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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
33/171

033(M) リオンの様子を囚人で探る


 王宮の工房でクロスボウを量産し、軽騎兵に装備させる。

 2人でどうにか弦を引ける強度だから有効射程はは200Rd(60m)を越える。

 おおよそ短弓の飛距離に近いが、その威力は桁違いだ。鎖帷子を容易に貫通するし、金属製のヨロイにも穴を空けることができた。


「これは歴史が変わるんじゃないか!」

「だが、1檄したらすぐに後退だ。マデリー、その辺りを十分に訓練するんだぞ」

「分かったわ。そうなると、今の短弓は?」

「竜騎兵に装備させれば良いだろう。1日に使える魔法の回数は数回だからな」


 リオンのおかげで思わぬ武器を手に入れることができた。

 ある程度軍拡を行ってから周辺に侵攻しようと思っていたが、その時期を早めることも出来そうだが、そうなるとリオン達の次の手が気になるところだ。


 相変わらず、商人を通して購入しているのは穀物と硫黄に少し品質の劣る肥料のようだ。今年は穀物の量が少ないと報告があったからそれなりに開墾が進んだのか、それとも耕す農民が逃げ出したのか。

 とはいえ、少し突いてみるのもおもしろいかもしれないが、兵士を失うことは得策ではない。


「どうしました?」

「あぁ、リオンの領地を突こうと思ったが、兵士を失うのは……、と思っていたのだ」


 ジャミルには隠しごとができないな。

 俺の言葉に少し考えていたが、ふと俺に視線を戻した。


「罪人を使うということはどうでしょうか? 我等に反抗した貴族の私兵達を捕らえています。彼らと王都の泥棒に武器を与えて攻め込ませてみれば?」

「牢の番人性質も世話をやかずに済みそうね。どのぐらいいるの?」


 ジャミルが50人以上とクリスティに答えている。

 様子を見るには丁度良いかも知れん。リオンの所の戦闘員はおよそ30人程度だと聞いている。

 牢の掃除をするにも都合がいいだろう。町や村の罪人もこの際だから集めてみるか。100人を越えれば、場合によってはリオンを倒せるんじゃないか。


「罪人達をあの地まで護送するのも大変よ。下手したら逃亡しかねないわ」

「マデリーの軽騎兵で十分じゃないか? クロスボウの威力は絶大だ。1個中隊でなら、囚人の反乱は何とでもなる」


 武器は最後に渡せばいいだろう。それも部隊から離れた場所で良い。数打ち武器は処分に困るぐらい武器庫にあったはずだ。


 マデリーの新たな軽騎兵部隊に、2個小隊の歩兵を休暇中の大隊から借り受ける。自ら戦をせずに囚人の護送目的だが、歩兵には1人銀貨1枚を渡すことにした。休暇中のちょっとしたアルバイトなら、それぐらいで十分だろう。


 マデリーの出発は、10日後の事だった。王宮から出発するマデリー達の部隊をテラスから見送ると、執務室でジャミルと次の計画について話しあうことにした。


「出掛けたな。マルデウスの予想は?」

「罪人達は全て死ぬだろうな。マデリーが見た、リオン達の軍事力が今回の目的だ。リオンの奴、中々良いところを拠点に構えている。下手に攻撃すればこっちが危ない」

「あくまで様子見ということか?」


 罪人の数は100人を超えている。3個小隊規模だからリオン達の3、4倍の数だ。死にもの狂いで押し寄せる罪人達をリオン達は防げるだろうか?

 潮の満ち引きを考えれば攻撃の時間は2時間も無いだろう。


「後はマデリー達の帰りを待とう。それで、内政の問題が出たということだが?」

「詳しくは、御妃に聞いてほしい。その前にあらましを話しておけば、妃との話も進め易いだろうと思う」

「あぁ、そうだな……」


 ジャミルが教えてくれたのは、志願兵になり損ねた連中の処置ということらしい。優秀な兵士を集めるならば、やはり落ちこぼれも出るだろう。

 王国軍に志願するつもりで故郷を去ってきているとなれば、今更戻るわけにもいくまい。確かに問題としては大きいな。


「どのぐらいの規模になるんだ?」

「王都だけで、100人を越えているようだ。狼藉を働くなら即座に牢に入れるよう警邏隊には指示している」


 結構な数だが、兵士としては使い物にならないということなんだろう。臆病な兵士がいれば、敵軍と対峙した時に後れを取りかねない。死兵としても使えないだろうな。

 となると……。


「確か辺境の領地を持っていた貴族連中は粛清したんだったな? その土地を守る兵士としては使えるんじゃないか?

