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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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031(R) 塩つくりは潮汲みから


 どうにか形に出来たロケットは、直径15cm長さが60cmほどの代物だった。先端に手榴弾を取り付けて、その点火方式はロケットの推進薬から伸ばした導火線を使うことにした。

 数秒に満たない推進薬による噴射でかなりの高さにまで上昇する。これを45度の傾斜を持つ発射台で陸地に向かって放つと、十分に陸地に届くから大砲よりも飛距離はあるようだ。


「使えるのか? 飛距離は一定しないし、着弾点もかなりばらついているぞ」

「陸地に届けば十分だ。5発発射して一番飛んだものは渚から2Rd(300m)以上も離れた場所だ。狙いが安定しないのはロケットに詰めた火薬の質が悪いのと、風の影響があるんだろう。だが、これをいくつか撃たれたら、兵を後ろに下げなければならないだろうし、干潮時に出来た道を安心して渡れないだろうな」


「そういうことか。威力よりは脅しに使うんだな? なら十分に使えるだろう。台に載せて導火線に火を点けるだけだからご婦人方に頼めるだろう。大きな音もしないのが良い」

「とはいっても、その場で爆発することもあり得る。退避壕は必要だ。できれば退避壕から台に載せたロケットの導火線に火を点けたいな。それが出来たところでご婦人方に頼むことにしよう」


 北の玄関の上に小さな陣地を作るのが今年の仕事になりそうだ。

 前にミーシャ達が弓の射点に使った場所だが、それほど斜度が無いからバドス達ドワーフの連中がちょっとした石の広場を作ってくれた。崖下に面して腰ほどの高さの石垣を作って、狭間を設ければクロスボウや銃で崖を登って来る敵兵を狙撃できるだろう。海の道も良く見えるから、ここからならロケットを発射するのに都合が良い。風通しも良いから、噴煙も直ぐに晴れるだろう。


 農家の人達は穀物の種を植え終えたところで、今度は野菜作りに入ったようだ。

 開墾もだいぶ進んだようだから、夏場の開墾を中断していよいよ塩作りを始めることになりそうだぞ。


 塩作りを始めると告げたのは、5日おきの会議の席だった。

 すでに初夏を過ぎてシャツ1枚で夜も過ごせるような日々が続いている。


「農家の方は昼夜ともに2人ならなんとかなります」

「海水を運ぶのが面倒だが、それは最初の日だけで十分だ。終わったら夕食を皆で取り、ワインを1杯ぐらいなら構わないぞ」


 俺の提案にトマスが喜んでいる。たぶん農家総出になるんだろうな。子供達にも何か用意しなけれあなるまい。となると、ブドウ畑の手入れをしている子供達にも手伝ってもらおうか。農家の子供達と普段も一緒に遊んでいるんだからね。


「ご馳走の準備と言っても、魚と干し肉ではなぁ……」

「村に買い出しに行ってこようか? 王国の様子も知りたいしね」


 それも重要なことだ。マルデウス達の動向は商人達が噂を仕入れてきてくれるが、自分達で調べるのも一つの方法に違いない。


「キャミー、頼んだぞ。だが、数人連れて行くんだ。何があるか分からないからな」

「昔の仲間を連れて行くわ。肴は適当で良いわよね」


 適当と言っても、ネコ族の好みは分からないところがあるからな。ここは、ロディにも同行して貰おう。


「俺はハリウス達と森で狩をしてこよう。上手く行けばイノシシぐらいは狩れるかもしれない」


 ケーニッヒの提案にハリウスが嬉しそうに頷いている。

 周辺に王国軍はいないと商人達が教えてくれたが、やはりケーニッヒの目で見てきてもらう方が安心感はあるな。


 そんなことで、次の休日の翌日を塩田に海水を運んでもらうことにした。

 上手く行けば最初の俺達の産業ができる。換金率が極めて高い産業だから、塩の生産で手に入れた金で穀物の不足分の購入が期待できそうだ。

 焚き木も、冬の強い波で新たに打ち上げられた流木もあるから、しばらくは燃料の心配もせずに済みそうだ。


 海水を運ぶ当日。塩田の傍には沢山の男女が集まっている。

 作業の日数に応じて、売上金を分配するということを伝えたから集まったのかもしれないな。

 とりあえずは、力仕事だから都合が良いことも確かだ。


「皆、良く集まってくれた。トマスに参加者と参加日数を記録して貰うから、商人に販売した代金を総人工数で割って分配する。代金の7割の分配だが、それで我慢してくれ」

「農繁期は過ぎてるから、手伝うには問題ねぇけど、ワシ等に足りない穀物を分けてくれる外に、分配金をくれるのか?」

「あぁ、先ずはどれぐらいの稼ぎになるかやってみるつもりだ。上手く行けばさらに作っても良いからな」


 農民達は、互いに頷きあっている。現金が手に入っても使う場所は今のところないんだが、行商人から雑貨を買うのも良いかもしれないな。

 まだまだ食料自給は先の話だ。それでも毎年畑は広がっているし、土地も肥えてきている感じがする。

 

