動き出す運命
初投稿です!
どんな意見もお待ちしています!
カードゲームをやったことがある人はもちろん、そうでない人も楽しめる作品です!
Destiny Rulers
~運命の支配者たち~ くすっち天頂
プロローグ
死んだ方がまし、という言葉がある。絶対にそれをしたくない、という最上級の否定語だ。昨今では、随分軽々しく使われるようになった。
だが、断言しよう。死んだ方がまし、なんていう状況は無い。人は誰しも生き汚いものだ。今俺は、それを実感している。
ギャァァァッ!と、聞くだけで手足が震えるような、そんな雄叫び。こげ茶色の体。鋭く尖ったはさみ。ぎょろりと、不気味さを漂わせる人外の瞳。
全長二メートルを超える巨大な蟹の化け物が、俺を間近で睨めつけている。
「ひ……」
冗談ではない。この恐怖が、この、死への恐怖より恐ろしい物があるものか。彼女と浮気相手が居合わせた修羅場とか、受験に失敗した時とか、会社をリストラされた時、確かに、絶望に打ちひしがれるのだろう。
だが、ここまでではないはずだ。未知の生物が、自分を殺そうとする恐怖。これ以上の物などあるものか。
再び、蟹の化け物が叫び声をあげ、そのはさみを振り下ろしてくる。
彼我の距離、八十センチ、七十センチ、五十、三十、十、九、八、七、六、五、四、三、二、一……。ギュっ、と強く瞼を閉じる。
聞こえてきたのは、金属同士がぶつかったような、激しい衝突音。真っ二つに切断されるはずの俺の体だったが、そんな痛みは感じない。すると突如、俺の体が発光しはじめる。
あまりの眩しさに、再び目を閉じた。ゆっくりと瞼を開いた俺が見た物は、あらゆる部分を、金属のような装甲で覆われ、金色に光輝く自分自身の姿だった。
「なんだ、これ……」
疑うようにして、再び自分の姿を見回す。何度見ても、人間が持つべき肌色は存在しない。顔を触るが、その感触もやはり無機質なものだった。
いつの間にか左手に握りしめられていたのは、金と銀で装飾された美しい剣。それを試しに蟹に向けて振り下ろすと、いとも簡単に、その体は二つに分かれ、大規模な爆発を起こした。
「んだよ、何なんだよ、これ……」
これは、運命に翻弄され、それに抗う少年少女の物語……。
第一章
「キーーンコーーンカーーンコーーーン」
一日の最後の終業のベルが鳴る。多くの生徒にとってそうであるように、ここからが俺の一日の始まりだ。
「ねー、今日どこ行くー?…あのモンスター狩りに行こうぜー。…あのバンドのライブが…」
教室が急に騒がしくなる。授業中とは大違いだ。俺もだが。部活に行く者、友としゃべる者、読書を始める者。ゲームをする者。おい、学校にゲーム持ってくるな。そして俺は……。
「航平、今日も行くんでしょ?」
大きくぱちくりとした、生気に満ちた瞳。光を受けて美しく輝く白い肌。太陽のように眩しい笑顔。鞄を手に取った俺に話しかけてきたのは、超絶かわいい美少女。そして俺の嫁。嘘だ。生まれてこのかた女子としゃべった時間を足しても、一時間には満たない自信がある。そこらのアイドルよりもはるかにかわいいこの美少女の名は、哀浦マオ。残念ながら男だ。そしてマオは、俺の幼馴染でもある。
小さいころからこんな美少女と過ごしてきたせいか、女子を好きになったことは一度もない。だってマオのほうが可愛いし、俺に優しくしてくれるし。それに料理が上手で、よく俺に弁当を作ってきてくれる。感想を聞く時のあの上目遣いと言ったら……。
「ねぇ、航平ってば。聞いてるの?」
おっと、ずいぶん話が脱線してしまったな。それはそうと、ほっぺたを膨らまして怒る姿も可愛いな。マオの可愛いところ、また一つ発見!
