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第53話 終幕 そして……

 Bエリアの手下達は、互いに顔を見合わせた。聞き間違いなのではないかと、誰もが思った。しかし、確かにジャッジは告げたのだ。エルカの勝利を……そしてBエリアの優勝を。


「……う…………うおおおおおおーーーーー!!!!」


 Bエリア応援席からの爆発的な大歓声。スタンディングオベーション。手下達は、狂ったように騒ぎ立てた。

 レオンは天を仰ぎ、大きく大きく息を吐き出す。ベルーゼも、自分の気持ちをどう表に出せばいいのか分からず、ただ呆然と喜びに打ち震える。そんな二人の首にカゲトがニヤつきながら腕を回し、もっと素直に喜べと言わんばかりに締め上げた。

 タオは大粒の涙をボロボロと流しながら、壇上のエルカに惜しみない拍手を送り続ける。しかし当のエルカは、どこか不服そうな表情を浮かべていた。


「……気絶でも死亡でもなく、十秒カウントか。ほんっとにタフな奴。プライドが傷付くわ」


 唯一その事だけが不満だが、勝ちは勝ちだ。雪辱は果たした。魔界最強……魔界の頂点……魔界の支配者。エルカは遂に、その称号を手にしたのだ。



 *



「スパーダ様-!」


 部下が自分を呼ぶ声に、スパーダが顔を上げた。するとダカシアとラチュラとジュリイが、こちらに向かって飛んできているのが見えた。三人は試合終了と同時に穴から飛び出し、スパーダの元へと向かっていたのだ。


「スパーダ様、大丈夫ですか!?」


 ジュリイがスパーダの首の下に手を差し入れ、身を起こさせた。ダカシアとラチュラも心配そうに覗き込む。


「大丈夫……とは言い難いな。だが、命に別状はない」


 その言葉に、三人はホッとした表情を浮かべる。


「……すまんな。お前達をここまで付き合わせておいて、結局俺はこの魔界を手中に治めることが出来なかった。俺は全ての力を……いや、それ以上の力を出し尽くして負けた。だから俺自身はこの戦いに悔いはないが、頂点から望む魔界の景色を、お前達に見せられなかった事だけが心残りだ」


「な、何を仰っているんですか!」


「僕はスパーダ様についてきて、本当に良かったと思ってます。後悔なんて微塵もありません」


「あたしもです! スパーダ様がいなかったら、きっと一生奴隷のまま……何のために生まれてきたのかも分からないまま、朽ち果てていたに違いありません」


「……そうか」


 スパーダは、それ以上何も言えなかった。自分は間違ってはいなかった……無意味なんかではなかった。それを確信できただけで、充分なのだ。

 スパーダは笑った。スパーダが笑うところなど、今まで一度も見たことがない三人は驚いた。何故笑ったのか……それは、こんな晴れ晴れとした気分は、スパーダは生まれて初めてだからだ。


「悪いが手を貸してくれ。闘技場に戻りたい」


「えっ……し、しかし」


「俺達は負けたんだ。ならば、勝者であるあの女の命令を、甘んじて受ける義務がある」


「……分かりました」


 ラチュラとジュリイがスパーダを両脇から支え、四人は闘技場に向かって飛び立った。

 闘技場では、未だに興奮が収まらないBエリアの手下達が騒いでいる。スパーダ達が戻ってきた事に気付いたエルカが、手下達を怒鳴って黙らせた。目の前に着地したスパーダを、エルカは挑発的な目で見上げる。


「よく逃げずに戻ってきたわね」


「何を命令するつもりなのか、お前が勝ってからのお楽しみと言っていただろう。既に覚悟は出来ている。さあ、言え」


「ふふ……でもその前に」


 エルカはジャッジに向き直った。


「ジャッジ! この闘技場にいる全員に私の声が届くようにしてほしいんだけど!」


「……かしこまりました。では、こちらをお使い下さい」


 ジャッジはそう言って、三十センチぐらいの短い杖をエルカに投げ渡した。マイク代わりというわけだ。エルカはニヤリと笑い、観客席をぐるりと見渡してから杖に向かって口を開いた。


「さあて……見ての通り、たった今から私が魔界の支配者よ。早速だけど、その支配権を使ってあんたらクズ共に、私からありがたい命令を下してあげるわよ」


 他エリアの者達は息を飲んだ。一体どんな理不尽な命令をするつもりなのか。エルカの性格が性格だけに、悪い予感しかしない。


「命令は二つ。まず一つ目は、この私を倒すために今後の鍛錬を一切怠らないこと!」


 ……は? という声がそこら中から聞こえてくる。しかしエルカはざわつきなど気にせずに続けた。


「強くなろうともせず、日々を無難に過ごせればいいなんて甘ったるい考えを持っているカスは、魔界で生きていく資格はないわ。人間界にでも引っ越して、山奥でひっそりと負け犬らしく暮らしてな。ちなみに、挑戦はいつでも受けるわよ。もしタイマンで私に勝てたら、私の支配権をそのままそいつに譲ってやるわ」


