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湊斗外伝 Side Story 001

作者: 依祢

【!誤字・脱字を発見された方はご連絡ください!】


あれ(湊斗外伝)で終わると思われていた湊斗の小説が短期間の時を経て復活!(早


今回のお話は、本編とは全く関係ないお話となっております


残念ながら今回に限ってロリショタパラダイスはございませんので



今日は朝から憂鬱だ。

「いってきまーす」

外へ出ると、冬の異常な冷たい風が頬に突き刺さる。

マスクをしてマフラーをしても、このザマだ。

道の木々は葉を枯らし、風が吹くたびに枝から何枚かの葉が落ちていく。

ふと上へ視線をうつすと山が見えた。

くっきりとではないが、うっすらと山の頂上付近に雪が積もっているのが確認できる。

――冬だなあ。

山の頂上付近に雪が積もっているのを見ると改めて冬を実感させられる。

手が異常に冷たい。

下手したら気温より指先の方が冷たいかも知れない。

――冷え症の所為だ。

ならば手袋をすればいいだろうと言いたいところだが、何故か手袋をするとかえって冷え症が悪化するという事態に陥る。

冷えきった手を温めようと、マスク越しに息を吹き掛けた。

しかし思うほど息が届かず、マスクが結露してしまいかえって寒くなってしまった。

風が冷たい。

とぼとぼと歩みを進める。

「湊斗ちゃん? 」

ふと聞き覚えのある声が後方から聞こえた。

「その声は……飴さんですか」

俺は後ろを振り向く。

視線の先には、マフラーと手袋をした飴さんが立っていた。

「やっぱり湊斗ちゃんだったか! 」

飴さんはブンブンと手を振っている。

相変わらず無駄に元気ですね。

よりによって、何で飴さんと偶然出くわしてしまうのだろうか。

「なんだ、飴さんか」

俺はいかにもガッカリした態度をとる。

「そんなにガッカリしなくても」

飴さんはしょぼんとする。

しかし飴さんのしょぼんの効果は、残念ながら俺には全く効かない。

「なんで飴さんが此処に居るんですか」

「うーんと、朝の散歩? 」

そんな疑問系で言われましても。

「なるほど、朝の散歩? ですか。じゃあ俺は朝市があるのでさようなら」

「ちょ、ちょっと待って! 私もついていく! 」

「えぇー」

えぇー。

俺はあからさま嫌だという態度をとる。

が、飴さんはそんなことはどうでもいいといった表情でこちらへと迫ってきた。

「一緒に行くぐらいいいよね? ほら!プチデート! 」

「人にお願いする時は? 」

「一緒に行きたいです。お願いします」

飴さんはペコリと頭を下げる。

「仕方ないですね……今日だけですよ」

「ありがとー! 」

今日は朝から面倒だ。


朝市は相変わらずの賑わいをみせている。

冬の野菜と言えば、やはり大根、にんじん、白菜などだろう。

大根はぬか漬けにしてたくあんにすると尚よろし。

そんなわけで、朝市では大根などの冬の野菜がズラリと並んでいた。

「うーん……」

飴さんが大根とにらめっこしている。

――そういえば、この人料理出来るのかな。

どうでもいいか、と思った俺はライトさんと食べきれる量の野菜などを次々と購入していく。

「あー、そういえば、ライトさん甘酒好きじゃなかったんだっけかなー」

頭を掻きむしり記憶を呼び覚まそうとするが断念。

ここで溜め息ひとつ。

――あーもうくっそ。

思い出せない自分にイライラする。

「あ! 湊斗ちゃんみっけ」

横から飴さんの声がした。

俺は横へと視線を移す。

「お望みのモノは買えましたか」

「うん、まあね」

両手には袋がぶら下がっている。

