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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
32/171

032(R) 戦は数だ


 翌日、塩田に向かう。真鍮の容器に塩田の深みから海水を汲んで、塩水の濃度を確認した。

 なるほど3%近くあるな。目盛は1%ずつ等分に刻んだ目盛では、3%を少し上回っている。


 今日は一日良く晴れそうだからかなりの水分が蒸発するだろう。明日の測定が楽しみだ。

 海からも良い風が吹いている。ポンプがあればいいんだけどな。


「さすがに1日で塩水が蒸発することは無いだろうに?」

「様子は見に行かないとな。良い天気だ。これが数日続けばいいのだが……」


 俺が塩田から帰ってくるなり、ケーニッヒが焚きの傍から冷やかしを入れてきた。

 夏は晴天が続く。雷が一番問題になりそうだけど、この地方ではあまり入道雲が発達しないんだよな。

 それでもたまに雨が降ることは確かだ。最初位は雨の脅威から免れたいところだ。


「ネコ族の連中は天気が続くと言っていたぞ。そんな深刻そうな顔をするな。それよりもだ……」


 どうやら商人達の荷が気になる連中がいるらしい。

 猟師の風体をしているようだが、マルデウスの手の者に間違いはなさそうだ。


「リオンとは違って火薬を知らないようだな?」

「いや、直ぐに俺達の所に出入りする商人の荷を確認するなら、間違いなく存在を知っているはずだ。だが、火薬の製造までは知らないんだろう。それで荷を探っているのかも知れん」


「知られてしまいそうだな」

「いや、火薬はそう簡単に作れないさ。ケーニッヒだって、原料は理解してるだろうが、それをどうやって火薬にするかは分からないだろう?」

「確かに……。バドスすら投げ出してるよ。なるほどな」

 

 納得した表情でパイプを取り出している。

 どんなふうに納得したかを知りたいところだ。俺も隣の低いベンチのような椅子に腰を下ろしてパイプを取り出した。

 いつの間にか、俺もタバコ覚えてしまった。手持ち無沙汰の時の気分転換には良いんだけど、健康に問題は無いんだろうか?

 ユーリアの話だと、そんな話は聞いたことも無いと言ってたけれど、そもそも原料が違うのだろうか?

 それとも、病気に対する何らかの特効薬があるのかもしれないな。何といっても、小さな怪我なら魔法1つで治る世界だからな。


「リオンの事だから塩作りは上手く行くだろう。ワインはかなり先になるだろうけどな」

「農民達が自給出来て、俺達が質素に暮らせるようにできれば良いんだが」

「マルデウスのように国王を目指さないのか?」

「俺は器ではないさ。自分の殻の大きさ位は知ってるつもりだ」


 俺の言葉を聞いて笑ってるんだから困ったものだ。

 

「私も、ケーニッヒには賛成よ。せっかく貰った土地なんだから、ここを拠点に……」

「待ってくれ。それはかなり無理があるんだ」


 子供達と遊んでると思ったんだけど、いつの間にかキャミーが戻ったようだ。キャミーの天真爛漫さは評価するけど、俺の評価は過大すぎるんじゃないか?


「俺達は、他の勇者達と同じような末路を向かえないように、王国から離れた位置にあるこの地をわざわざ領地に選んだ。その理由は……」


 少ない人数で、王国軍を迎え撃てること。完全勝利は望めないが、俺達の暮らしに影響がない範囲で戦ができる場所……。その地がこの島ということになる。

 対岸の陸地で生活しているなら、今頃はマルデウスの差し向けた王国軍に簡単に殺戮されてしまう。


「ふ~ん。要するに、人数が問題ってことね」

「戦は数という言葉もある。俺達の武器が王国軍を凌いでも、30人程で5千を越える軍を相手にはできないんだ。コキュートス宮殿の前の広場の戦だって他の勇者達と一緒だったろう? 300人を越える人数で数千の魔族相手だった」


 あれは、本来なら負け戦じゃなかったろうか?

 急に、魔族達が後退していったから俺達はコキュートス中に入ることができたようにも思える。

 マルデウス達の王女救出が上手く行ったことで、魔族が別の拠点に移動を始めたのかもしれないな。広場の魔族達は魔族の貴族連中が脱出するまでの時間稼ぎだったのかもしれない。


「コキュートス前の広場を思い浮かべているのか?」

「あぁ、あの時急に魔族達が後退した理由は何だろうと思ってな。あの戦はどちらかというと俺達が負けていた。多くの勇者達が討ち死にしていた」

「魔族の考えは俺達には分からん。確かに理由はあるのだろうが、今の俺達にはどうでも良いことだ」


 ケーニッヒの考え方が、多数を占めるのだろう。確かに、今の状況では問題ではない。その問題はマルデウス達に考えて貰えば良いはずだ。


「そのマルデウスなんだけど、私達と似た武器を作ったみたいよ。銃じゃなくて、クロスボウらしいんだけどね」

「何だと!」


 ミーシャの言葉にケーニッヒが驚きの声を上げる。

 やはり、年代的には近世からの転移者になりそうだ。クロスボウを知っていたということになる。そうなると、クロスボウの弱点も知っているんだろうか?