「ああ、もちろん」
そう言ってマオと俺は、学校を出た。俺達が向かっているのは、「ドリームショップ」というカードショップだ。なんとも適当な名前である。カードゲームというと、小学生などの児童向け玩具と思われがちだが、そんなことはない。何千何万ものカードの中から自分の好きなカードを選び、戦略を立てて戦うそれは、将棋やチェスのような、「頭脳の格闘技」といっても決して過言ではない。
さらに二年前に、カードゲーム会社「トリニティ」が開発した、異世界型トレーディングカードゲーム(Oneher World Trading Cardgame)「Destiny Rulers」は、戦闘シーンが実際に見える、自分の体を使って対戦ができるといったスポーツ的要素が加わり、世界中で若者を中心に爆発的に広まった。さらに、こんなすごい機能がついて、専用機器も軽量で持ち運びに便利ときたもんだ。今までのカードゲームの常識を完全に打ち破ったそれは、全世界に15億以上のユーザーを持つ。四人に一人はプレイしている計算である。日本でも、三千万人のユーザーがいると推定されている。
今までのカードゲームが、ユーザー数百万を超えれば大ヒットと言われていたことを考えれば、そのすごさは一目瞭然だろう。そしてこのゲームのもう一つおもしろいところは、世界に数枚しか存在しないといわれる超レアカードが存在することだ。そしてそれらのカードは、何千万という単位で取引されることもしばしばだ。そして、世界に一枚しか存在しないカードは、「ユニークカード」と呼ばれている。なんともマニア心をくすぐる存在ではないか。
「おお、東城君。待ってたぞ。今日もよろしくね」
スキンヘッドの、気のよさそうな大柄な男性が俺に声をかける。店長の森源五郎氏だ。
「よろしくお願いします」
軽く挨拶をして、俺は仕事を始める。ほとんどレジうちだけの単純作業だ。ぼんやりと作業をしていると、ドアの開く音がした。
「いらっしゃいませー。……え?」
その客の姿を見た瞬間、俺は言葉を失った。光を浴びて美しく輝く髪。青みがかった瞳は、見ていると吸い込まれそうだ。女性らしく育ったからだはとても扇情的で。嫉妬することさえ許されないような、暴力的な美しさ。俺だけではない。そこにいたもの全員が、何も言えなかった。
「ねぇ」
そんなことはお構いなしに、少女が口を開く。
「はっ、はいっ、なんでしょうか?」
声が裏返ってしまったものの、俺は必死で接客をする。
「商品、これだけしかないの?ユニークカードはおいてないの?」
は?ユニークカードなんておいてる店なんかほとんどない。世界に一枚しかないのだから。しかし少女は、それがさも当然であるかのように言う。
「はぁ、やっぱりだめね、低レベルな店は」
なんとも使い古されたお嬢様のセリフだ。首を振るその小馬鹿にした態度も様になっているのが余計に癪に障る。
「それはそれは、申し訳ありませんでした人魚姫さま。バッドエンドがお待ちですから自宅に帰ってはいかがですか?」
「……言ってくれるわね。でも私は、恋愛にうつつを抜かすようなまねはしないわ。醜いカエルの王子様?」
「悪い魔法使いに呪いをかけられていまして。あなたのキスで戻していただけませんか?」
「死んでもお断りよ」
にこりと笑うその笑顔もやはり様になっていて腹が立つ。
「代わりといっては何だけど、これならOKよ」
ポケットから「Destiny Rulers」通称「デスルラ」のデッキを取り出す。カードゲーマーにとっては、勝利こそが相手を服従させる唯一無二の手段だ。そういうところはスポーツに似ているかもしれない。スポーツなんてしたことないけど。
「おもしろい。受けて立とう。……名前を聞いておこうか」
「名を名乗る時はまず自分から。まぁ、いいでしょう。私は天の道を行き、全てをつかさどる者。天道つかさよ」
自分の名前に意味を見出しているだと!?つーかそれカブトやん。カブトムシで言うならブレイドの方が好きなんだがな。
「東城航平……。俺は運命と戦う!そして、勝ってみせる!」
「……なかなか、面白い男ね」
仮面ライダーネタが通じたのが嬉しいのか、とても嬉しそうな笑顔を浮かべる。悔しい、惚れそうだ。
「せっかく戦うんだから、何か賭けごとでもしましょうか」
「俺は構わないぜ?」
「こ、航平……」
マオが俺の袖を引っ張る。
「どうした?」
「この人、天道グループの社長の娘さんだよ」
「天道グループ……?」
「世界に展開してる貿易会社だよ。すっごく影響力があるんだ」
「そっか。でもま、勝負しない理由にはならないでしょ。それに、今まで知らなかったってことは、知らなくても大した問題無い程度の会社ってことだろ」
「言ってくれるわね……。私が勝ったら土下座して謝ってもらうわよ」
ええ……。まじかよ。めっちゃハイリスクやん。
「じゃあ、俺が勝ったら……」
美少女と罰ゲームつきの勝負と言うと、どうしたってそういう変な妄想をしてしまうのが、男の悲しい性だ。
「航平、変なことしたらダメだよ?」
マオが俺を上目遣いで見つめる。
お前は俺の彼女かよ!いや、彼女だったかもしれない。下手したら婚約者かも!
