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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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001(R) 帰還指示


「何だと!」

「はい、ですから国王陛下よりの帰還命令が発せられたと……」


 魔王の居城であるコキュートス宮殿まで幾多の魔族を切り伏せてようやく辿り着いた俺達は、荘厳な回廊の片隅で休憩を取っていた。

 そこに転がり込むようにやって来た数名の騎士が俺達に告げたのは、勇者の一人が王女をコキュートス宮殿より救い出したという知らせと、俺達のような勇者に対する王国への帰還命令だった。


「正面突破に時間が掛かり過ぎたわね」

「魔物達が俺達に向かっている隙を突いたということか。中々上手くやったようだな」

「どうするの? 帰るの、それとも……」


 確かに俺達に向かって来た魔物の数が尋常じゃあ無かった。そいつらを倒しながらどうにかここまでたどり着いたのだが、10日以上は戦う日々だったからな。

 当初は、たくさんいた他の勇者達のパーティもいつの間にか姿を消してしまった。

 どうにか魔族の王宮ともいえるこのコキュートス宮殿にたどり着いたのだが、玄関先での戦が終わると、途端に魔族の影が薄らいでしまった。


 荘厳な石壁の門をどうにか叩き壊して回廊を進んできたのだが、俺達の前に立ちふさがったリザードマンは20体にも足りない数だ。

 魔王すら、すでにどこかに行ってしまったに違いない。俺達とは別の勇者達が王女救出を成功させたからなのだろうか……。


「了解した。だが、ここまで来るのに力を使い果たした。しばらく休んで傷を癒しながら戻ることになるが……。王都の、どこに向かえばいいんだ?」

「王宮の近衛兵を訪ねれば、国王陛下の元にご案内頂けるでしょう。確かに、傷が深そうですね。ゆっくり王都に御帰りください。それぞれの勇者に相応の褒美を取らすと国王陛下は仰せです」


 俺が横になってたのは、重傷だからではなく単に疲れていただけなんだけどね。

 びっしょりと魔族の血で濡れた革ヨロイを見て、使いの兵士はそう思ったに違いない。

 ミレニアが手渡したお茶を美味そうに飲み終えると、使いの兵士は帰って行った。

 この先に勇者がいないという俺達の言葉を信じたようだ。


 騎士の話では、王女を救出した勇者は一か月以上前に王都に向かったそうだ。その報告を受けた国王が帰還命令を出したなら、確かに連絡は今頃になってしまうのだろう。

 【ブースト】を使う騎士なら一日で300kmは駆けることができる。途中の魔物は殆ど倒されているだろう。容易くここまで駆けてきたに違いない。

 使いの騎士が手元の巻物に印を付けていたのは、旅立った勇者達の確認をしているのだろう。俺達の前に勇者達がいないことを告げると喜んでいたからな。

 騎士達の役目が全て終わったということになるのだろう。


 これまでの慰労金を払ってくれるのだろうか? それを頂いてから皆でこれからの事を考えてみるか……。

 俺達に一礼して、鎖帷子を鳴らしながら遠ざかる騎士を見ながらそんな事を考える。

 俺達の王国は遥か南方にあるガラリア王国だ。直線距離にして1千kmは離れているんじゃないかな。

 春夏秋冬はあるけれど、冬でもあまり雪は降らない土地だ。それに引き換えこの魔族の土地は今が夏だというのに革のヨロイを着ていても寒さを感じるほどだ。


「金貨10枚というところじゃないの?」

「一人ならそれでも良いけど、全員でなら嫌よ」

「欲はかかんことだ。これですべてが終わったのだからな。ある意味、俺達がいたから王女救出が成功したということなんじゃないか?」


 俺達のパーティは戦士が3人に魔導士が2人の5人パーティだ。王女救出のパーティのリーダーがそれぞれ勇者を名乗っている。

 一応、このパーティのリーダーは俺になるから、戦士であると同時に勇者でもある。

 勇者は単なる称号だから、別に特殊な能力は無い。国王陛下より勇者であることを表すペンダントを頂いただけだが、これを持っていれば王国内の全ての支払いを半値で済ますことができる。ある意味特権であったのだが、これを返すのはちょっと残念だな。


