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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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036(R) 騎兵隊の背にクロスボウ


 館での朝食は男性は俺一人だった。

 皆朝早くに出掛けたらしい。一応当主なんだからどっしりと構えてなさいとミレニア達が言ってくれるけど、何となくケーニッヒ達には済まない気持ちになってしまうのは俺が庶民だということなんだろうな。


「東と西の広場にはミレニアとベルティが付くわ。私とアニエールは玄関に貴方と共に戦います。オリックから少年を数人借りてメルディが尾根の見張り台に付くことになってるの」

「それで十分だろう。上の広場にもオリックの事だから何人か配置してくれるに違いない。ロケットを発射する手順は覚えてるね?」

「導火線に火を点けるだけでしょう? それとロケットの後ろに立ってはいけない、だったかしら」


 導火線に火を点ければ直ぐに3本のロケットが連続して放たれる。

 飛距離は十分に陸地まで届くことが分かってるし、先端にはバターで練った硫黄に劣化火薬をたっぷりと混ぜたものだ。芯には銃に使う火薬が入ってるから炸裂すると焼夷弾のように炎が広がる。

 相手を驚かせるには丁度良いだろう。小型の手榴弾を使うことも考えたが、火薬に出来なかった硫黄を処分する方法としてはこれが一番だろう。


「向こう岸で見ているようなら、ユーリア達の判断で使って構わないぞ。自ら戦わずに指示を出す連中ならなおさらだ」


 前回の時もそうだったからな。俺の一番嫌いな連中だ。

 食後のお茶を頂いたところで、慣れ親しんだ革の上下の背中に長剣を背負う。

 魔族との戦の時の装束とほとんど変わりないが、ベルトに短銃のホルスターとカートリッジが10個入ったポーチが付いている。

 ユーリア達の装束も同じようにホルスターが付いている。

 クロスボウを使うのは農民だけらしい。トマスに短銃を供与しようとしたんだが、農民には必要ないと断られてしまった。

 それでも、農業だけで暮らすことができるのは50軒ぐらいに限定されてしまう。将来を考えて塩とワインを考えてはいるのだが……。

 俺達で工場組織を作ったら、その従業員には武装要員として屯田兵的な役割を担ってもらうことも視野のうちだ。


「私達は食事の用意もあるからリオンは先に行ってても良いわよ」

「了解だ。子供達に魚を獲って貰うなら、大人が何人か付いてるかを見といてくれよ」


 俺の言葉にユーリアが頷いたところで、館を出て北の玄関に続く道を歩き出す。

 石畳でもなく横幅2mにも満たないこの道は、少し下ると浜に下りる道と西に向かう道に分かれる。どう見ても農道にしか見えない道だが、領地のメインストリートに違いない。

 分かれ道を西に向かうと直ぐに林の中に入る。この辺りも少し木を切り払う必要がありそうだ。

 林の中の道は少し下りながら、大きく時計回りに島の北に向かっている。林が切れると、海を越えて陸地が見える。

 さらに道を下ると、オリックの配下の連中が広場に集まって小さな焚き火を囲んでいる。

 ロケットを使うから焚き火をする場所を限定しているが、きちんとそれを守っているようだ。

 声を掛けると、立ち上がって元気に片手を胸にトンっと当てるこの世界の敬礼を俺に返してくれた。俺も片手を上げて答えておく。


 どうにか北の玄関に付くと、バドス達が俺を迎えてくれる。

 差し出されたのはワインだけど、朝から飲んでるのか? とりあえず隣に置いておいて、お茶を頼むことにした。


「変化は?」

「まだ潮が引かんからな。変化はないぞ。それより、上で向うを見て見ろ。おもしろいものを奴らは持っておる」


 何だろう?

 直ぐに砦の左右に作った広場に向かうと、陸地に望遠鏡を向けた。

 部隊規模としては先の戦の時よりは多そうだが、貧相な連中が揃ってるな。少し離れた場所で馬に乗った連中とは雲泥の差がある。


「ようやくやって来たな。騎馬の連中の武装を見てみろ」

 ケーニッヒの声に、どれどれと望遠鏡を再度騎馬兵に向けた。

「クロスボウだと!」


「どうやら俺達の真似をしたらしいな。さすがに火薬を真似することはできなかったようだ。これで少しは脅威が高まったか?」

「いや、クロスボウは弓に弱い。射程の違いは歴然だからな。だが騎馬兵にクロスボウは考えたな」


 一撃離脱を考えたのだろう。

 矢ならヨロイである程度防げるだろうが、クロスボウの放つボルトは強力だ。銃の黎明れいめい期には、銃よりもクロスボウを規制したと聞いたことがある。

 騎馬隊で、すれ違いざまにボルトを放たれたら、進軍が止まることだってあり得るだろうな。


「銃が欲しかったろうな。だがクロスボウでもマルデウスは十分と考えたんだろう」

「やはりリオンの言う通りの人物ということになる。となれば、俺達を攻めるのにあの人数は少ないと思うが?」

「俺達を計ってるに違いない。向こうも俺が別の世界から来たと分かったはずだ。となれば俺達と同じことを考えるだろうよ」

 

 相手がやって来た世界を武器で知ろうとしているんだろう。俺達の武器を観察して使えそうなら自分達で取り入れるということなんだろう。

 それも大事なことだが、果たして火薬の秘密を知ることができるだろうか?

