壱
「───ここは……?」
カイナは街中に立っていた。
赤いレンガの屋根と高く白い壁の続く景観に覚えは無く、街の名前も分からなかったが、自分は旅をしている身だ。知らない街にいることは決しておかしなことじゃない。
しかしすぐに、違和感に気づいて顔をしかめる。
街なかに人の姿が一つも見受けられなかったのだ。
どれだけ歩いてみても建物のなかを覗いても人気はなく、人という存在だけがその街から切り取られ、まるで廃墟のようだった。あたりを支配する重苦しい静寂がカイナの心にのしかかる。
肌にあたるそよ風は背筋を冷たく撫で、血の気を引かせた。
カイナは走り、街中を駆けずり回って必死に人を探した。
―――誰でもいい! 誰か、誰かいないか……!
だがその思いとは裏腹に、どんなに探しても人影ひとつ見つからなかった。
この街の大通りだろうか。広い通りの途上で、カイナは足を止める。
聞こえるのは自身の荒い呼吸と頭にまで響くほどドクドクと激しく打ち付ける鼓動だけ。
無音が鼓膜を貫き、耳鳴りさえする。
「はあっ……! はあっ……!」
なぜだ。なぜ誰もいない……?
頼むから、誰か出てきてくれ!
『───師匠!』
応えるように明るく彼を呼んだその声は、紛れもなく、
「リオト!?」
弾かれたようにそちらを向き、名を呼んだ。
しかし、
「……リオト? どこだリオト!」
声は確かにしたはずなのに、振り向いた先には誰の姿も無かった。
カイナは再び、すがる思いで辺りを探し回った。
だがどんなに探しても街の住民はおろか、リオトの姿はどこにも見当たらなかったのだった。
体が、心が、冷たいなにかに侵されていく感覚がした。
いない。どこにも、誰も、いない……。
この広い世界で、私は、
一人きりになってしまった───?