中には袋いっぱいの野菜。

「飴さんってそんなに大家族でしたっけ」

「いや。安かったから一杯買っちゃった」

てへっとでも形容すればいいのだろうか。

そんな表情を浮かべる飴さんは何処か満足そうであった。

「そうですか。満足そうで良かったです。では俺は家でライトさんが待っているので帰ります」

「いきなり?! 」

飴さんは目を見開いて驚いた。

「そんなに驚くことでしょうか」

「いやだって、うん」

複雑な表情を浮かべる飴々氏。

「ちゃんと言わないと分かりませんよ」

「途中まで一緒に帰ってくれるのかなー、とか思ってたから」

「俺がいつそんなこと言いましたっけ? 」

「え。いや、わかんない」

呆れた。

忘れんぼうにもほどがある。

それともただ天然アホの子なだけなんだろうか。

「途中までですよ、途中まで」

「なんかごめんねー」

胸の前でパンっと手を合わせて謝る飴さん。

「…………………………謝る必要ねえのに」

「何か言った? 」

「いや、別に」

「えー、教えてよー」

「うるさいです、黙っててください」

「……はーい」



冬の風は相変わらず冷たい。

春に吹く生温い風がどこか懐かしく思えた。

時折吹く、強く冷たい風が更に体温を奪っていく。

手を擦り温めようと試みるが、吹いてくる風によって体温を奪われるため無駄な努力のように感じられた。

「さむいねー」

肩をガタガタと震わせ、いかにも寒そうな仕草をする飴さん。

「そうですね。冬ですから」

「ホントさっむい」

震える飴さんを他所に、俺は上を向き冬のどんよりとした空を眺める。

「雪、降ってくるかな……」

空に手を伸ばすが、そこにあるのは空気だけ。

何も掴めやしない。

俺は伸ばした手を戻しポケットの中へ突っ込む。

「それじゃそろそろお別れですね」

「えっ、もうこんな所?! 」

飴さんは驚く。

「それじゃ」

俺はさっさと歩き出す。

「湊斗ちゃん、ちょっと待ってー」

飴さんが何故か追いかけてきた。

「な ん で し ょ う か」

「そ、そんな顔しなくても……」

どうやら俺はかなり不機嫌な顔をしていたらしい。

「何の用ですか」

「ねえ、今夜みんなで湊斗ちゃん家に行って良い? 」

飴さんそれはどういうことですか。



最悪だ。

何故だ。

何でだ。

鬱だ。

「ただいまー」

ドアを開けた瞬間、顔に暖気が当たる。

やはり家の中は温かい。

「みなとんおかーって、ずいぶんと不機嫌な顔だけどどうしたし」

ライトさんがこたつに入りながら俺の顔を窺ってきた。

「いやちょっと……」

「へえー。それよりお腹空いたー」

「今から作りますから、待っててください」

「はーい」

俺はマスクを外し、台所で手を洗い、朝市で手に入れた食材を袋から取り出す。

頭の中がもやもやしてレシピが浮かばない。

――取り敢えず大根と油揚げの味噌汁でも作ろうかな。

食材をまな板の上で切っていくが、どうも身に力が入らない。

「……っ! 」

しまった。

俺は包丁で指先を切ってしまった。

傷から血が流れ出す。

「ライトさーん、絆創膏どこでしたっけー」

こたつに入ってのんびりしているライトさんに向かって俺は叫んだ。

「えー。知らん」

ライトさんはどうやらこたつから出るのが面倒なようなので、自分で探すことにした。

「確かあそこの引き出しに……」

目の前にある棚の引き出しの中をごそごそと漁る。

「これ……なのか」

恐らく絆創膏と思われるものが引き出しの中から出てきた。

酷く茶色くパサパサとしている。

「これは、使えない」

俺は絆創膏を探すのを諦め、自然治癒することにした。

「みなとんどっか怪我したの? 」

