭、ヤギを5頭連れてくるはずだ。農具は適当に買い込んで来たから、足りない場合は荷馬車を渡す時に言い付ければ運んでくれるだろう」
「俺の方は鶏12羽を捕まえた。島に持って行けば良い食料になるかもな」
武器をミーシャの仲間に渡して、ハリウスとロディに鍛えて貰うことにした。
「俺達だけで全員を守るには無理があるが10人ほどの防衛戦力があれば話は別だ」
「そうだな。俺達が戦える。任せとけ!」
ミーシャの仲間達のリーダーはネコ族のオリックと言うらしい。俺達の防衛隊長と言う事になるんだろう。
翌日は、長旅に備えてパンを焼き、農家の連中はたくさんの草を刈っている。途中に飼料となる草があるとは限らない。やはり貧農ではあるが、俺達以上に農業や使役獣の知識は豊富だと感心してしまう。
一夜明けると、俺達は荷馬車に荷物を詰め込む。3頭のラバにも荷を積んで俺とケーニッヒが馬に乗る。
子供達を荷馬車に乗せて、武装させたオリック達を1台の荷馬車にまとめて乗せ殿を任せることにした。
さて、商人達は何時頃やってくるかな?
しばらくして、商人達を乗せた荷馬車が廃村に入ってきた。ヤギやラバを引いているからそれが遅くなった原因かもしれない。
「申し訳ありません。お詫びに雑穀を2袋余分に積んで来ました」
「それは、別に払おう。申し訳ないが、任地まで同行してくれ」
「もちろんです。ですが、本当にこの荷馬車を頂けるんですか?」
「約束する。と同時に別の契約をしたい。一か月に一度、島を訪ねてくれ。俺達の不足分を定期的に補充して貰いたい。商品代金とは別に、荷馬車を引き渡す時に契約料を払うぞ」
俺の言葉に商人達の表情が明るくなった。彼等としても親に当座の資金を用立てて貰う事も無くなるだろうからな。額はまだ言ってないが、1人銀貨10枚を予定している。金塊1本を売り払った代金は相当な額だ。しばらくはそれだけで暮らせるだろう。
廃村を出た俺達は馬車の車列を東に向けて進む。この先はしばらく村が無い。廃村を出て最初に目にする村までは10日以上掛かるだろうし、その村は隣国の領内だ。
「俺達をそっとしといてくれるだろうか?」
俺の横に馬を並べたケーニッヒが呟く。
「無理だろうな。奴は勇者達を殺し過ぎた。適当な官職を与えて置けば済む話だったんだが……。それらを含めて俺達は奴らの企みをおおよそ知っている。その内、やって来るさ。今のところは表立って行動はしないだろうけどな」
「王位を得てからということか?」
「それでも、1個中隊だろうな。それ以上に動かすと隣国が軍を国境に進めるだろう」
10人以下なら盗賊の捕縛を理由にできるだろうが、1個中隊となるとそんな言い訳で逃れられないだろう。あちこちの王国と調整を図ってからになる。それでも隣国は軍を国境近くに展開するに違いない。
早ければ1年、遅くとも3年と言うところだろう。すでに彼等の頭には新たな王国が築かれてるはずだ。
荷馬車の進みは歩く速さに近い。1日の行程はおよそ150Rd(22km)。王都より歩いて20日と聞いているから400kmは離れているはずだ。
廃村を出てから5日目に、ようやく目的地である島を目にすることができた。
地図で見るより遥かに大きく感じる。横幅も数kmはありそうだから、島がどのぐらい南に張り出しているか気になるところだが、将来的には2つ以上の村を作ることも可能だろう。いや、大陸側にも領地を貰ってるから3つは確実だろうな。
「あれか!」
「あれだ。俺達の領地で、他者の介入を許さん土地になる」
さて、忙しくなるぞ。先ずは先行部隊を島に送らねばならない。荷物の安全な保管場所の確保と住民の暮らす場所を見つけなければ、荷を運ぶことも出来ない。しばらくは陸地で暮らさねばならないだろうが、早いところ島に渡らなければ追手の心配も出てくる。




