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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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044(R) 襲撃への備え


 3度目の冬が過ぎて、島のあちこちに緑の若葉が芽吹き始めた。

 農家の人達が段々畑をラバにすきを引かせている。その後に有機肥料を与えてもう一度耕すのだろう。種蒔きまで色々と忙しそうだな。

 教会の子供達が世話をしている羊やヤギ達も、放牧場に連れていかれた様だ。すでに草が生え始めてるんだろう。


「どうした? 遠くを眺めて。少し年寄りじみた格好だぞ」

「あぁ、皆忙しそうだと思ってね」


 館の庭の石畳にあるベンチに腰を下ろして、段々畑を見下ろしていた俺の隣に、いつのまにかケーニッヒが腰を下ろしていたようだ。

 それにしても、年寄りじみたとは……。


「だいぶ開墾が進んだな。今年も、あの放牧場の東を開墾するとトマスが言っていた。羊を増やすつもりなんだろう。問題は干し草を作るための牧草地だが、塩田の南に種を撒きたいと言っていたぞ」

「塩田から少し離して撒けば問題はあるまい。だが、かなり砂地だぞ? 牧草なら陸地に撒いても良さそうだが?」

 

 ケーニッヒとしては、王国軍がいつ来るか分からぬ状態では、陸地の利用はあまり勧められないと話してくれた。

 それはそうだが、干し草用の牧草地なら少しぐらい刈込時期がずれても問題にはならないと思うけどね。

 ケーニッヒは、かなり用心深いところがある。それで助かることも度々だが、これぐらいはどうにでもなりそうな気もするな。


「羊が増えるのはありがたいな。新鮮な肉が食べられる。だが、増やすならヤギもお願いしたいところだ。ヤギのチーズは高値で売れるだろう」

「その辺りは、トマスも考えているさ。とりあえず牧草の種を撒く場所に制限は無いと答えておく」


 ケーニッヒは館前の広場から下の村に向かって歩いて行った。

 北の玄関から村を経て浜辺に至る道は、だいぶ広がってきたようだ。それに比べて、この館に至る道は少し寂しく感じるな。前の世界で俺が住んでいた付近の農道の方が遥かに立派に思える。

 来年の冬はこの道を何とかしたいものだ。


「領地の様子はどうですか?」

 館の広間に戻って、焚き火の傍のベンチに腰を下ろすと、ユーリアがお茶のカップを持って俺に微笑みを向ける。


 世が世なら、立派な館で侍女にかしずかれている筈だが、実際には辺境の領地経営を皆で手分けして行っている状況だ。

 ユーリアの問いは、それをおもしろがっているようにも思えるな。


「平和であることを誇りに思っていたよ。村としての機能も少しずつ充実しているようだ。10年後が楽しみだな」

「嵐の後ということですか?」


 俺にカップを渡したところで、焚き火越しにユーリアが腰を下ろす。

 長期的な展望を聞きたいのかな?


「数年後には始まるだろうな……。それまでに、何とか自給自足ができるまでになっていたい。行商人が何時まで俺達に荷を届けてくれるかも問題ではある」

「王国が、私達を兵糧攻めにすると!」

「東に軍を進める時に俺達を封鎖することは十分に考えられる。館の食糧庫の蓄えはおよそ1年分だ。あまり蓄えると劣化して食べられなくなる可能性もあるから、精々、1年という食料備蓄はこの世界でしょうがない話だ」


 今年も数十袋の穀物を行商人から買い込んでいる。最初の冬から比べれば格段に少なくはなったが、まだまだ足りないし、島の人口も少しずつ増えている。


「当然対策も考えているんでしょう?」

「陸がダメでも、船ならとは考えているが……。この島との交易が有益であることを知らせねば遥々やっては来ないだろう。金貨を何枚か使うことになるだろう。だが、背に腹は代えられないことも確かだ」


 一番簡単な船を呼ぶ方法は、通常の3倍ほどの高値で荷を買い取ればいいはずだ。そのための交渉は行商人達に任せることになりそうだが、依頼金は必要だろう。

 

「偽猟師達の荷改めも露骨になっているようですよ」

「俺達の状況を間接的に知る方法だからな。たくさんの肥料と、穀物の袋は俺達の状況を理解するには十分のはずだ。もっとも、硫黄を買い込むことには疑問を持っているかも知れないけどね」


 とはいっても火薬の原料の一つとして理解はしているだろう。そのために必要量の数倍の量を買い込んでいる。火薬混合比率はこの世界で知るのは俺だけだ。


「まだ行商人との交渉を始めなくとも良いのですか?」

「まだはっきりしないからね。ミーシャ達が集めてきた情報ではまだまだ東侵は先になるようだ」


 西との調整ができなければ反対に攻め込まれるだろう。

 それに、優秀な兵士を短期間に作ることもできない。訓練を経て初めて兵士となれるのだからね。

 一つの兵種に限定した訓練を行うとしても1年では足りないんじゃないかな。


「上手い具合に、南の入り江の東西は岩場になっている。西の岩場は潮汲みに使っているから、東の岩場を使って、この夏に船着き場を作りたいところだ。場合によっては、俺達で船を漕いで買い出しに出かねばならないからね」


 東西の岩場は直ぐに水深が深くなる。それほど苦労しないと思うけど、買い込んだ船の数倍大きな船も泊められるようにしなければなるまい。

 バドス達の工事をみると、水中でも固まるセメントのような物を使っている。それがあるなら岸壁工事は捗るんじゃないかな?


