ギルド長のお仕事
「噂はいろいろ聞いている。ギルドを立ち上げたそうだな。」
俺がいるせいか、個人的な話はしない。
野菜採取にしても、ギルドのことにしても、俺がクリスタにちょっと話すと、いつの間にか実行してる。まるで言ったことは必ずやるのが決まっているみたいに。
街の外に出かける時も、護衛が必要だけど人が集まらないなんて言ってたので、引退した人に声をかけてみては?なんて言ったら、サクサク人が集まった。
定期的に外に行くようになったので、ギルドでも作ってみたら?儲けも出てるみたいだし。なんて言ったら、本当にギルドを立ち上げた。
クリスタさん、実行力ありすぎ。
それより、この世界の人、その手の考え方しないのかな?
もの想いにふけっている間にも会話は続いている。
「まあ、立ち上げたといっても、最初のまとめ役だけだけどな。運営自体は人に任せている。」
そのあたりの話はクリスタとした。
俺たちが街から出た時、ギルドがつぶれないように。
いろいろ世話になっている人が多い。その人たちからもらった恩を仇で返さないようにしようと決めていた。
慈善団体に近かったので、利益追求はしていない。
安全第一。
技術はあるが体力がない人。落ちこぼれが対象。
今じゃ頭打ち傾向ではあるが、かなりの人数が集まった。正直、何人集まったかわかっていないらしい。
名前だけ登録して1回も参加していない人もいる。
ちょっと危険な感じもするので、名簿は作るようにアドバイスしたけど、まだ把握しきれてないらしい。
急に税金とかとられたりしないよな?なんてビクビクしてる。
100人とか200人とかじゃ、きかない人数が集まっている。
そうか、折角鍛冶屋に来てるんだし、ギルドとして契約してもいいかも。
定期的に武器のメンテナンスも頼めば、格安でやってくれないかな?
後でクリスタに提案してみるか?
そういえば、怪我人も多くなってきたと嘆いたな。どうにかしたいな。
人が多くなると、いろいろ対応しなきゃいけないことが多くなる。
ただ、街の外に行きたいだけで、その準備をしてるだけなのに、逆にしがらみが多くなってきて、行きづらくなってきるのは気のせいだろうか?
その分、クリスタが全部やっちゃうので、俺はつらくないが、世話になっている分、切って捨てるわけにもいかず、落としどころはどこにあるのだろ。
「メンテナンスなしで済む武器なぞないなしな。」
考え事をしてる間に話題は変わっていた。
「刃物なら、刃がつぶれて直ぐにだめになる。ハンマーの類でもヒビが入って折れる。毎日使うようなら1年も持つまいて。」
「そうか…、そうだな。」
この世界の魔物とエンカウント率なら、毎日20体が365日。一太刀で殺ったとしても、7千体。
もちろん1年で終わる予定はないから、それが10年続くとして、…無理だね。
でもあきらめきれない。
何かほかの方法はないか?
携帯できて、きちんとメンテナンスできる方法?
武器以外で魔物に対応できる方法。
本気でファイヤボールを打てるようになりたいな。メンテナンスフリーの武器が欲しいな。
武器の件は、保留だな。
魔法にしてもそうだけど、やけに現実的なファンタジー世界だな。絶対に壊れないとんでも特製の武器があってもいいのに。
あー、違う。
なんでかわからないけど、この街に帰ってこないこと前提で考えていた。
夜逃げ前提で考えていたからかな。
この世界、この街以外に街がない、それもあった。二度と人に会わずにおわる。
なんで、そんなことを考えていたのか。
考えを改める。
この街を拠点に活動する。最初は1泊。次は2泊、と少しずつ距離を伸ばしていく。方角もいろいろあるし。
そうすれば武器の問題も、寝不足も、街に帰ってきたときに解決する。生活拠点って大事だね。
それには、いくつか解決しないといけない問題がある。
帰ってこれる状況にしとく必要がある。夜逃げはしない。
・今の娼館勤めをやめ、街に拠点を移す。自由に行動するために。
・街の防衛体制をどうにかする。帰ってくる場所を確保だ。
…この2つくらいかな?
他にありそうだが、思いつかない。俺のことだから、あとで思いついたときに考えよう。どうしてもだめなときはクリスタにお任せだ。この世界の住人だし、実行力あるし。
防衛体制の方は、クリスタのギルドにお任せだ。
ただし、いろいろパワーアップしなくちゃいけない。
そういえば、怪我が多いって言ってたな。
でも、まずは武器か。折角鍛冶屋にいるんだし。
防具はレザーアーマーしか見たことない。
金属は武器に使われる。
そういえば鉱石はどこからとってくるのか?鉱山が近くにあるとか聞かない。そのあたりはファンタジー仕様なのか?
