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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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020(M) 査問会の始まり


 王宮の1階にある小さな会議室が査問会の会場となった。小さいとはいえ、20人近い貴族を集めて食事ができるだけの広さがある。

 査問会の場には、貴族の頭首と従者2人を呼び寄せている。午前と午後に一組ずつ。先が長いからのんびりと進めよう。


 査問委員は俺と5人の将軍が副官を従えて席に着いている。末席にはジャミルがマデリーと共に座っている。マデリーが副官達の裁定の集計を行う予定だ。書記官が3人来ているが、記録に残すかどうかは微妙だな。

 今回の査問会は将軍はある意味お飾りなのだ。実際に判定を行うのは隣にいる軍法に明るい副官が行うことになる。

 ある意味、将軍達には責任が無いから、のんびりと今回の狂言を楽しむことになるのだろう。朝からだいぶ機嫌が良い。


「査問会の最初の貴族は、グリオネン公爵になります。王宮書庫に提出した分だけで、これだけの不正行為を働いております。グリオネン公爵の釈明を聞いて罪が軽減されるか、それとも加重されるか……」

「昨夜、副官とも話しておる。副官達は効くだけで良いだろう。質問は我等ということで良いな?」

「十分です。副官達の罪状確認で裁くことにいたしましょう」


 将軍達が頷いたことを確認して、ジャミルに目を向けて扉を指さす。

 直ぐにジャミルが俺の意を汲んで、査問会の会場を出て行った。


 しばらくして、太った赤ら顔の男が近衛兵の先導で部屋に入って来た。

 俺達を獣でも見るように睨みつけているが、近衛兵の指示に従ってテーブル越しの席に着いた。両側に従者を座らせているが、従者はかなりの老人だな。長くグリオネン家の内務を取り仕切っていたのだろう。


「急な召喚状で驚きましたぞ。私を呼び出した者の署名が、国王代理とあっては、無視することも出来ませんな。できれば、朝ではなく、晩餐を共にできたらと思っておりましたが」


 ハイレーネン公爵が館の火事で一族とも焼け死んだことを、一番喜んでいるのはこいつらに違いない。

 王宮で力のある貴族の5本指に入る男だ。

 ハイレーネン公爵亡き後の俺の後見人として、使者を立ててきたぐらいだからな。


「使者の返事の場に、将軍を呼ぶとは考えられましたな。これで我等は敵なしとなります」


 自分本位に物事を考える者はどこの世界にもいるのだろう。まったくクズ以下の存在としか思いようがない。

 隣室から運ばれたお茶がテーブルに乗せられると、美味しそうに飲んでいる。

 そろそろ、本来の仕事に取り掛からねばなるまい。


「そろそろ召喚した理由を話さねばなりませんね。グリオネン公爵による、国庫への不正な税の入金、所領と代官領の税額の私的引き上げ、徴兵逃れの是認……。かなり問題ですよ」

「見つかってしまいましたか……。ですが、それは他の貴族も同じこと。私だけを罰することはできませんぞ。

 それに、トルガナン王国の法令では、貴族を裁くのは貴族の筆頭5家と、クジで選ばれた5家が多数決で裁可を下すことはご存じのはず」


 見つかっても、お詫びで済むなら法律などいらないな。これだから貴族の連中が腐ってしまったのかもしれない。


「言われる通りです。先ほど、見つかったとおっしゃったことは否定しませんでしたね。これは記録することにしましょう。

 もう一つ、グリオネン公爵は大事なことをお忘れでしょうから、ここで教えることにしましょう。

 貴族を裁くのは貴族……。それは王宮の法令としてしっかりと書かれていますが、例外があるということをご存知ないようだ」


 例外と聞いて、公爵の顔から笑顔が消えた。

 俺が公爵の裏を調べた結果を述べたのは、後ろ盾となる条件をより良くしようと考えていたのだろうか?

 自分の殻で相手を量るようでは、この王国に役立たないことは確かだな。


「戦時においては軍法が最優先すると、書かれておりますよ。現在、トルガナン王国は東西と北に軍を展開しております。それは何故かを考えたことがありますか?」

「隣国の侵略と北の魔族に対するためではないか! 前線での給与は王都近くの2倍だ。数十年平和が続いておるのに、なぜに軍を引かぬ」


「西のオランブル王国とは未だに戦が続いておるからだ。もっともにらみ合いであることは確かだがな」


 将軍の1人が、おもしろそうな表情で公爵に告げている。

 その言葉に、公爵の顔色がだんだんと悪くなってきたぞ。ようやく自分の立場が分かったのだろう。


「では、では、この場は軍事裁判の法廷だと?」

「これまで王国の為に尽くしてくれた貴族を裁くのであれば、誰でも良いということにはならんだろう。5人の将軍が多忙を押して集まってくれたのだ」


「だが、国税の罪はこの場で裁くことはできぬ。それは我等には知らぬことでもある。無かったことに出来ぬのか?」

 

