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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
30/171

030(R) ロケット弾


「富国強兵だと?」

「何じゃそりゃ?」


 夕食後、パドスやケーニッヒ達と一緒に、焚き火を囲んでワインを飲みながら商人から聞いた王都の状況を話したんだけど、富国強兵は耳慣れない言葉なんだろうな。

 あれは明治時代の話じゃなかったか?

 少なくとも俺が暮らしていた時代よりも100年以上前の話だ。

 ギロチンを使っていたということは、フランス革命の後になるだろうし、王国の治世の富国強兵に舵を取ったということは、俺より前の時代に暮らしていた人物が、マルデウスとしてこの世界に登場したことになるのだろうか?

 

 となれば、当然のことながら火薬を知っていることになるが、果たして火薬の知識を彼が持っているかどうかだ。

 今回の硝石と硫黄が納品されてからは、しばらく原料の購入を避けた方が良いのかもしれない。

 黒色火薬は大砲用と銃用を十分に確保しているし、次の仕入れでさらに5タル分は作れそうだ。

 あまり劣化はしないとはいえ、大量に保管しておくのも問題だろう。


「皆が聞きたがってるぞ?」

 ケーニッヒがニヤニヤしながら、俺に水を向けた。

 そうだった。王都の話をしている最中だったな。


「兵を増強するには国を富まさねばならない。マルデウスは、それをきちんと踏襲してるってことだ。税を安くして、軍という働き口を作るってことだな」

「貴族がいなくなれば中間搾取も無くなるってことか?」

「それだけじゃないぞ。商人の手を借りて王国内の流通を制御しようとしてるようだ。たぶん税の徴収もやらせるんじゃないかな。直ぐに他国を攻めるかと思ってたが、かなり頭が切れる男だと分かった。それにだ……」


 貴族の所領を王国の管理下に置いて、各将軍に王国内を分割して代官職を兼任させている。士官や将軍の給与は格段に上がったはずだ。軍の懐柔は容易だったんだろうな。


「そうなると、軍が反旗を翻さないとも限らないぞ?」

「どのような策を執るかは、この後のお楽しみだな。場合によっては王都に人質という手もあるぞ」


 参勤交代という手もある。余分な財力をため込ませないようにする手はいろいろあるんじゃないかな。

 


「それで、リオンはマルデウスの改革でどの程度軍拡が行われると思っているんだ?」

「貴族の年収はかなりの額になっていたんじゃないか? その半分を使って兵士を雇い武装させるとなれば……、3~5個大隊は編成できそうだ」

「2倍じゃと!」


 飲みかけていたワインを吹き出すようにして、パドスが大声を上げた。

 確かに驚くよな。俺も富国強兵の有効性は知っているつもりだ。この島で行っているのも根は同じだからな。


「まぁ、3個大隊が組みあがれば、マルデウスは行動に出るだろう。かつての王国軍は東と西、それに北に1個大隊を常に派遣している。王都近傍に1個大隊が駐屯して残り1個大隊は休暇中だ」

「派遣されていない軍と合わせて5個大隊となれば、かなり厄介だぞ!」


 ハリウスが驚いたように大声を出した。寡黙な男なんだが珍しいこともあるものだ。

 だが、5個大隊はかなりの大きさだ。この世界では1個分隊を10人で編成している。1個小隊は4分隊で2人の指揮官が付く。1個中隊は4個小隊で5人の指揮官が付く。その上の1個大隊は4個中隊で10人の指揮官が付くのだ。

 5個大隊ともなれば戦闘集団だけで3500人ほどになり、戦闘補助を行う軍属も500人を越える数になるだろう。輜重部隊も荷車を50台近く曳くことになるに違いない。


「まあ、厄介なことは間違いない。できれば俺達に構わずに通り過ぎて欲しいところだな」

「上手く行くのか?」

 ケーニッヒが苦笑いを浮かべながら聞いてきた。



「たぶんやって来るだろうが、深入りはしないはずだ。隣国へ侵出しようとするときに兵を失うわけにはいくまい? 精々、黙って見てろと、一当たりするってことだろうな」

「確かに、相手の数が数じゃ。指を咥えて黙っているのも良いだろう。じゃが、おもしろくは無いな」


 戦がおもしろければ参加するというのでは困るんだけどね。

 戦は戦略であるとともに、厳密な数学の世界でもあるんじゃないか? いかに自軍の損失を押さえて相手に打撃を与えるか、それが戦の全てだと思う。

 まだ、俺達から打って出るという選択は考えない方が良いだろう。

 総人口200に満たない零細領地だからな。動員できる人数は30人程度だ。俺達の軍隊が1個中隊規模になることは無いだろうけど、2個小隊もあれば島を容易に防衛できる。

 陸地の領地は諦めるしかなさそうだ。俺達が陸地に足を延ばすには、海の道を常時使えるようにしないといけないだろう。

 だが、それはもろ刃の剣でもある。海の道が1日2回、2時間ほどしか使えないというのが俺達の強みだからね。


「まぁ、しばらくはこのままだ。陸地で迎え撃つには俺達の人数が足りないし、銃を使ったとしても多勢に無勢だからな。陸地と常に地続きの道を作らないと、俺達から積極的な行動はできない」


