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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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039(M) オランブル王国からの親書


 元私兵達の部隊を作るのにさほど時間は掛からなかったようだ。

 私兵を軍に組み入れるということは、将軍達はあまり気乗りしていなかったことによる。少数精鋭という考えを持った集団だったのだろう。だが、戦は数の勝負とも言われる通り、中隊を前に1個小隊にも満たない私兵では部隊の解散に同意する外に手は無かったのだろう。

 ジャミルの新たな部隊結成の知らせは彼らは好意的に受け入れられたらしい。

 出来た部隊の戦力はおよそ1個中隊。歩兵ではあるが、武装は槍、長剣、弓と混成部隊の感がある。

 装備を基準に4個小隊に分けて、指揮系統も明確にしたところで辺境警備の任を与えることにした。

 辺境の異変に対して、王宮に事後承認を取れば良いとまで権限を与るとともに、王国軍の2割増しの給与も保証する。

 王国軍から文句も出てくるだろうが、その時には正直に訳を話すつもりだ。


「午後にマデリーがやって来るそうです」

「動いて大丈夫なのか? 無理はしないでほしいな」

「彼女なりに、いろいろと考えるところがあるのでしょう。とはいえ、前のように動く事は出来ないでしょうな」


 火傷の重症は長く続くと聞かされた。上半身と顔に酷い火傷を負ったからには、嫁ぐことも難しかろう。

 再び馬に乗れれば一軍を率いることもできようが、適わぬ時には俺の相談相手なって欲しいところだ。

 ジャミルには騎兵を指揮して貰うことになるから、執務室を出て行ってしまうんだよな。


 昼食後、お茶を飲みながらマデリーの来室を待っていると小さく扉を叩く音がした。

 近衛兵が直ぐに応対をすると、マデリーがクリスティーに支えられながら部屋に入って来た。

 直ぐに部屋の真ん中のテーブルの椅子に掛けさせる。やはり、傷が癒えるのはまだまだ先のようだ。


「マデリー、無理はするな。お前がいないといろいろと不便があるが、お前の命には代えられん」

「申し訳ありません。あのような兵器が存在するとは思ってもいませんでした。不覚をお詫びする次第です」


 詫びは必要ない。しっかりと目的は達成しているし、リオン達の新兵器まで知ったのだから十分にお釣りがくる。


「あの兵器は俺にも予想できなかった。俺の方から詫びねばなるまい。それを含めて、お前の副官からの報告はいろいろと役に立ったことも確かだ」

「あの島の攻略をずっと考えておりました。一見難攻不落にも思えますが、やはり欠陥があります」


 マデリーの語ってくれた作戦は船による上陸ということだ。

 銃が届かぬ場所まで進出した陽動部隊にリオン達を引き付け、その間に船を使って島に上陸するという作戦になる。

 あの島の周囲には漁師町が無かったから、遠く離れた場所から船を運ぶことになるだろう。

 

「確かに一利ある作戦だ。来春でどうだ? 使える部隊が1個中隊ほどできる。牢から出した連中ではないから上手く行けばリオンの島を攻略できるぞ」

「元貴族の私兵達だ。監察軍として同行すれば良い。指揮官には俺の方から指示を出す。結果を出せばその後も使える部隊だが、将軍達も持て余す部隊だからな」


「潰す……ということですか? となれば、彼らの成功を持って私が乗り込むことも必要になりますね」

「そういうことだ。あの島で始末してくれ。リオンがどこまで開発してるかは分からんが、後はマデリーの所領にしても良いぞ」


 俺の言葉にクリスティーが笑い出した。

 俺のジョークが気に入ったのかな? 


「出来れば、リオン達を捕らえたいわね。何としても、あの兵器の製造方法を教えて貰いたいわ」


 拷問してでも……、とは言わないんだな。

 だが、それも大切なことだ。この世界の戦の概念が変わることになる。頑強な城に立て籠もっても、容易に城攻めを行うことができるだろう。

 

「部隊が勝利した後で良い。何人かは残っているだろうし、製造現場を無傷で手に入れれば俺達にも作れるかもしれないからな」

「少し、作戦が必要ですね。使う戦力は、元私兵の1個中隊。後は監察軍としての私達1個中隊ですね。私兵の抹殺と島の開放を目的とします」


「それで良い。俺としては、今回も失敗しそうに思える。マデリーの考える策は、他の連中があの島を占領しているなら有効だと思うが、リオンは俺以上の人材だ。どんな工夫をしているかが想像できない。とはいえ、それを知って俺達の軍に使えるなら、元私兵の1個中隊の損失も惜しくはない」

「失敗すると?」


 ジャミルが驚いたような表情で聞き返してきた。

 少し前に侍女が運んでくれたワインを一口飲んでジャミルに顔を向ける。


「この世界の軍略はリオンには通じない。正面から魔族に挑んで、あのコキュートスまでたどり着いた唯一のパーティだからな。俺と同じ転移者ではあるのだろうが、俺よりもはるかに軍略に通じている節がある」