いきなり横から声がした。

俺は咄嗟に退く。

「うわっ?! ララララライトさん?! 」

「そんなに驚くこと? 」

ふふんと鼻を鳴らすライトさんはいつも通り冷静だった。

「絆創膏ってこっちじゃない? 」

そう言うライトさんの手には新しい絆創膏が握られていた。

「ほら」

「あ、ありがとうございます」

ライトさんは俺に絆創膏を手渡すと、こたつの方へと戻っていってしまった。

俺は傷に絆創膏を貼り、朝食作りに戻ることにした。


「さっむ」

「寒いですねー」

朝食を食べ終え、こたつに入りみかんをもぐもぐと食べているライトさん。

「そういえば、今夜飴さんたちが俺達の家に来るそうなんですが」

「まじかー……って、飴さん"たち"? 」

「いえす。飴さん"たち"」

「飴さん、またなんか増やしたの? 」

「さぁ……? 」

また、って……。

「まあいいや。五月蝿くなるだろうけど」

「あはは」

もはや苦笑しか出来ない。

本日、心中曇天也。

「そういえば、飴さんたち? が来るのは良いんだけどさ、何するワケ? 」

そういえばそうだ。

「なに……するんでしょう」

「闇鍋とか」

げ。

俺が嫌いな鍋物。

鍋物を想像しただけで、嫌になってくる。

「もしそうなら具材を買ってこないと」

「そっかー。なら具材は俺が買ってくるよ」

「良いんですか」

「朝はみなとんが行ってくれたし。どーせ暇だし」

「じゃ、じゃあ。お言葉にあまえて」

「りょーかい」

そう言って微笑むライトさん。

笑顔が相変わらず似合う。

「そーいや、飴さんたちに今日は闇鍋って言わないと? 」

「あ、そっか……」

「じゃあ飴さん家行かないとかな? 」

「そうですね」

「買い物ついでに俺も付いてくよ」

「わ、わかりました」

そう言い、こたつからのそのそと抜け出し立ち上がったライトさんは、支度しないとねーと言いながら自分の部屋へと入っていった。

俺もしないとなと思い、俺も立ち上がって、こたつの上に置いてあったみかんの皮を掴んで投げて、ゴミ箱へと見事なシュートを決め自分の部屋へと走った。


朝と変わらず、昼になっても冬の風は冷たい。

寒いのが苦手な俺としては、かなり過酷である。

必死に手を擦り合わせても、冬の冷たい空気が体温を奪っていく。

「みなとんすっげー寒そう」

「寒がりですよ、どーせ! 」

もはや俺にはライトさんを叩くほどの余裕はない。

寒い。

それにしても寒い。

俺、凍死するかも知れない。

「大丈夫、死にはしないっしょ」

ライトさんはポンポンと俺の肩を叩いてくる。

そんな余裕がほしいです、ライトさん。

俺達の間を冬の風が吹き抜けていった。


「飴さーん? 飴さんどこー」

ライトさんは思い切りとまではいかないが、かなりの力で扉を叩いた。

「はいはーい」

中からドタドタと足音がする。

ガチャッと音を立て扉が開かれた。

「ライトと湊斗ちゃん! いらっしゃい」

満面の笑みを浮かべる飴さん。

「こんにちは、飴さん」

「飴さんはろはろー」

俺たちはひとまず挨拶する。

「立ち話もなんだし、中入っちゃって」

飴さんが中へと手招きする。

「いや、ここでいいです。すぐ終わる用事なんで」

「えっ、そうなの? 」

「今夜何するか、という事を伝えに来ただけなので」

「そっか。で、なにするの? 」

「……闇鍋です」

飴さんはなんだそれ、と言いたげな顔をした。

「えっと……闇鍋……って……」

「参加する人がそれぞれ好きな食材を持ち合わせて、それを鍋の中へ入れるんですが、具材を取るとき真っ暗闇にして何が取れるか分からない状態にして……まあ、何が取れるかを楽しむ鍋です」