「いいわ、あなたが勝ったら何でも言うこと聞いてあげる。ブサイクが美少女に勝てるのはゲームのなかだけなのよ」
こいつ、ナチュラルに俺をブサイク扱いしやがった。いや、否定はしないけどさ。
でもやはり、腹が立つことに代わりはない。全力でいかせてもらう。
「「アナザーワールド、リンクスタート!」」
かざしたデッキがまばゆい光を放ち、俺達の意識は戦場へととんだ。
「……、ふぅ」
目を開くとそこには広大な大地が広がっていた。空には太陽がサンサンと輝く。太陽だけに。が、景色をゆっくり眺める間もなく、すぐに俺のまわりを巨大な建物が覆う。
その建物は、中世ヨーロッパを代表するような城そのものだった。この城を破壊し、中にいる相手プレイヤーの体力をゼロにしたものが、このゲームの勝者となる。
「ピピッッ!」
甲高い電子音が、俺のターンの始まりを告げる。
「ドロー!」デッキの上からカードを一枚引く。
ポワン、と優しい音をたてて、「ライフ」と呼ばれるエネルギーが発生する。これは、 モンスターを召喚したりするのに使う。ライフ一ではたいしてやることもないので、早々にターン終了を告げる。そしてまたすぐに、俺のターンが訪れる。まだ俺にはできることがないので、ターンを終了する。戦いの序盤はこんなもんだ。基本的にモンスターをあまり出さず、エネルギーをためることに専念し、来たるべき戦闘に備えるのだ。
「ん?」
ターンを終了した直後、まばゆい光が俺を襲い、思わず目をつぶってしまう。再び瞼を開けると、すぐにその原因が分かった。単身でこちらに向かってくる屈強な戦士。その体は、美しく光り輝いていた。まるで、宝石の如く。
「ジュエルシリーズ……ね」
ジュエルシリーズというのは、その名の通り宝石を身にまとったモンスターのくくりで、そのすべてが超のつくレアカード。そしてその特徴は、堅い体を生かした物理攻撃もさることながら、それを上回る防御力だ。相当厄介なモンスター達だ。
しかし、なぜだ?俺の胸に疑問がよぎる。ジュエルシリーズは総じてコストが高く、呼び出すには大量のライフが必要になるはずだ。そのモンスターが一体なぜこんな早くに?
そう考えているうちにも、敵モンスターは想像以上の速さで進んでくる。
「来い!光輪の盾アイギス・バックラー!」
敵の攻撃を食い止めるため、俺もモンスターを呼び出す。アイギスは、強固な鎧に身を包み、両手に盾を持つ防御力重視のモンスターだ。攻撃力は皆無だが、そのコストからは考えられない耐久力を持つ。コスパがいいのだ。上戸彩も驚くレベル。しかもこいつは、召喚時に手札を一枚捨てれば、ライフを増やしてくれるという便利な効果を持っている。
「頼む。何とかあいつを止めてくれ」
「御意」
二つ返事で戦場へと向かう。「返事は一回」と教育された俺にはできない芸当だ。さっそうと城の上から飛び降り、敵の方へと向かう。
「ハァァァァッッ!」
敵の戦士の必殺の一撃が放たれる。剣と楯が、激しい音を立てる。しばし鍔ぜり合っていたが、ふいに戦士が剣を引き、アイギスの体勢が崩れる。そしてすぐさま、引いた剣を突き出す。
が、アイギスがそれをすんでのところで楯で止める。両者ともに頭が鎧と兜で隠れていて見えないが、どちらも歯を食いしばって険しい顔をしていることだろう。
「カァン!カァン!カァン!」
五合、十合、十五合……、彼らの激しい戦いは続いている。相手に攻撃ができないので体力を減らすことはできていないようだが、致命的なダメージも受けていないので、まだかなりの時間を防げるはずだ。
「ん?」
気のせいだろうか?今地面が揺れたような気が……再び、地鳴り。さっきよりも大きい。
「そこを離れろアイギス!今すぐだ!」
しかし、俺の声は彼には届かなかった。次の瞬間……地面が割れた。
「ウアァァァァァァ!!」
アイギスと敵の戦士は、地面に飲み込まれていった。
彼らの周囲を中心とした地割れが起きたのだ。この仮想世界では、現実世界と同じように、災害が起きたりさまざまなアクシデントが起きたりする。
それを敵にするか味方につけるかで、勝負の行方は大きく変わってくる。今回は、どちらのモンスターも共倒れとなったので、とんとんといったところだ。いや、今ので少し城が壊れたからこちらにマイナス収支になるな。いや、向こうにも被害は出たか?確認しようがないので、考えてもせんないことだ。
「光の尖兵パズガノン!!」
光り輝く槍を持った兵士が呼び出す。こちらも反撃だ。
「ご命令を。我が主よ」
「敵陣に先陣切って突入してくれ。城壁の破壊を最優先に。次のターンに援軍を送る」
「了解しました」
