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第36話 Bエリア対策

「では、次鋒戦を始めます。次鋒、前へ」


 次鋒はレオン。例によって、Bエリア控え室の窓から覗くタルトに向かって親指を突き立てる。タオの快勝のいい流れを、自分が早々に止めるわけにはいかない。武器は前回同様、まずはサブマシンガンを手にする。様子見にはおあつらえの武器だ。

 Vエリア次鋒はアトラ。体躯はコクサスと同程度だが、メタリックな銀色の肌が特徴的だ。両者がリンク中央で向かい合った。


「次鋒戦、開始」


 レオンが後ろに跳びながらサブマシンガンを構えた。カイ戦同様、まずは先手を打つ。トリガーを引き絞ると、無数の弾丸がアトラを襲う。


「んっ!?」


 弾が左右に逸れていく。レオンの腕が悪いのではない。見えないバリアーに守られているかのように、当たる直前にアトラを避けて飛んでいくのだ。アトラがニヤリと笑った。


(何だ? どうなっている?)


 何度撃っても同じだ。更に様々な角度から撃っても結果は同じ。まるで当たる気がしない。


「おかしい……シールドを張っているようにも見えない。いや、あの弾の挙動はまさか……」


 一つの仮説がレオンの頭に浮かんだ。レオンは懐から手榴弾を取り出し、敢えて緩やかな弧を描くようにアトラに投げつけた。ゆっくりと飛んでいく手榴弾が、アトラに近付いた途端にスピードを増して急カーブした。爆発する前にアトラが地を蹴り、一気にレオンとの間合いを詰める。手榴弾が爆発するが、当然アトラにはその爆風は届かない。


「ちっ!」


 接近戦で勝てる相手ではない。退避するため、レオンがブーツの噴射で宙に舞った。しかし、今度はレオンの体がアトラに引き寄せられていく。


「くっ、やはり……!」


 タネは分かった。しかし分かったところでどうしようもない。アトラの握り拳が、レオンの腹に叩き込まれた。


「ぐはぁっ!!」


 レオンの口の中に鉄の味が広がる。更に追撃の拳打をもろに食らい、レオンは吹き飛ばされながらリングを転げ回った。回りながら誘導弾入りのハンドガンに持ち替え、アトラに向けてトリガーを引いた。しかし、誘導弾も他と同じように逸れていき、リングに着弾して止まった。


(磁力だ……! 奴は、任意の空間に強力な磁力を発生させる事が出来るんだ。武器も弾丸も金属ばかりだ。明らかに一・五回戦の僕の戦いを見た上で対策されている!)


 アトラが手を翳すと、またしてもレオンの体が引き寄せられていく。レオンは体のあちこちに武器を仕込んでいる。それもろともレオン本体を引き寄せる事は、アトラには造作もない。

 さっきと同じように、アトラはレオンを引き寄せながら腕を振りかぶり、レオンに渾身の一撃を叩き込んだ。今度はガードはしたが、それとは無関係に大きく吹き飛ばされる。


「まずい、このままでは……うっ!?」


 ブーツの噴射も効かず、真下に向かって急降下していく。そのまま背中から叩き付けられたその場所は……リングの外だった。


「場外。勝者、Vエリア・アトラ」


 アトラはレオンをリング外に吹き飛ばした直後に、真下の空間に磁力を発生させ、そのままレオンを場外に落としたのだ。暫し茫然とした後に、唇を噛みしめるレオン。タルトに会わせる顔がないと、己の無力さを嘆く。レオンは項垂れながら立ち上がり、チームメイト達の元へ戻った。


「すまない……」


「しょうがねえさ、天敵って奴に当たっちまったんだ。あっさり三勝して勝ち進んだ敵さんと違って、俺達は昨日の試合で大体手の内をさらけ出しちまったからな。タオちゃんはすぐに降参したおかげで、ろくに対策もされなかったみてえだが」


 そう言いながらも、カゲトはどこか余裕そうだ。


「カゲト、君もやばいんじゃないか? 言っちゃ悪いが、君の攻撃方法はその刀で斬るか突くかだけだ。相手からしたら、僕以上に対策を立てやすいと思うが……」


「……へへ、そう思うかい?」


 ジャッジが中堅戦開始を告げると、エルカに指名される前にカゲトが足を踏み出した。彼はうずうずしていた。肉斬骨断の斬れ味を、一秒でも早く試したいのだ。Vエリア中堅のヘラクレスが前に出た。カゲトの顔を見ながら、ニヤニヤと余裕の笑みを浮かべている。


「中堅戦、開始」


 ヘラクレスは、手の平サイズの丸い金属の塊を取り出した。それに魔力を込めると、膨張しながら展開し、ヘラクレスの全身を覆う鎧と化した。ちょっとやそっとでは傷一つ付ける事も叶わないという事は、それを一目見れば分かる。


「な~るほど。お前さんも、俺に対する対策はバッチリってわけだ」


「くくく、悪く思うなよ。これも作戦の内でな」


「別に構わねえさ。さっさとおっぱじめようぜ」


 ヘラクレスが真正面からカゲトに殴りかかった。カゲトはその攻撃を避けながら、逆袈裟で斬りつける。しかし、その頑丈な鎧に刃が阻まれてしまう。お互いに鎧の硬度と刀の斬れ味を確かめるかのように、様子を見ながら攻防を続けていた。


