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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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002(R) 新たな5人の仲間


 助け出した5人に【アクセル】を掛けて身体機能を上げてあげても、彼等の歩みは遅かった。長く石牢に閉じ込められていたからなのだろう、ろくに食べ物も貰っていなかったようだ。

 長い上り階段を、何度も休みながら登って行き、長い回廊を集合場所に向かう。

 遠くに小さな明かりが見えた時は、正直ほっとした思いが込み上げてきた。


「何だ? だいぶくたびれた連中を連れてきたな」

「置いといたら死んでしまうからな。それに魔族の宮殿の地下で死ぬよりも、日の当たる場所で彼等も死にたいだろうしね」

「ところで、どうだったの? こっちは大漁だったわよ」

「まあまあってところかな。だが、そっちみたいに生きてる奴はいなかったな」


 この宮殿を去る前に彼等に食事位は与えてやりたい。

 通路の真ん中で、小さなコンロに炭火をおこし、携帯食を使って簡単なスープを作る。固いビスケットをパン代わりに食べれば少しは体力も戻るに違いない。

 助け出した男性と女性に俺達の予備の服を渡して着替えさせる。元の服は上等には違いないがボロボロだからな。

 着替えた彼等を【クリーネ】で体を綺麗にすると、中々端正な顔の持ち主達だった。

 食器を渡すと貪るように食べ始めたから、少し落ち着いてから話を聞いてみるか……。


「何ともおかしな離宮を見付けたぞ。宮殿の城壁内にある小さな建物だったが、離宮と宮殿の間で勇者達6人パーティが全滅していた。離宮内にも4人パーティが倒れていたが、こいつらは背後から襲われていたな」

「この宮殿の右にあった部屋には何も無かったけど、離宮には金銀の調度品があったわ。魔法の袋に入るものは入れてきたけど、何か慌てて立ち去ったように見えたのよね」


 ん? おかしな話だな。魔族なら背後から襲うなんてことは無い。俺達を過少評価しているようなところがあって、必ず前から襲ってくる。後ろからだと、仲間内から蔑まれるのかと思うくらいだ。


「傷口は?」

「長剣を使ったようね。綺麗な物よ。だけど、魔族の長剣って、斬れない事で有名なんだけどね」


 ふむ。少し見えてきたぞ。

 殺ったのは、王女を連れ帰った勇者達だろう。三つのパーティが協力して離宮を目指したんだろうな。

 二つのパーティを離宮に向かわせるために一つのパーティが犠牲になったんだろう。王女を保護して立ち去る時に、もう一つのパーティを葬った感じだな。


「分かるか?」

「ああ、帰ったら俺達もそうなりそうだな」

 俺の言葉にケーニッヒが頷いた。どうやら彼も同じ思いらしい。

「でも、帰還命令を受けているわ。国王の発する命令は絶対よ」

「凱旋するんじゃなくて、刑場に行きそうね」


 確かに問題だ。少なくとも魔族の宮殿にたどり着いた勇者達がいることを王女を伴って帰還した勇者達がどう思うのか……。それに、王侯貴族達の思惑も出てくるはずだ。

 勇者と王女を結婚させることで魔族に蹂躙された王国を再び立て直すという理想も掲げられる。

 だが、魔族の宮殿を正面突破しようとして魔族を引きつけていた俺達が王国に帰還した場合、王女を助けるために離宮に向かった者達が何をしたのかが問題になりそうだ。

 自分達の行動を知っているかもしれない連中が、王国に戻ってくるとなると……。


「帰らねば討伐隊が結成されそうだぞ」

「人間相手というのも問題があるな。だが、俺達を狙うんだったら返り討ちも考えねばなるまい」


 こんなことなら勇者パーティの徴募になんか参加するんじゃなかったな。

 引くに引けん状態って事なんだろうが、少しは時間を伸ばせるかもしれない。


「王国に届けた俺達の人数は4人だったな。ミーシャに俺達の伝言を頼んで様子をみてもらうか?」

「途中参加だから王国の連中には知られていないはずだ。で、何て言付けるんだ?」

「俺が腹部に怪我をしたから、回復させながら王宮に向かうと言う事で良いんじゃないか? 報酬は銀貨五枚ならば彼等も納得するだろうし、王都の様子も少しは分かるはずだ」

「えぇ~。私一人って事?」


 ミーシャが嫌そうな表情をしてるけど、他に方法も無い。ここは頑張って貰わねばならない。


「10日程度遅らせられるか……。だが、やはり結果は同じになるんじゃないか」

「10日あれば、彼等も元気になるんじゃないか。このまま王国に戻らないという手もあるけど、やはり戻った方が良いと思う。出来れば褒美を分捕っておきたいんだ。それと俺達に追手を差し向けることが無いようにもしたい」


 上手い手を考えるとなると、時間も必要になって来る。ここはゆっくりと考えながら行動しないと後々取り返しがつかなくなりそうだ。

                 ・

                 ・

                 ・

 コキュートスと呼ばれた魔族の宮殿の地下牢から解放した5人を連れて、俺達はゆっくりした足取りで王都に向かって歩いて行った。

 王国から遠く離れた魔族の宮殿まで来ていたから、歩いて帰ればかなりの日数が掛かってしまう。

 王都からの使者は馬でやって来たんだろうな。王女を開放した勇者達は馬車で帰ったのかも知れない。

 だけど俺達は途中で荷馬車すら手にすることはできなかった。辺境の土地を耕す人達は荷馬車を手に入れるだけの余力が無いのだろう。


「王女を開放した勇者の一行は、貴族の子息達で作られたパーティらしいな」

「何で分る?」

「離宮の外と中で倒れていた勇者の連中が貴族の子息だ。彼等には俺達よりも詳しい事が事前に知らされていたんじゃないか? そうでないと離宮に向かった理由が分らん」


 俺達は噛ませ犬って事になるのか? とんでもない連中だ。コキュートスの正面突破を試みた中には、俺達以外の勇者パーティもたくさんいたはずだ。俺達が向かった時にはすでに戦闘は始まっていたし、虫の息の連中も何度か途中で目にしている。

 ひょっとして、できレースだったのか?

