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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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005(M) 勇者達の始末


 いったい国王は何人に勇者のメダルを渡したんだろう?

 今日で8組目のハンターが王宮を訪れた。

 ここしばらくは、毎日のように謁見の間で勇者からの報告を聞いている。


 今のところ、帰って来た勇者達はコキュートスの周辺で一か月以上も続いた魔族との一戦に参加したものは一組もいない。

 自らの武芸を高めるために、ひたすら魔族と戦っていたと報告をしているが、コキュートスの遥か手前で下級魔族を相手にしていたのだろう。武芸者としての立ち振る舞いがそもそも出来ていない。

 

「ご苦労であった。勇者のメダルを返納するが良い。その代わりとして、準男爵の位を授ける」


 国王の言葉に、大臣が任官書の勇者の名を素早く記入して渡している。

 準男爵は最低位の貴族だ。領地すらないが年間金貨5枚が渡される。パーティで分ければ金貨1枚になるかならないかだ。王都で暮らすならば貸家を手に入れても一か月で銀貨30枚以上は必要だろう。

 名ばかりの爵位を得て、暮らしが立つとは思えないんだが、それを悩むことがないようにしてやるのも、ある意味親切ということになるんだろう。


 国王が席を外したところで侍女が銀の盃に入れたワインを持ってくる。

 王宮お抱えの職人が入念に彫刻を施した品だ。

 盃を見て下品な笑いを浮かべる者もいれば、感激に涙ぐむ者まで様々だ。

 ワインに忍ばせた毒は神経毒。軽い酩酊感を味わいながら、ゆっくりと心臓の鼓動を止める。

 盃をテーブルに戻して、バッグから盃を包む布を取り出す途中でのことだから、椅子から転げ落ちるようにして倒れてしまう。

 直ぐに、ジャミルの新たな配下となった者達が部屋から担ぎ出してしまうから、部屋の中は綺麗なままだ。

 勇者達がバッグに入れた魔族との戦で得た戦利品や金品は我等の王国つくりの足しにしよう。


「まったく、後を絶ちませんね」

 うんざりしたような口調で、ジャミルが言った。


「そうだな。だが、それほど長くはないだろう。恥じ入って王宮に来ない者達は放っておいても害は無い。自分の生まれ故郷に帰れば直ぐに警邏隊に見つかるだろう。それで、ここに来れば良し、来なければ無頼の徒になるだけの事だ。町中で殺すことも出来よう」


 パイプに火を点けると、窓を開ける。

 すでに秋に近づいている。2階のこの部屋に乾いた風が吹き込んできた。

 少し涼しくなったのだろうか? 熱風のような夏の風ではなくなってきている。


 だいぶ続いている仕事ではあるが、国王の指示を伝えた勇者達のリストが残り少なくなってきたことも確かだ。

 あと、数隊を何とかすればこの始末を終えることができる。


「ところで、ハイレーネン公爵には何と返事を?」

「まったく煩くてかなわん。公爵の指示通りに勇者達を闇に葬っておる以上、文句は無いはずだが?」


「次の指示ということでは無いですかな? それとも、王宮の離宮を手にしたことが気に入らぬか……」

 

 たぶん後者ということだろう。王女との婚約を知った時には飛び上がらんばかりに喜んでいたが、離宮で暮らすと伝えたとたんに、真顔になって俺を睨んできたからな。


「会う機会が少なくなれば、それだけ疎遠になる。俺という駒を失うことが気に入らんのだろう」

「明日は我が身と思わないでしょうか?」

「自分の計画に酔っているんじゃないか? 早く次の計画を進めたいんだろうが、そうは上手くは行かないぞ」


 俺の言葉に、ジャミルが頷いている。

 侍女を呼んで新たなワインを持ってこさせる。

 ワインを持ってきたのは、俺達の仲間である女性の元近衛兵であるマデリーだ。3人で飲みながら俺達の計画の進行状況を確認する。



 王女を救出した時の俺のパーティは4人だった。俺以外は全て元近衛兵という構成で、ここにいないのはクリスティという魔導士だ。現在、別の任務を継続中だが、その過程で後輩を何人か仲間に入れたらしい。


「クリスティの調査が一段落した段階が一番だが、この王国では婚約は本当に解消されることは無いんだな?」

「国王が公表している以上、取り消すことができるのは国王以外にはいない。万が一、今夜国王が亡くなったとしたら、葬儀が終わり次第マルデウスが新国王になる。それまでは国王代行となるが、この場合は貴族筆頭が政務に参加することになる」


 隣国との仲が良いとは言えないから、国王不在をなるべく短期間にするための方策ということなんだろう。

 王子がいれば問題は無いのであろうが、現国王には2人の王女がいるだけだ。王女王国軍の指揮を執れるとは思えないから、やはり早めに国王を作ることが王国としても必要になるはずだ。


