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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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063(M) 妹王女の出発


 燃える水は油のようにも思えるが調理には使えないらしい。それが出来れば王国の領民は喜んでくれたろう。

 将来には色々と役立つことも考えられるが、現在は兵器としてのみ利用価値がある。たっぷりと買い込むようにクリスティに指示しておけば、後は工房の職人達が上手く利用してくれるだろう。


「マデリーの方も準備は整ったのか?」

「一応、整えることができました。毎夜ドレスを変えて5日間の宴席に参加するなど、思ってもみなかったことです」


 あまり行きたくは無いようだけど、そんな任務をこなす連中を全て処刑してしまったからな。俺達の中から誰かを出さざるを得ない状況だ。西に展開している大隊の将軍夫妻も同行することになっているから人数と役職的には問題はないと思う。マデリーも国王付きの武官という触れ込みだ。


「ゆっくりと楽しんできてくれ。昼間のサロンも参加してほしいぞ。たぶん公爵から何度か誘いがあるはずだ」


 カルデアン公爵としては、トルガナン王国との繋がりをアピールする良い機会でもある。王宮内の貴族の勢力図を自分に有利にする方策については十分に考えているだろう。


「だいぶ宝石を預かりましたが……」

「全部ばら撒いてきてもだいじょうぶだ。出来れば積極的に使ってくれ。それだけ王女に対して俺が心配しているように見えるだろうからな」


 このときの為に国庫はあるようなものだ。単に蓄えるなら誰にでも出来る。それを使うチャンスを見極めてこそ、真の国王と言えるんじゃないか。


「だが、2つ確認してくれ。カルデアン公爵から贈られた貴族達の勢力図がどの程度信用がおけるか。それと、軍隊の指示系統と貴族の勢力図の関係だ」

「軍は国王の直轄じゃないのか?」

 俺の指示にジャミルが確認してきた。確かに表面上は国王に忠誠を誓っているのだろうが、士官や将軍にどれだけ貴族が入り込んでいるかが問題だ。

 カルデアン公爵が筆頭となって貴族会議を動かそうとしても、軍が動いたら元も子もない。場合によってはクーデターだってあり得るのだ。


「表面上は、王女を心配する義兄として相手側に映ればありがたい話だ。妹想いのバカな兄を演出してくれて構わんぞ」

「てっきり、商会と接触しようとしていると思ったのだが?」

「オランブル王国の商会との交渉はトルガナン王国の商会が行っている。中々旨味のある取引ができると喜んでいるようだ」


「貴族の勢力争いが、表面に出ないことを祈りたいな」

 ジャミルの言葉に頷くことで同意した。

 出来れば2年以上水面下の争いでいてほしい。オランブル王国の軍隊を巻き込むようでは俺達の介入が難しくなる。王国軍を2分するような争いは望んでいるが、それが起きなければ起こすことも計画に内だ。


 義妹王女がオランブル王国に輿入れする前夜。

 いつもの夕食よりもはるかに贅沢な料理がテーブルに並ぶ。

 あまり口を開くことはないが、先の御妃様が涙ぐんでいるのが見て取れた。


「体を大切にするのですよ」

「困ったことがあれば直ぐに知らせなさい」


 先の御妃様とカリネラムが、ポツリポツリと言葉を投げるものの、妹王女は目を伏せて頷くだけだった。

 明日、馬車に乗れば2度とトルガナン王国の王宮に戻ることはないだろう。

 喜ばしい中には、小さな悲しみも存在するのだ。

 今夜はゆっくりと姉妹で過ごすことになるのだろう。寝室に戻らずに執務室に向かう。


 暖炉の傍でワインを飲みながら、来るべきブルゴス王国戦の戦略を練ることにした。

 早ければ早いほど良いだろう。国境からブルゴス王都までの距離は歩いて7日らしい。途中に待ち受ける戦力は本来であれば2個大隊だろうが、リオンの島を攻撃してくれたおかげで半減しているはずだ。

 もし、現在も2個大隊であるのなら、東もしくは北の部隊を削減していることになる。いずれにせよ予備兵力は無いと考えても良さそうだ。


 正規軍4個大隊と竜騎兵2個中隊、それに軽騎兵が2個中隊と砲兵隊が俺の持ち駒になる。

 正規軍4個大隊を前面押立て。正攻法でぶつかるとなれば、2個大隊程度なら壊滅できるだろう。装備が同じなら兵士の数が多い方が有利になる。

 士気も影響すらだろうが、俺達の侵攻がブルゴス王国の昨年の暴挙にあるとなれば、義はこちらにあることになる。士気を維持するには十分だろう。

 それに元々長期戦は考えていない。

 ブルゴス王都に10日で到達し、3日で王都を攻略する。

 ブルゴス王宮を灰塵にして、王侯貴族を全て根絶やしにすればブルゴス王国に残存兵力があっても王国再興は不可能だろう。俺達の軍に下って他の王国からの蹂躙を避けることになるだろう。