 面倒な相手だとジャミルが呟いた。

 確かに面倒ではある。だが、攻略方法が少しづつ分かってきたようにも思える。

 戦は数の勝負。正面切っての戦は海の道が海上に姿を現す時間に限られている。その時間だけで勝負を決めようとするから無理が出てくるのだ。

 マデリーの策のように船で兵士を輸送することができるなら、攻略は遥かに楽になるだろう。

 少しづつ試してみるの面白そうだ。

 それによって、リオンがどこまで対策を取っているかが分かるだろう。


 深夜、カリネラムと2人で離宮の庭を眺めてワインを飲む。

 きれいに整えられた庭園の植木が、満月の光を浴びて幾何学模様を浮かび上がらせている。

 こんな景色を眺めていると考えも深まる思いがするな。


「陛下のおっしゃられた学校ですが、教会の賛同を得ることができました」

「ありがとう。これで王都の子供達も、辺境の村も同じように学ぶことができるだろう。文字を読んで書くことができて、さらに数字の足し引きを学べるなら王国はさらに発展するだろう」


 教育は治世を行う上で必要なものだと思う。どこに、優秀な人材が潜んでいるか分からないからな。成績の優秀なものを集めてさらに教育を行い、この王国の官僚を育てることにしよう。

 1代限りの官僚なら、貴族制よりは遥かに良いだろう。既得権益を手放さないようならば、ギロチンを使えばいい。

 官僚の不正を摘発する組織も併せて作れば、案外上手く行くんじゃないかな。


「国造りは人作りとも言われてる。軍備も大事だが将来を見据えた教育も大事だ」

「そのための人材を教団本部から派遣しても良いと言っておりましたよ」

「教育が金で買えるなら、出費は惜しんではいけない。寄付金を倍額にしても私は良いと思っている」


 俺に向けた顔は尊敬の色が滲んでいる。

 愚民政治は王国を硬直させる。教育を進めることで王国は発展するのだ。単なる覇王では俺の代で王国が終わってしまいそうだ。

 拡大した王国をどのように治めるかを考える優秀な官僚組織を育てたいものだな。


「覇王と皆が申していますが、私には国民を考える良き国王に思えます」

「侵略を考えるだけの王にはなりたくないな。外に広がるほど国政がおろそかになる。私の代で王国を倍以上にしたいとは思うが、それで初めて元の領内の平和が訪れると思っている。無駄に王国の拡大を考えるのは愚王のすることだ」


 ある意味、絶対防衛圏の構築だ。

 防衛権の外側に軍を駐屯させて、その内側を近衛兵で治安維持を図ればいい。元の王国民達は、戦を考えずに平和に暮らせるだろう。

 防衛権の外側と国境までの間は、武装開拓民を使って軍の糧食を賄う。それほど重税にもならないだろう。軍への貢献度に応じて税を加減し、場合によっては開拓した土地を与えても良い。

 就職先は常に用意しておかないと、王国内の治安に直結するからな。

 そういえば、王都からそんな連中を辺境に送ったが、その後はどうなったのだろう?

 明日にでも確認してみるか。


 翌日、執務室に向かうとジャミル達が既にテーブルに着いていた。

 俺の入室を知って、彼らが席を立ち胸に腕を打つ仕草をしたところで着席を促す。仲間内なのだから最低限の礼でいいのだが、彼らにとって国王は絶対君主となるのだろう。

 

「揃ってるな。何事だ?」

「西のオランブル王国からの親書です。現在は休戦中でありますが、この段階で戦端が開かれるのも問題かと?」


 国造りの最中を邪魔されたくはないものだ。それは俺も賛同するが、親書の中身はどうなってるんだ?


「先ずは読んでくれ。俺は最後で良い。どうせ社交辞令の文章だろう。向こうだって戦を好むとは思えん」


 俺の言葉に、失礼しますとジャミルが断って親書の封を切ると読み始める。

 その間に侍女が運んでくれたお茶を頂く。クリスティとマデリーはジャミルの両脇に寄って親書を覗き込むようにして読んでいる。


「これは……」

「西の軍を戻せるかも知れないわ。もっとも、本人次第なんでしょうけど」


 それほど長い文章では無いようだ。

 3人が顔を寄せ合って話を始めたところを見ると、考慮に値するということなのか?

 差し出された親書をじっくりと読んでみる。


「なるほど……。短期的に見れば乗っても良さそうだな」


 親書の中身は、休戦状態から和平への提案と、それに伴う貿易の振興……。最後に我が王国の王子が成人の儀をつつがなく終えることができたと結んでいる。あえてそれを我が王国に知らせるということは、妃の妹を世継ぎの王子の妃にと匂わせている。

 降嫁しようにも我が王国には貴族がほとんどいない。

 後々には、こっちから提案しようと考えていた件だ。数年先とは思っていたがこれほど早くとなれば裏を探ることも必要だろう。


「だが、早すぎる。こっちの準備はまだまだ先だ。一度、西を探ってくれないか? 何か裏がありそうな気がするな」

「賛成です。近衛部隊の中に、貴族の動向を探っていた部隊がありますから彼らを動かしましょう。2個分隊を派遣すれば1か月後には状況が見えてくるはずです」


 ジャミルの思いは俺と同じく、向こうを疑っているようだ。

 2個分隊は、それを確認するために必要な人数なんだろうが、少し多いようにも思えるな。ついでにいろいろと調べるつもりなんだろうか?


「だが、親書ともなれば返礼の書も書かねばなるまい。クリスティー、代筆を頼みたいが?」

「良いわよ。でも、3つ確認しないとね」


 3つの確認事項とは、本当に和平を願うのか、国交と同時に始める政策があるのか、最後は妹に結婚の望みがあるのかというものだった。

 とりあえず現状での考えを伝えはしたが、最後の問いに関しては明日に伸ばすことにした。本人に確認する必要はあるだろう。その前に、妃達に伝えておかねばなるまい。場合によっては援護して貰うことになりそうだ。


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