 地続きの道と聞いて、焚き火を囲んだ連中の顔が俺に向いた。


「作るのか?」

「将来は……、というところだ。安易に作ると逆に利用されかねない」


 バドスががっかりしたような表情を浮かべると、俺から顔を反らしてパイプに火を点けている。

 そんなバドスの肩を叩いたケーニッヒもパイプを取り出した。

 いつの間にかパイプを使う者が増えた感じだな。農家の連中もたまにパイプを楽しんでいるし、ドワーフの連中は嫁さん達も一緒になって楽しんでいるようだ。


「俺も、リオンに賛成する。現状ではどうしようも無いからな。だが、俺達の領地を荒らしまわるようでは困るぞ」

「大砲よりも飛距離のある兵器を作ってみようとは思ってるが、やってみないと分からん。できればかなりおもしろい戦ができる」

「それは、マルデウスと自分を考えてのことか?」


 ケーニッヒの問いに小さく頷いた。俺が違う世界からやって来たことを知っているのは最初のパーティだけだ。ミーシャには話していない。

 別に話さなくとも、皆が俺に付いてきてくれてるから、このままで良いだろう。

 

 ケーニッヒの問いは、マルデウスが俺と同じように火薬を作れる可能性があると思っているかという確認だ。

 かなり可能性としては高い。だが、火薬の原料が分かっても調合比率が分からなければそれまでだ。黒色であることから硝石の含有量が極めて高いということを、火薬を見ただけでは分からないだろう・


 分からなければ、用心するに越したことはない。

 少なくとも転移者であることは確かだ。マルデウスの行動を探ればどれぐらいの知識を持っているかが少しずつ分かるに違いない。


「ところで、硫黄がたくさん余ってるが、何かに使えるのか?」

「俺も困ってる。品質的に問題があるから、火薬には使えないんだよな……。粗悪品を作ってどれ位威力があるか一度試してみるつもりなんだが」


 爆発しなくても、激しく燃えてくれるなら使い道はありそうだ。

 焼夷弾代わりに、北の玄関の石垣の上から投げるのも良いかもしれない。


 そんなことで、溜まってしまった低品質硫黄の削減を兼ねた火薬作りを行う。

 興味深々で見てる連中がパイプを咥えてたの見て、慌てて止めさせた。万が一にも火薬に火が点いたら俺達の命が終わってしまう。

 知識不足なんだろう。次の会合の場で、火薬の取り扱いで注意することを皆に説明した。

 ふんふんと頷いているけど、ちゃんと理解してるかどうか怪しい限りだが、少なくとも火薬の近くで火を扱わなければ問題は無い。


 出来た火薬を使って、浜辺で燃焼試験を行う。

 やはり勢いよく燃えはするが、銃に使えるレベルにはなっていないな。

 筒に詰め込んで、遠くに隠れて紐で火を点けてみたら、勢いよく炎を噴出した。


「爆発はせぬか……。やはり、石垣から落とすことになりそうじゃな」

「いや、あれぐらい炎を出すんなら別な兵器が作れそうだ。同じように木の筒をいくつか用意してくれないか?」


 数秒間も強く炎が噴き出すなら、ロケットとして使えそうだ。

 先端に火薬を詰めれば、おもしろい兵器が出来そうだぞ。


 数日後に、棒の先に火薬を入れた筒を縛り付けて砂浜に軽く突き刺し、噴射口から延びた導火線に火を点けた。

 シュン!

 軽い音を立て、白い煙を後に残しながらこの世界初めてのロケットは海のかなたに飛んで行った。


「かなりの飛距離じゃ。陸地に向けて放てば距離が分かるぞ」

「それはもう少し待ってくれ。これを改造しなければならない」


 パドスの提案に待ったをかける。もう一回り大きく作って先端に簡単な手榴弾を付ける。それを使って北の玄関から陸地に向かって飛ばしてみよう。

 上手く行けば、大砲の飛距離を越えられそうだ。陸地で俺達を攻める兵士達を眺めている指揮官達を驚かすことができるんじゃないかな?

 ロケット用のカタパルトも作らねばなるまい。手押し車をに積んで、海の道から発射してもおもしろそうだ。


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