そう言って彼は駆けだした。やられっぱなしは好きじゃない。一体じゃ返り討ちにあうだろうが、次々にモンスターを送り込んで波状攻撃を仕掛ければペースをつかめる。
そう考えると、さっき敵に先制攻撃をされたのが痛い。あのせいで、戦いの流れ的に俺が後手に回ってしまった。好ましくない事態だ。だからその流れを、ここで変える。
ふと、遠くからドカドカという聞き苦しい音が聞こえる。目を凝らして見ると、二体のジュエルモンスターがこちらに向かってきていた。またジュエルシリーズ?しかも二体って、どんなからくりだよ。
俺は改めて、敵の強さを実感していた。パズガノンと敵との彼我の距離が縮まっていく。二対一じゃ勝てないだろう。それに多分、個々の能力も敵の方が高い。
今まさに激突せんとした時、ジュエルモンスターの一体の体が激しく光った。パズガノンは眼を閉じてしまったのだろう。動きが一瞬止まった。
次の瞬間、パズガノンの槍は地面に落ち、彼の胸を剣が深々と抉っていた。彼の体は、青白い光となって消滅した。敵の、兜に隠れた口が、ニタリと笑ったように見えたのは、錯覚ではないだろう。パズガノンを破った二体のモンスターが、こちらに向かってくる。まずい、今呼び出せるモンスターはいない。
「オオオオォォッ!!」
「くそ!うざいんだよ!……聖なる光よ、闇の僕を拘束せよ!ライトバインド!」
そう叫び俺は、右手をかざした。俺の手から放たれた光の輪が、敵モンスターの体をがんじがらめにするとモンスターが苦しそうな呻き声をあげる。
プレイヤーは、事前に五つの魔法を設定することができる。設定した魔法は、そのカードが手札になくても使える。しかし、ライフは通常通り払わねばならず、ひとつの魔法は原則的に、一試合に一度しか使えないので、決して万能というわけではない。
このライトバインドは、敵の自由を完全に奪う強力な技だが、効力は一ターン限りで、このターン使えるライフはすべて使ってしまったので、あのモンスターたちを倒すことができない。要するにいまの俺の行動は、ただの時間稼ぎで、なんの解決にもなっていないということだ。まあなにもしなければやられるだけなんだが。切羽詰まった状況ではあるが、エネルギーである「ライフ」がないので、何もすることがない。
「どうしたもんかね……」
とりあえずターン終了を告げる。一ターンが経過したことで、モンスターたちの束縛がとかれる。城の前にたどり着いた二体のモンスターは、即座に攻撃を開始した。城が見る見るうちに破壊されていく。
ただ、逆転のチャンスがないわけではない。城の二割が破壊されるたびに、ライフが一チャージされ、手札も一枚増える。
やられればやられるだけ、強力なモンスターを呼び出すチャンスが増えるのだ。敵モンスターの攻撃は続き、俺のライフが八になった。これでいける!
「マニフェステイションッ(顕現化)!!希望精霊 The エスペランザ ギャラクシー!!」
プレイヤーは、デッキの中で設定した一枚のカードに憑依して戦う。このカードは、「キングカード」と呼ばれる。
ゲーム開始直後から、ある程度はその力を使えるが、完全に引き出すには、そのキングカードのコストを払う必要がある。この行為が、顕現化と呼ばれるものだ。本来の力を取り戻し、プレイヤーの技能もあいまったこの状態は、殆どの場合、デッキにおける最強の存在となる。俺が使っているギャラクシーは、神の加護を得た圧倒的な防御力、多種多様な特殊攻撃を持った万能モンスター。。そしてその神々しい輝きは、存在するだけで味方をいやし、敵を威圧する。
プレイヤーが死ねば敗北となるので、普通はぎりぎりまで城の外に出ることはない。だが、このまま指をくわえて見ていても、城が破壊されてしまうのは自明の理なので、そのくらいなら、敵を撃退してしまった方が、よほど効果的だろう。
(行きましょう、マイマスター。)
俺の心に直接ギャラクシーの声が響く。今、彼と俺は一つになり、思考もリンクしている。まさに、「一心同体」というやつだ。
ともすれば、それはとても官能的なことなのかもしれない。
今度美少女型のモンスターをキングカードにしてみるか……。
(マスター、節操がないですよ。)
人の心を読むんじゃねぇよ。ったく。翼を広げ、上空へ飛び立つ。いいね、この爽快感。推進力を得てモンスターに攻撃を加えようとした、その瞬間。
「ググアアァァァァ!!」
地を割くような咆哮を聞き、一瞬怯んでしまった。彼方から、巨大な龍が飛翔してくる。
援軍か!?急いで着地し、臨戦態勢をとる。
でかいな……七mはある。そしてついに龍が降り立ち、敵モンスター二体を丸呑みにした。そして、獰猛な笑みを浮かべる。
「……は?」
味方を、食った?