 支配権の譲渡……釣り餌として、これ以上の物はないだろう。とはいえ、これだけの力を見せ付けられて尚エルカに挑もうなどという命知らずが、一体どれだけいるだろうか。しかし、挑戦を諦めればそれは命令違反となり、魂の破壊を意味する。無理だと分かっていてもやるしかないのだ。


「何故そんな事をするかって? 全ては私が楽しむためよ。今からあんたら全員、私の玩具になったの。まずその事を自覚しなさい。あと言っておくけど、今回参加しなかったその他大勢の雑魚共も、魂を賭けてないからって他人事じゃあないわよ。そこで代表メンバー達にもう一つ命令を付け加えるわ。向上心のない手下は、見つけ次第あんたらが責任を持って排除する事。以上」


 何もそこまでとほとんどの者が思ったが、エルカはあくまで本気だ。しかしながら、この二つ目の命令はエルカも当初は考えていなかった。玩具にするのは、今回の代表メンバー達……つまり各エリアのベストファイブだけで充分だと思っていたのだ。

 だが、スパーダの話を聞いて考えが変わった。たとえ今どんなに底辺にいても、やり方次第ではどう化けるか分からない。スパーダやダカシア達のように、魔界のトップクラスの実力者になれるかもしれないという事を知った。ダイヤの原石はどこに隠されているか分からない……ならば、全てを疑えばいい。それがエルカの結論だ。


「……つくづくわけの分からん女だな、お前は。だが、何となく分かった気がする。俺が何故お前に負けたのかがな」


「でも、戦績だけ見ればまだ一勝一敗よ。まだ真の決着がついたとは言えないわ。まあ、次やる時はもっとぶっちぎりの力で叩きのめしてやるから、覚悟しておく事ね」


「……俺も二度も負けるつもりはない。更に腕を磨き、次こそは必ずお前を倒す」


 スパーダはそれだけ言って、部下に支えられながらリングから降りて退場していった。スパーダにも、次の目標が出来た。優勝は逃したが、支配者への道が断たれたわけではない。エルカを倒せば覇権を握れるのだから、再びエルカに挑まない手はないだろう。もっとも、それこそがエルカの狙いなのだが。


「ぷっ……ははは。ったくあいつらしいぜ。そういや俺もそんな事を言われてたっけな」


「……本っ当に僕には理解不能だ。僕はもうこんな戦いは懲り懲りだよ」


 カゲトとレオンが呆れたように言った。正直この展開を予想していたベルーゼも、エルカの破天荒ぶりに改めて舌を巻いた。一人、眉間に皺を寄せているのはヤドックだ。


(姫様……やはり人間界に戻るつもりは更々無いようですな。しかし、そうはいきませんぞ。このトーナメントが終わり次第帰る約束ですからな)


 ヤドックは、この後のエルカの動向をより一層注意深く見る事を心に誓う。言いたいことを言い終えたエルカが杖を放り捨てて、仲間達の元へと足を向けた。そして、まだ誰もエルカの異変に気付いてはいなかった。それはエルカがリングから足を下ろした直後に、ようやく表に出た。


「……エ……エルカ!」


 エルカが倒れた。突然電池の切れたロボットのように、受け身も取らずにバッタリと。慌ててタオ達が駆け寄り、ヤドックも窓ガラスを破って即座に飛び降りた。


「エルカどうしたの!?」


「エルカ! おい!」


「しっかりしろ、エルカ!」


「姫様! 姫様ー!!」


 エルカを呼ぶ仲間達やヤドックの声が、徐々に遠くなっていく。いや、遠のいていくのはエルカの意識の方だった。ソウルファイヤを無茶な使い方をした代償……直感でそう理解した。


(……私、死ぬのかしら……冗談じゃないわ。本当に……面白くなるのは…………まだまだ……これ……から…………)


 エルカの意識はそこで途切れた。




 ● カゲト ─ ダカシア ○

 ● レオン ─ ラチュラ ○

 ○ タオ ─ ジュリイ ●

 ○ ベルーゼ ─ スコーピオ ●

 ○ エルカ ─ スパーダ ●


 三勝二敗

 Bエリア サウザンドトーナメント優勝



 *







あー、面白かった!



危険を冒して、見に来た甲斐がありましたか?



うん! あーあ、でもボクもトーナメント出たかったなぁ。すごく楽しそうなんだもん。



本当は、今ここでこうしている事すら、危険なのでしょう? 今あなた様が表舞台に出てしまうわけにはいきませんから、仕方の無い事ですよ。



分かってるよ。でもトーナメントも終わった事だし、これからはいっぱい遊べるよね! 楽しみだなぁ~。



ですが、サウザンドトーナメント優勝エリアですらあの程度です。あなた様がご満足頂けるほど楽しめるとは、私には思えませんが。



あはは、相変わらず厳しいね。そういえば、あのエルカとは知り合いなんだっけ? もしかして戦いたかったりする?



……いえ、別にそれほど興味はありません。向こうは私の事をどう思っているかは存じませんが。



ふーん? じゃあボクが遊んでもらおっかな。……あっ、お腹鳴っちゃった。



うふふ。では、帰って食事にしましょうか。今日はネイクス様の好きな、蛙のハンバーグをお作りしますよ。



ほんと? わーい! 楽しみにしてるよ、イアーナ!

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