 ユーリアの質問に答えながら一服を終え、今度は火薬作りの材料を整える作業に入る。

 金属製のうすは3個あるから、種類毎に代えて、材料の粉砕を行う。

 臼で2度粉砕して、混合用の樽に入れると回転させながら材料を混ぜ合わせる。

 コンクリートミキサー車の機構をまねたものだが、結構便利だし、きちんと混ざるから都合も良い。

 たまに霧吹きで火薬に湿気を与えると細かな粒になってくれる。

 この後、圧縮と乾燥を行い、最後に軽く解すと黒色火薬の出来上がりだ。


 完成した火薬は、計量して紙に包んで丸め込む。この時、先端部に鉛の弾を入れるのだが、火の気の無いところで行うのが面倒なんだよな。

 

 3日掛けて、120個のカートリッジと大砲用の火薬袋を5つ作あげた。銃を使うのは30人程だから一人4個分になってしまう。何とか10個分を作りたいところだ。それに口径の小さな大砲もあったんだよね。

 俺の春の仕事は火薬作りで終わりそうだ。


 どうにか、1人14個当たりのカートリッジと大砲用の布包みを5個ずつ作ったところで一旦作業を終了する。

 この後は、残った原料でロケットを作らねばならない。前のロケットが数個残っていたはずだから、5個も作ればとりあえずは何とかなるかな。


 やっとロケットに火薬を入れることができた頃には……、初夏になっていた。

 皆も苦労してるんだろうけど、俺が始めたことだからなぁ。それに、技術を隠匿しなければ直ぐに火薬が拡散してしまうだろう。

 ここは、文句を言わずに俺の仕事として取り組んでいこう。


「終わったのか?」

「あぁ、予備が少し心もとないが、昨年同様の襲撃なら何とか押し返せる」

「クロスボウのボルトは3回線分用意しているらしいぞ。それに、だいぶ石垣が高くなってきた。前のように海の道をやって来て玄関先の広場に取りつかれることもない。俺には十分に思えるんだがな」


 こんな時には楽天家になるんだから困ったものだ。いったい、ケーニッヒの性格は慎重なのか、楽天家なのかいまだに判断に苦しむのだが、少なくとも、その時に応じて俺の反対の意見を持つということは間違いない。


「短弓用の矢も揃っているのか?」

「長短ともに十分だ。ロディ達イヌ族ならば十分に期待できる。もっとも長弓は俺とリオンにハリウスぐらいなものだけどな。10人程が使えるならいいんだが、贅沢は胃炎立場だ」


 バドス達に銃を使わせて石垣の上はクロスボウと弓を使うか……。一応、短銃は全員持っているが、2発目を撃つ準備の間に、短弓なら矢を射ることができそうだ。

 現在建設中の石垣の高さは12Cb(3.6m)の高さになるし、その上に、2Cb(60cm)の柵ができる。乗り越える前に槍で攻撃できるし、後方からボルトも撃ち込めるだろう。

 襲撃を受けても、北の玄関に派遣できる守備兵の数は30人には届かない。なるべく攻め手を制限する手は考えたが、できれば1個小隊の正規兵が欲しいところだ。


「何度も聞くようだが、傭兵は雇わんのだな?」

「金で味方になるなら、金で寝返ることもするだろう。最初からこの島に定住するような傭兵崩れならいいんだが……。暮らしに困って、盗賊になる外に手が無いと悩んでるような連中を知っているなら教えてくれ」


 俺に再度確認するということは、良い出物を見つけたということなんだろう。


「キャミーが町の雑貨屋で見たらしいのだが、人相を聞く限り俺に長剣を教えてくれた傭兵団の団長だ。オリガンドという50過ぎの傭兵で仲間の数は十数人になる」

「腕は立つということなんだろうが、それなら王都でも商売になるんじゃないか?」

「オリガンドの傭兵団は所帯持ちや家族連れだ。貴族の私兵なら問題も無いだろうが、王国軍に編入されるとなれば問題だろう。西の町で見掛けたとなれば、東の王国に向かうつもりなんだろうな」


 所帯持ちなら理想的だ。もっとも、傭兵に支払う金額が問題だが、将来を考えても精々銀貨3枚程度になってしまいそうだな。


「衣食住を保証して、銀貨3枚で交渉できないか? もっとも、金の使い道はしばらくはなさそうだけどね」

「ありがたい。明日には出掛けてみる。村までは来ているだろう」


 上手く運べば戦力が1個小隊を越えるだろう。何とか交渉を纏めて欲しいところだ。



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