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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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018(R) 火薬を作ろう


 数回ほど近くの町に往復して、冬用の衣服と靴を整えることができた。

 銀貨数十枚で何とかなるなら、早めに買い込んでおくのだったと後悔している。それを村人に配ったら涙を流すご婦人まで出る始末だ。

 食うのがやっとの生活だったらしいから、新しい服なんて着たことも無いらしい。そんな話を聞くと、年に1着ぐらいは何とかしてあげたくなるな。


「あんなに喜ばれるとは思わなかったわね」

「春になったら、また贈れば良い。再来年からは年に1回でも良いだろうけどな」


 焚き火を囲んでそんな話をするのも良いものだ。子供達にもだいぶ石運びで世話になってる。ミーシャが仕事が終わるたびに、お菓子や飴玉を配ってるけどそれだけでは気の毒に思えるな。


 しばらく冷たい雨が降り続いていた時、商人が追加の穀物を持ってやって来た。

 代金を支払おうとしたとき、商人の1人が恐る恐る話を始める。


「前にお話しした王都の子供の事ですが……」

「連れてきたなら預かるぞ。外にもたくさん子供がいるから寂しいことにはならんだろう」


 俺の言葉が終わらぬ内に俺の手を握ると、「よろしくお願いします」と何度も告げる。涙まで流しているところを見ると、やはり妹か姉の子供なんだろう。

 並んだ荷馬車の後ろから数人の小さな子供達が現れた。

 まだ、10歳にもなっていないように思える。こんな小さい時分に親から離されるんだから心細いのは仕方がない。この島で親の分まで長生きしてほしいところだ。

 とはいえ、だいぶ子供が増えたことも確かだ。

 最初が15人で次が12人。今度が5人だから32人になる。農家の子供達もいるから島の人口の三分の一以上が子供達ってことになる。子供が多いということは将来が楽しみだ。


「責任を持って預かる」

「お願いします。それと、少しばかり雲行きが怪しくなっています。今回頼まれた荷物は隣国から仕入れることになるでしょう。この国の荷の動きを見張っているようにも思えます」


 いよいよ、王国内の不満分子を葬るつもりなんだろう。となると、この辺りも春にはやってくるに違いない。今の内に不足する物は急いで買い揃えておいた方が良さそうだな。


「食料を今回の3倍。それに硫黄と、硝石も前の倍を運んでくれると助かる。家を作ったはいいが、開拓途中だから虫が多くてかなわん。冬でも暖炉で火を焚くと現れる始末だ」

「それはお困りでしょう。だいじょうぶです、用意できますよ。武器はどうしますか?」


 武器は考えてなかったな。

 ドワーフ族がいるから、鉄さえあれば何とかなりそうだ。


「鋼と軟鉄を買い込めるか? ドワーフ族がいるから鍛冶なら何とでもなるんだが……」

「それなら、2種類の鉄で十分でしょう。荷車1台分を運べますよ」


 商人の代表者はトマスという20代後半の男だ。彼に金貨を10枚渡して、荷を運んでもらうことにした。

 ミーシャに子供達を託して、食料を島に運ぶ。ミーシャの仲間達の数が多いからこんな時には助かる話だ。

 

 その夜、主だった者に使いを出して館の広間に集めた。

 壁の崩れた場所を板で囲った場所だが、真ん中で焚き火を焚けば去年よりは数段暖かく感じる。

 煙もあちこちに空いている隙間を通って外に出るから、煙がこもることも無い。

 人が集まれれば良いのだから、ここはこれ以上手を入れる必要は無いのかも知れないが、バドスの審美眼には問題があるようだ。


 集まったのは、元俺達のパーティ仲間に、ロディとベルティ、守備隊長のオリックとドワーフ族の戦士を束ねるマクトス、農家代表のトマス、教会の神官グレスター殿だ。

 ワインのカップを皆に渡したところで、現状の課題をとりあえず出して貰う。ユーリアが記録してくれるから、後に少人数で対応を考えれば良いだろう。

 

 そんな話を一通りしたところで、王国の状況の話を始めた。

 真剣に話に耳を傾けてくれるのは、知り合いの安否が気になるのだろうか?


