準備しましょう
クリスタとここから逃げ出す準備を整える。
もちろん娼館の女主には言っていない。ある日突然、娼館からも、この街からも出ていく予定だ。
準備するものは、武器、防具、それに持っていく荷物。それ以上に知識が足りないことが分かった。食べ物は肉ばかりというわけにはいかない。俺が嫌だ。なので野菜の知識は必須だ。どこにどんなものが生えているか。食べられるものは何か?毒キノコを食べて食あたりしては、そのまま最期だ。
ある程度の薬草の知識も身に着けたい。できればファンタジーな薬草とか。
武器のメンテナンスもできるようにしたい。ナイフと砥石。剣類はメンテナンスができそうもないので、棍棒で殴る。とか槍で突く?そして、その使い方。
ずーっと、人気のない森を彷徨うつもりもなく、過去、人の住んでいた場所を訪ね歩くつもりなので、その知識。これは、どうやって手に入れるかわからない。野菜売りのばあさんに聞いてもわからなかった。
「ずっと東の方に王都があったと、ばあさんに聞いたなぁ。」
ばあさんのばあさんって…いつの話?
「王都?この街の女王様がいるのに?」
音信不通になって、何百年も経つので、この街の貴族が女王を名乗っているだけらしい。正式なものではない、とのことだ。まあ、民間のばあさんの家に伝わっている話だし、話半分ということで。
野菜の話や薬草の知識もあるのでちょくちょく話を聞きに来るので、すっかり茶飲み友達になってしまった。たまにお昼もごちそうになる。野菜がうまい。
毎日の様に八百屋に通う。
異世界で。
日常的過ぎる。
異世界なのに。
今日は八百屋が目的じゃないけどな。
歩きながら、クリスタに問いかける。
「いいのか?この街を出て。2人だと、なんか死ぬ確率がものすごく高そうなんだけど。」
「死ぬつもりはないが。その為に、休みのたびに野菜採取に街の外にでているんだろ。この前は2人きりで出たし。実績は積んでいる。」
「まあ、そうなんだけど。」
準備はしてるけど、不慮の事故もあるし。なんというか、意気込み?覚悟みたいなことを聞きたい、のだろうか?自分でも何を聞きたいのかわからないで問いかけてしまったな。
そう、準備はしてる。
睡眠はどうするか?夜に寝れないなら、昼寝る。場所は木の上が良いか。交代で寝ずの番がいいか話し合った。俺は身体改造でどうにかならないかお試し中。
例えば、イルカは右の脳と左の脳を交互に眠ることができるらしい。それを真似できないか?
昼間、歩きながら俺が寝る。隣を歩いている奴が半分寝ながら歩いていたら、どうなんだろ?
それに、彼女の体の治療も少しずつ成果が出始めている。
皮膚がケロイドとなって、突っ張っていた皮膚が正常になって、格段に動きが良くなってきた。
足はもともとズボンしか履かないのでそとから見えず、治療しても目立たないので集中的に直した。膝も関節までダメージを受けていなかったので、皮膚の治療だけで元にもどりそうだった。
それにしてもこの前までぎこちなく歩いていたのに、最近じゃスタスタと普通に歩いている。回りの人たちは、何も思うところがないのだろうか?
こうやって治るのが普通なのだろうか?この火傷が原因で奴隷にまでなったのになあ。
それとも奴隷になった原因がなんなのか聞いたことがないな。
…いろいろ疑問があるけど、聞かなくてもいいか。話したければ話すでしょ。
休みの度に街の外に出かけている。
目的は野菜採取。
目的は、野菜の目利きの上達。魔物の対処方法の確認と実践。
慣れてくれば、泊りがけで出かけよう、ともクリスタと話してる。
野菜は高く売れるので、結構なお金になる。
いろんな人たちとつながりもできた。
なんかギルド的な感じになっていて、特にクリスタはギルド長的な感じになっている。奴隷なのに。ははは。
ただ、ギルド員はばあさん、子供、怪我が原因で現役引退した感じの女性、で構成されている。主力戦闘員は外からの日雇いだ。俺のイメージするギルドとは真逆です。どちらかと言えば、互助会?
でも、恐ろしいことに利益は上々に上がっている、らしい。真似事をする貴族も現れ始めた、と、クリスタが言ってた。
目的はギルド運営じゃないので、真似されても、どうでもよい。
やり方を教えてほしい、なんて言ってこなければ、勝手にして。
俺に声はかからないが、クリスタはいろいろ忙しい。
先日もクリスタが不在の時に出かけて怒られた。
本日の目的は、鍛冶屋。
お土産に野菜を持っていく。変かな?
目的は、武器の調達とメンテナンスのやり方を教えてもらうこと。
なんでもクリスタの知り合いらしい。
それに、持っていく武器のアドバイスも受けたい。
鍛冶屋に着いた。表は普通に武器屋さんだ。
クリスタの知り合いは、武器が専門らしい。隣は防具屋さんだ。この一角は鍛冶屋の区画だ。その方が都合が良いからな。
他の区画と違い、一際でかい一画。2区画分くらいあるかも。それに高い煙突がある。街の外れに近く、隣の区画との間も広い。聞けば、金属音が鳴り響いているし、臭い。隣の区画の建物は、こちら側に窓はない。
「ジルはいるか?」
クリスタが声を上げ、店に入る。
「クリスタか?」
大きい。横に…
背は小さいが、迫力がある。一瞬、これが噂のドワーフか。と思ってしまった。
「エミリー、久しいな。」
耳を疑う。名前から彼女を想像できない。
「怪我をして奴隷になったと聞いたぞ。なんで私達を頼ってくれなかったんだ。水臭いな。」
「…まあ、理由はおいおい話すよ。」
前置きをして、話し込む。
店先なのにな、と思いながらもだまって立って聞いている。
私のご主人様だと紹介され、じろじろと見られた。
緊張してるのがこちらにも伝わってくるくらい、カチコチなかんじ。
顔が赤いぞ。
さっきの豪快な感じはどこへ?
すっかりエミリーちゃん、って感じになっている。
「とりあえず、奥へあがれよ。」
「おじゃまします」
奥に入ると、もう一人エミリーちゃんがいた。
双子か?
ジルさんでした。
ジルは、この一家の家長で、鍛冶グループのまとめ役もやっている。
狩りを主体とするクリスタの家族とも仲が良く、幼馴染だ。
ジルとエミリーは血のつながりはなく、ドワーフじゃなく、れっきとした人間らしい。言ったら笑われた。




