006(R) 謁見と褒賞
東門から北側は、貴族街になっている。王宮はその一角にあり、周囲を鉄の柵で仕切られていた。
大通りから中に入るには鉄柵に設けられた門を通らねばならない。ただの門なんだけど、1個分隊の兵士が警護をしていた。
門の前にいた兵士の1人に声を掛けて用件を伝えると、直ぐに門の脇に作られた屯所に向かった。出て来たのは身なりの良い壮年の兵士と若い兵士だ。
「ご苦労さまでした。王女様は救出されていますが、あなた方の裏方での働きがあったからでしょう。国王陛下がお待ちかねですぞ。この者に案内をさせますのでどうぞ付いて行ってください」
「御丁寧に痛みいります」
挨拶は大事だからな。礼を言って置けば悪い印象は持たれないだろう。
俺達は遠くに見える王宮に向かって、若い兵士の後に付いて歩いて行った。
「ここでお待ちください。王宮内は私では案内できませんので」
振り返った兵士が俺達にそう告げると、無駄に横に長い階段を駆け上って正面の大きな扉を守る兵士のところに駆けだして行った。
やがて新たな兵士を連れて戻ってきたが、門を守る兵士が革の鎧なのに対して新たな兵士は鎖帷子だ。
ヘルメットにトサカが付いてるな。近衛兵ということなんだろうか。
「お待ちしておりました。謁見の間にご案内いたします」
今度はこの兵士の後に続いて王宮の大きな扉をくぐる。扉の先はどこまでも続く回廊だ。
そう言えば、俺達が勇者の認定を受けたのは教団の教会だったな。印であるメダルは大臣がくれたものだ。最期位は王宮でという計らいなのかな?
途中にある階段を2階に上る。回廊の左右にあったけど、出口が同じでは無駄にしか思えん代物だ。
2階の回廊には絨毯が敷かれている。赤ではなく茶色なんだな。
回廊の両側にはいくつもの扉がある。扉に文字が彫られているが気にしないでおこう。俺達とは違う世界だからね。
やがて、正面に扉が見えた。この向こうが謁見の間になるんだろうか?
案内してくれた兵士が、扉の両側に立つ兵士に何事かを告げると、重々しく兵士達が頷いて左右の扉を同時に開いてくれた。
「勇者リオン殿御一行。国王陛下の命により戦地より帰還いたしました」
良く通る声が大きな広間にこだました。
その声に居並ぶ連中が一斉に俺達に視線を向ける。少し離れたベンチでくつろいでいた連中も、部屋の中央に集まって来る。
「どうぞ着いて来てください。挨拶だけですからあまりかしこまらなくとも良いですよ。この場では報告だけを行えば十分です。その後に慰労の酒宴がありますので、詳細はそこでと言う事になります」
俺みたいな田舎者もいるからな。ガイド役は苦労するんじゃないか?
ゆっくりと絨毯にそって歩いて行くと今度は横に絨毯が敷かれている。どうやらここで報告となるらしい。
中央のひな壇には国王夫妻が椅子に座っている。左の席にはまだ幼い王女がいるが、右手の席には若い男女が椅子に座っておもしろそうに俺達を見ている。
こいつが俺達を噛ませ犬にした勇者で隣が救出された王女と言う事なんだろう。思わず笑みがこぼれる。
「勇者リオン。大義であった。そなた達の働きで、勇者マルデウスが無事に王女を救い出せたと聞いておる」
「勇者リオンめにございます。コキュートス宮殿まで入ることができました。我等の奮戦の中で王女殿下をマルデウス殿が救出できたことをお喜び申し上げます。つきましては、勇者の証しを返上して寒村に戻り畑を耕す許可を受けたいと思っております」
「まぁ、待て待て……。コキュートスの内部まで行くことができたのはその方達だけじゃ。ゆるりと話を聞きたいと思うのじゃが……」
「勇者リオン殿をバラの間にご案内いたすことにいたします。それで、称号はどのように?」
「他の勇者達は準男爵であったな。コキュートスまで行くことができたなら、男爵で良いじゃろう。寒村では無くちゃんとした町を持つ領地を与えねばなるまい」
「ありがたきお言葉。領地経営に努力する所存です」
全員で頭を下げる。これで掴みはできた。後は生きて宮殿を抜け出すだけだ。
先ほどの兵士の後に付いて謁見の間を出る。この次が問題だぞ。バラの間がどんな場所かも考えないといけない。
急に兵士が足を止めた。
「バラの間は国王陛下が貴族と密会をする部屋でございます。部屋が小さい事もあり、警護の兵士を多人数配備できません。昔からの習わしですので、武器をこの部屋に一時置いていただくわけにはまいりませんか?」
「距離が短くなるということですね。了解です。ですが、コキュートス宮殿から頂いて来た戦利品を献上したいと思っていたのですが、それはどのようにいたしましょう?」
「部屋で見せて頂けませんか? 献上品であれば私の確認で十分です」
ただの近衛兵だと思っていたが、それなりの地位と言う事なんだろう。
言われた通りに部屋に入って装備ベルトを外す。装備ベルトの腰に付けてあるバッグから魔法の袋を取り出すと、用意した金銀の燭台と皿を兵士に見せた。
「見事な作りですね。さぞやお喜びになられると思います。上着をめくって頂けませんか? 次は足を……、けっこうです。それでは参りましょう」
部屋には侍女が3人程待機していた。ミレニア達も武器を持たないことを確認されたみたいだな。
バラの間は回廊に出ずに、この部屋から扉を通って入るようだ。大きなテーブルが中央にあり、豪華な椅子が20個近く取り巻いている。
