拾参
刀と細剣の鍔迫り合いのさなか、カイナは視線だけを滑らせてリオトを捉える。
「信じてますから!」
弟子のまっすぐな言葉に、カイナは一瞬だけ呆気にとられるが、すぐに表情を戻し、笑んだ。
―――いつになく、かわいいことを言ってくれる。
黒魂魄を持つ手に力が入り、アシュレイの細剣を押し返す。
「今ならまだ余計な恥かかずに済ませてやんぞ…!」
「すまないが、かわいい愛弟子にああ言われては、アレの師として負けるわけにはいかないのでな…!」
細剣を弾き、今度はカイナが斬りこんでいき、アシュレイも負けじと剣を振るう。
さっきとは打って変わって、鋭い突きの数々をさばき切る今のカイナの口元は弧を描き続けている。だがアシュレイにも焦りの色はなかった。彼との手合わせはこれが初めてではない。互いに実力もよく知っている。
得意の突きが見切られることは予想内だ。
「よっしゃあ! カイナさんが盛り返した!」
「負けるなアニキ!」
「おらおらどおした若頭ィ! もっと性根入れて気張りやがれ!」
乗組員たちに続いてゲオルグまでもがヤジを飛ばし始める。
「ったく! うっせーっつー―――のっ!!」
細剣と黒魂魄を絡み合わせ、自身の剣ごと上へ弾き飛ばす。剣をむざむざ手放したのは、まだ得物が手のうちにあるからだ。
飾り帯と服の間に挟んでいる古式銃を引き抜く。もちろん安全装置は解除しない。それを姿勢を低くして一気に懐に飛び込んで来たカイナの額に突き付けてやる。だが同時にアシュレイの首元にピンとまっすぐに伸ばした手刀が添えられる。
しばし周囲は静寂に包まれ、二人から少し離れた場所に上へと弾かれた細剣と黒魂魄が落下し甲板の床に突き刺さった。
そして何拍かの間をあけて、勝敗が引き分けだとわかった子分たちが一斉に騒ぎ始める。
「んんん~!! 引き分けかあ~!!」
「じゃあ俺の独り勝ちだな! 毎度!」
「てめえカイナさんに賭けてたじゃねえかふざけんな!」
「いやいや! 銃の方が手刀より早えだろアニキの勝ちだ!」
「なにおぅ!! カイナさんの身体能力なめんなよ」
「だったらアニキの射撃能力なめんじゃねえええ!!」
声援が止んだかと思えば、今度は賭けについて騒がしく話し出した子分たちを尻目に、ゲオルグはこれみよがしにため息をつきアシュレイを野次る。
「大将張ってんなら俺たちの前でビシッと決めてみせろってんだよ」
「うっせぇ。こいつがしぶといんだよ」
落下し突き刺さった細剣を回収し、鞘に収める。
「すまなかったな、リオト。ありがとう」
「どういたしまして。再封呪」
カイナも同じように突き刺さった黒魂魄を引き抜き、鞘に収めてリオトに返す。受け取ったリオトは詠術を使い、黒魂魄をしまった。
「オラ。お前らもいつまでも騒いでないで持ち場に戻った戻った!」
未だに賭けの結果を議論している子分たちは追い立てられ蜘蛛の子を散らすように戻っていく。腕を組み、まったくと大きくため息をつきながらそれを見届けると、アシュレイも船内へ入って行った。
「では、私たちもなにか手伝おうか」
「…………」
「……リオト?」
「え? あ、はい!」
返事が返らなかったので、顔を向けて名を呼ぶと、弟子は驚きながら顔を上げた。
「どうした?」
「いいえ。なんでもないです」
「本当に、か?」
笑顔をうかべたはずだったのだが、彼は素直にそれを信じなかったらしい。頭に大きな手が乗り、紅の双眸が弟子を案じて細められる。
心配性で、優しい師の言葉に、今度は自然に笑みがうかんだ。
「本当に、ですよ」
渋々、といった様子ではあったが、カイナはそこで追求をやめた。
「なら、いいのだが……」
乗せた手でそのまま頭を撫でてやると、リオトは嬉しそうに笑った。つられて微笑むカイナの背後で、
「……まさかそんなに気にするとはなァ……」
ゲオルグが苦笑しながら気まずそうに頭を掻いていた。