 将軍の1人が俺に顔を向けて話してきた。公爵の顔色が少し戻っているようにも見えるな。


「その額が問題です。単純な試算でも金貨150枚。これは無視できるものでもないでしょう」

「それぐらいなら、公爵の方で何とかなるのではないか? 家財を整理して出せぬ金額ではあるまい」


 貴族として傷が残るよりはという考えなんだろう。公爵の方も、従者に何事か確認しているようだ。


「金貨200枚を出しましょう。それぐらいなら十分可能です」

 

 ハイレーネン公爵亡き後の筆頭を狙えるかどうかだからな。金を惜しんで降格されるぐらいなら、気前よく出して筆頭格を手に入れようというのが見え見えだ。


「金貨200枚で、税の不正は無かったことにするということは記録してもよろしいですね?」

 

 将軍達が俺の言葉に頷いた。それを見て、公爵が安心したのかハンカチで汗をぬぐっている。


「では、税については我等は知らぬこととして、評定をお願いいたします」


 俺の言葉に、将軍達の隣で軍法の書かれた薄い本を読んでいた副官達が、メモに何やら書き込んで将軍の同意を確認している。

 将軍全員が罪状と刑を確認したところで、マデリーがメモを集めて俺のところに持ってきた。


「将軍方には、この裁可でよろしいのですね?」

「もちろん。刑は多数決で決めるが良い。それが軍法の解釈を決める昔からのやり方だ」


 答えてくれたのは、最後に俺の執務室にやってきた将軍だ。まだ名を聞いていなかったが、俺の良き理解者になってくれそうだ。

 他の将軍達も頷いているところを見ると、将軍職の中でも一段高い位置ということになるのだろうな。


「それでは、グリオネン公爵の釈明と我等の調査結果を元にした裁可を下します。

 王国徴兵妨害は国外追放が2名、死刑が3名です。王宮内での利敵行為と、貴族としての発言。極刑が5名です」


 俺の言葉に、公爵は震えあがりながら顔色を白くする。


「ま、待ってくれ。徴兵逃れは金銭で解決できるはずだ。そもそもが金銭での行為だからな。それに、先ほどの私の発言は、場所をわきまえなかっただけではないのか? 失言の範疇であって罪を被るのは論外だ!」


「公爵にとっては金銭でも、前線では人の命に繋がります。定員に満たぬ兵士をあえて敵軍に向かわせねばならないのです。1人を助ける行為でしょうが、前線では10人を殺すことにも繋がるのですよ!」

「まして、いまだに両軍ともにらみ合っている中で軍を引けとは言語同断。国王でさえも出来ぬ事を一介の貴族が口に出して言うことではない。我等が1人であったなら、戯言でも済まされようが、5人の将軍を前に口に出した以上、我等も無視はできないぞ」


「従者がおるな。急ぎ、公爵家に戻り国庫に納めるのだ。それで税は不問にする。ジャミル、近衛兵を1個小隊連れていけ、家族を全て拘束し牢に入れろ。刑は後ほど執行することにしよう」


 がっくりと公爵がテーブルに突っ伏していたが、今度は俺達を睨んできた。

「この恨み忘れんぞ!」

「安心しろ、残す家族はいない。我等を恨んでも何もできぬぞ」


 利敵行為となれば家族もろともということか……。これは使えそうだ。

 使えぬ貴族が減って、国庫も潤う。

 残った館の財産は使用人と私兵それに俺達で分配しても良い。せっかく将軍達が協力してくれるのだ。それなりの見返りは必要だろう。


 近衛兵が公爵を連れだしたところで、侍女達が隣室からワインを運んできた。

 とりあえず1人が済んだことを祝うことにするか。


「それにしても、あの物言いは呆れたものだな。我等が国王に兵力の増強を頼んでも、国王を取り巻く貴族があのような連中であったから黙殺されたのであろうな」

「少しでも、王国の兵力を上げねばなりません。隣国との戦は小康状態のままですからね」


「だが、オランブル王国も大国ではあるのだ。決定的な勝利を得られぬ限り長く続くことになるであろうな」


 他の4人も頷いているのをみると、国力が同じということになる。それを打開するのは新兵器もしくは新たな戦の方法だ。

 次の査問会は午後だから、それまで将軍達と兵士の構成と兵器それに軍略等を聞くことにした。


 俺の質問に何でも答えてくれるのは、俺を次の国王として考えているのかもしれない。この場を使って自分達の軍隊の改善を図ろうということなんだろうか?


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