 マルデウスがそれを知った時、彼がこの世界の覇者になるんだろうな。

 

 下の広場に戻ってくると、ドワーフ達が大砲を引き出して磨き始めている。あれぐらいなら使うまでも無さそうだけど、ちゃんと準備しておくだけなら問題は無いだろう。

 焚き火でパイプに火を点けると、皆で配置を再確認する。

 一度戦っているから、基本は前と同じになる。発砲の目印も前と同じ場所に残っているようだ。


「確かに数が少ない。それとワシ等と同じ武器を持っておるのが気に入らん」

「リオン殿が作った武器をあのように真似ることができるということは、やはり新国王が軍事の天才ということなのでしょうか?」


 心配そうな表情で俺にたずねてきたのは、ハリウスだった。そんな彼をケーニッヒが笑い顔で見つめている。直ぐに俺に向かって小さく頷いているのは、早めに誤解を解いてやれということなんだろう。


「ある意味、才能はあるんだろうね。だが、俺を越えることはできないと思うな。彼らが火薬を使って来たら俺達も少しは考えなければならないだろうが、攻め手のクロスボウはそれほど脅威ではない。俺達の長銃はクロスボウの射程の倍はあるからね」


 話せばいろいろと課題はあるのだが、ここは誰にでも容易に分かる射程距離で説明しといた方が良いだろう。

 

「道ができたぞ!」

 石垣の上から俺達に向かって教えてくれたのは、オリックの配下の1人なんだろう。

「最初は挨拶だろうな。今が引潮だとすると……」

「次の引潮は真夜中になる。今度も夜戦になりそうじゃな」


 魔導士の作る光球と石垣から吊るす松明で明かりは十分だろう。

 攻め手は一方向だけに限られているし、その横幅も限られている。

 この世界の戦は、始める前に名乗りを上げるのが作法らしい。ある意味無駄にも思えるんだけど、郷に入っては郷に従えと言う言葉もあるぐらいだから、そろそろ向こうから使者がやって来るだろう。

 マルデウスはこの習慣をどう思っているのだろう? 俺には必要ないように思えるんだけどね。奇襲の時にはどうするんだろうな。


「3騎がこち等にやってきます。武装は槍だけのようです」

 上から大声で教えてくれた。

 たぶん上級士官なんだろう。俺が応対してやるのが筋なんだろうな。皆の視線が俺に向いている。


「了解だ。直ぐに上に行く!」

 どっこいしょと声を出して面倒そうに腰を上げるのを、ケーニッヒが苦笑いで見ている。

 それでも、一応一緒に応対してくれるみたいで、腰を上げた。


「狭間に何人か出しておくぞ。3騎で門を破るとは思えんがな」

「それで良い。となると戦は夜になりそうだな」


 まったくのんびりした戦だ。

 石垣の上の広場には一旦広場から道を上に辿って向かう必要がある。下に下りるんだったら飛び降りれば済むことなんだが、梯子を掛けておいても良さそうだな。


 砦の東西にある広場を繋ぐように石垣に回廊が作られているから、門の丁度真上のところで、やって来る騎馬を眺める。

 俺達と一緒にキャミーまでやって来たけど、キャミーは擁壁の狭間に陣取って望遠鏡で騎馬を眺めることにしたようだ。

 騎馬の装備を調べてくのも大切に違いない。とはいっても、キャミーの場合は単なる好奇心に違いないけどね。


 前の連中よりも近づいてきた。距離は200Cb(60m)も無いだろう。クロスボウの射程ぎりぎりのところだ。

 やがて横1列に並んだところで、一斉に片手でヘルメットを脱ぐと小脇に抱えた。


「我はトルガナン王国軽騎兵を率いるマデリーと申す者。リオン男爵とはお前の事か!」

 驚いたことに、騎馬隊を率いているのは女性のようだ。俺より少し年上に見えるが、キツイ目をして俺を睨んでいる。


「我が先のトルガナン国王より男爵位を授けられたリオンだ。この島と島から延びる道の東西南北に領地を持つ。領地の境界に杭を打っておるからには、それを見なかったとは言わせぬ。我の領地に武装して入るとは何事ぞ!」


「すでにトルガナン王国に貴族はいない。貴族制を廃止したのだ。リオン殿も直ぐに私兵を解いて我等の軍門に下るが良かろう」

「それは現国王の布令によるもの。新国王に従うか否かは我の自由意志であり、強制されるものではない。そして貴族制を廃止したとしても領地は私有地そのものだ。我を下して領地を奪うつもりなら、その覚悟をそちらも持つが良い」


「良かろう、それでは……」

 俺に向かってにこりと笑顔を見せると、2騎を従えて陸地に向かって帰って行った。


「何だ、あれは?」

「礼儀ってやつじゃないか? 今夜攻めてくるはずだ」


 下に行ったら、キャミーに調べた結果を教えて貰おう。

 それにしても気になるのは、騎馬隊が連れてきた連中だ。歩兵なんだろうが、かなりくたびれた連中ばかりが揃っている。

 あんな連中でこの砦を落とせると思ってるんだろうか?


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