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追憶  作者: 葉月☆
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第二章 日常と変化



小雪が教室に入ると、もう皆が登校し始める時刻になっていた。




「おはよう、小雪。」

席に着いた小雪の元に友人の藤沢澪みおがやって来た。



肩までの茶髪に、気の強そうな瞳が印象的な澪は、ニコニコと意味深な微笑を浮かべている。


「おはよう、澪。・・・って、何で朝からカメラを首からぶら下げてるの?」

澪の風変わりな格好に、小雪は首を傾げた。


「・・・ああ、これはね、野球部の期待のエース、江口貴が振られた原因を当事者に独占インタビューしようと思って。」


「みっ、澪!?それ、どうして・・・!?」

小雪が慌てたように澪の名を呼んだ。


「冗談よ、これは朝した取材に使ったカメラで、直すの忘れて持って来ちゃっただけ。それと、情報元は企業秘密。」

澪が意地悪そうに笑って言った。


「・・・彼かっこいいし、性格良いって評判だし、申し分ないじゃない。そりゃあ小雪が弥生みたいな趣味してるとは思わないけど、だからこそ気になるところなのよね。・・・何で断っちゃったの?」


「・・・それは・・・。」

小雪が言いよどむ。


「それは?」

興味深々といった様子で、澪は小雪に詰め寄った。


「・・・何ていうか、人と付き合うとか、そういう気持ちにまだなれなくて。それに、江口君は本気なのに私だけいい加減な気持ちで付き合うのは良くないと思ったの。」

小雪は真剣に言ったが、何故か澪はぷっと吹き出した。



「何、澪!?人がせっかく真面目に答えたのに!」

頬を少し膨らませ、剥れる小雪。


「ごめん。だってあんまり思ったこと言うから、つい。小雪は本当に分かりやすいよね。」


「・・・澪、私の事馬鹿にしてるでしょ。」


「そんなこと無いよ。ただ小雪もかわいい顔してるから、その気になればより取りみどりなのにもったいないなって思っただけ。あっ、先生が来た。席に着かないと。」


「澪!」

(澪の奴、逃げたな。)


小雪は心の中で悪態をつく。


しかし澪の言うこともあながち間違ってはいなかったりする。


小雪自身は自覚していないものの、さらさらのロングストレートの髪と色白でどこか気品の漂う純和風的な容姿にひそかに惹かれている者は少なくないのである。



・・・澪が自分の事をからかうのはいつもの事なのに、妙にむしゃくしゃするのは何故だろう。


きっと朝の男のせいだ・・・とホームルームが始まり、教卓の前で話している先生をボーっと見つめながら小雪は思う。


めったな事では怒らない(正確には起こるタイミングが分からない)自分を怒らせたあの謎の男。


そういえば私服だったし、私より年が少し上そうだったし・・・。


ひょっとして・・・不審者!?



「・・・だったら、余計許せない。」


「何が許せないのかしら、有森さん?」

考えたことがそのまま言葉に出ていたらしい。


髪の長い童顔の女性―もとい担任教師の堀越眞子まきこ―は、明らかに顔を引きつらせつつも、小雪に向かって微笑んだ。


「いえっ、その・・・すいません。」

自分のしでかしてしまったことに気づいた小雪は顔を真っ赤にさせて、か細い声で謝った。

とたんに周囲からどっと笑い声が起こる。



小雪は恥ずかしくて顔から火が出そうな思いだった。





(こっ・・・これも全部・・・あの不審者のせいなんだから〜っ!)