「明日には帰るんでしょう? だったら、今日はコキュートス宮殿のお宝探しをしても良いよね?」

 俺にそう言ったのは、途中から俺達のパーティに加わったというか、居着いてしまったネコ族のこそ泥であるミーシャだった。

「なら、2手に分かれた探そうか? 俺は右に行ってみる。ミレニアにバドス。一緒に来れるか?」


 そう言ったのは、長さ1.2mもある長剣を軽々と扱うケーニッヒだ。バドスはドワーフ族だから背が低いけど、全身筋肉の塊でもある。重さ5kgはありそうな両刃の戦斧を片手で扱うんだからとんでもない戦士だな。ミレニアはケーニッヒと同じ人間族の魔導士だが、癒しの魔法が得意な女性だ。


「なら、左側は私達ね。リオンとわたし、それにミーシャで行くわ。ランタンのロウソクを新しいのに変えて、2目盛が過ぎたら、ここに戻る事。戻ってきてもロウソクが全て燃え尽きたら王国に帰ると言う事にしたいわ」

「何があるか分からんということだな? 了解だ」


 俺の意見はどうなってるのか聞いてみたいけれど、今までもこんな感じだったから今更なんだよな。

 魔導師のユーリアはエルフ族だ。見た目は俺とそれ程変わらない年齢に見えるけど、エルフ族の年齢は本人以外誰も分らないらしい。

 ユーリアが腰のバッグから2本のロウソクを取り出した。同じ太さで同じ間隔に刻み目が入れてあるから、時間経過を知るには都合が良い。

 【メル】で火炎弾を作り、ロウソクに火を点けてケーニッヒに手渡すと、真鍮製で四方に粗悪なガラス板が貼ってあるランタンに入れている。

 ユーリアも同じようなランタンにロウソクを入れると互いに頷いている。


「さて、出掛けましょう。一生遊べるように、なるべく金目の物を頂くのよ!」


 俺達はミーシャを先頭に回廊を歩き、最初の十字路で左右に分かれることになった。

 その前に俺達が歩いて来た回廊の壁に、ミレニアが火炎弾をぶつけて壁の一部を破損して周囲に焦げ跡を付けていた。ここが集合の目印って事になるらしい。


 騎士には負傷したと告げてはいるが、全てかすり傷だ。

 少し様子がおかしいから、考える時間が欲しい。重症を信じた騎士少し感謝したいところではある。

 そんな俺の思いも知らずに、同行する女性陣が扉を次々に開けて行き、部屋の中の物色をはじめた。だが、金目の物がまったく無い。

 がっかりした表情を顔に浮かべながら、回廊で待つ俺のところまで帰ってくる。


 やはり奥に行かないとダメなんじゃないか? この辺りは入口に近いから、この部屋を利用するのも魔族の中の下っ端に違いないと思う。

 やがて行き止まりになると、急いで先ほどの十字路まで駆けていく。

 次の十字路も同じように左手を探す……。


 まったく、俺の前を歩く2人の女性は疲れ知らずだ。次々と扉を乱暴に開け放ってはため息を吐いて次の部屋を目指して歩いて行く。

 そんな2人の後を呆れた表情で付いて行くのがやっとの感じだ。

 回廊を奥に2kmも進んだ頃、上に向かう階段と下に向かう階段が俺達の前に現れた。

 

「先ずは上に行きましょう。まだ魔王の部屋は無かったみたいだから、お宝は上にあるはずよ!」

 そんな会話が前から聞こえてきたけど、それなら地下にあっても良いような気もするな。宝物庫なら頑丈な場所に作るだろうし、それなら地下って事にならないか?

 

 すでに階段を上り始めた2人の後を、追い掛けるように俺も階段を上る。いくら敵があまり出なくても、突然現れることだってあり得るからね。

 

 2階も回廊が奥に続いている。少し異なるのは、床が石畳では無く、絨毯のように毛皮が敷かれているぐらいだ。

 1階よりは遥かに作りが良さそうだ。たまに壁に彫刻が彫られているが、その彫刻にはどれにも魔族が描かれていなかった。

 人間族やエルフ族、ドワーフ族に獣人族の姿はあるのだが……。


「かつては魔族の宮殿では無かったようね。滅ばされた旧王国の宮殿だったんじゃないかしら?」

「少しは期待できるって事?」

「本当の宮殿は別なんでしょうね。すでに魔族によって持ち出されてるのかも知れないわ」


 そんな事を言いながら扉を蹴破っているんだから、困った女性達だ。

 めぼしいものは、銀の燭台が2つだけというところで、俺達の前に大きな扉が現れた。

 ギィ~と、音を立てて扉を開くと正面に玉座がある。

 2人が駆けだして行ったけど、やはりめぼしいものは無いようだな。


「こっちに部屋があるわよ!」

 隠し戸のような扉を開くと、豪華な造りの部屋に出た。たぶんここが魔王の私室だったのだろう。体育館程の大きさの部屋が3つある。寝室に図書室、それにリビングと思われる部屋があったが、お宝は本位のものか?

