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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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049(R) 活字拾いはシスターに


 この世界の文章は、英語というよりローマ字のような表音文字でつづられる。それでも文字の数は30近いし、感嘆符や疑問符のような記号、それに句読点や長音記号もある。文章の最初の文字は大文字だし、括弧かっこのような表現もあるのだ。

 数字は10進法を使っているが、加減の記号もたまに使うし、将来的には乗除の記号も作っておくに越したことはない。


「まったく本を印刷するというのはとんでもなく面倒な事じゃな。リオンの言った活字の大きさの寸法を合わせるにも苦労したが、何といってもその数が多いのには驚いたわい」


 活字の数は多いほど良いのだが、作る方はたまったものじゃない。自ずと、数に制限が出るのだが、その数を最初に印刷する本の3ページ分に出現する数の2割増しということにしたから、40文字の30行が3ページの2割増しでおよそ4000個の活字を作ることになったようだ。


「寸法を合わせて規格化するということはワシ等はあまりせんのだが、子供達の為には良い教材になるのう。親がダメ出しをするのを見るとワシも昔を思い出してしもうた」

「バドスなら親も自慢の息子じゃなかったのか?」


「まぁ、それはそれじゃが、『剣は斬れるだけでは剣ではない』と良く言われたのう。リオンにその意味が分かるか?」

「少し分かるな。俺の世界にも似たような話がある。斬れる刀は見ただけで分かるというから、それに近い意味だと思うな」


 俺の言葉に、広間の焚き火越しに座ったバドスが、喜色を浮かべた顔で頷いてくれた。


「その通りじゃ。その姿で斬れることが分かるということを伝えてくれたのじゃが、当時は飾りが足りぬのかと、凝った意匠を長剣に刻んだものじゃった」


 なるほど若かったということだな。ということは、バドスの出した活字の意匠はかなり凝ったものになっているのかも知れない。

 どちらかというと、簡素にして数を揃えてほしかったのだが、ちゃんと言わなかった俺にも少し問題がありそうだ。


「リオンは木枠で良いと言うたが、やはり枠は金属で作ったぞ。枠が4枚に文字の数はおよそ5000。枠は少し小さめのものも4枚揃えた。印刷機は油を搾る圧搾機と似ておるが、あれで良いのじゃな?」

「十分だ。次は文字を並べる仕事だが……」

「ドワーフには細工は出来るが、そんな仕事は向かん。他を当たってくれ」


 きっぱりと断られてしまった。一応当てはあるから、そっちに行ってみよう。

 館を出ると村へと続く道を歩く。この道ももう少し何とかしなければなるまい。北の玄関から村へと続く道はラバが引く小型の荷馬車が通れるぐらいに広げてあるし、何か所か荷馬車がすれ違える広場が作られている。それに比べて、館から大通りに続く道は人が歩くだけの小道だ。この道を整備するのは来年になるのかな?


 村に入る手前に教会がある。教会に隣接した長屋は子供達とシスターが暮らしているんだが……。


「あれ? 領主様だ。何の用事なの?」

「シスターはいるかな? ちょっと用事があるんだ」


 俺を目ざとく見つけた年長の男の子がやって来て、俺に用件を尋ねる。尋ね方は問題だけど、子供の言葉に目くじらを立てるのも大人げない話だ。

 男の子が直ぐに長屋に駆けて行ったから、ちょっとした広場の片隅にあるベンチに腰を下ろして待つことにした。


 待つことしばし、シスターが長屋から出てくると辺りを眺めていたが、俺に気が付いて歩いて来る。


「領主様が私に用事があると聞きましたが?」

「立ち話もなんだから、座ってくれ。実は……」


 活版印刷の一番面倒な事は、印刷するための活字版に文字の駒を並べることにある。

 文字は逆に書かれているし、1文字が異なるだけで台無しだからな。

 細かな根気のいる作業ならシスターが向いてるんじゃないかと、文字を並べる作業を依頼することにした。


「本を作るという話は神官様から聞いております。そうですか、この本を元にするんですね……。でも、私達に出来るでしょうか?」

「是非ともお願いしたい。先ずは子供達の教科書を作れば子供達の勉強に役立つだろう。それが一段落したら、この教会の宗派に合った経典を印刷する分には俺達は何も言わない。教義がわかる本を廉価に販売できれば宗派の為にもなるんじゃないかと神官と話をしてるんだけどね」


「それでしたら、神官様と相談して決めたいと思います。たぶん私達で勧めることになるでしょうけど……。場合によっては教団より何人かの修道士が派遣されるかもしれませんよ」


 どうやら、本の装丁を行う専門家がいるらしい。写本は高価だからそれなりの表紙ということだったんだろうな。活版印刷で同じ本をたくさん作れてもやはり装丁をしっかりとすることが教団として広める経典には必要ということなんだろう。


