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第40話 怒る侍

「勝者、Bエリア・レオン」


 ロボット以上に機械的なジャッジが、無感情に試合結果だけを告げた。マトヤの自爆による死亡。これでレオンの二連勝となったが、その事を喜ぶ者はどこにもいない。


「レ、レオンさん!!」


「レオン!」


 タオとカゲトが慌ててリングに上がり、倒れたままのレオンに駆け寄った。その様子を心配そうに見ながらベルーゼが呟く。


「まさか自爆するとはな……。結果的には勝ったが、あの様子ではレオンは……」


「ええ、三連戦は無理ね。ったく、勝利が確定したからって不用意に近づくからよ」


 タオが傷だらけのレオンを抱き起こした。意識はある。しかし、やはりエルカとベルーゼの見立て通り、これ以上は戦えないだろう。


「う……ぐぐ……あ、あのロボットは……?」


 重傷の自分のことを差し置いて、真っ先にマトヤの身を案ずるレオンに、タオは言葉を詰まらせる。


「駄目だ、バラバラになっちまったよ。あれじゃあ、いくらお前さんでも直せそうにねえ」


 カゲトの言葉に、レオンが無念の表情を浮かべ拳を握りしめる。その様子を愉快そうに見ている者が一人…………言うまでもなく、ゴキブレアだ。


「ウフフ、まあまあ面白い見世物でした。自爆までしておいて仕留めきれないとは、何とも不甲斐ないですが、まあいいでしょう」


「……!! き……貴様ァァァ!!!!」


 レオンがキレた。傷の痛みも忘れて立ち上がり、ゴキブレアに向かって走りだした。しかしすぐに足に力が入らなくなり倒れてしまい、再びタオとカゲトが駆け寄った。


「レオンさん駄目! そんな体でそれ以上無茶したら、本当に死んじゃうよ!」


「そうだ。今死んじまったら、それこそ無駄死にだぜ」


 血を吐き、息を切らしながら尚もレオンはゴキブレアを睨み続ける。レオンがこんなに怒っているのを、誰も見たことがなかった。


「……タオ、カゲト。君達は……ロボットの事を、どう考えている?」


「えっ?」


「ただの作り物だと、便利な道具だと思うか? 確かに彼らは無から作られた。その目的も、初代Lエリアボスのレメッカが、自分の手足を増やすためだ。……だが、彼らにも命がある……魂がある。だからこそ、魂を賭けたサウザンドトーナメントに参加出来た。そして、感情がある。だからこそ、赤子だった僕を拾い、育ててくれたんだ…………」


「……レオンさん」


「許せない……あいつは絶対に。だから、頼む……あいつだけは、何としても倒してくれ」


「おう、任しとけ。だから、お前さんはゆっくり休んどきな」


「ああ……」


 レオンが気を失った。タオがレオンを背負ってリングを降り、カゲトはそのまま残った。中堅はカゲトが引き受けるつもりだ。入場門に足を向けるタオを、エルカが呼び止めた。


「待ちな。あんたは試合を見るのよ。カゲトが負けたら、次はあんたかベルーゼが戦うんだから、敵の戦いを間近で見ておく必要があるでしょ」


「あっ……そうだね。エルカ、頼んでいい?」


 エルカは返事をせず、レオンを肩に担ぎ上げる。そして振り返る事もせず、そのまま入場門から出て行った。エルカは控え室に戻る途中、一言だけ呟いた。


「ケツにマシンガン撃ち込むのは勘弁しといてやるわ」





 Gエリア中堅、ワモンがリングに上がってきた。カゲトはワモンを一目見て確信する。こいつも、ゴキブレアやチャバと同じ人種だと。ならば、何も遠慮する必要はない。ワモンが黄ばんだ歯を見せ付けせせら笑った。


「ぎひひ、残念だったなぁ。せっかく勝ったのに、結局リタイヤしちまってよ。俺は労せずして不戦勝ってわけだ。そしてこれでおめえらは、あの女を欠いた三人。こっちはゴキブレア様を含めた三人。同じ人数でも質が違いすぎるってもんだ。もはや結果は見えたなぁ、おい」