(マスター、こいつは召喚されたモンスターではありません。エネミーです。)
この世界では、さっき起きた地震のように、様々な出来事が起きる。エネミーの出現もその一つだ。エネミーとは、どちらのプレイヤーの味方でもないモンスターのことで、無作為に近くの敵や建物を攻撃する。
エネミーは、大きく分けて三つに分類される。一つ目は、「ミニマム(小獣)」コスト三くらいの強さを持ち、大きな影響は与えない。二つ目は、「ワイルド(野獣)」コスト五くらいの強さで、狙われると少し厄介。三つ目は、「テラー(恐獣)」コスト八くらいの強さで、敵に回すと相当不利になる。小獣や野獣レベルのエネミーは多々現れるが、恐獣級となると、めったに現れない。そして今俺の目の前にたたずむ黒龍は、おそらく上位の恐獣級だろう。放つプレッシャーの大きさが、それを実感させる。
「やるしか、ないか……」
再び翼を展開し、浮遊する。
(マスター、お気をつけて。)
わかってるさ。剣を握る手に力を入れ直す。龍の懐に飛び込むと、巨大なかぎづめが左から迫ってきた。それを剣で受け流し、その威力を利用して龍の背後に回る。
「ホーリークロスブレイク!」
龍の背中を真一文字に斬る。怒りの声を上げた龍が、尾で俺の体を撃ちつける。地面にしたたかにぶつかった俺に、再びかぎづめが迫ってくる。上から襲いかかるその攻撃を、左に軽く飛んでかわし、そのまま飛び上がり、龍の首筋に剣を突き刺す。
「グガアァァ!!」龍が悲痛なうめき声を上げる。
もう一度!剣を抜き、再び首に突き刺す。
「うわっっ!?」
龍が俺に頭突きをかました。再び地面に体をぶつける。龍は上空に体を浮かせ、その口からどす黒い炎を吐きだしてきた。
「グッッ……」
相当熱い。見ると、地面が焦げていた。温度変化に強いギャラクシーの鎧をまとっていなかったら、ひとたまりもなかっただろう。ぼんやりしているとあっという間に体力を削られてしまうので、急いで俺も上空に上る。
空中戦ならこっちだってなぁ。龍のもとへ肉迫すると、巨大な尾で迎撃してきた。
横から攻めるそれを交わすと、今度は右腕が上から襲いかかってくる。
「甘い!」
居合い切りを放ち、かぎ爪一本の破壊に成功した。その痛みにもかまわず、龍が攻撃を仕掛けてくる。至近距離からの火焔攻撃。二メートルも空いていなかったので、そのすべてが俺に直撃する。
急いで斜め後ろに下がる。俺の体力が、六割を切った。これ以上のダメージは……。
敵は接近戦を行う気はなくなったらしく、三度炎を放つ。
「そっちがその気ならな……」
右手に、光の槍を発生させる。
「レーザーランス!!」
それを放つと、圧倒的スピードで龍のもとへ向かって行った。槍は右翼の付け根に直撃した。
「ガアアァァアアァァ!」
片翼が制御できなくなった龍は体勢を崩し、落下していった。
空中での高速移動に際して発生する抵抗力も気にせず、とどめをさすため龍のもとへ向かい、その腹に深々と剣を突き刺した。さらに剣をゆっくりと動かす。もううめき声を発することもできないらしい。地面に衝突するまであと二秒といったところか。
俺はとどめに、龍の腹を思い切り蹴とばし、空中で龍の最後をみとった。奴の体が光となって消滅し、気が緩んでしまったその瞬間、俺の心臓を深々と何かが抉った。後ろから突き出された剣は、俺の心臓部に深々と突き刺さっていた。
「かはっ……」
あまりにテンプレすぎる自分のやられ声に、こんな状況でもおかしくなってしまう。思い切り前に飛び、何とか剣と体を放すことに成功した。襲撃者の顔を拝んでやろうと後ろを見ると、そこには、赤、青、緑に輝く鎧を身にまとった騎士がいた。
「まさか、こいつもエネミー、なんてことはねえよな」
(はい、間違いなく敵が召喚したモンスターです。)
俺が戦い終わって油断した隙を狙ったのか。急所への攻撃を受けた俺の体力は三割以上も減り、残りは二割と少しだ。厳しいなぁ。相手はまだ無傷だろう。もう体力は減らしたくない。そんな俺の思いなど気にも留めず、突然騎士が飛びかかってきた。
(マスター、これ以上の消耗は……。)
「わかってる。光と闇は表裏一体。来たれ!混沌の精霊アウゼス!降臨せよ!」