 トマスの合図で、男達が桶を天秤棒で2人で担いでいく。あの桶1つで1Hoホール入るのだが、塩田の大きさが結構広いから150杯は必要になるんだよな。

 その半分ほど入りそうな桶はおばさん連中が2人で運ぶようだ。さらにその半分の小さな桶を子供達が運んでいく。

 人数が多いから意外と早く終わるかもしれないな。


 ユーリア達が近くの空き地で焚き火を作り、大きなポットを三脚で下げている。結構な距離を運ぶから、お茶の用意をしておくようだ。


「私は子供達の様子を見てるけど、リオン達は何をするの?」

「バドスが濾過器を持ってくるはずだ。その取り付けを手伝うつもりだけど?」

「ただここに入れるわけじゃないの? 結構面倒なんだね」


 俺を見もせずにそう言うと、キャミーは子供達を追い駆けて行った。今でも子供のままなんじゃないかな? キャミーの言動を見ると、いつもそう思ってしまう。


「ほれ、運んできたぞ。まったく早く言えばいいものを……」

「今朝気が付いたぐらいだからね。そのまま海水を入れても良いだろうけど、クラゲでも入ってたら嫌だろう?」


 何も言わずに、バドスが池の近くに担いでいたタルを下ろした。

 樽に木製の管を差し込んで、その管を池に伸ばしている。タルの中は2重の麻布だ。麻袋を広げて作った物だが、ちょっとした異物を除去するには丁度良いだろう。


「俺達は海水運びではなく、焚き木作りで良いじゃろう。5人やって来るから、かなりの量が作れるぞ」

「囲いは、その時に?」

「簡単な覆いじゃが、雨が入り込まねば十分じゃ」


 塩作りは天気次第だからね。塩田が小さければそんな工夫で何とかなりそうだな。

 大きく作るよりは、この大きさのものを作った方が良さそうだ。


 焚き火の傍で一服しようとしていると、桶を担いだ男達が坂道を上がって来た。

片道300mも無いから、最初の1杯を運んでくるのもそれほど時間が掛からないようだ。

 俺の指示でバドスが作った濾過器に桶の海水を入れると木製の管から勢いよく海水が塩田に流れ出た。

 

「3回運んだら、一息入れてくれ!」

「それぐらいで休んだら、笑われてしまいますよ!」

 

 俺に笑い掛けて男達が海に向かっていく。

 次々に、海水が運ばれてくる。濾過器がオーバーフローしそうになって、慌ててバドスがもう1個濾過器を作ることになってしまった。


「少し大きく作っておけば良かったのう……。塩田を増やすなら3つはあった方が良いかもしれんぞ」

「やってみて分かることもあるさ。最初からすべて上手く行くわけがない」


 塩田に爪の深さほどに海水が溜まったところで、全員が一休みをとる。お茶が配られ、子供達には飴玉が分けられた。

 やはり今日1日は海水を運ばなければならなくなりそうだな。


「どうにか50Hoというところですね。目標は150Ho以上ということで?」

「そうしてくれ。それでどうにか5Brベラクだ」


 5Brで10kgというのも少ない気がするけれど、3%程度の塩分濃度ではそれぐらい取れれば十分かもしれないな。

 問題は塩分濃度計なのだが、簡易版を作ったからそれで試してみるつもりだ。

 原理は釣りに使う浮きと同じで、塩分濃度が上がれば棒状の浮きが水面に浮かぶ高さが大きくなることを利用する。

 塩分濃度を3、5、10、15%にした容器に浮きを浮かべて、水面から出る高さに印を付けてある。

 毎日測れば、どれ位太陽にかざせば良いかも分かるに違いない。一応、目標は10%以上なんだけどね……。


 昼食前には、80Hoを過ぎた様だ。どうにか半分ということなんだが、塩田の深さは5cmにも満たない。

 15cmを目標にしたのだが、そうなると200Ho近く海水を運ぶことになりそうだ。


 午後の海水運びは、途中のお茶の時間を境におばさん連中が作業を止めて夕食作りに入る。焚き火をさらに1つ作ってケーニッヒ達が狩ってきたイノシシを豪快に炙りだした。

 海水を運ぶ男達も舌なめずりをしながら傍を通り過ぎていくのが見える。


「ちょっとしたお祭りだな。ワインの樽もバドスが運んできたぞ」

 面白そうにパイプを咥えたケーニッヒが俺に笑い掛ける。


「まだ本格的な生産ではないからね。ある意味実験だから、皆で楽しむのも良いんじゃないか。あまり楽しみも無いし、海水が蒸発してからが大仕事だからな」


 夕暮れが迫ったところで、海水を汲む作業を終えることにした。

 トマスの計算では200Ho以上入った勘定になるそうだ。目分量で深さを測っても半Cb(15cm)以上はありそうだ。


 夕闇の中で、島で暮らす連中と一緒に食事が始まる。

 獲物が大きいから、教会の神父達も呼び寄せて一緒に食事を楽しむことにした。

 ワインがカップ2杯というのは、今まで飲んだことも無かったに違いない。子供達も、ジュースをカップに注いでもらって嬉しそうな顔を見せている。

 こんな暮らしが何時までも続くことを西の海に消えた太陽に、カップを掲げて一人祈る。


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