彼女たちの事情
ずっと無口なまま歩き続けて小屋に着く。誰も状況の説明はしてくれなかった。
ちょっと気まずい。それを打ち砕く勇気もスキルも持っていないので、ひたすら歩いた。疲れました。
小屋と言っても石造りで、小さな要塞といった感じだ。扉を開けて入ると階段があり上へと続く。屋上かよ。
要塞の壁面はつるつるで足がかりはない。先ほどのゴブリンは上ってこれない様になっている。3階くらいの高さかな。入り口には井戸があった。トイレもある。風呂はないけど。食糧さえあれば籠城も可能だ。食糧は自前だ。
屋上でテントの用意。テントは入り口の階段近くに置いてあった。中は安全だが寒くて狭い。6人が寝ることはできない。
ん?ひょっとしてハーレム状態?5人は無理だよ。
屋上も十分安全だという話です。
「リザ、ノア、食事を頼む。」
「わかった。」
リザさんっていうのか。メモメモ
ノアさんは、相変わらず無口。
「アリスは火をおこしてくれ。」
「は~い、わかりました~。」
「ウィンディーはわたしとテントを張るぞ。」
「手伝います。」
と、いいつつ立ち上がる。
「ああ、ありがとう。」
ケイトさん格好いいな。
「さっきは、助けてくれてありがとう。」
ウィンディーにお礼を言っておく。借りを作るのはよくないしな。いつ返せるかわからないし。なんてね。
「別にいい。」
予想通りの返答でした。
なんか、こんな状況に慣れてきたけど、いいのか、俺。異世界人だよ、なんてカミングアウトしたい。人と関わり合いを持ちたくないけど、今の状況って心地良いんだよね。何も聞いてこないし。距離感が俺にちょうど良い。
でもテントは最悪だ。ひどすぎる。6人分の広さがあるけど、無理やり大きくした感じがする。そのせいでつぎはぎだらけで、ところどころ破れている。この要塞専用なのか、蚊帳みたいにひっかけるだけだけど、前に使った人が適当なのか、ひっかけるところがなかなか見つからない。予想以上に時間がかかって、張り終えたころには夕食ができてしまっていた。
「ごはんができましたよ。」
リザさん、なんか、しゃべりが色っぽいお母さんです。
「こっちも張り終えた。みんなで食べようか。」
「は~い」
「はい」
「うん」
それぞれ返事する。
夕食は、肉。ほのかに塩が効いていておいしかったです。野菜好きとしては残念でならない。香りづけに気持ちハーブらしきものが載ってました。こんな場所で期待してもしょうがないよね。
みんな黙々と食べる。よく食うな。それに無口だ。女3人よれば姦しい。というが、全く静かだ。
「明日は、日の出と共に出発する。夕方には山頂に着けるだろう。よろしく頼む。」
ケイトさんの挨拶だ。どうやら山登りらしい。親しくないらしい俺と山登り。理由は聞けないなぁ。あんまりよくない理由があるように思うのは俺だけか。
「ダイン君のペースに合わせて登る。アリス、手伝ってやってくれ。」
「わかった~」
アリスはのんびり屋さん、と心のメモ。
「よろしくお願いします。」
「…よろしく~。」
あれ?一瞬返事に、間があったような、気がする。どういう意味?
「明日も早い。寝るぞ」
さすがリーダー、かっこういいな。
歩く順番のまま寝る。両側に女性。やっぱりハーレムじゃん。ひょっとしたらこのまま、いろいろと…
なんて思ったのは、寝る前までの話でした。寝相がね、悪くて、殴られたり、蹴られたり、ひどすぎます。特に両脇の2人、どうにかしてほしい。
眠れない夜を過ごしました。
「よし、出発しよう。」
朝から肉料理でした。塊がででんと。現代人には、ちょっとね、顎が疲れてしまいました。あんなにいらないです。
登山です。昨日はあまり感じなかったけど、だんだんと急になります。
みんな無言で歩く中、アリスと話す。
「アリス…さん。山頂になにしに行くのでしょうか?」
丁寧な感じで聞いてみる。
「…う~ん、おかしいなぁ。この前までアリス様って呼んでた。」
「すいません、アリス様。」
「違う。アリスと呼んでいいよ、と言ってたのに、アリス様、って呼んでたん
だよ~」
中身が違うんです…って、隠す必要があるのかな?正直に言っても、正気を疑われる様なことだよな。別人です。なんて言ってもいいんだろうか。
「なに、黙っているのかな。」
返事がしずらい。悩んでいる最中なので。
「アリスさんって呼んではだめですかね?」
「ん、いいよ~」
「ところで、山頂には何しに?」
再度聞いてみる。話もそらせるかも。中身が入れ替わったなんて、理解しても
らえるの面倒くさそうだし、もう少し様子見します。
「結婚式の準備なの~。みんなで結婚式あげるの。ダイン君も一緒だよ~。」
「えっ?」
予想外の回答。理解できない。
「詳しいことはウィンディーが話すの~。後で聞いて~」
「…はい」
ハーレムでしょうか?一人が好きなのに、いきなり5人と…?しかも詳細説明はしてくれない。いや、してもらった。というより、結婚するんだから、今更説明するような関係じゃないよ、ね?
でも、婚前旅行って感じじゃないんですけど。
こうして話している合間にもゴブリンが襲ってくる。でも、難なく撃退。本当
にみんな強いな。
「みんな、お強いですね。」
「でもここは魔法が使えないから、大変なの~」
魔法?使えるのか。
「わたしは、魔法が使えないとみんなの役には立てないの」
「でも、昨日はすごかったです、よね。」
「あれくらいできないと生きていけません~」
「そうですか…」
それより弱い俺って、生きる資格ないってこと?
「若いのにすごいですね。」
「ダイ君の方が2つも若いよ~。わたし18才だもん。」
「俺16才だったんですか?」
「ははっ、俺って言った~」
異世界に来たり、他人の体を乗っ取ったり、若返ったり、ファンタジーだなー。異世界だからか?
それより、アリスが18才とは思えない。このしゃべり方だし、ちっちゃい
し。
つっついたり、髪の毛ひっぱったり、転ばせたりしたら楽しそう。やばい、こ
んな気持ちは封印しないと。
時々現れるゴブリンどもを蹴散らしながら、山登りです。
それにしても軽装だなっとアリスさんに聞いてみると、
「昨日泊まったような小屋が要所にあるから~。」
と、教えてくれました。
それにしてもみんなデイバック一つとは軽装すぎます。寝床はある、食糧は肉限定だけど現地調達。富士山の弾丸登山みたいなものなのかな。願掛け登山みたいな?