騎士と俺の間に光と闇に染まった穴が出現し、そこから出てきた剣が敵の攻撃を止める。
穴が消滅し、新たなモンスターが完全にその姿を現した。
おとぎ話に出てくるランプの魔人を彷彿させるような、足のない奇妙な姿。しかしそこには愛らしい表情は存在しない。あるのは、明確な殺意と主を守ろうという覚悟。
「おまかせください我が主よ。こやつは私が相手します」
次の瞬間、アウゼスの表情が怒りに変わった。
「我が主を傷つけた罪、貴様の命ではあがないきれんぞ!!」
敵の剣を押し返したアウゼスが、神速の剣技で敵を攻撃する。敵も全力で防ごうとするが、追いついていない。どんどんその鎧に剣が触れている。
いくら高い防御力を持っていても、このままではそう長くは持たないだろう。アウゼスの剣技は、「神滅剣」と呼ばれる。神すら滅ぼすというその強さは、伊達じゃない。
それに加え、強力な雷、闇の魔法も使える。デッキのエース的存在だ。ユニークカードでこそないが、世界に二桁も存在しない「レジェンドカード」と呼ばれる超レアカード。
「これで終わりだ!」
アウゼス、必殺の一撃。しかしそれは、あと少しの所でかわされてしまった。勝機はないと踏んだのか、騎士はアウゼスのもとを離れていく。
「逃がすか!」
騎士は俺の方へ向かってきた。
「いいだろう。やって……え?」
しかし騎士は、俺を無視してさらに奥へ。その先にあるのは俺の城くらい……こいつまさか!急いで敵を追うが、もう間に合わない。
「アウゼス!やつから離れろ!」
敵を追っていたアウゼスに声をかける。
「は?しかし……」
戸惑うアウゼスの腕をつかみ、急いで駆ける。騎士は城の中央によると、何かを唱え、自爆した。ばらばらと崩れていく俺の居城。
「おいおい、勘弁してくれよ……」
城の耐久値は、もう1割も残っていなかった。高位モンスターの自爆攻撃。その威力は計り知れない。すると、突然アウゼスが頭を下げてきた。
「申し訳ありません!私が奴の相手を任されていながら……」
「気にするな。結構ダメージくらってたしな、あの城も。それに、今はこれからどうするかを考えよう」
まぁ、龍の炎とかでかなり弱ってたのはほんとだ。今アウゼスを責めたところで、どうなるわけでもない。あいつの目論見をすぐに看破できなかった俺も悪い。
「もういっそ、乗り込むか」
「乗り込むとは、敵陣にですか?」
「ああ。こんな城じゃあっても役に立たん。せっかくだ、敵の鼻っ柱を明かしてやろう」
「そう、ですね……そちらの方がいいかもしれません」
「よし、決まったな!行くぞ!」
そして俺達は、敵の居城へと向かった。途中何度か敵の妨害はあったものの、二人(?)で楽に迎撃することができた。
そして見えてきた、そびえたつ大きな城。俺の物と能力は同じはずだが、強そうに感じる。隣の芝は青とかいうあれだろうか。
「あら、もうとっくに死んだと思ったんだけど……案外しぶといのね」
城の上から、俺達を見降ろしてつかさが言う。プレイヤーが死んだ瞬間に勝負は終わるので、ただ憎まれ口をたたきたかっただけだろう。この異世界でも彼女はとても美しかった。鎧に身をまとったその姿は、戦の女神のようだ。でも……。
「女神は神だ。倒せるよな?お前の剣なら」
アウゼスに向かってにやりと笑う。
「主の望みなら、命に代えても達成します」
頼もしい。
「なにをごちゃごちゃ言ってるの?まあいいわ。マニフェステーションッ(顕現化)!」
彼女の体が、より一層激しく光る。その鎧、剣などすべての装備が、金色から白色へと変わる。
「あの色は……」
そして、色の変化が終わった。
「そう、プラチナよ。金すら超える、金属、そして宝石の王」
そう言った次の瞬間、彼女は手から銀色のビームを放出した。それはアウゼスに直撃し、彼は出てきた時と同じように、光と闇の渦となって消える。
「てめぇ……」
「案外もろかったのね。やっぱりレベルが違ったかしら。ごめんね、手加減できなくて」
「黙れ!俺と、戦え!」
「もう戦ってるじゃない。それとも一対一でやりたいの?……いいわ、あなたのその提案に乗ってあげる」
そう言って彼女は、優雅に城壁から地上へと飛び降りた。……今だ!