兵士は4隅に1人ずつだ。どれ位できる連中か分からないけど、魔族の連中よりは下なんじゃないか? 俺達を殺気の籠った目で見ているようでは器が知れる。
兵士が指示してくれた椅子に座る。椅子は豪華な彫刻がしてあるけど、魔道文字が刻まれているようには思えない。この椅子そのものに仕掛けは無いようだ。わざと音を立てて椅子を引いてみる。
床にも仕掛けは無いな。ベルトに引っ掛けた皮袋をわざと落とし、うっかりした田舎者を演出しながらテーブルの下を探ったが、そこにも何も無い。やはり毒殺と言う事になるんだろう。
しばらくして兵士を先頭に国王と数人の男が入ってきた。マルデウスも一緒だということは既に次期国王気取りのようだ。
俺達は一旦腰を上げ、頭を下げて国王の着席を待つ。
「ここは我等意外には兵士のみじゃ。普段通りで十分である。早う席に着くが良い」
俺達は改めて頭を下げると腰を下ろした。
「まさかコキュートス宮殿にまで入る勇者がいたとはのう。どうであった?」
「魔族の宮殿とはいえ荘厳な作りでした。もっとも、私共は平民ですから、立派な屋敷は始めて見たのですが……」
「宮殿に魔族は多かったのか?」
「宮殿に至る道筋に全て集まっていた感じでした。不覚にも傷を負い、国王陛下の帰還命令に直ぐに応じられなかったことを恥じております」
「仕方のない事じゃ。責めはせぬ」
「傷を何とか抑える間に、仲間が宮殿内を探索したようです。その時に見付けたのがこれになります。他も探したのですが、このような品は既に持ち去られておりました」
上着の中に手を入れた瞬間、周囲の兵士が一歩前に出たぞ。俺達を案内してくれた近衛兵が首を振ると直ぐに元の位置に戻った。
周囲には気にも留めない表情を繕って、魔法の袋を取り出すと大きな包みをテーブルの上に取り出した。
包みを解くと、見事な彫刻がほどこされた金銀の燭台と皿が数枚出てくる。
「皿はもう2枚あったのですが、破損していたので途中で売り飛ばしました」
「見事じゃな……。頂けるのか?」
「どうぞお使いください」
案内してくれた近衛兵が包みをまとめると、扉近くの兵士に預けた。
さて、次はどうなるのかな?
「ワシも褒賞を渡さねばなるまい。これが男爵の任命書になる。この指輪を衛士に見せれ王宮に入るのは自由じゃ。後は……、領地じゃな。希望はあるか?」
「南東の辺境に島があります。我等一同、島を開墾しながら隣国の監視を行おうと考える次第……」
一瞬、国王がポカンとした表情で俺を見た。
「地図を持て!」
マルデウスが大声を上げたけど、そんなに偉いのか? 思わず首を傾げてしまったぞ。
やがて兵士が持参した地図をテーブルに広げて、俺の言った島を探している。
「ほほう……、これか。また随分と遠い場所じゃな。だが、これは我が王国の版図なのか?」
「かなり以前に我が王国の修道士が開墾を始めたと聞きます。あまり便利な地ではありませんし、暮らすこともままならなかったようで現在は無人の島です」
「王国の修道士達がまがりなりにも開墾を行っておれば、我が版図としても良いじゃろう。確かにここを押さえれば隣国の監視は思い通りであろうよ。だが、修道士でさえ投げ出す地を領地として暮らしが立つのか?」
「贅沢せねばどんな所でも暮らしは立ちます。それに、これだけ離れた痩せた地を羨む貴族はおりますまい」
俺の言葉を聞いて、国王はおもしろそうに俺を見ている。
従者から筆記具を借りると、俺に先ほどの任命書を出させて、領地となる島の名を記入した。ついでに島に接する土地についても、領地とする旨を書き添えてくれた。
「島がダメでも、陸地なら開墾が可能であろう。東西100Rd、南北50Rdじゃ。若い者は羨ましいのう」
そういって国王が笑い声を上げた。1Rdは150m程だから、東西15km、南北7.5kmが俺達の領地になる。周囲の連中も微笑んでるところをみると、他の勇者達はかなり無理を言ったのだろうか?
「ところで、コキュートスには誰もいなかったのか?」
問いの主はマルデウスだった。
「20体に満たぬ魔族。それと地下にいたのはグレミルでした。私達の到着がもう少し早ければ……、グレミルの餌になった者達の血潮で石の台が濡れていました」
「何体いたのだ?」
「石牢の奥ですから詳しくは分かりませんが数体はいたのではないかと」
グレミルの話でマルデウスの表情が変わったぞ。捕えに向かうのかな?
「確かに残念な話だ。我等もコキュートスに向かったのだが、魔族の持つ地図で離宮の存在を知ったのだ。離宮で我等がもう少し頑張ればグレミルの餌食にならずとも済んだ者がいたかもしれん」
「マルデウスには感謝しきれぬ。魔族相手に王女を連れ帰ってくれただけでもありがたい。もっと勇者を送らなかったワシにこそ責任があるというもの……。さて、会見はこれで終わりじゃ。ワインを飲んで杯を記念に持ち帰るが良い」
国王が席を立った時に立ち上がって頭を下げたのは、俺達だけだった。すでに国王の権力は委譲されているのだろうか?
「杯を持て!」
案内してくれた近衛兵が声を上げると、すでに用意ができていたのだろう。侍女が人数分の杯を持って部屋に入ってきた。杯にはすでにワインがはいっているようだ。
思わず仲間達と視線を交わす。