「勇者の帰還は、残り少ないはずだ。リオンという勇者の帰還が済めば一段落ということで良いだろう」


 巻物になったリストの下の方に名があった勇者の名がリオンだった。この勇者なんだが、驚くべきことにコキュートスの宮殿内の回廊まで入っていたらしい。

 場合によっては、こいつに王女救出の手柄を横取りされるところだった。

 王宮からの帰還指示を彼に知らせた時には、腹部に傷を負ったらしく回廊まで血が流れていたそうだから、傷の手当てをしながら帰還するとの返事を受けたそうだ。


 本来なら俺達の計画に参加してほしい人材だが、彼の仲間は無傷というのが気になるところだ。

 場合によっては、コキュートスの離宮で俺達がやったことを知られたかもしれない。

 惜しい人材ではあるが、ここは心を鬼にしよう。


「リオンと言えば、王宮の門の衛士がリオンの使いからの伝言を受け取ったようです。使いと言っても、どこの町にでもいる遊び人のようだったと聞いていますが、確実に王都に向かっているようです」

「ほう……。中々の心がけだな。惜しい人物だが、勇者は2人はいらん」


 俺の言葉に2人が黙って頷いた。

 マデリーが、懐から折り畳んだ紙を取り出してテーブルに広げる。

 そこに掛かれていたのは、近衛兵の後ろ盾の有り無しの一覧だ。やはり半数が貴族の後ろ盾で役職を得ているようだ。


「こっちが、私達の新たな近衛兵よ。元近衛兵だけど、こいつらのおかげで役職を追われた連中だから私の誘いに応じてくれたわ」

「およそ20人か……。ジャミルが率いてくれるか?」

「任せとけ。もっとも、女性は数人だからマデリーに頼むことになるな」


 後は後ろ盾を持たぬ近衛兵の取り込みだが、これもジャミルに任せよう。俺達が後ろ盾になると言えば彼らもなびいてくれるに違いない。

 でないと、いつ役職を棒に振るか分からない。それほど、貴族の国政への食指は動いているのだ。


「で、そろそろ始めますか?」

「その前に王国軍の将軍が問題だな。5個大隊が揃って反旗を翻そうものなら、俺達の計画が頓挫してしまう」

「美味い具合に、将軍職に貴族はおりません。隣国との戦が続いてますから、文官には勤まりませんからね」

「精々士官止まりで、輜重を扱うということか? なら、そいつらを先ずは左遷させることを考えないとな」


 どうせ、輜重の調達費を自分の物と勘違いしているような連中だろう。直ぐに、尻尾を捕まえられそうだ。

 その士官の代わりに、元近衛兵を送り込んでも良いだろう。きちんと会計報告を義務付ければ、前線の兵士の食糧事情は極めて良くなるに違いない。

 元近衛兵を使って、輜重部隊の士官を調査するようにマデリーに伝える。


「上手く行けば、将軍達もマルデウス殿に恩義を感じるでしょうな。将軍達は王都の政治には興味は無いでしょうし、我等の改革を悪く思うことは無いでしょう」

「ダメなら別な手を使うさ。だけど、動かないでくれるなら都合が良い」


 王国軍は1個大隊ごとに将軍を持っている。

 万が一にも、内乱状態になった時に、覇を唱える者がいるだろうか? いたとしても、王都の城壁を敗れる者はいないはずだ。

 基本的に所領を持たない軍隊である以上、俺達の要求に屈しるしか方法ないんじゃないかな。


「国王は、クリスティに任せる。上手く入手できたのかな?」

「倒れていた魔族を片っ端から調べてましたが……。最後に笑みを浮かべたのは?」

「王宮の連中が知らない物を見つけたということなんだろう。俺達は知らなくていい。クリスティが墓まで持って行ってくれるはずだ」


 王宮お抱えの医師団ならば大概の毒の治療ができるはずだ。

 それができないともなれば、彼らの存続の危機でもある。自分達に害が及ばぬように、俺達の望んだ方向に結果を持って行くのは火を見るよりも明らかだろう。


 来年の今頃は……。

 それを考えると笑いが込み上げてくる。

 まぁ、しばらくはハイレーネンが後見人であることは我慢しよう。

 

 俺達の計画が少しずつ形を見せてきた時。ジャミルが待望の知らせを告げに来た。

 どうやら、勇者リオンの一行が王都に到着したらしい。

 明日は、王宮にやってくるそうだから、今夜は最後の晩餐を楽しんでいるに違いない。

 勇者の始末も明日で終了だ。

 これで、この王国の勇者は俺一人ということになる。罪を被るのは……。


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