「へぇ、面白そう」

飴さんは目をキラキラと輝かせる。

「飴さん闇鍋知らないとかだっせ」

「ぐさっ」

ライトさんは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、飴さんを見下ろす。

「はいはい、おっつー」

ケタケタ笑うライトさん。

一方の飴さんはしょぼんぬ。

「取り敢えず、今夜は鍋に入れる好きな食材を個々で持ってきてください」

「了解! 」

何故だか、一瞬嫌な予感がした。


「飴さん大丈夫かなー……」

「……」

ライトさんは無言だ。

「な、何か言ってくださいよ」

「……正直、あれだよね。不安」

全くその通りである。

あの飴さんの事だ。

何か革新的な食材を持ってくるに違いない。

「チョコとか持ってきそう」

ライトさんは真顔で告げる。

「チョコ……」

チョコを牛肉と共に煮込む……。

想像しただけで吐き気がした。

「俺、もしかして今日が命日かも? 」

ライトさんはまた真顔で告げた。


夕方になり日も暮れ始め、辺り一帯は綺麗な茜色に染められている。

夕方に開かれる夕市は朝市と違って、野菜だけでなく惣菜も販売していた。

市場に色々な惣菜の匂いが混じりあい、なんとも言えない美味しそうな匂いが鼻を突く。

「何買おっかなー」

ライトさんは色々な店をぶらぶらとしている。

あまりにもぶらぶらとしているので、ちょっとでも目を離すと見失いそうになってしまう。

ライトさんがふとこちらを向いて近付いてきた。

「みなとんは食材決まった? 」

「いや、まだですけど」

「ふぅん」

「ライトさんは決まったんですか」

「いちおー」

「何にしたんです?」

「おしえなーい」

内心このやろうと思ったが、勿論口には出せないので黙っておく。

それより俺も食材を決めなければいけない。

無難なのは牛肉とかの肉類だろうが、何を持ってくるのか分からない飴さんが居るため躊躇われる。

と、ここであるものが視界に入った。

「これなら……うん」

俺はそれを購入する。

「みーなとーん、帰るよー」

ライトさんの声がした。

俺はライトさんの元へ向かって走る。

「はーい、今行きまーす」


「あー、づがれたー」

家に着き、荷物を置いたライトさんはこたつの上で伸びている。

「……」

俺は無言でライトさんを見守りつつ、買ってきた食材の整理をした。

散々だ。

実に散々だ。

ため息をついて、しぶしぶと闇鍋の準備をする。

ガスコンロ、土鍋……あとは何が必要だろうか。

そんなことを考えながら、土鍋を水道で洗う。

暫く使っていなかった土鍋は、少しばかり黴が付いていたので力強く洗い流す。

これがまたしつこい黴で。

「……っ」

ごしごしと、十分程だろうか、格闘した末に俺は見事勝利した。

額に汗が伝う。

体が熱い。

ふとライトさんの方へと視線を移すと、肩を上下にさせ呼吸をし、爆睡しているではないか。

そんなに疲れることをしたようには思えないのだが、ライトさんなりに疲れたのだろう。

俺はそっとしておいた。

ガスコンロと土鍋をテーブルの上にセットする。

「あれ……? 土鍋でっかくね? 」

明らかに土鍋の縁がガスコンロから飛び出している。

これは気にしたら負けのフラグだろうか。

いやしかし危ないだろう。

だがこの家には土鍋は一つしかない。

「俺は何も見ていない」

俺は自分自身に暗示をかけ、気にすることをやめた。

疲れたので俺もこたつに入ることにした。

こたつに入ると、温かい空気がこたつに入っている下半身を包み込む。

「あったかーい……」

土鍋と格闘した際に冷えきってしまった手をこたつに突っ込む。

じわじわと手のひらへ温かさが広がる。

こたつに突っ伏せ、目を閉じると眠気が襲ってきた。

「眠い……」


誰かに肩を揺すぶられている気がする。

「あーっもう……」

俺は肩にある手を振り払った。

「みなとん、もう夜だって」

「ふぇ? 」

俺は目をゆっくりと開く。

目の前のライトさんはちょっと不機嫌そうな顔をしてみかんをもぐもぐと食べている。

窓へと視線を向けると、もう真っ暗で何も見えなかった。

「あ……飴さんたちは? 」

「まだ」

「そうですか……」

そういえば家に来る時刻を聞いていなかった。

いまさら聞いても仕方ない。

その時、ドアを叩く音がした。

「こんばんはー」

「飴さんここどこなんですか」

「ってかここん家古くね」

外から三種類声がする。

「はーい」

俺は玄関へと走っていき、扉を開けた。

