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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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013(R) 島で迎える最初の冬


 島に雪が降って来た。島の山にしては標高があるから、それが原因なのかもしれない。南斜面は10cm程だが、北斜面や山頂はかなりの積雪量になっているのだろう。その雪が修道院跡地の泉や東にある小さな小川を作っているに違いない。

 陸地の資材を島に移動したところで全員が島に引き揚げた。

 陸地に渡るのは商人達の荷馬車がやって来た時と、炭焼き用の薪を陸地の林から運んで来る時だけになる。

 陸地を見張る北の玄関は崩れた石壁を補修したから、遠目には立派な砦に見えなくも無い。

 居住区や馬小屋はいまだに帆布で屋根を覆っているんだが、これは少しずつ直していく外に手は無いだろうな。

 開墾で切り倒した木々の枝が焚き木になるから、しばらくは焚き木に不自由することも無い。

 農民達には穀物や日用品を人数に応じて分配しているから、農民達からの不満も無い。この冬も開墾にいそしんでいるようだ。

 

「ところで、この館はどうするんだ?」

「一応、俺達の館になる。とはいえ、どこから手を付けていいかわからないな」


 かろうじて屋根のある礼拝堂らしき場所に寝袋を広げて休んでいるんだけど、これなら農民達のログハウスがまともに思えるほどだ。

 幸いにも焚き木がたくさんあるから中央に炉を切って焚き火を焚いているんだが、煙が広間にたちこめることが無いほどにあちこちの壁に穴が空いている。ミレニア達は広間にテントを張って暮らしているほどだ。

 いつものように、広間の中央の焚き火の周りに集まってワインを飲んでいる時に先ほどの話が、俺とケーニッヒで交わされた。


「後、10日ほど待てば、洞窟内の大まかな縄張りを終える。そうしたら、いよいよこの館の修理じゃ。2階建てでこの広間は残す。部屋の数は20で良いじゃろう。ミーシャ達の仲間はログハウスにいるからな」

「別に塀を作る必要はない。部屋数も目標は20だが15もあれば十分だ。華美にする必要はないぞ。実用性を重視してくれ」

「分かったぞ。客室もいらぬと言う事で良いな?」

「余った部屋が客室で良い。だが、この館よりも北の玄関を早めにちゃんとしておきたいところだ」

「あれは弟に任せる。ミーシャのところから10人程借り受けるぞ。ロディとハリウスを付けたいが?」

「見張りだな? なら任せとけ。メルディも連れて行こう。夜なら俺達を凌ぐからな」

「基本は島へ来ることを禁止すれば良い。俺達の領地だ。体制が整わぬ内にやって来られたら敵わんからな」


 陸地からの道は引き潮時に現れるが数mの横幅でしかない。その上、長さは1km近くあるから大軍を投入することは困難だ。玄関に10人程度の兵力があれば数倍の敵でも阻止できるだろう。ミーシャの伝手で更に人数を増やしたいところだが、農民を一時的に兵士にすることも考えなければなるまい。


 冬の最中、陸地から5頭のラバの背に振り分けるようにして焚き木が運ばれる。

 丸太と焚き木が干潮のたびごとに島へと運ばれてくるが、陸地の森は大きいから、島の玄関に作られた石塀の上で眺める限り、ほとんど変化が見られない。現状では陸側の領地には利用するすべがあまりない。精々、焚き木とラバや馬の飼葉用の干し草を作るだけになってしまいそうだ。

 イモ類だけでも植えてみるか……。出来が悪くても俺達の食料事情が少しは改善するかも知れないぞ。

 陸地までの距離は丁度良いが、向こう岸の様子が分らないのも問題だ。今度やって来る商人達に王都で眼鏡を買い込んできてもらうか。遠視用と近視用のレンズを使えばガリレオ式の望遠鏡ができる。木工職人をバドスが連れてきてくれたから望遠鏡に加工して貰おう。


 冬が終わりに近付くと、雨が降り出した。

 冷たい雨は雪よりも作業を遅らせてしまう。開墾した土地は一面の泥沼になっている。水はけも考えないとならないようだ。

 半月も雨が続いた後は、からりとした天気になる。相変わらず風は冷たいが日差しはだいぶ暖かくなってきた。いよいよ本格的に領地の開発を始めることになる。


 2日おきに、主だった連中が修道院の広間に集まる。

 これからの作業と作業の進捗を話し合うためだ。

 集まるのは、俺とバドスにハリウス、それに農家の代表であるトマス、こそ泥から守備隊長に栄転したオリックと金庫番のミレニア、資材管理のベルティ、記録担当のユーリアの8人だ。

 基本はこの連中だが、他の連中も興味本位で混じって来る時もある。ある意味大歓迎だ。それだけ領地作りに興味があると言う事だからな。


「それでは、村から南の2段の畑に何を作ろうと我等の勝手と言う事ですか?」

「作物の適性が分らないからね。本職に任せる方が良いだろう。耕地の広さは各家に平等に行ってくれ。上手く分割できないところは、今年の3段目の開墾に合わせて来年分割すれば良いだろう」

「税も取らぬと?」

「出来高が分らないから取りようがない。将来は商人に売れるようにしたいが、その時は売った代金の2割を収めてくれ。不作の場合はこちらから援助する。その代わりに、ブドウ畑作りを手伝ってほしい。苗木を今年買う事で調整してるから、入手次第だな」


