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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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045(M) 東への侵攻計画を進めよう


 この世界のカレンダーで、1と6の付く日にマデリーがサロンへと出掛けて行く。

 長いスカートを自分で踏ん付けて転ぶんじゃないかとジャミスと一緒に心配していたのだが、一か月も過ぎるとそれなりに見られるようになってきた。

 今でもスカートの下に片手剣を下げているらしいけど、周りから見れれなければそれでいい。たっぷりと膨らんだスカートの中なら色々と隠しておけそうだ。

 マデリーの参加で、サロンがぎくしゃくしては本末転倒だが、今のところは問題なくご婦人方と御茶と御菓子を楽しみながら、内政について話し合っているようだ。


「教育に力点を置きたがっていますね。読み書きと簡単な計算を考えているようです。税制については従来よりも少し安くして徴収しているようですから、国民からの不満も伝わってはおりません」


 サロンが開かれた翌日、執務室にマデリーがやって来て報告してくれる。さすがにドレス姿ではなくて革ヨロイに身を包んでいる。

 聞き役は、俺とジャミルだ。ジャミルも騎兵隊の訓練に忙しくはあるのだが、マデリーの報告を聞くためにいつも朝から詰めかけてくれる。


「一応、想定の通りということになる。陛下はこのまま続けさせるおつもりですか?」

「次の戦まではそうしてくれ。無理に体を動かしては傷が悪化するぞ。火傷は切り傷よりも厄介だからな」


 俺の言葉にマデリーが俯いている。ジャミルの言葉を聞いて少し顔がほころんでたからな。ガッカリしたというところだろう。


「あまりガッカリすることは無いぞ。春になればオランブル国境を流れるミーズ河畔で狩を行うからな。それはマデリーに仕切って貰おう。サロンで話をしてもかまわん。例の親書の返礼が発端だ。これを後で良く読んでおいてくれ」


 婚約前に一度は会ってみたいというのも頷ける話だ。

 互いに狩りを目的にリーズ河畔で会おうという隣国の提案は、ジャミルと顔を見合わせてしまったが、王族となると互いに王国を離れることも問題ということなんだろう。


「……そういうことですか。了解です」

「一応、西に展開している部隊から2個中隊と緊急事態を考えて、軽騎兵2個中隊を後ろに置く。そんな事にはならないだろうが、念の為だ」


「サロンの皆さんが喜んでくれるでしょう。でも、過保護を演出することも無いでしょうに?」

「姿勢は大事だよ。そう思わせれば向こうもそれなりに動いてくれる」


 シスコンの国王となると、向こうもカリネラムの妹の扱いに気を付けるはずだ。それは婚姻後も続くことになる。


「その場で殺すことはしないんだな?」

「さすがにそれは不味いだろう。オランブル王国の5個大隊が一斉に雪崩れ込むぞ。押し返すには俺達も王国軍を全て動員しなければならん」


 そうなると、東の王国が黙ってはいないだろう。

 先ずは友好を演出した方が得策だ。それによって西の部隊を削減できるなら申し分ない。

 東にはリオン達もいるからな。島を出ることは無いだろうが、マデリーの負傷した流星のような兵器を使われると、大部隊でも損害が無視できなくなる可能性がある。


「東に先を越されてしまうか。せっかくの軍拡が水の泡になりかねんということだな。良い機会であるが自制しなければなるまい」

 

 王子を亡き者にすることはジャミルも考えてはいないだろう。確認したかったようだな。


「東と言えば、見張りの兵士達が行商人の荷を改めたそうだ。相変わらず穀物を買い込んでいるが、いつにもまして肥料が多かったらしい。それもどうにか土地を維持しているような農家が買い込むような低級の肥料だったととのことだが……」

「資金が底をついたか、畑の開墾を広げ過ぎたということだろうな。いくら広げても修道士さえ投げ出すような土地だ。それこそ湯水のように肥料を入れているんだろうが、入れるだけで収穫量が上がるとでも思ってるのだろうか?」


「それでも、少しずつは収穫量が増えていることも確かだ。兵糧攻めは難しいぞ」


 ジャミルまでそう考えるなら、間違いなくリオンのやっていることは兵糧攻めに対処するための事前準備ということになるだろう。

 奴が必要以上に住民を集めないのもその辺りに原因があるようだ。

 その裏をかくのもおもしろそうだな。ゆっくりとリオンの島の攻略方法は考えよう。


 マデリーが狩の準備を進めている間に、ジャミルは騎兵隊の訓練を続ける。かなり攻撃的な部隊ができそうだ。

 来春の新たな兵員の募集で、一気に騎兵を2個大隊に膨らませることも視野に入れている。そのために、商人がはるか西の遊牧民から馬を大量に買い込んでくれた。

 武器作りとヨロイ作りで王都の工房も槌音が絶えることが無い。

 無駄に国費を浪費する貴族が無くなったおかげで、資金を贅沢に使えるのもありがたいところだ。


 そんなある日のこと、ジャミルが血相を変えて執務室に飛び込んできた。

 ゼイゼイと荒い息をついでいるジャミルをテーブル席に着かせて、侍女にワインを持ってこさせる。

 グイッと喉を潤したジャミルだが、当初に比べればだいぶ落ち着いたようだな。


「島を監視している連中から、先ほど知らせが届いた。やつら、海に出来る道を整備しているようだぞ。その上、末端の砦を一回り大きくしたようだ」

「砦を大きくするのは分かるが、道を整備するのは理解できないな」


「マデリーの話では道ができる時間はそれほど長くはないそうだ。その間に連中は荷をラバの背に積んで運んでいる。道を整備する目的は物資の搬入の容易性だろう。小型の荷馬車がどうにかすれ違いができる幅らしい。攻めるには依然と同じで問題がある」