男を勝手に不審者呼ばわりして、小雪は心の中で叫んだ。











「あっれ〜、今日サンドイッチの弁当なの?もしかして弥生の手作り?」

弥生の弁当を覗き込んで澪が尋ねた。


「実はそうなの。今回は自信作なんだ。・・・そういう澪のお弁当だっておいしそうじゃん。エビフライとか良いなあ〜。」


「良いでしょ?まあ、私が作ったわけじゃないけど。うちの母さんは料理だけはうまいからね〜。」


「そんなこと言うとお母さん泣くよ?」


「大丈夫、大丈夫。うちの母さんそんなこと気にするようなタマじゃないし。」


「・・・。」

澪と弥生はそこまでいうとひとしきり笑い、急に無言になって、先ほどからしゃべらない少女に目を向けた。


「・・・それで、小雪ど〜したの?えらく不機嫌じゃん。何かあったわけ?」

弥生と呼ばれたふわ〜っとしたロングの髪がよく似合う、全体的にはっきりした顔の少女が、眉をひそめて小雪に尋ねた。


「・・・。」

その問いかけに小雪は答えず、ただ黙々と箸を動かす。

天気は太陽の日差しがさんさんと眩しい快晴だというのに、小雪の心は完璧に曇っていた。


「もしかしてまだ朝言ったこと気にしてるの?あんなのいつもの冗談よ。気にしないでよね。」

澪が戸惑ったように小雪に言った。


「・・・そういえば、朝からなんか小雪おかしかったよね?堀越ちょい切れてたよ。」

弥生が朝のホームルームの一件を思い出し、笑いをかみ殺しながら言った。


「別に澪の事怒ってるんじゃないもん・・・。」

二人の話を聞いた後、小雪は箸を止めてふてくされたように言う。


「・・・んじゃあ、何?」

いぶかしげに弥生が小雪を見つめる。


「実はね・・・。」

小雪は澪と弥生に朝の出来事を話して聞かせた。


「・・・へえーっ、世の中には口が悪い奴もいるもんね。」

澪は小雪の話から、率直な感想を述べる。


「感心してる場合じゃないよ、澪。見ず知らずの人にそこまで言われた私の気持ちになってよ。」

ため息をついて小雪は言った。


「でもさ、その人かっこ良かったんでしょ!?良いなあ、小雪。私も会いたかったなあ。」

弥生が羨ましそうに言う。


「あんたはまた顔ばっかり・・・。」

呆れたといった風に澪は顔をしかめる。


「何言ってんの。やっぱ顔が良いと目の保養になるじゃん。性格とかは後からついてくるもんなの。」

弥生はいけしゃあしゃあと言った。


彼女―高橋弥生―は顔が整っている割に、彼氏は今までに一人しか居なかった。

その原因は弥生の理想が高すぎるのでは・・・と二人は秘かに思っている。



とにかくメンクイなのだ、彼女は。

芸能人でもかっこいい人がデビューすればすぐにファンになるし、周囲にそういう人がいるという話を聞けば必ず紹介してもらう。


しかしそうでもない男(普通、もしくはブサイクな)には、弥生は眼中にも入れない。

何度様々な人に告白されても、弥生はイエスと言わなかった。




「顔が良くったって性格最悪だよ。・・・私二度と会いたくない、あんな人。」

ふてくされて小雪は言う。


「まあ、良いとは言えないよね。・・・だけど、その人って何者だったんだろう?」

澪が思案顔をする。


「確かに・・・私服だったんだっけ?どうやって入ったんだろ?でも・・・きっと悪い人じゃないって。」


「何で?」

弥生の発言に、澪は不思議に思って尋ねた。


「顔がいい人に悪い人は居ないからよ。」

自信満々に言ってのけた弥生に、二人は脱力する。


「弥生・・・ごめんけど、それだけはないよ。あの人がいい人なんて思えない。絶対不審者か変態よ。そうとしか思えないもん!」

小雪は声を荒げた。



「・・・よっぽど怒ってんのね、小雪。」

澪が面食らったように言う。


「珍しいじゃん。小雪がそんなに誰かのことで怒るなんて。」

サンドイッチをパクつきながら、目を丸くして弥生も言った。


「だって・・・なんかあの人嫌いなんだもん。好き勝手言われて気持ちのいい人なんて誰も居ないよ。」