 貧農だった彼等も自分の土地が持てることを喜んでいるようだ。20軒に満たないログハウスを村と言う事にしたみたいだ。トマスが初代の村長ということになるんだろう。

 となると、この場所が領主の館になる。北の玄関はそのままの呼び名で良いだろう。ドワーフ達の住まいを何て呼ぶかは今後の課題だ。


「食料は3か月分を確保してあります。ところで、陸地のイモ作りは本当にやるんですか?」

「適当に種イモを埋めておけば秋には取り入れられるんじゃないか? 出来が悪くとも代替食料になるならそれで良い」

「玄関は形になったけど、陸地の方はどうする?」

「商人達からの荷受けが可能であれば良い。攻められたらひとたまりもないから、荷受け用の小屋で十分だ」

「食料倉庫と、酒蔵は出来たぞ。まだまだ洞窟内を広げられるが、それはワシらの一存で良いな?」

「洞窟内は自由にしてくれ。だけど酒蔵は3つ欲しいところだ。食料倉庫も2つあれば良いだろう」


 俺の言葉にバドスが頷いたから、今年中には完成するだろう。元々が住居にも使っていた場所だ。小部屋2つを繋げば食料倉庫1つになるからな。


「それで、頼んでいた柱は何とかなりそうか?」

「ドワーフに向かって何とかなりそうかだと? すでに100本近く作ってあるわい。苗がいつ、どれだけ届くか分からんが、単純な石の柱など直ぐに作れるわい」

 

 ブドウの育成は棚ではなく、石の柱を使うつもりだ。木の杭も良さそうだが、直ぐに腐ってしまうだろう。


「で、王都の状況は?」

「商人達の話では国王の病が重いとの噂が立っているそうだ。やはり、と言う事になるんだろうな」

 キニアスの答えは俺達全員が予想していたことでもある。あの勇者め、貴族達を掌握したと見える。王国軍の掌握も時間の問題だろう。王国軍の2個大隊が貴族の私兵の総数を下回ることは無いから、これで疑問を持った貴族がいても、あの勇者になびく外に手は無いだろうな。


「今年は、貴族が忙しくなりそうだな」

「お前も男爵だろうに?」

「ここには来ないだろう。来るだけ無駄だと分かってるはずだ。だが、反体制の貴族がやって来ないとも限らない」


 亡命なら隣国に行ってほしいところだ。来るとしたら貧乏貴族になるだろうな。勇者側に着くとしても、碌な任務を与えられないだろうし、功労があったとしても現在の地位を保証されるだけだろう。場合によっては自分達の意に染まる貴族の加領地として使われかねない。

 経営能力がある人物なら欲しいところだが、果たして俺がここにいることも知らないかもしれないな。来たとしても腹黒い奴はいらないから、会談の場所が欲しいところだ。陸地の倉庫でも良いかな?


「やってくるかな?」

「貧乏貴族はこれを機に粛清されかねない」

 

 ある意味、停滞した王国に新風が吹くことになる。

 これは必要悪なのだろうか? 庶民の暮らしがそれ程変化があるとは思えないのだが、野心家であれば周辺諸国を巻き込まないとも限らない。

 そもそもあいつはどこまで考えているのか? いや何を考えているのかと言った方が良いのかも知れない。


「王都の状況が知りたいが、ここではなあ……」

「お前がここが良い、と言ったんだろう? 今更の話だ。では、今日の打ち合わせはここまでとする。次は予定通り明後日だ。近々に商人達がやって来る。必要な品のリストを明日の夕刻までにミレニアに渡してくれ。以上だ」


 ケーニッヒが会議の終了を告げると、集まったメンバーが次ぎ次に焚き火の周りから離れていく。

 ちゃんとしたテーブルで、椅子に座って会議ができるのは何時になるんだろうか?

 焚き火の周りで話をしているようではねぇ……。


「奴からすれば俺達は邪魔物以外の何ものでもないな」

「だからここまで逃げて来たんだ。一応、国王の任命書があるからね。国王に一言文句も言える立場になる。実力は自分以上のパーティが国王近くにいるんでは色々と都合が悪い事に違いないだろう」

「だったら貴族を辞退すれば良かっただろうに?」

「平民なら、直ぐに地下牢行きは確実だ。地下牢で死にたくはないぞ」


「とりあえず、お前の言葉を信じてここまで来たが、それほど事態は深刻だったのか?」

 そう言いながらパイプを取り出して焚き火で火を点けた。

「言っただろう。そもそもが茶番だったんだ。あの勇者が王女を救出するのは初めから決まってたんだよ。いや、あの勇者だけが王女がコキュートスのどの場所に監禁されているかを知ってたんだ」


「だが、あの場所には他のパーティもいたんだぞ?」

「勇者のパーティの実力がそれを必要としたんだろう。救出してしまえば必要のないパーティだ。たぶん王都を出る時から一緒だったんだろうけどね。問題は、それを考えたのがアイツなのかということだ」

「違うとでも?」

「顔はお前より落ちるし、頭は俺より悪そうだ。俺は貴族の中の誰か……と考えてるんだが、場合によっては王族も1枚噛んでるかもしれないな」


 そんな輩がいるんだから王都は住みにくい。

 せっかく王都から離れたんだ。俺達に構わず好きに王国を運営すれば良いだろうが、執念深いのも貴族の特徴らしいからな。


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