「来い!ハルートッ!!」
「え?」
地面を突き破り、彼女の下からものすごい勢いで新たなモンスターが襲撃する。白馬に乗り、白い鎧に包まれたその姿は、まさに聖騎士。つかさは回避行動を取ろうとするが、飛行能力を持たない彼女は、空中では思うように動けない。聖騎士の剣が、深々とつかさの腹に突き刺さった。
「アアアアアアアアアァァァァ!!!」
つかさが地を転がる。相当のダメージを受けたようだが、彼女はすぐに立ち上がった。
「体力、四割も減少!?しかも、地面の下からですって?……よかったら、トリックを教えてくれないかしら?」
パニックから立ち直ると、彼女はすぐさま俺に疑問をぶつけてきた。
「はは、自分の作戦を大仰に語るやつは負け役と決まってるからな。わざわざ死亡フラグは立てたくないんだが……」
「あら、よくご存じね。でもあなたは負け犬だから構わないんじゃないのかしら?」
「言ってくれるなぁ。まぁ、美人の頼みとあったら聞かないわけにはいかないな」
「ありがとう。こんな状況でほめてくれて。でもあなたに言われても吐き気しかしないからニ度といわないでね?」
「……んのアマ。まぁ、いい。さっきフィールド上で大規模な地震が起きたことは知ってるな?」
つかさが黙って首肯する。
「その時地盤が相当緩くなってたみたいだからさ。地面を掘らせて待機させといた」
「なるほど……なかなか思いつかない戦法ね」
「そうか?どこかの誰かさんが二千年以上前に編み出した戦法だぜ?」
「へえ、あなたみたいな平均以下の男が歴史書を読んでいるなんて驚きね」
こいつ、さらっと俺を平均以下に分類しやがった。
「そうでもないさ。男なら読んでるやつ多いんじゃねぇの?三国志」
「そんな細かいところまで知ってる人は少ないわ。袁召の土竜作戦なんて」
「そういうお前もよく知ってるな」
「一度見聞きしたことはほとんど覚えてしまうの。ごめんね、あなたとはできが違って」
「でも、その能力も完璧じゃねぇみたいだな」
「そうね、あなたの醜い顔も忘れられそうにないわ」
「おまえなぁ……。はっ、記憶できてもそれを生かせねェ様な奴が何ぬかしてやがる。知っててそれに対応できないなんて、無駄じゃないの?」
つかさの顔が一瞬歪む。
「まぁ、その点については反省する必要があるわ」
意外だな。自分の失敗は絶対認めねえ奴かと思っていたが。
「じゃ、そろそろ話は終わりにしますか」
「そうね、あなたとの会話は気分が悪くなるし」
「お互い様だ。ほら、プレゼントだ」
そう言って俺は、手にしていた瓶に入っていた液体を、つかさにかけた。彼女の体が、その液体でビチョビチョになる。
「何かしら?もしかして……セクハラ?」
ま、そう見えないことも無いかな。
「はは、そんなことしねぇよ」
一呼吸おいて、俺は言う。
「その液体の名前はな……」
「アクア・レギア」
今度こそつかさの顔が、はっきりと歪んだ。
そもそもプラチナとは、金属の王と呼ばれるだけあって、とても優れた物質である熱に強く、衝撃に強く、錆びることもなく、酸で溶けることもない。……、唯一つの物質を除いて。
「アクアレギア」学名、王水。いかなる金属も溶かすことからこの名がついた。この液体だけは、無敵の金属プラチナを溶かすことができる。
「Unight(融合)」
つかさがあわてふためいている隙に、俺は新たな行動を起こす。
「ユナイト」、それはギャラクシーが持つ特殊能力。顕現化したプレイヤーと、他のモンスターを合体させる技。
取り込むのは、ハルート。聖騎士の力が俺の中で満たされていく。ちなみに、ハルートの特殊能力は、攻撃を行わなかったターンの攻撃力を、次ターンに追加できること。
つかさの体力を一撃で四割も減らせたのは、これが理由だ。そして、さっきの俺たちの会話の間に、二ターンは経過しただろう。だらだらゆっくりと俺は話したしな。
つまり、いまの俺の攻撃力は通常の三倍だ。赤くなってもいいレベルだ。角がつくかもしれない。つかさの様子を見ると、いまだに混乱しているようだった。それはそうだろう。いつ自分の体が溶けだすかわからない恐怖におそわれているのだから。
「ハァッ!」
勢いよく地をけり、つかさに襲いかかる。的確にその心臓を狙って。
「あっ!」
混乱していたつかさは、一瞬だが反応が遅れた。この状況でそれだけで済むのは大したものだと賞賛してやりたいが、戦場ではその一瞬が勝負を分ける。俺の剣は彼女の剣に触れることなく、その急所を貫いた。
「ああああああっっ!!」
その姿にふさわしくない叫び声をあげる。彼女のHPバーががくんと減少する。あと一割と少し。削りきれなかったか。だが、状況は逆転した。
「馬鹿な奴だな。あんな単純な嘘に引っかかるなんて。王水なんか作れるわけねーだろ」
王水を精製するためには、濃塩酸と濃硝酸を三対一の割合で化合しないといけない。この世界にそんな薬品はないだろうし、一から作るにもものすごい時間と労力がかかってしまうだろう。少し考えればわかるはずなのだ。しかし、自分の唯一の弱点を言い当てられた精神状況下では、仕方のないことだろう。
「……これで、終わりだ」
つかさに剣を向ける。
「勝負が完全に決する前に勝利宣言なんて、負け役のお約束ね。まだよ!その身を現し、すべてを撃ち砕け!潮流の支配者、アメジスト・サファイアドラゴン!!」