「それもそうだけどね。・・・まあ、嫌なことは早く忘れるに限るよ?」

澪は小雪を励ます。


「そうそう。ほら、あたしのサンドイッチあげるから。」

そう言って弥生は小雪にサンドイッチを差し出す。


「・・・ありがとう。」

サンドイッチを受け取り、小雪は食べ始める。


食べている間に少しずつ顔のこわばりが取れていく。


「・・・そうだよね。気にするだけ損だもんね。何か元気出てきた。」

しょげてばかりでは駄目だと気を取り直して、小雪は二人を安心させるように微笑んだ。


「うん、その意気よ。」


「あんたに元気がないとこっちまで張り合いなくなっちゃうっつーの。」

とそれぞれに言った。


「ありがとう・・・二人とも。」

二人の友人の温かい言葉に感謝し、小雪は礼を言う。



「気にしないの、友達なんだから。」


「うん、うん。・・・てかそういえば今日は聡介さん来て無いじゃん。休み?」

弥生の素朴な質問に、澪はびくりと反応した。


「そうだ、聡介さんが来ないなんて珍しいよね。澪何か知ってる?」

小雪が澪に尋ねる。


「知らない、あんな奴。」

澪は少しすねた声を出した。



「喧嘩でもした訳?」

弥生も心配そうに尋ねる。


「聞いてくれる!?あいつってば・・・。」

澪は1学年上の岡崎聡介と付き合っていて、今日のように晴れた日は屋上で、雨の日は教室で食事をしている彼女達の元に毎日のように顔を出しているのだ・・・実に健気である。


しかし、彼は見た目金髪を刈り上げたショートという強烈な印象の上に耳にはピアスを付けているという、完璧に校則違反の姿をしているといういかにも軽そうなタイプで、見た目同様中

身も軽い。


見た目が気に入らないのか、それとも中身が気に入らないのか、澪は彼としょっちゅう喧嘩を繰り広げているのだ。(しかし謝りにくるのは大抵聡介)



・・・小雪にはそんな光景がいつも微笑ましくて仕方がない。


それに羨ましくも感じられる。


自分にもいつかそんな相手が現れるのだろうか・・・と、朝の澪との会話を思い出しながら小

雪はふと思った。




・・・小雪は今までに人を好きになったことが、実は一度だけある。


しかし、その人は・・・もう、いない。


告白を断ったことについて二人には言っていない理由、それは・・・人を好きになることが怖いから。







好きな人をまた不幸にしてしまうのだけは・・・もう嫌だった。














放課後になると、小雪は部活のある弥生と澪に別れを告げ、いつものように音楽室に一人向かった。

・・・ちなみに澪は新聞部、弥生は英会話部に所属している。



小雪はピアノを弾くことが好きだった。


しかし、吹奏楽部という物はこの学校には存在しない。


別にそのことを気にしている訳ではない・・・まあ、残念には思ったが。


ただ小雪はピアノを弾ければ良かった。


プロになりたいという訳でもないし、音大に進むことももちろん考えていない。


でも一つだけ望みは、ある。





どこかで「彼」が自分の演奏を聴いてくれること・・・それが少しの希望だった。






・・・誰も居ない音楽室のことを気持ち悪いという人もいるけれど、小雪は全然そんなことを感じない。


音楽の授業をするときだけに使われる教室は、小さな準備室と、グランドピアノ。


そして数個の椅子と机が置いてあるといういかにもこじんまりとしたもので、小雪は落ちつきすら感じるし、窓から夕日が差し込んだときは大変幻

想的な空間へと変化を遂げる。


この部屋は一番端に位置するため、グラウンドやその周辺に植えられている木々が良く見えて、風景も楽しむことが出来る・・・小雪の秘かなお気に入りの場所だった。



今日も無論誰も来ていないだろう・・・と思っていた小雪だったが、ピアノの音が聞こえて思わず足を止めた。


流れてくるのは「エリーゼのために」・・・。


(だれか・・・いるのかな?)

