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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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038(R) 塩を炊く


 砦を攻める兵士達の雄叫びが、うめき声に変わるのにどれだけ時間が経過したのだろう。

 すでに海の道は消えている。攻め込んだ兵士達のうめきがいまだに聞こえるから、ロディ達が光球を使って倒れている兵士達に再度クロスボウのボルトを放っている。


「どうにか終わったが、向う岸も大騒ぎになってるようだぞ」

「半分ほどが高みの見物を決めてる連中の中で炸裂したからな。明日にはこの地を去るんじゃないか?」

「それとも再び攻め入るか?」


 ふざけた口調でケーニッヒが言った言葉に、焚き火を囲んだ連中が大声で笑い出した。

 確かにそれもあり得るが、彼らは帰るんじゃないかな。

 本格的に俺達を攻撃する意思はなさそうだが、やはり定期的に俺達に小当たりを繰り返すんじゃないだろうか?


「一応、今夜はここで夜を明かす。明日は塩を炊かねばならないから、早めに休んでくれよ。それと、ロディ。仲間を増やせないか?」

「う~ん……、どうかな。リオン殿の言う仲間は子供じゃなくて、少しは戦える連中だろう。いるとすれば猟師達になるけど、行ってみないと何とも言えないな」


「虫が良い話だが、猟師なら丁度良いな。家族で来てくれれば、耕す土地も提供できると言ってくれないか」

 支度金は一家に銀貨10枚もあれば十分だろう。小さな荷車にラバが一緒でも構わない。

 やはり少しでも人数を増やすべきだ。この北の玄関だけに敵が来るとは限らない。遊撃部隊を作っておく必要がありそうだ。


「ネコ族を増やしても良いかしら?」

「増えるのは歓迎するが、王国に足が付いてる連中は願い下げだ。心当たりはあるのか?」


「私の里だって、貧しいところだもの。そんなことで仕事を探しに私も王都に向かったのよ」


 貧しくて、文字も読めず簡単な計算もできなければ、王都に行っても仕事を探すのはたいへんだろうな。キャミーもそんなことからこそ泥になってしまったんだろう。


「なるべく若い連中を頼む。しばらくは里には帰れないだろうが、手紙は商人に託せるだろう」

「分かったわ。里を出る連中に声を掛けてみる。上手く誘えたら連れて来るわね」


 これで、少しは住民が増えそうだ。村に家を何軒か作っておいた方が良いかもしれないな。他の町や村から比べて、人間族が少ない気がするけどね。


 夜明けに対岸を望遠鏡で眺めてみると、王国軍の姿はどこにもない。

 昨夜の内に帰ったのだろうか? 王国の状況がもう少し分かれば、対処が楽なんだが、何か方法を考えなければならないだろう。


「オリック達が残って見張るそうじゃ。我等は戻っても構わんじゃろうな?」

「そうだな……。俺達も戻ることにする。塩炊きを始めねばなるまい」


 ぞろぞろと島の南に続く道を皆が歩いていく。

 駆け付けてくれた農民達には酒を振る舞いたいところだな。日当を出しても良いのだろうが、この島に商店はない。

 儲けを抜きにして雑貨屋を初めて見るか?

 必要な品は俺達で提供しているけど、個人的に欲しいものだってあるはずだ。


 ケーニッヒ達は館に向かったが、俺はそのまま村に向かう。

「リオン様、始めるんですか?」


 後ろを振り返えると、訪ねようとしていたトマスが数人の男達を連れている。上の広場で戦ってくれていたんだろう。背負い籠の中にはクロスボウが入っていた。


「あぁ、始めるぞ。昼夜を通して火を焚くから、常に3人は必要だ。それに、塩田から海水を運ばなくてはならない。おけで5杯も汲めば最初は十分だ」

「一応、各家から1人が参加できます。順番で働けば不満も無いでしょう」


 最初は俺が付いていなければならないだろうな。その辺りは我慢するしかなさそうだ。

 人の手配を、トマスに任せて一足先に塩田に向かう。

 水量はかなり減っているから、やはり効果はあったのだろう。塩炊き小屋に置いておいた塩分濃度計で測定すると、11%まで濃縮されている。塩田の縁に白い塩が付いてるところもあるから、このまま放置してると析出した結晶ができそうだ。

 

 塩田の一部を掘り下げて木枠を入れているから、そこからヒシャクで汲むことができる。深さが無い塩田だからこんな方法になってしまうな。


 小屋に入って、塩釜を確認する。

 鉄板で作ったけど、いつまで使えるかも考えないといけないだろう。まぁ、しばらくは使えるだろうけどね。

 ホコリが浅い釜にだいぶ付いている。一度、魔法で取り払っておいた方が良いかもしれない。

 

 近くで遊んでいた教会の子供の1人にユーリアを呼んでもらう。直ぐに駆け出して行ったから、直ぐにやってきそうだな。

 村の方からぞろぞろと男達がやって来た。トマスが一緒だから、自分達の役目を確かめるためなのかもしれない。おばさん達も何人か付いてきてるけど、あれは興味本位なんだろうな。


