表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
21/171

021(M) 執行はギロチンで


 貴族を修正する上で若干の問題があるとすれば、彼らが本来受け持っていた王国内の仕事を誰に任せるかということになる。

 内政は、税の徴収と民生の安定、それに処罰ということになるのだが……。


「貴族を全て排斥してしまうと、いろいろと不都合も出てくるな」

「本来の仕事をしていればいんのだが……、この際だから貴族の元で働いていた連中にその役を負わせる外に手はあるまい。5年を目安に将軍の手の者を配下に就かせて指導させれば良いだろう。年間の給与は2倍出して、最後には3年分の手当てを渡せば協力してくれるに違いない」


 余分な支出だが、しかたないだろうな。

 もう一つの課題は、牢に入れた連中達だ。早いところ処置しないと入りきれなくなってしまう。


「それで、俺の望んでたものはできたのか?」

「都合、5台作ったぞ。前から牢にいた連中で試験したが、中々良くできてる。あれなら優秀な首切り役人を抱えたようなものだ」


 ギロチンはこの世界に無かったものだが、王宮の職人達の腕がそれで分かるようなものだ。


「2台を王都郊外の処刑場に運んで、3台は町の処刑場で良いだろう。しばらくは軍法で裁かれるから死刑が多くなりそうだ」

「いつから始めるのだ? 牢役人が早くしろと文句ばかり言っている」


 執務室には俺とジャミルだけだ。

 査問会が始まって10日が過ぎて、俺達もいささか疲れてきたけど、明日で名のある貴族達の粛清が終わる。

 その後は、準男爵達が控えているけど、これは将軍がいなくとも、彼らの副官が残っていてくれれば十分だ。

 そういえばリオンも男爵だったが、呼んでも来ることは無いだろうな。

 状況だけでも確認しておかねばなるまい。上手く話を付けて王都に来てくれればありがたいのだが……。


「貴族の私兵達を雇うことはできたのか?」

「とりあえず2個中隊ほどになりそうだ。荒くれだが、金と酒があれば文句は無いだろう。羽目を外すなら軍法で裁ける」

「なら、刑場に穴を掘らせてくれ。なるべく大きくだぞ。100人以上を埋めねばならないからな」


 この世界の刑はある意味、見せしめ効果を狙っている。

 刑場を見に来る連中も多いというから驚きだ。死刑にもいくつかの種類があるようだが、あまり残酷になると俺達の評判を落としかねない。

 国に対する反逆にもとれるような罪状となると、本来は火刑となるようだが、長年の王国への奉仕に免じて、打ち首とすることにした。

 長く苦しむことが無いというのがせめてもの慈悲だな。夫人や子供もいることだから、それで良いだろう。下手な首切り役人だと長く苦しむ場合もあるそうだが、ギロチンならその心配がない。


 翌日、王宮の倉庫からギロチン台が刑場に運び出されていった。

 新しい刑の執行のやり方は王都の酒場の噂になっているらしい。明日はさぞかし観客が多いに違いない。

 将軍達は、明日の刑の執行を見てから自分の部隊に戻るようだ。

 副官達をそのまま俺の幕僚として残してくれると言ってくれたのは、貴族中心だった今までの裁判を少しでも自分達に有利に法令を整備させたいのだろう。

 その思惑は俺の思いにも合致している。上手く使わせて貰おう。


「刑の執行順序は査問会への招聘順序で良いだろう。毎日正午から2組を執行する」


 俺の言葉に、新任の執行官が頷いた。

 腕は十分にあるのに、近衛兵になってからずっと門番を続けてきた者達だ。ジャミルの目にも気の毒に移っていたらしい。ジャミルも元は近衛兵だったが、その役目は貴族街の夜警に近かったそうだ。貴族達の毎夜の騒ぎを聞きながらでは心中穏やかでは無かったろうな。何かあるたびに、同じような境遇の者達の中から能力のある者を選抜している。