「あの、その、クリスタのギルド員の武器とか防具のメンテナンスとか頼めないでしょうか?」
2人の話の腰を折って、話しかける。
「あのギルドのギルドはダイ様のモノです。ギルド長はダイ様です。」
「えっ?俺の?」
突然のことで、素で応えちゃった。
「わたしは、奴隷ですし。奴隷がギルドを持つのは、おかしいですよ。」
ははは、そうなんだ。
「まあ、実質の運営はクリスタがやってるんだけど。ジルさんと仲がよさそうなので、一緒にいろいろやってくれたら助かるかな、と思ったんだけど。」
えっ?ギルド長って俺なの?なんて考えながら話してたら、話し方が素にもどったまま戻らない。
「そうですね。では、詳細は詰めておきます。」
詳細って…、ジルさんの返事聞いてないよね?
その前に、なんか、クリスタの意見とかないのかな。
まあ、細かいことを聞かれてもアドバイスもできないけどね。ギルドも鍛冶屋もやったことないし。ゲームでも運営モノはやらなかった。
既に、クリスタの中では、うちのギルドと提携を結ぶことが決まっている。うちのギルドはワンマン社長です。そんな感じか?
もう既に俺そっちのけで話が進んでいるし。なんかさみしい。
月にどのくらいの武器を鍛えなおすのか。
日々のメンテナンスも行うのか。
見返りは金がいいのか、食糧とか金属を溶かす燃料となる木材がいいのか。
魔物がいいのか。
金属がいいのか。
そんなやり取りをにこにこしながら聞いていた。
ん?金属?
うちのギルドは野菜採取がメインだ。魔物狩りはそのついでにやる程度だ。それなのに、金属素材。そのうえ鉱石でもなく、金属って、無理でしょ。
「金属は無理じゃないかな?」
敢えて口にして聞いてみる。
「確かに、普通ならなかなか捕れるもんじゃないしな。その分、魔物も強くなる。運に頼ることにもなるしな。」
運?掘りつくした鉱山なのか?俺たちのギルドにはちょうどいいかも。どっちも現役引退てるし。
「ですが、最近の魔物は武器を持っているものも多く、なんとかなると思います。量は約束できませんが。」
魔物が持っている武器を溶かして素材にしてるのか。そりゃ、鉱山いらないな。うちのギルドでもなんとかなるな。
聞くと一般的なことだった。鉱山は?なんて聞いたら、これだから男は…とあきれられた。ちゃんと現実を見ろと意見された。
武器を持っている魔物が多い。
その分、武器に回せる鉄が多くなる。こりゃ、ギルド員の攻撃力向上を期待できるな。
でも、その分、重傷者の割合が増える。武器がない相手なら、かすり傷で済んでいたのが、当たり所が悪いと手足の欠損に繋がり、最悪命を落とす。
武器の取り扱いに慣れていない者は、武器を持つことで余計に命を落としやすくなる。
その点クリスタは武器の取り扱いは大丈夫。
魔物担当の若手に武器の扱いを教えてもらわないとな。年長者でもうちのギルドに手伝いにくるレベルの者は、棍棒とかが多かったしな。
接近戦だけがすべてじゃない。弓矢とか、投石器とか、罠とか、魔物を狩る方法はいろいろあるだろう。もっと安全に狩れる方法を考えよう。
うちのギルドは、年寄と子供ばかりだ。そんなギルドでも怪我をせず、確実に、ある程度の魔物が狩れるようになれば、本職の人たちならもっとできるはずだ。そうすれば街の防御力もあがる。そうすれば、俺たちが旅に出てる間に街が滅んでいたなんてこともなくなるはず。
魔物が武器を持つ割合が増えてきたとか、心配だけど。
鉱山がない。金属はゴブリンのおさがりなんて、貧乏くさいけど。
狩って、狩って、素材を集めて武器を作る。なんてどっかのゲームみたいだ。
でも、全部、クリスタ経由で街のみんなにやってもらっていることだ。
俺はそんな街のみんなにお返しができるんだろうか?
クリスタと一緒にいても良いんだろうか?
元居た世界では、自分の価値はゼロだった。自己評価だけど。回りから言われたことがないけど。
なんてことを思うけど、こっちに来ても自分では行動できない。まわりに流されるだけだ。
まあ、いいか。
娼館に戻って、今日も客相手だ。
でも、これって、ギルド長のやる仕事じゃないよな。それは、どうなんだろ?
コンセプトなしで始めたので、自分でも先の読めない展開です。
さっさと街を出る予定だったのに…
おかげでアップが遅くなりました。




