029(R) 俺の嫁さん
いかに大量の塩を作るかを考えると、突き詰めれば海水をいかに蒸発させるかが一番の問題になる。
出来ないことは無い。大量の海水を大なべで煮詰めれば良いわけだ。
だが、そのために必要な燃料を確保するだけで、大陸の領地にある森は無くなってしまうに違いない。
あの森は、俺達の貴重な焚き木の供給源となってくれていることから、不用意に切り出すことは避けたいところだ。
となると、乾燥した季節に太陽熱で蒸発させるか風を使うことになる。
浅い池を作って、底を炭で黒く塗り、その上にウミウシの体液を塗って防水処理をすれば良いかもしれないな。斜面には石垣を作り、表面を少し磨けば鏡面効果も得られるんじゃないか?
先ずは小さな試験施設を作って実験をしてみるべきだろう。
南北は15Cb(4.5m)、東西は20Cd(6m)、深さは2Cb(60cm)程度で十分だろう。半Cb程の深さに海水を入れたとしても、150Hoは海水を入れられる。1Hoは桶1杯分だから25ℓより少し多い位だが、村人に頼んでみても良いだろう。その外にもいろいろと仕事があるから、それらを合わせて売値の半分ということで納得して貰いたいところだ。
案がまとまったところで、5日ごとに行われる島の会議に諮ることにした。
開催頻度が少し伸びてきたが、島の暮らしにそれほど大きな変化はないから、少しずつ開催頻度が伸びてしまった。
「それではいよいよ換金できる製品を作りなさると?」
「ワインはまだまだ先だが塩なら材料がたくさんあるからな。そろそろ始めようと思っている。作り方はこんな感じだな……」
海水を濃縮させるための塩田と大きな塩釜を設けた小屋を作ることになる。できた製品を入れるタルや海水を運ぶタル。塩田で濃縮した海水を保管するタル等々……。
「かなりのタルが必要になるな。作るよりも購入した方が良いじゃろう。最初に50タルもあれば良いのか?」
「不足だ。100個は必要になるだろう。この池だけで150Hoの海水が入るんだ。どれだけ濃縮できるか分からんからな。三分の二までは何とかしたいところだ」
150Hoと聞いて驚いているな。俺としては140Hoに減るだけでもありがたいところだ。一応目標を三分の一の蒸発量としているんだが、本当のところはやってみないと何とも言えない。
「海水を組むヒシャクも大きなのが必要ですな。小さなものも揃えるべきでしょう。それは木工職人が何とかしてくれるはずです」
「村から入江までのだんだん畑は3段だ。その下に作ることを考えている。それなら畑作の邪魔にもならんだろう」
「だが、土埃が入るのも問題だ。となれば。この場所が良いだろう。キャミー達が木イチゴ畑を作っておる。あれは背も高くはならんし、畑からの距離も取れるぞ」
段々畑の日当たりの良い場所をキャミー達が確保して子供達と果物の苗木を植えたらしい。
一番下の畑だから村人も文句はないとのことだが、俺の試験を行う上でも都合の良い場所ではあるな。
「塩を炊く大鍋はどうするんだ?」
「ドワーフの里に依頼する外なさそうだ。深さ半Cb、縦が3Cb横が5Cbでどうだ? 板厚は厚いほど長く使える。2個作って貰えれば助かる」
「金貨3枚を用意してくれ。弟を里に向かわせよう」
釜の容量は200ℓ近い。半分の100ℓを炊くとしても、釜と海水の重さで200㎏近い重量になる。竈の構造も考えないといけなくなりそうだ。
「海の近くで火を焚くんでしょう? なら流木も使えるんじゃないかしら」
「流木があるのか?」
「意外と流れ着いてるわよ。一度どこかに纏めておいた方が良いのかも知れないわね」
キャミーの提案に思わず頷いてしまった。助かる話だ。流木は心材だから火持ちが良いこと間違いない。
なるべく、焚き木にはならないようなところを集めることになりそうだ。トマス村長は麦藁も使えるだろうと言ってくれた。
将来の燃料用に、畑から渚までの間に灌木を植えてみようか。
冬は農閑期だから、塩田と塩を炊く小屋、それに燃料を保管する小屋を作り始めた。初めての事は皆も面白そうに手伝ってくれるのが嬉しくもあるけど、上手く行かなかったら俺の信用が失墜すること間違いない。
どうにか一か月ほど掛かって3棟の小屋も出来たが、タルの保管場所を急に思いついたから1棟増えてしまった。
潮を汲む場所は、西の岬付近を考えることにした。とりあえずは天秤棒で桶を担ぐことになるが、将来は潮汲み井戸を渚の西端に作りたいところだ。
先ずはちゃんと塩を作れるかを試してからでないとそれはやらない方が良いだろう。
年が代わり、この島で3年目が始まろうとしている。
開墾が続いてい畑だが、すでにかなりの広さになったようだ。地主から借りていた畑の2倍の広さを自分の物に出来たことを農家の連中が喜んでいる。
それでも、段々畑の広さにかなりの余裕があることも確かだ。東にはまだまだ伸ばせるし、4段目の開墾は、牧草地として利用しているぐらいだからね。
「今年は2組の夫婦が誕生しますよ。畑の分配も問題なく行えます」
「それはめでたい話だな。寝具と食器類は俺達で準備してやろう。祝いをするなら、ワインの準備もするが?」
「出来ればワインを5本ほど準備願えませんか? ワシ等で祝ってあげますから」
トマス村長の話に会合に現れた連中も笑みを浮かべる。
この島で初めての婚姻になるんだろう。教会の神父も喜んで祝福してくれるに違いない。そうなると……、新居の準備もしないといけないんじゃないか?