 俺達の監視に気が付いたんだろう。行商人の荷を改めるのはさすがに遣り過ぎだ。

 それでか? 小型の荷馬車ではたかが知れていると思うのだが……。


「監視兵の中で絵を描くのが上手い者を、何人か派遣した方が良さそうだな。詳細が分からねば対処のしようもない」

「直ぐ向かわせる。彼らに注意することはないか?」

「砦の大きさはそこで働く人間の身長を基準に描くように伝えてくれ。見た感じで良いが工事期間の見通しも知りたいところだ」


 俺に顔を向けて小さく頷くと、ジャミルは執務室を出て行った。

 リオン達も襲撃に備えているということか……。

 カップに残ったワインを飲みながら、リオンの立場で物事を考えてみる。


 強権を発動して貴族を葬るとは、思ってもいなかったに違いない。リオンの選んだ島は東の王国と国境を接する付近だ。大軍を動かせばたちまち東の王国が軍を動かすはずだ。

 ある程度島の防備を固めて、俺達の動きが鈍るのを待つつもりなんだろうか?

 2度の攻撃を跳ね返してはいるが、銃はそれほど素早く弾を込めることができない。慣れればクロスボウ並みに撃てるのだろうが、手返しは悪いはずだ。

 となると、それほど長期間にわたって銃を撃つことができないんじゃないか?

 人海戦術は使えそうだな。


 待てよ……。あえて、俺達とリオンの争いを東の王国に知らせるのも面白そうだ。

 側面を突こうとしたところを、北から回り込んだ部隊で挟撃する。騎兵を上手く運用すればできない作戦ではない。


 東への侵攻は、これを基本に考えてみよう。

 短時間に俺達の王国を睨んでいる敵の部隊を消すこともできるんじゃないか?

 数日も過ぎれば各部隊の将軍達が王宮にやって来る。彼らの意見も聞きたいところだ。

 それだけの時間があれば、今の思い付きを作戦概要としてまとめることもできそうだぞ。


 5日後の午後になって、王宮の客間に将軍達が副官を伴って集まって来た。

 以前は5個大隊だったが、今では7個大隊に増えている。新たな将軍の1人は騎兵を率いるジャミルだし、もう1つの混成大隊を率いるのは西に部隊を展開している将軍の長男ということだ。


「西の王国との国交が回復しているが、将来的には妹王女が西の次期国王の妃となるよう両国が動いている。春になれば確実となるだろう。これで、西への睨みは今までより軽減されることになる」

「いよいよですかな? 我等その時をジッと待っておりますが、あまり待たされると士気を保つのに苦労しそうです」


 全員の顔が少し紅潮しているようにも見える。戦をせずに長らく訓練を繰り返していたとなれば、進軍を心待ちにしてるのにも頷ける。


「この地図を見てくれ。東の王国近くにある島だが、先王の任じた貴族がここに閉じこもっている。俺達が東に進むとなれば、こいつらが厄介になる」

「たしか、コキュートスまで辿り着いた勇者達でしたな。腕もあるなら試してみたい気もしますな」


「現在、元私兵を徴用して1個部隊を作り訓練している最中だ。この部隊を使って、島の牽制を行う。だがこれは、東の王国に対する陽動でもある……」


 大規模な部隊を国境付近に繰り出して、敵軍に見せつけたところで引き返す。

 敵が慌てて部隊を集めてこちらに向かったところを、空堀と土塁で防戦する。その後ろを騎兵隊を使って挟撃するのだ。


「ほう……。おもしろい戦になりましょう。北から1個大隊で迫っても良さそうです」

「東の王国……、ブルゴス王国の国境付近に駐屯している軍隊は精々2個大隊。防戦を2個大隊で待ち受ければ、睨み合いになりましょう、東から襲われるとなると北に一目散」

「そこで待ち構えるのですな? ブルゴス王国の王都まで10日も掛かりますまい」


 将軍達は直ぐに俺の作戦を理解してくれたようだ。

 侍女にワインを運ばせて、彼らがワインを飲みながら討論に興じているのをしばらく眺めていた。


「これが東侵の作戦になる。将軍達は役割分担と輜重の分担を副官達と図ってくれ。各大隊に軍資金として金貨100枚ずつ配るつもりだ。東の王都を攻略した時にはさらなる恩賞を授けるつもりでいる」

「長らく待った甲斐がありました。我等一同、存分に働きましょうぞ!」


 老境に差し掛かった将軍の言葉に居合わせた全員が頷いた。

 さて、ゆっくりと準備することにしよう。元私兵達の部隊も、少し増強した方が良いかもしれないな。



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