024(R) 様子を見に来たのか?
りっぱな軍馬に乗った騎士が3人、干潮で現れたゴツゴツした岩と砂の道を進んでくる。
黒い乗馬ズボンに赤い軍服が似合っている。長剣を下げて、槍に付けられたのは部隊旗なんだろう。
飛び道具を持っていないのなら、石垣の上に出ても問題はなさそうだ。
腕を組んで立てば少しは威厳を持てるだろうか?
「やはりヨロイぐらいは着装した方が良かったんじゃないか?」
「あんな重いものを着て戦をする奴の気が知れん。身軽が一番だぞ」
俺が着ているのは、何時もの革の上下だ。鹿革だからバックスキンというんだろうが、丈夫なところが俺のお気に入りだ。だいぶ着込んでいるから、いい具合に色がなじんでいる。
「確かに、余所行きを1つは欲しいところだわ。私達がみすぼらしく思えるもの」
腰を下ろしてクロスボウを持ったミレニアもケーニッヒに頷いている。
そうなのかな? 思わず下を向いて、自分の周りを眺めてしまった。
「我は、サウドラニス王国第二大隊第三中隊を預かるメルデウスという者。この島を不法占拠する輩は誰か!」
ほう、おもしろい口上を言ってるぞ。
先ずは様子見ということなんだろうな。応じてやるか。
「我はリオン男爵である。サウドラニス国王より任じられた爵位を持ち、この島と北の土地を賜っておる。我の領地に断りも無く入るとは何事か! 返答いかんでは、我等も一戦せねばなるまい」
そう言って、男爵位の指輪を掲げる。
騎乗した3人はジッと俺の指を眺めていたが、返事を返すことなく道を引き返していった。
「何なんだ? 帰ってしまったぞ」
「直ぐにやってくるさ。次の干潮時が勝負になりそうだ。最初から銃で脅してやろう」
3人の騎士が帰って行く途中には2本の杭が打ってある。
長銃の射程と、ピストルと俺が呼んでいる短銃の射程距離が直ぐに分かるから、無駄弾を撃つことが無いようにした目印だ。
「リオン、直ぐに帰ってしまったが、どうなってるんじゃ!」
「戦の前の挨拶みたいよ。次の干潮時が戦になるみたい!」
門のある広場から、バドスが怒鳴っているから、ミレニアが同じように大声で伝えてるぞ。元はシスターらしいのだが、誰もあの声では信じないよな。
下に降りて、広場に作った焚き火を囲む。風が無い分、石垣の上の広場よりも温かく感じる。
パイプを取り出した俺に、バドスが並々とワインを注いだカップを渡してくれた。
「魔族と違って人間同士の戦は面倒じゃな。次は射かけて良いのじゃな?」
「向こうから矢を放ってからが一番なんだが、放ってこないようなら俺が矢を放って誘ってやるよ」
長銃のカートリッジは1人15発ということだ。5発放ったらバレル掃除をすることになるから、嫁さんや子供達も連れてきている。
ドワーフの子供でも新兵なら簡単に倒してしまう腕力の持ち主だから、門を破られることは考えなくともよさそうだ。
最初の一発はカートリッジではなく、普通に火薬を詰めて弾をバレルに押し込んでおく。カートリッジの節約だけど、この場所だけで30丁近い銃があるのだ。一斉に放つと相手も驚くだろうな。
次の干潮まではたっぷりと時間があるから、ここで食事を取ることにした。
望遠鏡で対岸を見ると向こうも焚き火を作っている。
この時代の戦はのんびりしているな。
「次の干潮時は夜中になる。吊り松明を何個か作ったが、使ってみるか?」
「門の両側に下げておけば良いな。俺達でやっておくよ」
「門の前にも立てておくか。奴らも明かりが無いと困るじゃろう」
すでに相手を飲んでいるけど、油断しているわけではない。魔族との戦はこんな物じゃなかったからな。どちらかというと温い戦ということになるんだろう。