「驚くことじゃない。やはりということなんだろうが、火薬の製造はやはり出来なかったようだ。それに、クロスボウの使い方は防衛には適してるんだが攻撃となるとね。大きな弱点があるんだよ。銃ならその問題も無いんだが」

「射程ということか?」

「あぁ、射程が短いことと、ボルトが直線的に飛ぶのが問題なんだ」


 弾道が直線というのは、ある程度上を向けて撃てば良いのだが、それでは弓と同じことになってしまう。短距離を正確に狙えるのがクロスボウの特徴だ。

 それに対抗するには、長射程の弓で雨のように矢を降らせればいい。盾に隠れた状態でも斜め上から降って来る矢を防ぐのは難しいだろう。


「だが、それぐらいは奴も知ってるんじゃないか?」

「たぶんな。別な使い方をするのかもしれない。そんな運用を考えることが出来て、火薬の製造方法を知らないとなれば、俺の済んでいた世界より遅れた世界から来たんだろう。前の世界では軍に関わっていたのかもしれないが、戦いは俺より劣るというのが分からん」


「将軍の子弟の多くが従軍している。士官達の立ち振る舞いを学ぶためだと言ってな。そんな連中かも知れないぞ。軍をある程度知っていて、自分では戦えないというのであればだ」


 ケーニッヒの話には説得力がある。ひょっとして士官学校にでも入ろうとしていた矢先かもしれないな。

 コキュートスの離宮に行くのに、3つもパーティを引き連れて行くわけも納得できる。


「そんなお前は、軍事オタクと来たもんだ。白兵戦ができて作戦も立てられるんだから士官学校はいらんだろうな」

「いや、それなりに兵学校はあったんだ。戦をさらに効率よく進める学習と訓練。兵器が特殊になっているからその取扱いも学ばねばならない。俺は成績も悪かったから、入ることができなかったんで、趣味で戦争ごっこをしていたようなものだからな」


 俺の言葉に、ケーニッヒ達が呆れたような表情で見ている。いつの間にか焚き火を囲む人数が増えているぞ。


「ロディがクロスボウを持った猟師を見たと言っておったが、対策はあるということじゃな?」

「あぁ、あるぞ。弓でいいんだ。とはいえ長射程の弓だからバドスに作って貰うことになる」

 

 俺の言葉を聞いてロディ達の表情が明るくなる。次にやって来た時にどうしようと悩んでいたに違いない。


「それに、しばらくはこの島まではやってこないはずだ。銃の射程距離はクロスボウの倍以上あるからね」

「その上、ロケットもあるしな。あれはこの島から陸地にまで届くから驚きだ」


 俺達を攻撃してくるよりは、懐柔を図るんじゃないかな?

 俺達の装備がそのまま軍隊で使われたら、周辺諸国を十分に征服できるはずだ。

 

「使者がやってきたらどうするんだ?」

「追い返しても良いんじゃないか? 俺達は前の国王にこの土地を貰っている。追い出すことはできないと思うけどね」


 貴族制を否定したとしても、土地を貰ったことには変わりない。男爵という地位が役立たなくなったとしたら、独立を宣言すれば十分だ。


「まぁ、俺達はここで暮らすと宣言すればいいんだな? それぐらいの事は北の玄関の連中に知らせておこう。それで、もめるようであれば銃で脅すぐらいは構わんだろう?」

「あまり脅かすなよ。マルデウス達が全軍で押し寄せるとなれば俺達に防ぐ手は無いからな。せっかくここまで開墾したんだ。逃げたくは無いぞ」


 俺の言葉に全員が頷くところを見ると、考えは同じということだろう。

 あまりマルデウスを刺激するのも問題だからな。やって来た連中を追い払うぐらいで済めば良いのだが……。


 翌日、塩田に出掛けて蒸発量を確認する。

 昨日は良く晴れていたが、今日も同じように晴れ渡っている。こんな天気が続いてくれるのを祈るばかりだ。

 塩分濃度計の測定値は4%。底を真っ黒に塗ったのが良かったのかもしれない。このまま蒸発が進んでくれれば、10日もすれば塩を焼くことができそうだ。


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