「……あ~、まあそうだな」


 カゲトが頭をポリポリと掻きながら、やる気なさそうに答えた。しかし、ベルーゼとタオには見える。カゲトから少しずつ溢れ出てくる、怒りの感情が。


「……俺はよ、別にロボットに愛着はねえから、あのロボットが可哀想だとは思わねえ。それにレオンとも知り合ったばかりだから、あいつとは仲良しってわけでもねえ」


「で?」


「ねえんだけどよ……よく分からねえが……何か凄えムカつくわ、お前ら」


 あくまで表情や口調は変えずに言い放った。だからこそ、ベルーゼとタオは恐ろしさを感じた。レオン同様に、カゲトも怒っている所は見たことがないのだ。


「ぎひひひひ……最高の褒め言葉だよ。そんなにムカつくなら、精々頑張って俺を殺しにこいよ」


 あからさまな挑発。何かを狙っているのは明らかだ。


(おめえも飛べねえのは知ってるぜ。あの女の時みてえに、不意打ちして場外に落としてやるぜ。これであと残ってるのは雑魚二人……楽勝ぉぉ~。ゴキブレア様もお喜びになるぜぇ)


 ジャッジが手を上げた。間もなく中堅同士の試合が始まる。軍配が上がるのは、カゲトかワモンか。


「では、そろそろ始めさせて頂きます。中堅戦開始ッ。…………勝者、Bエリア・カゲト」





 ────────!?



 ほとんどの者が、何も見えていなかった。開始直後……いや、ほぼ同時にワモンの首が宙を舞っていたのだ。数秒後、さっきまで頭部を乗せていた所から血が噴水のように噴き出し、ワモンの体は倒れた。暫しの痙攣の後、その動きも完全に停止した。


「魂はいらねえぞ。刀が汚れるからな。そこで勝手に朽ち果てろ」


 カゲトは、ワモンの血が滴る刀を一振りし、血を払い落としてから鞘に収めた。流石のゴキブレアも、驚きを隠せない。警戒すべきは、エルカだけではなかった。カゲトという男もまた、充分な脅威になりえる。

 ベルーゼとタオは、開きっぱなしになっていた口を慌てて閉めた。そして、希望が見えてきた。カゲトがいれば、エルカがいなくても何とかなるかもしれない、と。


「おら、次はどっちだ。さっさと出ろよ」


 残るはゴキブレアとクロ。暫しの沈黙の後、ゴキブレアが前に出た。しかし、クロがそれを制止する。


「ゴキブレア様、俺が行きます」


「……分かっているのですか? この試合に勝っても、まだ決勝戦が残っているのですよ? これ以上の死者を出すわけにはいきません。私が残りの三人を消してきます」


「だからこそです。ゴキブレア様の手の内を、WエリアやSエリアの連中に晒すわけにはいきません。奴ら三人を消すのは、俺でも充分に可能です」


「……いいでしょう。ただし、勝利以外の結果は断じて許しませんよ」


「承知」


 ゴキブレアが引っ込み、クロがリングに上がった。カゲトは、昨日のクロの試合内容を思い返す。クロは指一本触れることなく、対戦相手を八つ裂きにしてみせた。そのカラクリはまだ分かっていない。だが、相手がどんな能力を持っていようが関係ない。ただその刀で叩っ切るだけだ。


「俺は今機嫌が悪い。言っとくが、死ぬか降参するか以外の負け方はねえからな」


「それはこっちの台詞だ」


 試合開始。カゲトは刀をすぐには抜かずに、柄を掴んだまま腰を落とした。お得意の居合抜きの構えだ。ワモンの時のように、半ば不意打ちに近いような瞬殺は、流石に二度も通用しないと判断した。

 しかし、速攻で片を付けるという考えは変わらない。クロが持つのは、ハルバードと呼ばれる槍と戦斧が組み合わさった武器だ。通常の槍と比べて多彩な戦法が可能である反面、扱いも難しい。


「どうした、かかってこないのか? それとも、居合抜きはカウンターで繰り出した方が強力だから、俺から攻めに行くのを待ってるのか? くくく……」


「……」


 確かにそれもある。しかし不用意に攻め込んでは、昨日のクロの対戦相手の二の舞を演じる事になる。自分が負けたら、後はベルーゼとタオだけになり、Bエリアの勝利は絶望的になる。万が一にも、ここでの敗北は許されない。膠着状態はその後も二分ほど続いた。


(奴も敗北が許されないだけに慎重だな。気は進まねえが、こうしていても拉致が明かねえし、攻めてみるか……)


「……残念なお知らせだ」


「あ?」


「俺の攻撃は既に始まっている」


「!?」


 次の瞬間、カゲトの全身が同時に切り刻まれた。一つ一つの傷は小さいが、パックリと割れて血が噴き出した。思わず脚の力が抜け、膝を突いてしまう。


「な、なんだぁ? 今何をしやがった!?」


「隙ありぃぃーー!!」


 クロがハルバードを振り上げて急襲した。カゲトは側転でこれを回避。痛みに耐えつつ、体勢を立て直す。ゴキブレアを斬るまではノンストップで行くつもりだったが、やはりそう簡単には行かせてもらえそうにない。カゲトは改めてそう思い直した。

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