珍しいなと思いつつ、扉の上についている小窓から背伸びをして、中を盗み見る。



ピアノのところに誰かが座っているのが見える・・・男の人だ、と思う。


肩に掛かるか、掛からないか位の髪にすらっとした姿態は、どこか優美さをも感じさせている。


そして彼の奏でる音楽はとても美しく・・・とても切ない。


妙に小雪の胸を振るわせる音色だった。


そうそう居ないほどピアノの得意な人物であることは確かだ。


少しも間違える事無く、淡々とピアノを弾いている。


しかし、上手いだけなら何年かピアノを続けていたら、誰でもそうなる事が出来る。


だが、心に訴えかけるピアノを弾くことはなかなかできない。


上手くなろうが、下手だろうが、人を感動させる音色を出せるのはある種の才能が必要だ。



その才能が何なのか、小雪にはまだ分からない。


自分にはその才能は無い・・・しかし彼にはある、それだけは漠然と分かった。





不意に、音楽が止んだ。


彼の音に聞き惚れていた小雪は、急激に現実に引き戻された。


「さっきからそのドアの前に立っているのは誰?あまり覗き見されるのは好きじゃないんだ。入ってきなよ。」

教室の中から男の声がした。


おそらくピアノを弾いていた人物のものだろう。



(気づかれてた・・・!?)

恥ずかしさと申し訳なさで顔が赤くなるのを感じながら、小雪は焦った。


しかし、ばれてしまったのなら入らないほうが不自然というもの。




(だけど・・・どこかで聞いたことがある声だな・・・?)

