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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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035(R) 塩を炊きは近い


 塩田の様子を毎朝見に行くのは、傍からみると奇異に思えるのだろうか?

 早起きのバドスが呆れ顔で、俺が浜に下りていくのを見送ってくれた。ケーニッヒは何も言わないけれど、ミーシャやロディ達は誰かにやらせた方が良いんじゃないかと、遠回しに俺の奇行を止めさせようとしてるんだよな。


 それでも毎朝の記録データをグラフ化すると、ゆっくりとではあるが塩分濃度が上がってきているのが分かる。

 俺が測定してきた値を壁のグラフに書き入れるのを不思議な表情で皆が見ているんだが、グラフで物事を判断するということはこの世界ではやらないのかな?

 5日目で7%はかなりのものじゃないか!

 このまま、数日置いておけば10%も夢じゃなさそうだ。


「だいぶ、リオンが目標と言った横線に近づいてきてるな」

「数日で塩炊きを始められそうだ。秋までに3回は塩が取れそうだぞ」


「となると、焚き木を集めねばならんな。焚き木はいくらあっても困らんぞ」

 バドスが焚き火の傍でパイプを咥えながら呟いた。

 だいぶ集めてはいるが、どれぐらいの焚き木を消費するかはまるで分らない。塩炊き釜のカマドにくべる焚き木の量は、簡単な秤を作ったから、それで来年のめどは立つだろう。

 1Brベラクの鉄の塊を何個かバルトスが持っていたことが幸いしたな。おかげで、1Brから10Brまで量れる天秤秤を作ることができた。

 1Brの十分の一である1Drドラクまで量れるから、塩の梱包を行う時にも役立つだろう。


「俺達が集めて来るよ。船を使っても良いよね?」

「あぁ、構わんぞ。たまに浮かべて使えるかどうかも調べないといけないからな」


 船なら大量に運べるだろう。潮が止まれば波も穏やかなものだしね。

 ロディ達もたまに動かして遊びたかったのかもしれないな。夏だから海に落ちても泳げれば心配ないんだが……。


「まだ、屋根に塗った防水塗料が残ってたかな?」

「雨漏りでもするのか? たっぷり残ってるから、弟にやらせるが」

「いや、そうじゃない。浮きを作るんだ。船から落ちても浮かんでられるようにね」


 籠を編んで周囲を布で覆う。その上に防水塗料を塗れば、しばらくは浮いていられるだろう。二重に作れば子供達でも海で浮かんでられるんじゃないかな?


「おもしろそうじゃな。子供達の遊びにも丁度良さそうじゃわい。ワシ等で作ってやろう。ロディ達には10個もあれば十分じゃろう」


 3日後に枕のような浮きが出来上がった。これを紐で腰に縛っておけば安心だ。村の子供達にも渡して喜ばれている姿は、どう見ても過保護の爺さんにしか見えない。


 塩分濃度はすでに10%を越えているから、予定通り、潮汲みから10日後に塩炊きを始めるとトマスに告げた。

 今度は移動距離が短いし、数人もいれば十分だからお祝い騒ぎにはならないだろう。

 塩釜は1畳の畳より少し大きなものだ。深さは15cmほどなんだが、真ん中がに向かって少し深くなっている。

 およそ腰の高さに釜が石積みのカマドの上に乗っているけど、釜の縁が外に向かって大きく広がっているから灰や煤が釜の中に入ることは無いだろう。

 一応念のために、粘土をカマドの縁に置いて釜を乗せたから密着度も高くなっているはずだ。


「いよいよ始めるんですね?」

「上手く行けば貴重な現金収入の仕事を作ることができる。焚き木の量が問題ではあるんだが、それは次の実験をしないと分からないだろうな」


 自分の部屋に戻ってユーリアと2人でワインを楽しむ。

 エルフ族だから少しはかない姿に見えるけど、実際はそうではない。

 魔族との戦の時だって弱音を吐いたことは一度もないし、たまに魔法の杖で魔族をぶん殴るほどの力を持っている。

 アーモンド型の顔には緑の瞳があるんだが、それがエルフの特徴だ。もう一つの特徴は長い髪から少し出ている左右の耳だけど、それもそれほど奇異には見えない。

 

「どうしたの? ジッと私を見て」

「いや、俺には過ぎた嫁さんだなと思ったからね」


 途端にユーリアが笑い出した。

 あまり笑わないんだけどね。何が面白かったんだろうか?


