拾壱
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孤児院の中を探して回ったが見つからなかったので、薪割り場に出る裏口から外へ出てみると、すぐにルノアは見つかった。
少し離れた丘の斜面にぽつんと小さな背中があった。彼は膝を抱えて座り、ぼうっと景色を眺めていた。
「ルノア」
試しに名を呼んでみると意外とあっさり振り返ったが、すぐにぷいっと顔を反らした。
「おやつ、みんなに食べられるぞ。いいのか」
彼は一瞬だけ肩を揺らしたが、腰を上げたりはしなかった。
こちらに来る気配はないし、探してくると言った以上は連れて戻るべきかとも思い、仕方がないのでリオトから近寄って隣に腰かけてみる。逃げるそぶりも見せないので、そのまま言葉をかけた。
「お前、なんで店からパン盗もうとしたんだ?」
「…おまえらこそ、なんでかんけーねーくせに俺をとめたんだよ」
顔は目の前の景色に向けられたまま、ルノアはふてくされたような声できいてくる。
んー、と口にする答えを少し考えてから、一番しっくりきた言葉を並べる。
「昔の自分が同じことをしたから」
「は?」
ルノアは怪訝な顔で見てくる。その顔に笑い、リオトはポケットに手を突っ込む。
「師匠たちからお前の分のクッキーを預かってる。ほら、食え」
大きなペーパーに包まれた形も味も異なる六種類のクッキーを手渡すと、やはり食べたかったのかルノアはおずおずと受け取る。
そうして空になった両手をござをかいた足に乗せて言う。
「オレも昔は孤児だったんだよ。どうして孤児になったのか自体わからないけど…。当時は今ほど知識も金もなかったから生きるために毎日いろんなとこから食べ物を盗んだ。そんな昔の自分と同じことをしている子供がいたから、放っておけなくなった」
くわえて、その少年の身なりが孤児にしてはそれほど酷くなかったことから、食べ物を盗まなければならないほど困窮しているとは思えなかった。
少しの間、ルノアは手元のクッキーを見つめたまま黙っていた。やがて、
「…村のみんながいろんなもの分けてくれたり、先生も頑張ってくれてるけど…、ここ、あんまりお金ないから、たまに食べ物とかおやつの取り合いとかでケンカになることもあって…。だから…」
怒っている親を目の前にして、雷が落ちることに怯えながら見つかったイタズラについて弁解する子供のようにぽつぽつと呟いて、両手の中の、ペーパーに包まれたクッキーを握る。
彼の意外な真意にリオトは目を丸くし、そして笑った。ルノアの頭を右手でぐりぐりと撫でまわしてやる。
「ガキのくせにちゃんと見るとこ見てるじゃんか!」
「わっ! お、おいやめろよ!」
嫌がり抵抗するルノアを左手で押さえこんで一通り撫でくり回し、満足したリオトは手を放してやる。やっと解放されたルノアは乱れきった頭を手櫛で直す。
「その気持ちだけで、アリエスは十分だと思う。これからは盗みなんてやめて、家事を手伝ってやれ。そっちのほうが、きっとすごく喜んでくれるから」
ルノアはわかったと頷きはしなかったが、嫌だと首を振ることもしなかった。
かといって話を聞いていないわけでもなさそうだったので、リオトは言葉を繰り返したりはせずに黙っていた。
そのうち、彼がぽつりと問いかけた。
「二人はさ、なんで旅してるの? 目的とかある?」
少年の純粋な旅への興味と憧れに、ふふんと鼻を鳴らして答える。
「オレ達の目的はただ一つ、《世界の果て》をこの目で見ることだ」
言葉の意味がすぐには理解できなかったらしく、ルノアは数秒間《世界の果て》という場所について考えてみたが、やはり思いつかなかった。
「…なにそれ。どこのこと?」
「どこなのかはわからない。そもそもあるのかないのかすらわからない」
「そんな存在自体あやふやなもの探して楽しいの…?」
彼はいぶかしげに眉間にシワを寄せるが、対しリオトは笑みのままそれこそ子供のように語り続ける。
「そういう噂や謎を自分の手で解き明かすのが楽しいんだよ。信じられないぐらいすごく不思議でおもしろいことが、オレ達の知らないところで今もたくさん起き続けてる。そう考えるとワクワクしてこないか?」
再びルノアが口を閉ざす。二分ほど経っても怪訝そうな表情に大した変化はみられなかったので賛同してはもらえなかったようだ。
察したようにまあいいよと呟いたリオトは彼から顔を反らした。
「少なくとも師匠とオレは《世界の果て》が場所として存在すると信じていて、それがどんなところなのか見てみたい。だから旅をしてる」
折っていた脚をすっと立てて立ち上がり、リオトは体を孤児院の建物の方へ反転させる。
「戻ろうぜ。アリエスも心配してたぞ?」
もう一度、手元のクッキーに視線を落としたルノアはむずがゆそうな顔をした後、かすかに笑って立ち上がると、リオトのあとに続いて中に入った。