「リオン様、連れてきましたぞ」

「だいぶ連れてきたけど、きちんと仕事の数を把握しといてくれよ。売値の8割はトマスに分配を任せるからな」


 2割は税として認めて貰って、次の釜を作るときの資金にすれば良いだろう。

 坂道の上の方にユーリア達がやって来たから、説明は全員揃ってから行うことにした。

 適当に俺の周りに腰を下ろして、俺の説明を待っているのだが……。ユーリア達がやって来るのはもう少し掛かりそうだ。


 俺の隣にユーリアとアニエールが並んだところで、説明を始める。

 桶に塩田から汲んだ海水を入れて、小屋の中にある平たい釜に入れる。釜の下で火を焚くが、あまり強火でなくともかまわない。


「煮え立って来たら、白い塩が見えてくるはずだ。この掻き棒で、釜の縁に集めればいい。山になってきたら、この小さなスコップを使ってざるに入れる。笊に半分ほど溜まったら、天日干しだ。……まぁ、こんな感じなんだが、とりあえずやってみよう」


 塩作りをするための道具をユーリア達が魔法で汚れを落としてくれたところで、桶の1つに掻き棒やかいのようなかき混ぜ棒を入れておく。

 桶を持って男達が塩田に出掛けたところで、塩釜のカマドの中に焚き木を荒く組んで火を焚く準備を始める。

 風呂桶の蓋のような板を釜の上に乗せられるようになってはいるが、果たして使うんだろうか?

 バドスは釜には蓋が付き物だと言っていたけどねぇ……。


 塩釜の半分近くの深さにまで海水が運ばれてきた。

 桶で6杯分とのことだ。150ℓ近くあるんだろうな。これだけの海水を蒸発させることができるか、少し不安になって来た。


「良し! 火を焚くぞ。沸騰するまで蓋をしといてくれよ。沸騰したら掻き混ぜるから蓋は取ってもいいだろう」

 

 2つの焚口から火が焚かれる。粗朶が勢いよく燃え始めたから、直ぐに焚き木に火が点くだろう。


「これで、始められる。今日の当番は残ってくれ」

 4人の男達が残ってくれた。4人いれば交代で夜も寝られるだろう。


「塩炊きは、カマドの火を落とさないことと、できた塩を集めること。それに塩田から減った分の補給が大事なんだ。とりあえず1桶分の海水を汲んで、入り口近くに置いといてくれ。上に何か被せといてくれよ。ゴミが入ってしまうからな」


 年長の男の指図で男達の仕事が割り振られる。

 カマド当番の男達は、隣の焚き木小屋から焚き木の束を運んできた。


「大きな釜ですから沸騰するまでに時間が掛かりそうです」

「それは諦めるしかないんだ。のんびりパイプでも楽しみながら待つことになるよ。焚口近くにポットを置いとけばお茶も飲めるぞ」


 熱効率から言えば問題が多い釜ではある。だけど作業の効率化を考えると浅くて大きな釜になってしまうんだよな。


 塩釜が沸騰するより前にお茶が沸いてしまった。

 5人でお茶を飲みながら、パイプを楽しむ。カマドの中で焚き木が勢いよく燃えているから、塩釜が沸騰するのも時間の問題だろう。


「何、皆でお茶なんか飲んでるの?」

 俺達に昼食を運んできたおばさん達が呆れているけど、こればっかりはしょうがない。

 おばさん達を交えて少し遅めの昼食を取っていると、沸騰したらしいと様子を見に行った男が教えてくれた。


 慌てることは無い。塩が焦げたという話は聞いたことが無いからね。

 ゆっくりと食事を取ってお茶を飲み終えると皆で様子見に小屋に入った。

 確かに沸騰しているようだ。蓋の板の合わせ目から勢いよく蒸気が噴き出ている。


「蓋を外してくれ。沸騰しているから火傷をしないようにな!」


 4枚の板が蓋代わりだ。1枚づつ慎重に外すと、小屋に湯気が立ち込める。

 ふつふつと沸騰する海水だが、まだまだ塩の析出は始まらないな。カマドの火の勢いが衰えないように気を付けながら塩釜の水位に注意する。


「それにしても暑いですな。夏の盛りに小屋の中で焚き火ですから仕方がないのかも知れませんが」

「汗をかいた分だけお茶を飲んでくれよ。それと、窓を開けた方が良いだろうな。少しは涼しくなるはずだ」


 小屋の窓は木の板で作った戸板のようなものだ。上に跳ね上げるように開けて棒で支えておく。

 すうっと涼しい風が入って来たから生き返る感じがする。

釜から立ち上る水蒸気も窓から入る風に乗って外に流れ出ていく。最初から開けとくべきだったかな?


「何やら白いのが釜に付いてきましたぞ」

男の声に、釜に目を向ける。確かに、白い結晶が浮き出てきているな。


「これが塩なんだ。このまま結晶が大きくなるのを見ていても良いんだろうが、とりあえず、あの棒で掻き混ぜてくれ」


 櫂のような棒を使って、2人が釜の両側に立って掻き混ぜ始める。

 数回掻き混ぜてしばらく放置し、また掻き混ぜる。そんな作業の繰り返しだ。

 釜の水位が半分以下になってるのに気が付いて、桶の海水を釜にヒシャクで注いでいく。


「塩が溶けてしまいますよ!」

「また出来て来るよ。先ほどよりも多くね。全部入ったから、また汲んできてくれ!」


 これが、塩田に残った海水をすべて処理するまで続くんだからな。まだまだ先は長そうだ。


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