 2個大隊を残せば十分に対応できるはずだ。


 砲兵部隊の内、大砲を持つ部隊だけを正規軍の中に置くことで、敵の突進を阻止することもできそうだ。

 なるべく早くに王都にたどり着くことが肝要になる。

 騎馬隊を正規軍同士のぶつかり合いの前に、敵後方に回り込ませることもできそうだ。

 後方から攻撃するか…、それとも側面か。

 何度かは荒地の戦で大砲を使うことになるだろうな。

 砲弾と火薬の備蓄もかなり放出することになりそうだ。流星火の製作も侵攻開始時には300発以上用意せねばなるまい。

 王都の規模はトルガナン王国と同等らしいから、それぐらい用意しないと王都を火の海にはできないだろう。


 コツコツと控えめに扉が叩かれた。

 近衛兵がジャミルの到着を告げる。とりあえず入って貰おう。

 今時分の来訪は、良くない知れせと相場が決まっているが、明日になれば事態はさらに悪化するはずだ。


「起きておられると聞いて、やってきました」

「俺とジャミルだけだ。昔同様敬語は無しで良いぞ。ところで何があった?」


 棚から新たなカップを持ってくると、ワインを注ぎジャミルの前に置く。

 ゆっくりとワインを飲む姿を見ると、それほど急な話でもなさそうだ。


「ブルゴス王国が流星火を手に入れたようです。侵攻の妨げになるやもしれません」

「リオンと一戦しているからな。同じような武器を探したということだろう。だが、それで終わりなら問題はない。元々が狼煙の代用のような代物だ。我が王国の流星火とは本質に異なるはずだ」


 精々先端に槍を取り付けるぐらいのことだ。俺達のように着弾後に炸裂して周囲に火炎をまき散らすことはない。リオン達もかなり苦労したはずだ。俺達のように戦の道具として短期間に工夫を凝らすことができないだろう。


「とはいっても、士気が削がれますぞ」

「俺達の流星火を撃ち返してやるか? 夜間に数発撃てば効果はあるだろう。あまり使うと王都攻略に支障がでそうだ」


 飛距離が短ければ大砲を応射しても良いんだが、俺達の大砲の飛距離は2Rd(300m)程度だ。最初に手に入れた流星火は4Rd(600m)ほど飛んだからな。やはりこちらも流星火を使うことになってしまう。


「それにだ。ブルゴス王国は流星火を購入したはずだ。自らの王国で製作出来なければ、それほど数を持つことも無いだろうし、発射台を作ることもしないだろう。あれは俺の考案だからな」


 元々が上手く狙える代物ではない。だからこそ同時に多数を発射することになるのだ。その辺りの発想ができればたいしたものだと思わねばならん。


「とはいえ、様子を探らせた方がいいだろう。できればブルゴス王国に新たな流星火が運ばれることを阻止したいところだな」

「やらせますか? 当方から運ばれるはずですから商人の荷を盗賊を装って襲うことは可能でしょう」


 傭兵部隊を使ってみるつもりなんだろうか? リオン攻略で使い果たしたと思っていたが、使えそうな連中を残しておいたということだろう。


「傭兵を使うなら丁度良い。どのみち、使い潰さねばなるまい」

「場合によっては帰って来ないとも限りませんが、ダメ元ですかな」


 まだまだブルゴス王国に攻め入るには準備が必要だ。

 時間はたっぷりある。その間に侵攻の準備も整えねばなるまい。


 翌日。妹王女との最後の食事を取る。

 朝食が終わるとすぐさま、オランブル王国へ旅立つ準備が侍女達の手で始まった。

 せっかくの花嫁衣裳を見る機会は無かったが、これも隣国に嫁ぐ以上仕方あるまい。衣装だけを見せて貰って頷く事しかできなかった。


 謁見の間でカリネラムと共に待っていると、妹王女とオランブル王国で妹王女の世話をする侍女達が入って来る。

 妹王女の最後の別れの言葉に、「幸せに成れよ」と言葉を掛けた。

 俺達に深く頭を下げて、謁見の間を出ていく妹王女の姿をいつまでもカリネラムが見つめている。


「さて、テラスに向かわねばならん。先の御妃様はすでに待っているはずだ」

「そうですね。嫁ぐ妹の馬車列を見送るのが私達の出来る最後の仕事です」


 王宮広場に面したテラスに向かうと、十数台の馬車が広場に待機している。マデリーと1個小隊の軽騎兵も隊列を組んでいた。

 中々に壮観な眺めだな。

 そんな中、妹王女が数名の侍女を従えて王宮から出て来た。

 豪華な馬車に侍女2人を連れて乗り込み、他の侍女は直ぐ後ろの馬車にのりこむ。元貴族の使っていた馬車らしくそれなりに豪華な作りだ。

 妹王女が馬車に乗ったことを確認しているのがマデリーだろう。短めの鎖帷子のヨロイは馬で戦うことを前提にしたものらしい。

 マデリーが車列の先頭にいる軽騎兵2個分隊の前に行くと、槍を掲げて合図をしているようだ。

 ゆっくりと軽騎兵が馬を歩かせる。

 長い車列は直ぐに動くことはない。それでも、少しずつ進んでいく。

 王宮から南に続く通りを進んでいく姿が少しずつ小さくなるのを、俺達は何時までも眺めていた。


「妹は幸せに成れるのでしょうか?」

「成れなければ、俺が成らせてやる。オランブル王国の王子次第だが、カルデアン公爵という派閥を持った貴族はトルガナンに協力的だ。そんなに心配することはないだろう」


 俺の胸中を察しているのだろうか?

 いずれ、オランブル王国に攻め入ることになるだろう。

 大義名分はいくらでも作れそうだ。


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