「……、そんなところが現状だ。ここで問題が起きる。早ければ来春にもこの島にやってくる可能性が出てきた」

「現在の住人は約140人だ。この内、直ぐに戦える者は30人程度だろう。いくら島に居を構えてもこれでは力攻めに耐え切れない」

「農民に手伝ってもらうのか?」

「我等は剣を使えませんぞ!」


 たちまち、いろんな声が広間にこだましてくる。いくら開放的な空間だといっても、少しうるさいな。


「島と言っても、干潮時には道ができる。王国軍は陸戦部隊だから、できた道をやってくるだろう。島の玄関は堅固になっているからそう簡単に落とすことはできないし、満ち潮になれば重いヨロイを着た兵士は泳ぐ事さえできんだろう」

「時間を稼げば自滅してくれるということか?」

「その通り。だが、その時間を稼ぐ方法が問題だ」


 基本はクロスボウを使うことになる。だが、クロスボウは連射が出来ない。弓で矢を数本放つ間に、1本のボルトを放つことができるかどうかだ。


「北の玄関の石壁に開けた狭間は門の左右に5か所ずつ。石壁の上の擁壁でも放てるが、相手の矢に当りそうじゃ」


 簡単な地図を広げてバドスが呟いている。

 こじんまりとした砦になっているからな。砦の左右は急峻な崖だ。そう簡単に登れはしないだろうが、兵士が溜まってしまうだろう。ある程度集まるなら上ることもできるはずだ。


「左右の崖も問題です。梯子を掛けて登れなくはありません」

「どこまで登れる?」

「そのままどこまでも登ることはせぬじゃろうな。砦の横を攻撃できる場所までじゃ。せいぜい、30Cb(9m)というところじゃろう」


 60度ぐらいの斜面が20mもあるのだ、雑木がところどころにある程度で、足場も良くない。あまり上まで上がれるとは思えないが、砦の側面なら突けるというところだろう。

 

「崖の上は急に緩やかになる。子供達が落ちないよう、この辺りに近づくことが無いよう言い聞かせておる」

「なら、この上から矢が放てるわ! 大きい子達ならネコ族用のクロスボウぐらいは使えるかもよ」

「下に向かって放つなら丁度良い。20人ほど集めれば十分じゃ」


 子供の総数は30人を超えるけど、使えそうなのは数人というところだろう。農家の方から10人ほど出して貰った方が良さそうだ。


「整理するぞ。俺達は北の玄関で王国軍と対峙する。俺の身分は男爵だから王国軍と言えども、簡単に攻めることは出来ないはずだが、最初の攻撃は向こうにやらせてくれ。1矢でも俺達に放てば、こっちのものだ……」


 先に手を出したのが向うであることが一番だ。それに北の玄関で戦が始まるということは、男爵領に無断で立ち入ったことにも繋がる。俺達がどのように今後の行動を取っても、文句は言えないだろう。


「狭間からの攻撃は、ドワーフのマクトスに任せる。バドスとハリウスは門を守ってくれ。俺達は石垣の上に陣取る。オリックの部下を10人、マクトスに預けてくれ。少しはボルトを多く放てるだろう。オリックは残った部下とトマス氏の集めた人達で崖の左右の防衛をしてくれ」


 俺の言葉に頷いたものの、不安げな表情は隠せないな。

 銃がものになれば、少しは戦が上手く行きそうな気もするけど、まだ形にすらなっていない。

 子供達の中から年長の数人をミーシャに預けるか……。島周辺の見張りも必要だ。ある意味即応部隊になるのだが、本来ならもっと人数を増やすべきなんだろうな。


 集会を解散したのだが、昔の仲間達がそのまま残っている。

 一応、これだけの人間を集めた責任を感じているのだろう。無言で焚き火の炎をながめながらワインを飲んでいる。


「来るとしたら、1個中隊というところだろうな……」

「ここは隣国に近い。大規模に部隊を展開すれば隣国との戦が始まりかねん。貴族の粛清の話は隣国にまで聞こえているようじゃ。隣国は我ら以上に王国軍の動向を探っておるぞ」


