第2話 冒険者なんて職業ありませんでした
目の前の「車」に突然人が入れる程の大きさの長方形の穴が開き、アリシアは晴矢をその中に促した。
中は地球の車となんら変わりないように見えた。
強いて違いをあげるのであれば、それはエンジン音がしないことだろうか。
アリシア曰く、この世界ではこの車での移動が基本らしく、冒険者なら一人一台支給されるようになっているそうだ。
「ということは、アリシアさんも冒険者なんですか?」
晴矢は思わず尋ねた。
「ああ、そうだ。最も私の本業は研究者だがな。ここで科学者としてやっていくためにはお金が必要なんだよ」
「そうか、それで冒険者ってのは何をするんですか?聞いた話では、この世界で冒険できるようなところなんてもうない気がするんですが」
「そういえば冒険者についてはまだ説明してなかったな。
そもそも冒険者っていうのはこの世界が発展する前から存在していた職業で、言うなれば開拓者のような仕事だったんだ。でも新たに開拓するにはその土地に住む原生生物が障害になった、それで原生生物と戦いその土地の安全を守る為の機関ーー冒険者ギルドが設立されたんだ。でもこれははるか昔の話。つい最近までは民間の警察のような扱いだったな。例えば盗賊の殲滅だったり、要人の護送だったりね。」
「つい最近ってことは今は違うんですか?」
「ああ、今から大体十年ほど前にだな、近くの山に突然見たこともない洞窟が現れたの、初めは興味本位で入った人たちもいたんだ。だかな、中に入った人たちのうちの一人が洞窟から出てきてこう言ったんだよ。『ここには魔物がいる。仲間はみんなそいつに殺された』ってな。でギルドと政府が調査した結果この洞窟は異界に繋がってるって判明したんだ。で、そのダンションがあっちこっちで出現しだしたから、冒険者の中にはダンジョンを探索して中に生息している生物を倒してお金を稼ぐ人もいるんだが、まあ詳しくはギルドに登録してから聞いてくれ。私はそこまで詳しくないからな。向こうで聞いた方が詳しく説明してくれるから」
「ダンジョンには誰でも入れるんですか?」
「いいや、冒険者の中でも戦いに適正を持った人かそういう人に同行してもらわないと入れないようになっているな。私も入りたいんだがな。私には適正がないんだよ」
「なるほど、その適正ってのはどうやって調べるんですか?」
「それはギルドでのお楽しみということで」
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数分後、晴矢はアリシアに連れられて冒険者ギルドだと言う建物に連れてこられた。
建物の中は日本の銀行のように受付が分かれていて、何人か座って待っている人たちも見られた。
中に入ると受付の女性の一人が晴矢たちに声をかけてきた。
「あら、どうしたのアリシア?依頼かしら?それとも後ろの人のこと?」
「ああ、そうだ。ちょっとこの子のことでな。マスター呼んでもらえるか?」
「分かったわ、何か事情があるのね。」
そう言うと彼女は携帯のようなもので誰かと会話したのち、晴矢に向かって話し出した。
「初めましてサクデル=マレイスです。ここの受付嬢をやってるわ。困った時にはいつでも訪ねてきてくださいね」
「ハルヤ=サワラギです。よろしくお願いします」
「ふーん、ハルヤ……変わった名前ね。ああ、気に障ったのならごめんなさい。」
「いえ、大丈夫ですよ、気にしてませんから」
などと二人が話しているうちにに階段から大男が降りてきた。
「おう、誰が俺を呼んだのかと思ったらアリシアか、何の用だ?」
「ここでは少し話し辛いことだ、お前の部屋でもいいか?」
「なるほどな、分かった、付いて来い」
晴矢たちはマスターと呼ばれる男に付いて行き、部屋に案内された部屋に入ると最後に入ったサクデルが鍵を掛けた。
それを合図にしたのか、目の前の大男は話し出した。
「さて、まずは自己紹介からだ。俺の名前はガルシア=ウエーバーだ。ここのギルドマスターをやっている。よろしくな」
「ハルヤ=サワラギです」
「ハルヤ、いきなりだが、俺はお前のその黒い目と髪の色の人なんて見たことがない、おまけにその名前ときた。君はここの人間か?」
「そのことについて話があるからここに来たんだ」
アリシアがガルシアの疑問に口を挟んだ。
「ハルヤは私が呼び出してしまった、異世界人だ」
それを聞いたガルシアは素っ頓狂な声をあげた。
「異世界人だあ?そもそも呼び出したってのはどういう事だ。順序だてて説明してくれ」
アリシアは頷き、これまでの事をガルシアに説明した。
「なるほど、それで黒目黒髪か。それでこいつをどうするんだ?アリシア」
「どうもしないさ。ただ彼が戻れるようにしてやらんといかんからな。暫くはまた実験だ」
「それでなぜここに来たんだ?」
「分かっているんだろう?彼のギルドカードを作って欲しいのだがな」
「どういう事ですか?」
晴矢は近くにいたサクデルに小声で尋ねた。
「ギルドカードは身分証が無いと発行できません。つまり身分証の代わりになるということです」
「持っていれば身分証が要らないってことか」
ここでガルシアから声がかかった。
「分かった、準備しよう。サクデル、頼んだ」
「はい、分かりました」
そう言ってサクデルは部屋の鍵を開け外に出て行った。
お読みいただきありがとうございました
ダンジョンの発生時期を四年前から十年前に変更しました