「何十人となれば俺達で面倒を見ることが出来ないだろうけど、数人ぐらいなら今まで通りに援助できるだろう。よく神官と話し合ってくれないか?」

「分かりました。数日の内にご返事します」


 シスターに頷いてベンチから腰を上げると、軽く頭を下げて教会を後にした。

 たぶん了承してくれるだろう。俺達の教会への援助はささやかなものだ。自分達で仕事を作れば自立できるからね。

 子供達にいろいろと手伝ってもらっているのだが、シスターとしては何となく後ろめたいところもあったに違いない。


 館に戻る前に、ブドウ畑の状況を眺めることにした。

 数人の子供達が、ブドウに着いた害虫を駆除している。だいぶ大きくなってきたがまだ実を付けるまでにはなっていないようだ。来年には実るかも知れないけど、それは子供達のおやつでいいんじゃないかな。

 だけど、バケツに毛虫を集めているのも何となく違和感があるな。

 そんな疑問を持って眺めていると、村の方から誰かがやって来てバケツを受け取ると渚に向かって歩いて行った。担いでいたのは釣り竿だから、魚釣りの餌にするようだ。

 たくさん釣れれば、分けて貰えるんだろう。持ちつ持たれつの関係が村人との間に出来ているようで感心すると同時に安心する。


 館に戻ると、ユーリアがお茶を入れてくれた。

 皆が朝からいないということは、自分達の仕事を見つけて頑張っているんだろう。


「ハリウスとロディが町に向かったようです。何でも村人に種を頼まれたとかで」

「麦ばかりじゃ暮らせないからね。野菜も重要だろう。新たな野菜が取れればそれだけ食生活が豊かになる」


 たぶん、ハリウス達は情報を仕入れに行ったのだろう。

 行商人がもたらしてくれる王国の情報だけではどうしても情報に偏りが出てしまう。

 それを是正するためでもあるのだが、ついでに酒や小間物を買い込んでくるのは仕方がないんだろうな。

 それでも、金貨を両替してくれるからユーリア達にとってはありがたいところではあるのだろう。


「北の道は今でも工事が進んでますよ。貴方はあまり見に行かないようですけど?」

「あまり興味が無いと言ったらそれまでだけど、俺には農家の連中が自立できることが一番の問題だ。塩の生産が順調らしいから今年は俺達から穀物を配布しなくても良さそうに思えるよ。もっとも、取入れが終わってからトマスと交渉になるんだろうけどね」


 農家1軒辺り銀貨が2枚ほど配布できれば俺達が援助する必要も無いんじゃないかな?

 冬場の仕事として陸地からの焚き木運びや道の整備の日当も払っている。

 村に出来た雑貨屋も品薄が続いていると話してくれた。海の道が整備されれば品物が多く運べるんだろうけどね。


「やはり、塩の流れが問題とのことです。砂では流されてしまうようですよ」

「となると、見に行かないといけないだろうな。場合によっては北の玄関で泊まり込むから、急ぎの時には尋ねるように伝えてくれないか?」


 簡単な昼食を頂いて、今度は北の玄関に向かう。

 北の玄関に向かう道は、道を広げて小石を入れた後に砂を被せているからだいぶ歩きやすくなっている。

 荷馬車の車輪が取られることも無いと言っていたな。わだちが出来たなら再び砂と砂利を入れればいいだろう。

 となると、海の道も基本は同じということになる。

 砂が流されるとなると、砂利でゴツゴツした岩の道を埋めなければならないということになりそうだ。


 尾根を回ると直ぐに林が切れて、島の北側に広がる海が見えてきた。陸地が少しかすんで見えるのは空気中の水蒸気が多いせいなんだろう。

 坂を下りて行くと最初に道の両側に小さな広場がある。この広場の小屋にロケットを発射するランチャーがあるのだ。村の連中がクロスボウを持って待機する場所でもある。

 さらに下に下りていくと北の玄関の広場に出る。3年前と比べかなり大きくなったようだ。それだけ外側に砦の石壁が広がったということになる。

 石壁の上には東西に小さな広場が作られており、片方の広場にはバリスタが備えられている。以前は広場に1基ずつ備えていたのだが、今では西側だけになったようだ。小型の大砲が使えるからだろうな。大型は門に2門据えられるようになっているはずだ。


 回廊の中ほどに立って、北を眺めると玄関の門から真直ぐに伸びる道が海中に見える。どうやら引潮のようだ。30分も掛からずに道が姿を現すだろう。

 塩の流れは速いとは思えないけど、海中の砂を動かすには十分だということになる。道が現れたところで、少し歩いてみるか……。


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