弐拾
*
青い空の下、村へと続く道を歩きながら、リオトが口を開く。
「ねぇ師匠」
「なんだ?」
「あの日、師匠がオレにくれた《リオト》って名前…。どういう意味か、教えてください」
昔は、いつのたれ死ぬかわからないような自分に名など必要ないと思っていた。それでもとうとう手に入れた名前と、彼という仲間ができたことにばかり喜んで、その意味を聞き忘れていた。
昨夜の夜襲のなかで気絶した際に夢に見て、まだ意味を教えてもらっていなかったことを思い出したのだ。
彼も忘れていたらしく、顎に手を添えて空を仰ぎながら、そういえば話していなかったかと呟いた。
名前。あのとき彼からもらった大切な名前。その意味がカイナの口から説かれるまでの間、リオトは期待に胸を踊らせ、瞳を輝かせていた。
速度を緩め、ゆっくりと歩きながらやがてカイナが言葉を紡ぐ。
「原義は《導くもの》という意味の、昔から旅人のお守りとされている稀少な鉱石の名前を捩ったものだ」
「なんて言う名前ですか?!」
聞かずともすぐに答えを知ることが出来るだろうに、興奮しているリオトはわざわざ先を促す。
「《リヨンダイト》。澄んだ水底のようなとても綺麗な蒼色をしているんだが、」
言葉を切り、同時に足を止めてリオトに顔を向ける。
その隣でリオトも足を止め、彼の言葉を待った。
「なによりもまず、お前の瞳の色がそれに似ていた。だからその名を送ったんだ」
「リヨン、ダイト…。それを捩って、リオト…」
ゆっくり、何度も何度も心のなかで繰り返し、それを大事に握りしめるように胸の上で両手を重ねる。
「気に入ってもらえたか?」
今まで、泥だらけになりながら、這いつくばって生きていた自分の瞳を綺麗だと褒めてくれた人間なんていなかった。気に入らないわけがない。
嬉しさと興奮に頬を赤く染めて、とびきりの笑顔で、リオトは頷いた。
「はい!」
その名を送った理由。
それに嘘や偽りはない。
しかし、全てを話したわけではないことを、目の前で無邪気に笑うこの子はきっとわかっていないのだろう。
その名とリオト自身に、カイナがなにを委ねたのかを。
そしてカイナが抱いていた迷いと、今も抱き続けている恐怖を。
「行こうか。今頃ディーヴが程よくエンジンを温めてくれているはずだ」
「冷却水ごとオーバーヒートしてなきゃいいんですけどね…」
きっと宿の部屋の扉を開けるなり、相手が無機質な機械とは思えないほどの人間臭い怒声が飛んでくることだろう。
苦笑の色を浮かべて、二人は村へと続く道を下って行った。
肆.かつて end