同じようにログハウスをそれまでに作らねばならないが、これはオリック隊長に任せよう。
「俺も、ミレニアと一緒になりたいんだが?」
ケーニッヒの言葉に、全員がケーニッヒとミレニアに顔を向けた。少し離れた場所に座っているから、目をきょろきょろと動かしているのがおもしろいな。
「まだいるのか? この際だから、集団で結婚式を挙げても良さそうだ」
「私は、まだリオンの返事を聞いてないわよ?」
ん? 思わずユーリアの顔を見てしまった。
はて? 何のことだ。
「ずっと一緒にいたいと、コキュートス突入の時に言ったんだけど、魔族がリオンに斬りかかってきたから、それっきりになってるんだけど?」
かなり昔の話らしい……。コキュートス突入にいろいろと皆が思いを話していたのは確かだ。そんな時に……、あの時か! 確かにユーリアがそんなことを言ったぞ。まるでプロポーズのようだと思って、何と返事をしたらよいか迷ってたところにリザードマンが長剣を振りかざしてきたんだよな。
だけど、今その話をして俺に返事を要求してるということは、やっぱりプロポーズということになるんだろうか?
「ずっと一緒に決まってるじゃないか。それを皆に知らせるためにも俺達も参加するぞ!」
俺の言葉に目を輝かせているところを見ると、やはりそうだったようだ。
エルフの年齢は良くわからないけど、いつまでも若い姿のままだから皆から羨ましがられそうだ。
聡明なエルフの知識は俺にもありがたいところだ。ずっと一緒に暮らしていけるならこっちだって嬉しくなる。
そんなことで前祝が始まる。
まったく騒ぐのが大好きな連中だ。
パドスが岩屋からワインのタルを運んできたから、騒ぎがさらに大きくなって参加者までが増えた感じだ。
こんな感じで、いつまでもワイワイと騒げたらどんなに幸せだろう。
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王都の情報を商人達が届けてくれた。
やはり軍政に政治体制を移行したようだ。国民の税が安くなり、少年達を兵士に訓練すべく教練所も作られているらしい。
農繁期には兵士達も農家の手伝いをさせているようだから、国民からの指示は上がっているようだ。
とはいえ、問題もあるらしい。大きな商取引には王国を何分割化した区域を治める将軍の認可が必要だし、穀物10袋以上を同一人に引き渡す場合は届け出をせねばならないらしい。
「大きな商会は10も残っておりません。中規模の商会は吸収されるか没落したようです」
「だが、行商人は活発に動いてるんじゃないか?」
「荷馬車数台を連ねた行商は盛んですね。私の親達も行商に身を落としたようです」
それでも、生活が維持できれば十分に思える。
残った大店は、将軍達に取り入ったということだろうな。
「軍の調達品は全て大きな商会が関与しています。今では兵士の給与の分配までも任されているとか」
「何だと? それなら、かつての輜重部隊と軍団の会計を任されたということか?」
俺の言葉に商人が頷いている。
マルデウスの改革は貴族を排斥して軍政に移行するだけだと思っていたが、商会をかつての貴族の仕事に着かせるつもりのようだ。
「問題は奴の狙いが西か東かということだが……」
「今のところは、派兵の兆しすらありませんが?」
富国強兵を模索しているのだろうか? この世界はある意味農業社会だ。王国内で消費する穀物が王国の国民を養える総数に比例する。
国民が消費する以上の生産量であれば人口が増えるだろうから、兵士の総数も増えることになる。
先ずは農業に目を向かたのはさすがと言えるだろう。農作物の搾取量が減れば自ずと国力は増加する。
何年掛かるか分からないけど、兵力が目に見えて増えた時が、俺達が覚悟を決める時になるのかもしれないな。
俺達も奴に負けぬように開墾を進めねばなるまい。まだまだ自給自足には程遠いからね。
新たに、硝石と硫黄の買い付けを頼み、ワインと穀物も買い込むことにした。
そんな中、ミレニアが寝具と食器類を何組か頼んでいる。婚礼の贈り物にするのだろう。そんな注文だけなら良いんだが、どうも兵器の原料ばかり買い込んでしまうな。




