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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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067(M) 侵攻軍の出立


 商人達の荷馬車が王都から数珠つなぎに東に向かっている。

 荷馬車が足りずに、農家に荷役を依頼しているようだとジャミルが教えてくれた。

 どのような方法でも期限さえ守れば問題ない。農家も臨時収入を得られるから、経済が活性化しそうだな。


「今の所予定通りです。伝令兵を集積所の手前と集積所に置きます。進軍に合わせてさらに伝令ぼ屯所を設けるつもりです」

「それで良いだろう。ブルゴス王都陥落の知らせは昼夜を問わず馬を飛ばしてくれ」

 俺の指示に、マデリーが頷いてくれた。

 

「王都の西と北に1個大隊ずつだが、それで問題ないのか?」

「オランブル王国とトルガナン王国は友好条約を交わしたばかりだ。その上、妹王女が嫁いだばかりだからな。この状態で攻め込むつもりならかなりの策士がいることになるが……。貴族達が勢力争いを続けているなら安心できる話だ。それに、北の魔族はコキュートスを落とされてから大きな動きを見せていない」


 2個大隊と1個中隊の近衛兵が残っているのだ。緊急の知らせを受けてブルゴス王国から大返しを行っても、十分に間に合うだろう。


「リオン男爵の領地はすでに囲んであります。今年の収穫を補う荷は全て徴発します」

「リオン達はそれで良い。陸地側に陣取る部隊を攻めるということはないだろう。嫌がらせに流星火を放つかもしれんが、大規模に放つことはないはずだ」


 俺達は性能は良くないが数を持っておる。

 性能が良くても数が揃わなければそれほど恐れることもあるまい。出来れば囲みを続ける連中に積極的に使ってほしいくらいだ。それだけ、リオン達の手持ちの流星火を減らすことができる。


「副官達に作戦の全体像は伝えてあるな?」

「一緒に作戦計画の細部を見直していますから、問題はないでしょう。将軍達へのブルゴス王国攻略指示は明日ということで変わりませんね?」

「もちろんだ。秋分の日を持って作戦を決行する。明日の朝に、王命を伝え、正午に各大隊が一斉に集積所に向かう。集積所で1日兵を休めて東に向かうことになる」

「同時に我等は北に移動して国境を越えます。側面を私が、後部をマデリーの部隊が攻撃することになりますが、騎馬隊の指揮は私が状況を見て突入のタイミングを計ることになります」


 ジャミルの説明にマデリーが頷いているから、遊撃部隊はジャミルに任せても問題ないだろう。

 後は砲兵部隊がどれだけ活躍してくれるかになる。


 翌日、謁見の間に集まった将軍達を前にブルゴスへの進撃を命じた。

 騎士の礼を取って俺に顔を向ける将軍達の年代は平均すれば壮年というところだろう。2名の将軍をだしている一族もあるが、将軍達にその選択を委ねている以上、それもあり得るだろう。要は結果だ。結果を伴わなければ直ぐに降格させれば良い。


「狼のごとく進撃せよ。1か月後の結果を楽しみに待っておるぞ」

 俺の言葉に、再度頭を下げて騎士の礼を取る。


 足早に謁見の間を去る将軍達を玉座から眺めたが、どちらかというと俺も一緒に出掛けたいくらいだ。

 流星火の一斉射撃はさぞかし見ごたえがあるだろう。大砲の威力も確かめたいし、現地を見れば更なる改造も可能かもしれない。


 玉座から腰を上げて、妃であるカリネラムの手を取ると私室に下がる。

 ジャミル達は一足先に出掛けてしまったから、昔の仲間で残ったのはクリスティだけだ。王宮の地下に自分の実験室を作ったようだが、あまり変わったことを始めると魔女の噂が立つのではと心配になる。

 一応、王国の為に王宮の古文書や魔導書を調査して、その内容を確認しているとは聞いているのだが……。


 離宮のリビングに戻るとカリネラムがワインのカップを渡してくれた。

 ソファーに腰を下ろして、ワインを飲む。王宮で飲むワインは王都の酒場のワインとは品質がまるで異なる。飲めばおおよその値段が分かったものだが、このワインは全くわからない。高価であることは確からしい。


「先ほどのお話では短期間の戦に思えましたが?」

「1か月は掛からないだろう。ブルゴス内で2度の戦闘をして帰還するはずだ」

「ブルゴス王国がトルガナン王国に攻め入った時の戦は1度。2倍にして報復するということですね」


 そういう考えならば確かに2倍になるんだろうな。カリネラムの考えに思わず顔がほころぶ。


「倍返しは報復手段としては妥当なところだろう。向こうが詫びれば1度でも良いのだが、将軍達にはトルガナン王国軍の実力を示す良い機会でもある」

「私の記憶では、ブルゴス国境付近にコキュートスに達した男爵がいたはずですが?」

「リオンという元勇者だ。カリネラムを私達が助け出した後にコキュートス宮殿に乗り込んだ唯一のパーティになる。危うくハイレーネン公爵の勇者狩りの犠牲になりそこなっている。トルガナン王宮をかなり憎んでいるだろうな」