「今までの所業を考えれば執行は止むを得ないでしょうが、執行前の彼らの願いは聞き入れますか?」

「さすがに刑を減刑することはできない。だが、ワインやタバコを望むなら叶えることにやぶさかではない。それと、朝食は良いものを食べさせることだ」


 最後に刑の執行順序を伝える。子供、婦人、当主の順だ。婦女子なら目隠しをして耳栓をしておくだけで良い。当主にはゆっくりと自分の番を見て貰おう。


「それでは、明日の昼から執行いたします」

「よろしく頼む。それと、執行部隊の衣装はきちんと身に付けるのだぞ。お前達を恨みに思う輩もいるかも知れん。顔を絶対に見せてはならない」


 修道服に目だけ開けられた頭巾をかぶるのが彼らの衣装だ。普段は近衛兵の派手な衣装だから、まさか近衛兵達が刑を執行しているとは思われないだろう。


 5人の執行官が俺の執務室を出ると、入れ替わりにジャミルが入って来た。

 ジャミルには、地方領主に納まって国王の銘が書かれた召喚状を出しても、いまだに王都に訪れない貴族達の動向を探って貰っていたのだ。


「探索が終わったようです。やはり動く気配はなさそうです。王都の貴族狩りの話を聞いたらしく、傭兵を雇い領民から食料を強制的に供出させているとのことです」


 俺の机の前に立つと直ぐにジャミルが状況を報告してくれた。

 ご苦労と、ねぎらいながら暖炉傍にあるソファーにジャミルを座らせると、棚からワインを取り出して2つのカップに注ぐ。

 俺とジャミルの前にワインのカップを置いて、これからの措置を考えることにした。


「かなり問題だな」

「地方領主なら、私兵は2個分隊ほどでしょう。傭兵もこの状況で集めることはかなり難しいでしょうな」


 精々が、1個小隊というところか? なら1個中隊も派遣すれば十分に思える。内戦にまでは発展しないだろう。

 これまで蓄えた財産を全て国庫に納めるのも考えものだ。やはり、俺達の部隊を使うことになるだろうな。


「ジャミルの部隊規模は?」

「2個中隊というところです。あまり拡大すると将軍達の目が気になりますから」


 前のままか。ジャミルなりに気を使ってくれている。実際には近衛兵の2個中隊も動かせるから実質の部隊規模は将軍達と同じになるのだが、近衛兵の掌握まで将軍達は考えていないということだろう。

 

「一個中隊を派遣するか。一応、派遣先の将軍達には状況を知らせてくれ。文面のサインは俺がするが、査問会の協力を感謝する旨をちゃんと書いておいてくれよ」

「そうなると、北の方角からになりますね。最後は東ですが、リオン男爵はいかがいたします?」


 ちゃんと島の開発を行っているのだろうか?

 王国からの援助は一切ないから、自分達で稼いだ資金で開発を行っているのだろうが、途中で投げ出して隣国に逃れないとも限らない。


「地方領主潰しの途中で様子を見て来るだけで良いだろう。仲間を募ったとしても小作農が数家族というところだ。簡単に捻ることはできるだろうが……。国王の目もある。全ての貴族を粛清したわけではないと俺達も弁明できそうだ」


 だいぶ弱ってきているが、まだまだ意識ははっきりしているし、その頭脳は明晰だ。国王の信任厚い者達は、現状では俺にも手を出すことができない。

 遅効性の毒とは聞いたが、これほど効くのが遅いとは思わなかったな。

 王宮の医師団は口をそろえて心労を訴えているから、俺もそれに沿って行動しているが、あまり長く掛かるようだと、俺の目論見が知られそうだ。


 ジャミルが去ると、軽い昼食を持った侍女達と一緒にマデリーが入って来た。

 午後の商会の連中との会合にマデリーの同席を頼んでいたのを思い出した。まったく忙しい日々が続いている。

                 ・

                 ・

                 ・

 長い話し合いを終えて、どうにか商会の連中を納得させることができた。

 執務室に戻るとソファーに身を投げて、マデリーが差し出したカップのワインを一気に飲む。

 小さなテーブルに空のカップを置くと直ぐにマデリーがワインを注いでくれた。


「少し意外でしたね。私達に協力してくれると思っていたのですが」

「貴族の根絶やしが少し問題だったかも知れんな。彼らの親族が入り込んでいたとは思わなかった」


 商売の利益を少しでも上げるための政略でもあるのだろう。親族が貴族の第二夫人としてかなり入り込んでいたらしい。

 それは商人達の都合であって、国法を侵す大罪人であれば一族の粛清は当然のことだと話したのだが……。少し、禍根を残すことになるのだろうか?


「協力してくれないなら、この王国での商売はできんだろうからな。しぶしぶながらも言うことは聞いてくれるだろう。それで、将軍達から苦情が来るようであれば、潰すことも出来る。商人達の勢力図も少し変わるかもしれん」

「次はどうするのかしら?」

「税を安く、兵を多くだ。クリスティの調査でかなりの重税を課しているのが分かったが、来年の税は4割から3割に減らすことは可能だ。それ以下でも問題ないだろうが、国庫に入る金額は今年以上だろう。民生と教会への寄付を調べてくれ。年間予算の見直しが必要だ」


 財務を統括していた貴族も粛清対象だったから、実際の予算立案を行っていた官僚の何人かも獄の中にいる。だが数人は残ってるんじゃないか?

 そいつらに予算を考えさせるか。


「残ってるわよ。明日にでもこの部屋を訪ねるように伝えとくわ」

 笑ってるな。余程心配そうな表情をしていたんだろうか?


「彼らにとっても今回の粛清は願ったりなんじゃないかしら。自分達が散々に骨をおった結果を貴族達が勝手に数字を変えていくのを見ていたんでしょうからね」

「やはり貴族制度は国害以外の何物でもないな。使えるなら寄こしてくれ。できれば腹案をあらかじめ作っていてくれるとありがたい」


 俺の苦労をリオンは知っているのだろうか?

 木を切り倒して、畑を作るだけならどんなに簡単だろう。王国を改造するという俺の目論見は、お前が考えるよりもはるかに難しいのだぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