彼女の叫びに呼応して、何もなかった空間に水が渦巻き、そしてそれはだんだんと大きくなっていき、最後には龍の形になった。全身を水の鎧にまとい、瞳はすべてを見通すような美しい蒼。よく見ると、まとった水の下が輝いている。
その体は宝石でできているのだろう。となると、相当の防御力を有していると考えて間違いない。厄介なことになった……。ネタばらしが早すぎたか。優位に立つと饒舌になるのは悪い癖だ。強力モンスターを立て続けに召喚し、俺の手札にはこの化け物と対等に渡り合えるようなモンスターはいない。だが、何もしないよりはましなはずである。
「来い!」
そう叫び、三体のモンスターを召喚する。すると、龍が甲高い声で鳴き、その口を大きく開き、勢いよく大量の水を吐き出す。それに飲み込まれて、俺のモンスターはすべて消滅した。
「くそっ!」
右に大きくジャンプ。攻撃をかわし、そのまま龍に肉薄する。その腹を思い切り斬る。
しかし、宝石でできた体には、それは致命傷とはならなかった。
斬られた腹を勢いよく俺に当ててきた。思い切り後方に吹き飛ぶ。
そして再び、龍の息攻撃。さらに後ずさる。
「逃がすかぁっっ!!」
つかさが龍をぬかしてその身一つで俺に迫ってくる。
「よくもやってくれたわね。さっきの礼よ、受け取りなさい!」
つかさが、必殺の一撃を放つ。
「な……んで?」
彼女の腹から、一本の剣が生えていた。そしてつかさが、その場に倒れる。
「なんで……。そいつは、倒した……でしょ?」
最後の一撃を放ったのは、俺のモンスター、アウゼスだった。
「まだまだだな、お嬢様」
アウゼスは、つかさの攻撃を受けて死んだわけではない。その瞬間、異次元にその身を移したのだ。アウゼスは、自らが発生させる光と闇の渦を介して、別次元に移動することができる。空間の世界、三次元。面の世界、二次元。点の世界、一次元。そして……虚無の世界、零次元へも。だが、何も起きてないのに、目の前から突然消えたら、当然つかさは警戒する。だから、攻撃を受けた時に消えるように指示しておいた。
別につかさに会う前から姿を消せばいいと思うかもしれないが、アウゼスが出現できる地点は、消えた穴の周囲十五メートル以内という制限がある。だから、あの場で消えてもらう必要があったのだ。
「勝負あり、ですね」
アウゼスの声を聞いたつかさが俺を見上げる。そして、彼女の体は消滅した。
バシイイイ!と、激しい光が再び俺を包み、意識が現実へと戻る。
「航平!すごいよ!」
マオが抱きついて来る。くそ、こいつの体柔らかすぎだろ!
「フフ、いい勝負だったね。時給百円上げとくよ」
店長がポンと俺の肩をたたく。つかさが、悔しそうに唇をかみしめる。
「負けたわ。約束通り、なんでも命令を聞くわ」
「ん…そうだな」
いざ何でもというと悩んでしまう。こちらも負けたら土下座というリスクがあったので、それなりの要求はしてもいいだろう。性的なことはマオにダメと言われるからな……。
「お前、お嬢様だったよな?」
「……ええ」
「じゃあ俺に、一千万払え。相続税抜きでな」
きちんと税金を納めようとする当たり、俺の真面目さが出ているだろう。
「……東城君、君は……」
「航平、それは……」
2人に思い切り軽蔑の眼を向けられる。な、なんだよう。
「わかったわ。一千万でいいのね」
つかさが小切手を取り出し、数字をさらさらと書いていく。
「これでいいかしら?現金はないのよ」
「……お、おう」
あれ?冗談のつもりだったんだけどな。
「航平、返した方がいいよ。そんなのもらっちゃだめだよ」
「いいのよ。これは勝利に対する正当な報酬よ」
つかさが俺の行為を肯定する。
「航平……」
マオが俺を上目遣いで見る。うう……。
「ああ!もう、わかったよ!ほら!いらねぇよ!!クソ……」
小切手をビリビリに破く。もう、そんな目で見られたら断れねェだろ!
「本当にいいの?」
いいって言ってんだろ。未練が出るからもう聞くなッつーの。
「ああ。いいよ」
「……そう、わかったわ」
「ああ。もう帰れよ」
「ありがとう。さようなら」
そしてつかさが、店から出ていく。
「ご苦労だったね、東城君。今日はもう上がっていいよ」
「了解です。じゃあ、マオ、帰るか」
「うん、今日は僕が何かおごるよ。ごめんね、航平のお願い邪魔して」
「……ん、いいさ。行こうぜ」
もったいないことをしてしまったのかもしれないが、マオがこうして笑っているのなら間違った選択ではなかったのだろう。
翌日、俺達が再びドリームショップに行くと、
「あら、遅かったのね。さぁ、対戦しましょう?」
そこには、つかさがいた。
「お前……なんで…。庶民の店なんかだめだったんじゃなかったのかよ?」
「負けっぱなしは好きではないの」
へっ、そうかよ。
「「アナザーワールド、リンクスタートッッ!!」」
そうしてつかさは、毎日のようにドリームショップに来るようになった。そして、毎日激しい戦いを繰り返した。勝率は、五分五分といったところか。
まぁ、仲良く喋ったりすることはなく、当然ラブコメなんて起きる気配すらないけど。
それでも俺と彼女は、かけがえのない存在になれたのかもしれない。
「まぁ、こんな日常も悪くはないか」
俺は一人、つぶやいた。