「湊斗ちゃんやっほー。今夜はお邪魔します」

飴さんがぺこりと頭を下げる。

「は、はぁ……。後ろの人達は? 」

「ほら、きょんちゃんとセイテンくんも挨拶して」

ほらほら、と言いながら後ろにいた人たちを前へと押し出す。

後ろの人達をよく見ると俺と同じくらいの年齢であろう少年少女だ。

「キョウコって言います」

「……セイテンです」

少女はキョウコ、少年はセイテンと名乗った。

「俺は湊斗です。以後お見知りおきを」

俺は一礼する。

「そういえば、ライトは? 」

確かにライトさんが居ない。

「こたつの所でみかんでも食べてるんじゃないでしょうか」

「そっかー」

「取り敢えず玄関じゃ寒いんで、中入ってください」

俺は飴さん愉快な仲間たちを家の中へと促す。

「ライトさーん、飴さんたちがきましたよー」

「うっそーだー! 」

ドタバタと音がする。

何をしているのだろうか。

「……騒がしいですが、どうぞごゆっくり」

飴さんたちを客間へと通す。

客間にはテーブルと椅子が六個置いてある。

「湊斗ちゃん、食材どうすればいいかな」

飴さんが袋を掲げて、首を傾げている。

「自分で持っててください」

「はーい」

飴さんは袋を床に置いた。

その時ガシャッと音がしたのは気のせいであろう、うん。

「湊斗、ライトって奴はまだなのか」

セイテンという少年が話しかけてきた。

いきなり俺の名前を呼び捨てにされた上にライトさんまで呼び捨てにしたので驚いた。

そしてちょっといらっとした。

だが客人にいきなり怒りを露にするのは失礼だ。

俺は怒りの感情をグッと抑え込む。

「どうだか……準備してるんじゃない? 」

「そうか」

なんだコイツは。

ライトさんを呼び捨てにしやがって。

「飴さーんまだなーんですかー」

「きょんちゃんもうちょっとだと思うから、ね? 」

「えー」

キョウコという少女は飴さんに八つ当たりしている。

にしてもライトさんが遅い。

さすがに呼びに行こうとドアを開けた瞬間――

「うわっ」

「うおっ」

ライトさんと見事にドアを開けるタイミングが合致してしまい正面衝突してしまった。

「ってぇ……なんだ、みなとんかよー……」

「ライトさん大丈夫ですか?! 」

俺は即座に起き上がりライトさんに駆け寄る。

「だいじょーぶ」

そう言ってライトさんは苦笑しながら起き上がった。

「闇鍋はやくやろうぜ」

急かすかのようにセイテンという少年は声を上げた。

セイテンという少年は少しふてくされながら、頬杖をついている。

「ライトさんも来たのでやりましょうか」

恐怖の闇鍋パーティーが始まった。


「えっと照明を落としたら、自分の持ってきた食材を鍋に突っ込んでください。しばらく経ったら一人ずつ具材を一個取ってください。そんで食べてください」

俺は簡単に闇鍋のルールを説明する。

「自分が持ってきた具材は絶対に他人には見せないでくださいね」

俺は満面の笑みで付け加えの説明をする。

「湊斗ちゃん、早くやろうよ! 」

飴さんはよっぽどお腹が空いたのか、ただ単に楽しみなのか闇鍋を早くやりたいようだ。

「お腹すきましたー……」

キョウコという少女は空腹がファイナルターンのようでテーブルに突っ伏せてしまった。

「……」

セイテンという少年は沈黙している。

「じゃあ電気を落とすので鍋に食材を投入してください」

俺は部屋の電気を落とす。

「どうしよ、全然見えない」

飴さんが困惑しているようだ。

目が暗闇に慣れていないので、まだ何も見えない。

「取り敢えず、鍋があると推測出来る場所に具材突っ込んでください」

はーい、と疎らに声がする。

ぼちゃぼちゃと鍋に具材が入る音がした。

そして何故かぴちゃんとかドボドボとか何かを注ぐ音がする。

嫌な予感しかしない。

一体、この人たちは鍋に何を投入しているのだろう。

俺は具材を恐る恐る投入する。

――変な味の鍋になりませんよーに!

「じゃあ暫く放置します」

俺は鍋の蓋を閉じる。

グツグツとお湯が沸騰している音が部屋に響く。

しかし、これは……。

――匂いが、おかしい。

大丈夫だよな、これ。

美味しそうとも不味そうとも言えない匂いが鼻につく。

闇鍋というよりこれは、罰鍋か。

もはや自分達は何かを犯して罰を受けているかのような気分だった。

「みなとんマダー? 」

ライトさんが気だるそうに問い掛けてくる。

「あともう少し……したら開けます」

俺の脳内は恐怖心で一杯だった。

――死亡フラグなのかこれは!