少しの疑問が浮かんだが、それについて彼女が悩んでいる余裕は彼女には無く、急いで扉を開ける。







・・・後でこの扉を開けてしまったことを後悔するとも知らずに。








小雪が教室に入ると、男は先ほどとは違い、ピアノに背を預け、腕を組んでこちらを見ながら立っていた。


男の顔を見た瞬間・・・小雪は足がすくんでしまって、思わずその場から動けなくなった


人間はあまりのショックを受けたときには頭が上手く働かなくなるものなんだ・・・と、小雪の思考回路のうち唯一冷静だった部分が妙に納得する。


しかしそれ以外の部分は戸惑いすぎてパニックを起こしていた。



「あれ・・・君は今朝の・・・。」

男もさすがに驚いたのか、目を丸くして小雪のことを眺めている。


小雪が呆然としていた間・・・時間にして約1分。



・・・その1分がとてつもなく長いものに小雪は感じた。




そして気がつくと、小雪は頭の中に浮かんだ一言を男に思いっきりぶつけていた。



「ふっ・・・不審者〜っ!!」






「なんだぁ〜!?」

小雪の大声にただならぬものを感じたのか、ひげ面でぼさぼさ頭(ざんぎり頭)の30代半ばの男がものすごい勢いで準備室から飛び出してきた。


「田村先生、居たんですか!?よかったぁ〜。あそこに不審人物が居るんです!早く捕まえてください!!」

男―田村―の元に小雪は駆け寄ると、不審者(だと思っている)青年を指差して彼に訴えた。


小雪の話を聞いて、田村はきょとんとした表情を浮かべると、小雪の指差す方向にいる青年の顔を見つめる。

「不審者って・・・鋼希のことか?」


「へっ?・・・先生のお知り合いなんですか?」

拍子抜けしたように小雪は言い、二人の顔を交互に眺めた。


「お知り合いも何も鋼希はこの学校のOBで、教育実習生だぞ?・・・まぁ一年の教育実習生だから二年のお前が知らないのも無理ないがな。」

田村は呆れたように言った。


「そうなんですか・・・。」


「ねぇ、人の事不審者呼ばわりしといて、(そうなんですか・・・)で済ませようって訳じゃあないよね?」

鋼希の言葉に、小雪は改めて彼の顔をまじまじと見つめた。



かなり不機嫌そうだ。

眉間に皺を寄せ、瞳を鋭く細めている。


・・・完璧に怒っているようだ。




「それは・・・私が勘違いしたのは悪かったと思っています。でも、朝から私服であんなところにいるし、しかもいきなり見ず知らずの私に変なこと言うからっ・・・!」

小雪は鋼希の放つ雰囲気に負ける事無く、言い返した。


「朝どこに居ようと僕の勝手だろ。しかも僕が先に来ていたのに、後から来た君が気づかずに告白なんか受け・・・。」

彼女の棘のある発言を気にも留めず、鋼希はさらりと言い返す。


「わぁ〜っ!恥ずかしいからそれ以上言わないでください!!・・・デリカシーのかけらも無いんですね、あなたって。」

小雪は鋼希の言葉をあたふたしながら止める。


「デリカシー?いきなり人の事を不審者と間違えるどこかの誰かさんにだけは言われたくない。少なくとも僕はそんな人よりもデリカシーは備えているつもりだけど?」


「うっ・・・。」

痛いところを付かれ、小雪は押し黙る。



「大体、用も無いのにここに来るっていう君の行動もどうかと思うよ?部活もないし、ここに来る必要なんてないだろう?」

淡々と鋼希は自分の言葉を紡いだ。



「・・・用ならありました。でも・・・もう良いです。失礼しました!」

これ以上この男(鋼希)と話していると自分が辛くなるだけだ・・・そう判断した小雪は、田村にだけ礼をすると、足早に教室を去って行った。






「・・・しかし、お前に口げんかを挑む奴がいたとはな。」


二人により突如始まった喧嘩にあっけに取られていた田村は小雪が居なくなって少しの後、我に返ってそう言った。


「どういう意味ですか?・・・まあ言いたいことは分かりますが。僕のことを知らないっていう原因もあるとは思いますがね。」

皮肉気に笑って鋼希は言う。



「でも・・・鋼希もすごいと思うぜ。」


「何がですか?」


「有森・・・さっきの女生徒のことだが、あいつはよくここに来るんだ。だがいつもおとなしくて従順だし、怒っているところなんか見せたこともない奴なんだぜ。そんな奴を怒らせちまうなんて・・・お前一体なにやらかした?」

田村は疑いの眼差しを鋼希に向けた。


「僕は別に何もしてないですよ。ただ正論を二、三、彼女に言っただけです。」

鋼希は田村の視線を軽くかわして、さらりと言う。

「その二、三言でよくあいつを怒らせられるな。ある意味感心する。」

田村はそう言うと、シャツの胸ポケットからタバコとライターを取り出し、一本だけ箱から手に取ると、口にくわえて片手でライターを使い、火をつけた。

「それは褒めているんですか?それともけなしているんですか?」

「好きなように取って貰って構わないぜ。」

「じゃあ褒め言葉として受け取っておきますね。後、ここは禁煙ですよ。」

「・・・ほんと、おまえってかわいくない性格してんな。」

「よく言われます。」

ニコニコと笑いながら毒を吐く元教え子に、田村はあきれを通り越して感心してしまう。

軽く舌打ちをした後、今度は背広のズボンのポケットから携帯灰皿を取り出し、タバコを中に押し込めて、またもとの位置に戻した。


「それにしても・・・さっきの子、ほんとのところは一体何しに来たんでしょうか?」

不思議そうに鋼希が言った。

「珍しいな、お前が他人の事を気にするなんて。」

「そうですか?」

「あぁ。お前ほど(天上天下唯我独尊)の言葉が似合う奴もそうそう居ないからな。・・・有森は、放課後になると必ず音楽室に来てピアノを一曲弾いて帰るんだ。たまに俺がここに居るときに耳にすることもあるんだが、結構上手いぜ。吹奏楽部無いうちの学校に入っちまったのが運のつきって奴かもな。・・・正直もったいない。」

田村は言う。

「へぇ・・・。」

「何だ、マジ気になんのか?・・・そういやお前気の強い奴がタイプだったよな?有森は好みのタイプか?」

冷やかし半分本気半分で田村が鋼希に尋ねる。

「いいえ。」

「えっ・・・何だよ、違うのか?」

鋼希が何もごまかそうとせずにはっきりと否定の色を示したので、田村は思わず彼に聞き返した。


「嫌いですよ。特に・・・彼女は。」

笑みを浮かべたまま、鋼希はポツリと呟いた。





















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