とはいえ、門を破られたら後が無いことも確かだ。館に向かう坂道を丸太で塞いでおくか。
次の戦までの時間を利用して食事を取り、ちょっとした邪魔物を道に置いておく。足が止まるだけで、崖の両側に陣取ったオリック達がクロスボウで倒してくれるだろう。
夕闇が迫ってきたが、まだ海の道は現れない。
松明を用意して、道の現れる時を待つ。
「向こう岸に松明がたくさん並んでるぞ!」
「準備が出来たといううことかな。松明はこっちに向かってるのか?」
「いや、その場で動いているだけだ」
まだまだ時間があるらしい。
松明を投げて門を焼く考えのようだ。外に松明を置くときにでも門にたっぷりと海水を掛けておいてもらおう。
少しずつ、道が現れ始めた。
ドワーフが数人門を開けて外に出ると、少し離れた場所に松明を突き刺した。その後で、木オケでたっぷりと門に海水を掛けている。
燃え落ちる時間を稼いでくれそうだな。最後に海水を入れたオケを持って広場に入ると門を閉めた。内側にも海水を掛けておくつもりだな。
「松明がこっちに向かってくるぞ!」
「さて、いよいよだ。俺が指示するまでは撃たないでくれよ」
ネコ族の連中が使う弓を貸して貰って、5人で持つ。ヤジリにボロキレを巻いて油を染み込ませているから、火矢として使えるだろう。
「最初から、銃を撃つんじゃないのか?」
「それではおもしろくないだろう? それに、矢の防御方法が無効であることを知らせるにはこれが一番だと思うぞ」
最初は門の上の石垣から5人で火矢を放つ。その後は急いで石垣の上の広場に戻り、板に開けた狭間から銃を放つ。カートリッジが切れればクロスボウも使える。
何人か、石垣の上に登ってくるだろうか? そんな連中には槍で相手をしてやれば十分だ。
何といっても俺達の人数が少ない。槍で距離を保っていれば、後方からボルトで倒せるだろう。
「どうやら、半分の距離だ。歩く速度は変わらないから練度が高いな。辺境の守備隊といったところだろう」
ケーニッヒの話からすると、中央よりも辺境の方が兵士の質が良いということだろう。
だが、兵士の質や士気等問題にならない位の兵器がある。果たして、どれ位倒れれば帰ってくれるかな?
「バリスタの準備は出来てるぞ。いつ使うんだ?」
「バドス達が長銃を使ってからだ。直ぐに使ってくれ。だがその前に……」
「火を点けてからだったな。だいじょうぶだ」
夜だから望遠鏡で様子を見ることができないのが難点だな。
長銃用の目印は100m先だから、それを過ぎたところで放てば良いだろう。バリスタの射程は仰角を変えていないはずだから、150mほどになる。出鼻をくじくには丁度良い。
だんだんと相手の姿が、掲げた松明で見えてくる。
上半身を隠せるぐらいの四角い盾を持っている。松明と一緒に持っているのは短槍だ。となれば、腰に下げている剣は片手剣だな。騎士もいるのだろうが騎乗していないようだ。後ろで指揮を執っているのだろう。
「まだか?」
「もう少し待て。だが、火を点けても良さそうだな」
石垣の上から吊り下げた松明に矢をかざして火を点ける。
もうすぐ、100mの目印だ……。
「テェー!」
俺の声を合図に5本の矢が火の粉を散らしながら宙を舞う。丁度3列目が100mの杭を通り過ぎる時だ。
直ぐに前列が盾を前にし、後列がその上に盾をかざす。
火矢は盾までどうにか届いたが、力なくポトリと落ちた。
次の瞬間、10丁の長銃が一斉に火を噴いた。
轟音が轟き、敵兵の前列が崩れ落ちる。
ビュン! と鋭い音を立ててバリスタのボルトが飛んで行く。短槍程のボルトは太さは俺が握っても指が届かないほど太いものだ。その先端に鎖帷子で包んだ爆弾が付いている。