 1個中隊なら170人前後というところだろう。まさかここまで俺達が人を集めているとは王国でも予想はしていないんじゃないかな。それぐらいなら十分に勝機はあるのだが、1個大隊規模で来られたら、少し背中が寒くなりそうだ。

 火薬だけでも早めに作っておこうか? 手榴弾代わりに使うこともできそうだ。


 翌日から、硝石の精製を始める。

 肥料用としてかなり出回っているらしいが、生憎と粗悪な品だ。トマスに言わせるとかなり上等な品らしいが、火薬の原料ともなるとそうもいかない。


 大鍋を火にかけてお湯で溶かし、木綿の布を2重にした濾過器を使って不純物を取り除く。タルに入れた濾過液を放置して温度を下げると、白い結晶がタルの内側に晶出してきた。その結晶を集めて布袋に詰める。

 何度も繰り返すと、麻袋に6個ほどの硝石が取れた。

 俺の作業を見守っている連中が、物珍し気な表情で白い結晶を手にして首を傾げている。

 次の作業が始まる前に、タルの中を綺麗に洗って、その液を肥料の山に撒いておいた。十分に硝石成分が残っているはずだ。少しは肥料として役立ってもらいたい。


 精製した硝石を前回と同じ手順で再び結晶化させる。今度の濾過器は絹を3重にしたものだ。さらに不純物が取り除かれるだろう。

 出来た結晶はかなりの大きさだ。その上、透明度が増している。これなら使えるかもしれないな。


 硫黄の精製の方法もあるんだろうが、俺はそんなことを知らないから、買い込んだ硫黄の中から結晶化した物を選別することが最初の仕事になる。

 針状の結晶が良くわかるような物ばかりをスプーンで選ぶと、量が半分になってしまった。残った硫黄も何かに使えるだろう。タルに入れて保管しておく。

 

 炭は、バドスから綺麗に炭化した物を麻袋2つで受け取った。

 冬の間は大陸の領地で炭焼きをするらしいから、これぐらいの量なら問題ないらしい。ドワーフ族の鍛冶には大量に炭を使う。石炭でも見つかれば良いのだが。


 次は材料の紛体化だ。

 すでに鉄製の臼を作って貰っているから、広場の端でのんびりと臼を回す。構造的には石臼と同じだから、原料ごとに異なる臼を使えば良い。各原料とも10日程で綺麗に粉にしたぞ。


「何を作るかはさっぱりだが、これが例の品じゃ。少し機構を変えておる。何も火打ち石など使わずとも火を起こすことは出来るからな」


 バドスが次の作業の段取りを考えていた俺に、ホイっと手渡してくれたのは頼んでおいた銃だった。

 フリントロックを使わないと言うのがどういうことか理解できなかったんだが、魔石2個を強くぶつけることで炎が出るらしい。

 小指の先ほどの火の魔石がバレルの横にあるシリンダーに収めてあるそうだ。シリンダーとバレルの間に空けた小さな穴に炎が噴き出すようだ。その為に手前の魔石とシリンダーの間にくさび型のハンマーが落ちる仕掛けを作ってある。

 これなら、フリントロック機構よりも便利に使えそうだ。セーフティは2つの魔石の間に挟んだ銅板らしい。上から押しこむことで2つの魔石が板バネで押し付けられる。下から押し上げるとセーフティが掛かるってことだな。


「かなり良い品だが、たくさん作れるのか?」

「すでに3丁作ってある。頑張れば春までには10丁ほどは追加できそうじゃ」

「それなら、これと同じ物を5丁作って、残りはこの筒を長くしてくれ。できれば倍は欲しいところだ」


 俺の言葉に少し難しい表情を見せたが、頷いてくれたところを見ると、製作可能ということだろう。

 それが出来れば次は大砲だからな。バドスには頑張って貰わねばならない。


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