「無駄だ。この鎧はかの有名な超金属、オリハルコンにも匹敵するほどの硬度を誇る。その刀が強力なのは分かるが、それでもこれは斬れんぜ!」


「ふうむ……」


 カゲトは、バックステップしてからの、助走しながらのダッシュ突きを仕掛けた。しかしそれも同じ事だった。一ミリたりともその刃先は鎧に刺し込まれる事はない。ヘラクレスのカウンターのアッパーカットを、カゲトはすれすれの所で避け、再び距離を置いた。そして、肉斬骨断をしげしげと見ながら考えた。


「諦めろ。仮に万が一お前が俺より強かったとしても、お前は俺に勝つ事は出来ん。痛い目を見ないうちに、降参する事をお勧めする」


 ヘラクレスの冷徹な忠告を無視するかのように、カゲトは口角を吊り上げた。


「いやあ……ご機嫌なところ悪いが、次で決めさせてもらうぜ。使い始めたばかりでいまいち刀が手に馴染まなかったが、ここまでである程度コツは掴んだからな」


「減らず口を。なら、試してみ……」


 ヘラクレスが言い終わらない内に、カゲトは目の前に接近していた。しかし、瞬きした次の瞬間にはヘラクレスの背後に立っていた。ヘラクレスの胸に鋭い痛み。ヘラクレスが視線を下に落とすと、その自慢の鎧は、胸から腹にかけて斜めにパックリと裂けていた。そして思い出したかのように、その裂け目から大量の血が噴き出した。


「なっ……!? ば、馬鹿……な……!」


 ヘラクレスがうつ伏せに倒れると同時に、カゲトが刀を鞘に納めた。


「いくら予習したところで、俺はその上を行くだけだ。いい線いってたけどよ」


「勝者、Bエリア・カゲト」


 これで二勝一敗。Bエリアが先に準決勝進出に王手をかけた。Bエリア応援席は大盛り上がりだ。かつてカゲトがエルカと戦った時は野次を飛ばした事もあったが、今ではBエリアの一員となったカゲトに、彼らは溢れんばかりの声援を送る。リングを降りたカゲトが、どうだと言わんばかりの笑みをレオンに向けた。


「さ、流石だね」


「まあな。と言っても、前の刀だったらもうちっと苦戦したと思うけどな。やっぱ凄えぜ、このホーネッツの愛刀はよ」


 カゲトは満足げにその刀の柄を握った。それだけで、まるでホーネッツの魂の一部が、自分に宿ったような錯覚を覚えるのだ。エルカは、とりあえずこれで一安心という表情を浮かべる。


「さて……次はあんたね、ベルーゼ。別に棄権したって一向に構わないわよ。あんたが勝つと私の出番無くなっちゃうし。まあ、勝ちたかったら別に勝ってもいいけどね」


「むぐ……」


 ベルーゼの戦いなど全く興味なさそうにアクビをするエルカ。ベルーゼは何も答えずにそのままリングに向かっていった。

 リベンジに燃えているのはエルカだけではない。ベルーゼにも、スコーピオという怨敵がいるのだ。スコーピオを倒すまでは、こんな所で足踏みするわけにはいかない。ベルーゼは、Vエリアの副将ネプチュンと向かい合った。


「副将戦、開始」


 ベルーゼのスピードを活かした速攻。ネプチュンの腹部に飛び蹴りが炸裂する。そのまま回転し、顔に回し蹴りを放った。しかしこれをネプチュンに止められ、足首を掴まれてしまった。


「ちぃっ!」


 魔力を込めた右手でネプチュンの顔面を三発殴りつける……が、これも効いていない。ネプチュンは足首を掴んだままベルーゼを高々と持ち上げ、リングに思い切り叩きつけた。


「ぶっ!!」


 続けて二度三度と繰り返し叩きつけられる。反撃をする暇も与えてはくれない。単純な実力差……ベルーゼの攻撃ではネプチュンに傷一つ付けられず、逆にネプチュンの攻撃は一打一打がベルーゼへの重いダメージとなる。

 胡座をかいて観戦していたエルカが、溜め息をついて立ち上がり、ベルーゼに目配せした。茶番は終わりだ。勝てそうにないならさっさと降りろ。……そういう事だ。


「ギ……ギブアップ」


 せっかくリードしていた勝ち星の数が、あっさりとイーブンに戻された。今回も、決着は大将戦に持ち込まれる。ネプチュンが鼻を鳴らし、ベルーゼをエルカ達の元へ放り投げた。足元に転がり、完全にのびているベルーゼを、レオンとカゲトが見下ろした。


「……弱いね」


「あぁ。残念ながら、五戦マッチになった時点で一敗は約束されたようなもんだ。俺ら四人で何とか三勝あげねえとな」


 待ちくたびれていたエルカが、足元のベルーゼには気にも止めずに歩き出した。Hエリアの時と同様の、二勝二敗で迎える大将戦。これこそがエルカにとって、最も理想的な戦況だ。

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