 兵士と言っても見掛けだけだ。実際には農作業を行わせればいい。開墾した畑は自分達の畑に出来ると聞けば、王都から追い出せる気もするが?」


「開拓者として使うんだな? 名目は辺境守備隊だから、2年ほどなら給与を出すこともできる。お后の課題はそれで何とかなるな」

「一応、200人のつもりで準備を始めてくれ。彼らを徴兵する触れを出して直ぐに取り掛かるぞ」


 王宮内の侍女達にもジャミルの耳は届いているようだ。将軍とするよりも、俺の副官として傍にいてほしいところだがそうもいくまい。ジャミルに優秀な副官を見つけて貰おうかな。



 夕食は、王宮の王族専用の食堂で前国王の御后と、妻である現妃のカリネラムにカリネラムの妹王女の4人だけの食事だ。

 侍女達が離れた場所に立ってはいるが、俺達の話を聞いても他に漏らすような人物ではない。

 王宮では数少ない内密な話ができる場所になる。


「何か悩みでも?」

「分かりますか? 王都の治安があまり良くないとの噂を聞きましたの」


 カリネラムが、ナイフを持つ手を休めながら俺に顔を向けた。前お后も興味深げな眼差しを俺に向けてくる。


「私の方にも似た知らせがありました。どうやら、兵士になろうと国を出てきた若者達の中で、兵士となれなかった者達が酒場等にたむろしているようです。兵士を徴兵するのではなく、給金を与えて質を向上させようと計画していたのですが、思わぬところで弊害が出てしまいました」


 食事を取る手を休めて、ワインを飲みながら状況を説明する。

 先の御妃は、俺の言葉を聞いて納得したように表情を和らげる。すでに知っているということは対策もできたに違いないと考えているようだ。


「元々農家の出身者ですから、彼らを纏めて辺境の村に送ろうと思っています。2年間の援助を王国で行い、その間に荒地を開墾して畑を作れば、3年後には収穫ができるでしょう。出来高次第ではその後も援助を行うことを考えております」

「新たな穀倉地帯をお作りになられると? 治安上の問題を将来の税の増収に変えられるとは思いませんでしたわ」


 先の御妃は自分のことのように笑顔を俺に向けてくれた。隣の妃にも頷いているから、この案に賛同してくれたのだろう。


「とはいえ、開墾を計画的に行うことも必要でしょう。実行に移す時には連絡してくださいな。信頼のおける人物を同行させたいと思います」

「ありがとうございます。できれば教会の牧師を同行して頂きたいところです」


 すでに心当たりがあったのだろう。俺の言葉に隣の妃が笑みを浮かべた。

 あまり宗教に深入りして欲しくはないが、カリネラムは敬虔な信者でもある。つらい開墾の日々も神を信じる心があれば少しは楽になるだろう。


「お兄様には、できないという言葉はありませんね」

 先の御妃の隣に座った妹王女が俺に微笑む。

 カリネラムは少し嫉妬深いところがあるから、俺に方はまじめな表情で応対することになる。


「自分の力量は知れたものです。周囲の人物が私を導いてくれます」

「自分の力量を知る人は少ないと、先生が教えてくれましたわ」


 先生? あぁ、確かエルフ族の女性が王女の勉強を教えているとカリネラムが言ってたな。

 読み書きと簡単な計算から初めて、今では王国の歴史と音楽を教えているらしい。音楽はハープのような弦楽器だが膝に置いて横に張った弦を弾くものだ。

 中々哀愁のある音色だけど、カリネラムは横笛を教えて貰ったらしい。


「勉強は死ぬまで必要だと思いますよ。ですが、ある程度の歳になり、それなりの地位に就いたならば応用も必要です。今までに学んだ事をどのように生かすかで人物を知ることにもなるでしょう」


 なぜに勉強するかと問われれば、応用するためと答えたい。応用の幅をひろげ、場合によってはいくつかの基本を組み合わせる。それを自分の仕事に使うために人は学ぶことが必要になる。


 そういう意味では、リオンの学歴を知りたいところだ。

 俺とさほど歳が離れているようにも思えない。となれば、軍については俺の方が良く知っているはずだ。

 待てよ……。幼年学校ということもあり得るな?

 だが、あの学校は士官学校に入る事を前提に規律と体を鍛えること重視すると聞いたことがある。あまり軍事の話や歴史に深入りすることは無いのだが……。


「陛下、食事はお済ですか?」

 カリネラムの言葉に思索の海から浮上した。

 そういえば食事の最中だったな。カリネラムに小さく頷くと、俺達は食事を終えて次の間に移動する。

 ここでお茶を飲みながら施政の話をするのがいつもの日課だ。

 3人の客がすでに来ている。俺達が入ってきたことを知って椅子から腰を上げる。

 俺達がテーブルに着いたところで、カリネラムが彼女達を席に着かせた。


「治安の問題は陛下が既に知っておられ、対策まで考えておいででした。その外に、現状での課題はありますか?」

「陛下のご下命により教会との調整は順調です。この春には学校を始められるでしょう。私共からは、先ほどの課題の対策をお考えならば報告すべきものはありません」


 学校が始められるのは良いことに違いない。貴族だけの学問が庶民にまで落ちてくれればいろいろと便利ではある。

 さすがにリオン達にはできないことだろう。

 まだ開墾に励んでいるのだろうか? 火薬を知っていてもそれを大量に使うには原料を仕入れる資金を確保しなければならない。

 コキュートスでどれだけ金銀を持ち去って来たかは定かでないが、金貨数百枚にはなるまい。

 領民を増やせば、穀物を大量に確保しなければならない。それが出来なければリオンに従う農民も逃げ出すだろう。

 果たしていつまで、開墾と土地の改良が続くのか楽しみではある。それは買い込む穀物量の変化で知ることができるに違いない。


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