「私よりも、リオンの方が過ぎた存在です。この世界とは、まるで異なる武器を作り、私達を守っているんですからね。それに、塩が上手く行くなら……、この王国を統べる存在にもなり得ると皆が言ってますよ」

「それは、分相応だ。たぶん上手く行かないと思う。ヤドカリだって自分の姿に合わせて殻を選ぶんだ。俺には王国の経営は不可能だよ」


 ある意味、マルデウスのような人物がふさわしいのかもしれない。自分の行動の前に障害となるなら、一族の首を刎ねる位の気合を持つことも必要なんだろう。

 なれ合いや同情心なんかはいらないんだろうな。民の上に立つ絶対的な存在。自分の行動が常に最善であると信じるぐらいでなければできないのかもしれない。


「国王になりたいという人物はあまたいるんでしょうが、その才を持った存在であるにも関わらず自分の限界を軽んじる者はいませんよ?」

「ユーリアの言う才と俺の思い描く才が少し異なるんだろうな。他国を攻めることは俺にもできるだろうが、王国に平和を与えることはできないという事かな? マルデウスには期待したいところなんだけどね」


 彼が最初に行ったのは貴族社会の崩壊だ。これは王国を軍政に移すための措置だろう。国王が急に政策を変えるとは思わなかったが、国王の急な崩御もあいつが関わってるような気もするな。

 それでマルデウスが国王になれたんだから、あいつの好きに政策を変えていったに違いない。

 現状は富国強兵だ。たぶん上手く行くはずだ。

 キャミーの仕入れてきた噂では、税を少なくして農家の次男三男を兵士として受け入れているそうだ。

 搾取量が減って働き口を作れるのは、消費先が貴族から庶民に移ったからに違いない。

 自転車操業的なやりくりではないから、数年もすれば大きな軍事力を手にすることも可能だろう。


「マルデウスは殺し過ぎましたわ。貴族制を止めるだけで良かったようにも思えますけど?」

「時間を早めたかったんだろうな。それと、残した場合は反乱の原因にもなりうる。王国の施政を大きく変えるには他の方法が無かったに違いない」


 それに比べれば、こちらはのんびりしたものだ。余裕があるということになるんだろうか。

 少なくとも、この島を本気で欲しがるとは思えない。

 1個大隊でも駐屯できれば、東の王国とこの王国間で激しい争いが起こりそうだが、今のところ1個中隊でさえ無理だからな。

 ひょっとして、島の開墾が終わるのを待ってるわけではないのだろうか?

 それも、嫌な話だ。


 ワインが無くなったところで、ベッドに向かおうとした時だ。下の集会場で大きな音がする。あれは非常招集にでも使おうと皆で笑ってた王国軍のヨロイで作った鐘じゃないのか?


「身支度してからでいい。俺は先に行くぞ!」

 ユーリアに告げたところで、集会場に走り出した。

 あれが叩かれたということは、またしても王国軍ということになるのだが。


「どうした!」

「性懲りも無くまたやって来たらしい。バドス達がやって来てから状況をハリウスに説明して貰う。とりあえずお茶でも飲んで頭を冷ませとくんだな」


 ケーニッヒの話だと、差し迫った状況では無いようだ。ここは勧めに従ってワインの酔いを醒ましておこう。

 ぞろぞろと皆が集まったところで、ハリウスが状況を話し始めた。


 対岸に松明がたくさん集まっているとのことだ。

 引潮が終わっているから再び道ができるのは明日の昼前になる。船でも持っていなければやって来ることは無いだろうな。


「問題は船を2艘、向こう岸に置いていることです。あれが分かれば乗ってくる可能性も出てきます」

「それはだいじょうぶだと思う。船をいつもの所に泊めてはいないからね。ずっと西のこの辺りの砂浜だ。盗られないように隠しておいたよ」


 それって、例の焚き木運びにつかいたいってやつか?

 不幸中の幸いってことなんだろう。西の森では距離があるから、そこまで焚き木を取りに向かうとは考えにくいな。

 となると、陸に作った小屋はばらして焚き木にされそうだ。まぁ、陸側の拠点を維持するだけの戦力が無いから仕方がないことなんだけどね。


「とりあえずはハリウスの言う通り、傍観するだけだ。だが、船を向こう岸に置いたのは俺の失敗だったことは確かだ。キャミー達で尾根の見張り台から西の海を監視してくれないか」

「明日にはやって来るぞ。ワシ等は今夜から北の玄関に向かう。リオン達は明日の朝からでも十分じゃ」


 ドワーフ族が10人近くいれば北の玄関を破ることは困難だろう。クロスボウと長銃があるからね。

 火矢を放たれても石造りの建物だから火事にはならないだろう。燃える物は石垣の上にあるバリスタと玄関の門ぐらいなものだ。


「頼んだぞ。ケーニッヒは明日の朝にトマスと村人の参加者を募ってくれ。場所は玄関の上の広場だ」

「あれを広場というのは問題だが、場所的には丁度良いだろう。クロスボウに短銃を渡せば崖を登る者を狙撃できるからな」


 奥行きが5Rd(1.5m)ほどの足場に近いような場所だが、石で壁を作ったから奥行きが減ってしまったんだよな。だが、比較的平らな場所を直径20Rd(6m)近く確保したんだから広場と言っても良いんじゃないか?

 そこにはロケットを発射するカタパルトが置いてあるのだ。向こうの出方次第では使ってみても良さそうだ。


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