 最初から王女を開放する貴族が決まっていたのかもしれないな。俺達は欲に目がくらんだ亡者と一緒ということになりそうな感じだ。


「ところで、リオン達が開放してきた連中はどうするんだ? 話を聞くとさらったのは良いが、政変や王国が滅んだりして利用価値が無い連中らしいぞ」

「何と言ってもイモムシの餌だったからなあ……。だけど、誰もいなくなったら結局は死ぬ運命だったに違いない。少しは武器も使えそうだし、魔法も使えるらしい。どうにか話をすることができるようになってきたけど、俺達と行動を共にすると言っていたぞ」

「まあ、人数が増えることは良い事には違いないが、彼等の王国の庇護にあずかるって事にはならないんだよな」


 ケーニッヒが残念そうにつぶやいた。それができればどんなに良いか……。

 考えてはいるんだが、中々良い手が見つからないな。明日には王国の領内に入りそうだ。そろそろ、ミーシャに様子を探って貰わねばなるまい。


 盗賊の襲撃でも受けて、廃村になったような村に入ると、屋根の付いた建物は誰もいない教会だけだった。

 建物の床すら抜け落ちているけど、これは床下に隠した宝でも探したようにも思える。

 小さな焚き火を作って夕食を作りながら今後の対応を皆で話し合う。


「やはりミーシャに王都に行って貰わねばならない。最初に頼んだ通りで良いぞ。俺達が遅れる理由だけ伝えて欲しい。場所は怪我を直しつつ王都に向かっているようだと伝えれば十分だ」

「銀貨10枚はくれるんでしょう?」

「もちろんだ。直ぐに他の村に用があると言って引き返してくればいい」


「問題は俺達だな。どうするんだ?」

「簡単にこの村を調べてみたが、誰もいないし盗賊が使った形跡も無い。ここで支度を整えるとして、ケーニッヒは近くの村に行って荷馬車と馬を調達してくれ。荷馬車は2台あれば十分だ。それに食料を買い込めばかなり遠くまで移動できる」


「それ位は造作もないが、やはり王国を出ることになるのか?」

「命が幾つあっても足りないぞ。適当な土地を与えて、油断させたところを討ち取る位は考えてるだろうな」

「それ位は分かるが、回避策はあるのか?」

 とりあえず首を振っておく。一応案は考えたのだが、とんでもなく面倒なことになりそうだ。

 だが、上手く立ち回れば王国としては手を出しにくくなることも確かだ。暗殺に怯える必要も少なくはできる。

「今のところは俺の腹に入れておく。ミーシャの情報次第で俺達は選択しなければならないだろうけどね」


 翌日、ミーシャが王都に向かって旅立った。途中まではケーニッヒと地下牢から助け出したハリウスが護衛に付く。荷馬車を手に入れるために途中の村まで一緒に行ってくれるからミーシャも安心できるだろう。


 さて、その間に俺の方も計画を良く考えねばならない。

 王女を助けたなら、次の国王になるに十分だろう。現国王に王子はいないからな。俺達はコキュートス宮殿の魔族を迎え撃ったと言う事を納得させるには、コキュートス宮殿で見付けた調度品の一部を国王に献上することでどうにかできるだろう。王女救出の影の功労者を演出できれば良い。

 俺達の功績を、王女救出の勇者が認めてくれれば都合が良いいんだけどなぁ。

 当然、俺達に対しての褒賞の話が出てくるはずだ。

 ここで、貴族の約束を取り付けられればこっちのものなんだが……、上手く行くかな?

 この辺りを、もう少し考えておく必要がありそうだな。


 ミーシャが戻って来たのは、それから10日も経ってからだった。

 すでに、教会の庭には荷馬車が2台停めてある。食料や水を入れたタルも乗せてあるから、いつでも出掛けることは可能だ。

 地下牢から解放した5人も今では普通に動いている。あの地下牢に魔法を消去する何らかの仕掛けがあったらしく、女性3人とも魔法が使えなかったらしい。

 人間族のベルディ、エルフ族のアニエール、それにネコ族のメルディと種族もばらばらだ。攻撃魔法と簡単な治癒魔法を使えると言っていた。

 かなり遠くの王国からさらわれてきたようだが、帰るべき王国は既に無くなっているらしい。利用価値が無くなればイモムシの餌というのは嫌な連中だな。

 男性はハリウスとイヌ族のロディの2人だ。2人とも少し前に捕まったらしいが一緒に捕まった連中は既に餌になったらしい。

 最初はどこかの王子かと思ったけど、俺達と同じく他の王国からやって来た勇者達御一行の生き残りということらしい。


 ミーシャがお土産に持ち帰った食材で夕食を取ったところで、同じくお土産のワインを飲みながら計画を皆に告げることにした。


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