ボルトが後列に落ちて大きく爆炎を上げた。周囲の連中はたまったものではないだろう。
盾をかざして走ってくる敵兵を次々と長銃が狙撃して倒していくが、弾丸を逃れて石垣付近にまでやってくる敵兵が多くなってきた。
最初はクロスボウで狙っていたが、石垣に手を掛けた敵兵を見て槍を手にした。
片手剣を口にくわえて両手を使いながら石垣の上に到達した敵兵の横腹を突く。
「最初で帰ってくれるかと思ったけど、こいつら最後まで頑張るつもりだぞ!」
「そうでもない。後ろの連中は動かんからな」
ケーニッヒの言葉に横目で海に浮かんだ道を見る。確かに動かない連中がいるな。
距離は200mというところだろう。あそこまでは長銃で狙うことはできない。安全圏で高みの見物とは……、嫌な連中だな。
長銃の銃声が散発的になり、やがて静寂が訪れる。
かすかにうめき声が聞こえてくる。それも、もうすぐ止むだろう。だんだんと潮が満ちてきた。まだ生きていても体を動かせなければ、潮の流れに水底へ運ばれてしまうだろう。
「勝ち戦ということか?」
「まぁな。これで、しばらくはやってこないだろう。俺達の事を王宮に報告しなくてはならないし、話を何処まで信じるかは分からんが2個中隊では不足ということは理解してくれるはずだ」
ワインで勝利を祝い、ドワーフ達とオリックの仲間を半分残して、館に引き上げる。
長銃のカートリッジがほとんど無くなってしまった。
急いで数を揃えないといけない。それに、次にやってくる連中の対策も考えないとまずいだろう。
いつもの連中が広間の焚き火を囲む。
とりあえずは危機が去ったことになるが、次の戦も考えなければならない。
「やはり、食料の備蓄が必要です。昨年開墾した畑には穀物を植えられるでしょうが、今年の開墾分は、豆を植えましょう」
「豆なら、ブドウ畑の間に植えても良いぞ。ブドウが実るのはまだ先だろうからな」
ライ麦を保存するよりは小麦が良いんじゃないか? 洞窟内の食料倉庫なら、それほど温度変化が無いだろうから長期保存ができそうだ。
「肉用の羊を育てても良さそうですね。簡単に木を伐採して囲いを作れば飼えるのでは?」
「10頭ほどで良いか? 世話は子供達に頼めそうだ」
上手く行けば、毛糸も取れそうだ。多角経営になりそうだが、自給自足の道は厳しそうだ。
ミーシャは見張り台を作りたいようだが、それはもう少し後になりそうだな。とりあえずは北の玄関の左右の崖の上に狙撃用陣地を作りたいところだ。
「ところでドワーフの里に頼めば、これがつくれるか?」
「ハン! 金属加工ならどんなものでもできるわい」
俺の手から奪い取るようにメモ書きを見ていたが、しばらくして首を捻りだした。
「銃の新しい形じゃろうが、これはワシ等ドワーフでも持てんぞ。コキュートスの広場にいた巨人なら別じゃが……」
「できるか、否かだ」
「なら、できると答えるぞ。問題はこの作り方じゃが……、やはり、火薬を使うならこうなるのじゃろうな」
となると、大砲が作れるってことだ。3門作って貰おう。口径は5cmほどだが、これで打ち出す鉄球なら攻城兵器となる櫓を打ち壊せるだろう。近寄った敵兵をブドウ弾で一網打尽にすることも可能だ。
「製作は3門。鉄球は100個だ」
「金貨20枚でお釣りが来よう。残金で鉛の板を買い込むぞ。銃の弾丸が足りんじゃろう」
確かに、それも不足している。火薬の原料もさらに必要になるだろうな。
次の戦に備えて、いろいろと準備をしておくか。
口径の小さな短銃をもう少し作って、ミーシャ達の仲間に全員配っておくことも必要になりそうだ。