 まぁ! と片手で口を押えながら驚いている。

 たぶん内情は先の御妃に聞かされてはいるだろうが、詳細は知らないはずだ。

 

「男爵の助力は受けられませんね」

「部隊の一部を割いて、彼らの領地近くに駐屯することになる。背後を突かれるとも限らない、厄介な存在になってしまった」


 問題はリオン達の排除をいつ行うかだ。出来ればオランブルを従えた後にしたいところだが、あまり時間を持たせると傭兵を雇うことも考えられる。

 とはいえ、火薬作りに品質の悪い硝石を買うぐらいだから、財政は心もとないところもあるのだろう。

 コキュートスからの土産を貰ったが、あの品では商人に売りさばいても金貨100枚には手が届くまい。あの土産の数倍の品を持っているとしても金貨500枚程度だ。

 どれぐらいの住民が住んでいるのかは分からないが、多くても300人というところだろう。商人達が定期的に荷馬車を連ねてあの島を訪れるということだからかなりの散財を続けているはずだ。


「修道士達も逃げ出す程の島らしい。今はコキュートスからの戦利品を売って食料を手に入れているようだが、そんな暮らしが何時までも続くとは思えん」

「自滅を待つということですか」


 それも選択肢の1つではある。だが、開墾を続けているから直ぐに根を上げることはないはずだ。

 リオン攻略は、やはり力攻めにならざるを得ないだろうな。


 翌日は、俺一人で執務室にこもることになった。

 マデリーが持ち帰ったオランブル王国の貴族の相関図をテーブルに広げてジッと眺める。

 まったく、いったい幾つの派閥があるんだ?

 当主達の勢力分布と、奥方連中の勢力分布が若干異なるのもおもしろい。それに、商会のお得意貴族のリストか……。

 まったくマデリーの情報収集能力に驚く限りだ。いや、もしかして優秀な内偵者の集団を見つけたのだろうか?

 それなら俺にも紹介して欲しいところだ。ジャミルが近衛兵の偵察部隊を使うのに対してマデリーは一般人に紛れた人物を使うのだろう。

 待てよ……。オランブルの貴族が絡んでいるのかも知れんな。

 下級貴族の多くは、家を維持するためにいろいろと副業をしていると聞いたことがある。


 少なくとも5つの派閥が王宮内に出来ているのか……。嫁いだ王女は上手く貴族達の間を泳ぐことができるだろうか?

 表向きはカルデアン公爵の息の掛かった貴族達が王女を守ってくれるだろう。だが、そのすぐ後ろにはカルデアン公爵に敵対する貴族が、王女の些細なミスを見つけるべく鷹のような目で見ているに違いない。


 その一番手が、ブルゴス王国に懇意を示す貴族達らしい。

 今度の戦の結果が問題になりそうだな。結果が俺の思う通りなら、すぐさまカルデアン公爵に知らせた方がいいかもしれない。後ろ盾を失った貴族が、カルデアン公爵家になびくなら問題はあるまいが、暴挙に出ないとも限らない。

 貴族内の争いが口争いから武器を手にした争いに変わらないとも言い切れないところがある。

 この相関図がどのように変化するかを早く知りたいものだ。


 扉を叩く小さな音がしたかと思ったら、クリスティが部屋に入って来た。1人ではなく若い男女を連れて来たところを見ると、何かしらの発見をしたということだろうか?


「やはり、1人で次の戦の計画を練っていたわね」

「ジャミル達が出掛けたからな。俺に出来るのはこれぐらいのものだ」


 俺の話を聞きながらテーブル越しの席に着く。

 一緒にやって来た2人にも席を勧めているが、俺を差し置いての事だ。他人がいないから問題ないが、近衛兵達が知ったら色々と問題になりかねない。


「座ってからで、済まないがワインのカップを配ってくれ。……それで?」

 若い女性が、俺に頭を下げると席を立って棚に向かう。クリスティは俺の視線を受けても笑顔を崩さなかった。


「教団との話が着いたわ。教団は例え島を攻撃する事態になったとしても、それは神の試練であると答えてくれた。これで心おきなく島に侵攻できるわよ」

「何よりだ。宗教程怖いものは無いからな。だが、それだけではないんじゃないか?」


 そう言った俺に、クリスティは傍らの男に顔を向けて小さく頷いた。男がゆったりとした衣装の下から取り出した物は小さな球体だった。


「何だ?」

「以前作った大砲の弾は分厚い板を打ち破ったわ。鉄球だからそうなるのでしょうけど、これはあのように板を打ち破ることは出来ない。けどね、これを大砲に詰めて撃ちだすと、着弾した場所で炸裂するのよ。軽くなった分だけ飛距離も稼げるわ」


 炸裂弾ということか?

 出来れば2か月前に欲しかった。

 だが、遅いことはない。次の戦に使えば良い話だ。


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