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追憶  作者: 葉月☆
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第一話 最悪な出会い



「・・・小雪・・・?大丈夫だった・・・?」


「私は大丈夫。駿が助けてくれたから・・・。」

少女は涙を流しながら、心配そうに横たわる少年を見つめていた。


「そうか・・・良かった。」

少年は安心したように微笑むとそのまま目を閉じた。


「・・・駿?・・・ねぇ、目を開けて!?・・・駿!!」





「駿!!」

と叫んで、小雪は目を覚ました。


起きて初めて、自分が泣いていたことに気づく。



夢を見ていた。



遠い昔の夢を



小雪は頭をぶるぶると震わせて気を紛らわせた。

そして、流れた涙を手でぬぐう。



小雪が毎朝繰り返す朝の日常だ。





眠い目を擦りながら、布団から抜け出して、学校に行く準備をするために部屋を出た。






「先輩、朝から呼び出したりしてすみません・・・。」

たかは顔を赤らめてバツの悪そうな返事をした。


「ううん。良いよ、気にしてない。それで、話って・・・?」

昨日の放課後、小雪は後輩の江口貴から手紙を貰った。


(明日の朝、7時に裏庭の大木の下で待っていて欲しい。)、と。


何故ほとんど話した事も無い自分を呼び出すのだろうかと不思議に思ったものの、行かない訳にはいかず、こうして今彼と向き合っている。



すらっとしたスタイルに、丸く爛々と輝く瞳は人を惹きつける・・・いかにももてそうである。


そんな男が自分に何の用があるというのだろうか。

小雪はいぶかしんで尋ねた。



「あのっ、その・・・俺と付き合ってくれませんか?」


「・・・へっ?・・・えっ!?」

突然の貴からの告白に今度は小雪の方が真っ赤になる番だった。


「やっぱり・・・急に告白なんかされたら驚きますよね。一度も話したこと無いし。・・・俺の一方的な思い込みだったんです。・・・ほら、先輩ってよく音楽室にいるじゃないですか。音楽室って、グランドから見えるんです。そしたらいつも先輩が楽しそうにピアノを弾いているのが見えて・・・。それを見ていたら・・・いつの間にか先輩の事気になって・・・それで・・・。」

貴は照れくさそうに笑いながら小雪に言った。



小雪は内心混乱していた。


自分に好意を持ってくれている事はうれしい。


そんな風に思ってくれている存在がいるということ自体が信じられないくらいだ。


・・・しかし、自分にはそう思われる資格なんて無い。


ましてや・・・人を好きになる資格なんて。



「ごめん・・・私まだ恋とかそういうの考えられないの。・・・本当にごめんなさい。」

小雪は少しの間の後、こう言うと深く頭を下げた。


「あっ・・・謝らないでください!俺が勝手に告白しただけで、あなたのせいじゃないんですから。頭を・・・上げてください。」

貴に諭されるように言われ、小雪はゆっくりと頭を上げて貴を見た。


彼は微笑んでいた・・・何かを吹っ切ったように、ただ笑っていた。



「・・・振られた訳だけど、何かすっきりしました。ずっと心の中でもやもやしてたから。話聞いてくれてありがとうございました。・・・それじゃ!!」

貴はそう言ってぺこりと一礼すると、グラウンドの方へ走り去ってしまった。





彼の背中を見送ると、小雪は力が抜けたようにぺたりとその場に座り込んだ。

大木からは茶色や黄色の葉がはらはらと舞い、小雪に降りかかる。

・・・まるで小雪を慰めているかのように。


彼のように好きな人に告白することができたら・・・こんなに心がいつまでも揺さぶられる事は無いのだろうか。


たとえ振られたとしても、新たな恋に踏み出す事が出来たのだろうか・・・あの人を忘れて。


いや・・・きっと無理なのだろう。


あの人を忘れるなんて出来るはずが無い。


この先もずっと私はあの人を思い続ける。



思いを告げることが出来る貴が少し羨ましく思えた。




「・・・先客がいるっていうのに、うるさい。」

不意に声が聞こえ、小雪ははっとしてあたりを見回した。


「後ろだよ。・・・君の後ろ。」

小雪は立ち上がり、落ち葉まみれになっていたスカートを払うと、大木の周囲を回ってみた。



・・・まったく気づかなかった。


大木の幹が太かったせいかもしれない。


小雪のいた場所からちょうど真後ろに位置する場所で男が一人、大木に背を預けるような体制で座って本を読んでいた。


漆黒の髪を全体的に梳き、肩に掛かるかか掛からないかの程度に伸ばしている色白の細い男は小雪の気配を察知したのか、パタンと本を閉じて、小雪の方を見上げた。



小雪はどきりとした。



男は女に見間違えてしまうほど美しかったのだ。


すっと鼻筋が通り、薄く、それでいて、小さすぎない唇。

そして、少し吊り目がちの大きな瞳・・・それらすべてが彼の容姿を引き立てていた。



「僕の存在に気づいてなかった?君の鈍さもどうかと思うけど彼も彼だ。僕がいることに気づかないで君に告白して、挙句に振られるなんて。」

呆然と立っている小雪をよそに、男は皮肉気に口元を歪ませて笑う。


そう言われて、小雪の意識はようやく現実に引き戻された。


そして抱き始めたのは、この見ず知らずの男に対する不信感だった。



「そんな言い方は・・・私のことはともかく、江口君の事を悪く言わないでください・・・。

江口君が悪い訳じゃないんですから。」

小雪は男を咎める様に言った。



「ああ、気分を悪くしたなら謝る。でも・・・君の偽善的な言い方もどうかと思うけど?」


「どういう・・・意味ですか。」

男の言う意味を図りかねて、小雪は聞き返した。


「振るって事は、彼の事を少なくとも好きではないんだろ?・・・それなのに君があんな風な断り方したら、未練が残って、付きまとわれたりされて君が困らされてしまうのがオチ。断った相手に優しくするなんて偽善的な行為、やるだけ損するから辞めたほうが良い。何だっけ・・・(まだ恋は考えられない)だっけ?それだけじゃ断る理由として、弱いよ。」


「聞いてたんですか・・・?」


「そりゃああれだけ近くで話してたら聞きたくなくても聞こえる。」

淡々と男は語る。


その顔からは何を考えているのか小雪には読めない。


男はただ薄笑いを浮かべているだけだ。



小雪は無性に頭に来ていた。


何でここまで言われなくてはいけないのだろう。

自分の事だけならまだ良い。

しかし自分なんかに好意を抱いてくれた貴の事まで侮辱されることは、許せないし、貴に対し

て申し訳なかった。



「・・・私は事実を言っただけです。理由が弱いとか強いとかそんなの関係ありません。大体江口君はそんな人じゃありません!そんな風に言わないでください。・・・失礼します!」

小雪はそれだけ言うと、踵を返して、足早にその場を後にした。





後に残された男は小雪の後ろ姿をしばらく見ていたが、フッと笑うと、小雪の行った反対方向の、校舎がある方へ向かってゆっくりと歩き始めた。









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