 古い魔道書が多いが俺達に読める文字では無いし、王国で読める者がいるとも思えない。

 それでも、ユーリアは数冊の本をバッグの中の魔法の袋に納めている。魔法の袋は座布団位の大きさで収納力は大型トランク3個分程の優れものだ。


「これ位だよ!」

 ミーシャが俺に向かって小さな黄金の呼び鈴を振っている。チリンチリンと良い音が部屋に響いた。


「諦めるんだな。もっとも、ケーニッヒの方で良いものを見付けてるかも知れないぞ」

「それだったら腹立つよね。さっき下に降りる階段があったわよね。次はそっちに行ってみましょう!」


 ユーリアの持つランタンのロウソクはようやく1目盛を過ぎたところだ。階段を降りても良さそうだな。

 急いで引き返すと、今度は階段を降りていく。粗雑な作りで、どうにか2人並んで下りられるぐらいの階段だ。

 かなり深く下りるようで、中々終わりにならない。それでもどうにか終わりになったようだ。階段の先には洞窟が伸びていた。


「生臭い匂いがするよ。それに松明が点いているのも何か変に思える」

「俺が前になる」

 腰の後ろに差した片手剣を抜き取り、いつでも対応できるように左手で軽く握る。長剣も良いが、狭い場所なら片手剣が一番だ。


 数十mほど歩いたところで、匂いの原因が分った。

 どうやら地下牢らしい。鎖に繋がれたまま朽ちている人間や魔族が、錆びた鉄格子の奥で繋がれていた。

 さらに先に向かいと、大きな長方形の石の台が置いてある。外から持ってきたのではなくこの場所で削りだしたようにも思えるな。


「ここで拷問をしたってこと?」

「いや、この変色は全て血の跡だろう。無理やり体を切裂いた感じだな。たぶんあいつの餌にしたんじゃないか?」


 左手奥に大きな石牢があった。その中でうごめいているのは、大きな芋虫だ。初めて見る姿だが薄暗闇の中で白い姿が不気味に動いている。

 ミーシャが声も無く驚いているようだけど、チラリと見えた口にある牙は短剣ほどの大きさだ。肉食なのは間違いないな。


「グレミルという妖虫よ。体液から麻薬が取れるの……」

「このままおいておけば死んでしまうだろう。先にも明かりがあるぞ」


 先ほどの石の台の一部には、生乾きの血の跡があった。もし、魔族以外が囚われているなら開放してあげなくてはならない。


「誰かいるよ!」

 先に向かったミーシャが俺達を呼んでいる。

 急いで駆け付けると、石牢の奥に人影がある。体形からすれば女性のようだ。これは早く助けなければなるまい。


 周囲を見渡すと、直ぐ近くの岩壁に鍵の束が掛かっている。扉の開け閉めを行うのに近場に置いたのだろう。

 鍵を取って牢の鉄柵に付けられた鍵を外すと、中に入って様子を見る。

 ぼろぼろの衣装だが、元は高価なものだったのだろう。顔に血の気が無いけど、まだ生きていることに間違いは無い。

 足枷を外して牢から出してあげると、俺よりかなり年上の女性のようだ。他にも2人いるのが入っった時に分ったので、同じようにして牢から出してあげる。

 3人の世話をユーリアに任せると、ミーシャを連れて奥に向かった。


 そこにも大きな石牢があり、2人の男性を助け出したが、かなり衰弱しているな。このまま外に出られるだろうか……。

 水を与えて、通路で休ませると俺達は先に進んだ。

 通路の突き当たりも石牢になっていた。だが他と異なり、石牢の奥に扉がある。

 中に入って扉を開けると……。


「あった!」

 ミーシャが大声で叫んだ。

 トランク程の大きさの木箱が3つ。その中には金銀がたくさん詰まっている。装飾品では無くブロックに加工されてるだけだ。

 ユーリアを呼び寄せ、魔法の袋に全て詰め込むと木箱を叩き壊す。これでここに宝物があったことは誰にも分らない。

 

 牢から解放した5人を介抱しながら長い階段を上っていく。もうすぐ2つ目の目印までロウソクが溶けてきている。先を急がねばならない。


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