「そ、そろそろ開けますねー……」

俺は蓋をそっと、開けた。

その瞬間――

「なんだこの匂いは……! 」

思わず叫びたくなるような匂い。

俺は蓋をそっと閉じた。

蓋があたるカコンという音が鳴った。

「えー湊斗ちゃん、何で蓋閉じちゃったの」

飴さんが不満げな声を出す。

「……飴さん、匂い嗅いでみますか」

「えっ……」

真っ暗で表情が全く見えないが、おそらくぎょっとしたのだろう。

「いや、遠慮しとく」

そうですか。

ここは勇気をふりしぼって、蓋を開けるしかない。

「ていやっ! 」

むわん、とした空気、匂いに部屋が満たされる。

「ケホッケホッ」

ライトさんが思わず噎せる。

強烈だ。

どんな毒物より強烈な気がする。

「これは……」

さすがのセイテンという少年も驚いているようだ。

「ひ、ひほりひっこずつほくざいほ、ほっへくらはい……」

鼻を摘まみながら言ったので、もはや人間の言葉に聞こえなかった。

「誰から取るのー? 」

ライトさんが質問してくる。

解読出来たんですか。

ってか復活早いですね。

「じゃ、じゃあ、飴さんから」

「あ、あたし?! 」

「飴さんいけー! 」

「飴々いけよ」

「飴さんならいけますよ! 」

みんなから応援される飴さん。

飴さんふぁいと。

「じゃあ一番いきまーす」

俺の番じゃないのに何故かドキドキする。

「うわっ、なにこれ。ツルツルしてる」

えっ、なにこれ長いと実況する飴さん。

「早く食べてください」

「い、いただきまーす」

ゴクリと唾を飲み込む音がする。

「うわっなにこれまずい! 」

飴さんは食べた瞬間にバタンとドアを開け、部屋の外へ飛び出してしまった。

「……」

訪れる沈黙。

「部屋の電気、付けましょうか」

「待ってー。俺も食べるから」

ライトさんが意味の分からないことを言っている。

「ライトさん正気ですか」

「うん」

いただきまーす、とライトさんは言い、鍋へと箸を突っ込んだようだ。

「うっわ……これ……は」

ドサリと何かが倒れる音がした。

俺は慌てて電気を付ける。

倒れていたのは……。

――ライトさんだった。


部屋へとライトさんを運んだ俺たちは客間へと集まっていた。

飴さんは食べたものを即座に吐き出したので、何ともなかったようで。(ただ単に鈍感なだけかも知れないが)

ライトさんは幸い気絶しただけで、命に別状は無さそうだ。

しかし、何を入れればライトさんが倒れるような味を出せるのか。

「あなたたちは一体何を持ってきたんですか……」

「せんべい」

と飴さん。

「酒」

とセイテンという少年。

「牛肉」

とキョウコという少女。

せんべいって何ですか、せんべいって。

酒ってもはや液体……。

「どうして真面目な食材を持ってきているのが一人だけなんですか」

飴さんとセイテンという少年はだって、と言いたげな顔をしている。

「そう言う湊斗ちゃんは何を入れたの? 」

飴さんが聞いてきた。

「春雨です」

えっ、という顔をみんながする。

「えっ。春雨って真面目な食材じゃ……」

「あたしにはわかんない」

せんべいを持ってきた飴さんは何故か口を尖らせながら言う。

「ライトさんって人は何を入れたんでしょう? 」

ふと、キョウコという少女は疑問を口にした。

そういえばそうだ。

「気絶してるから聞くにも聞きようが……」

「でもまあ、楽しかったからいっか」

飴さんはやけに上機嫌だ。

さっきまでは拗ねているかと思っていたのだが。

「次はチョコ持ってこようかな」

飴さん、貴女はみんなを殺す気ですか。

「湊斗ちゃん、今度いつ闇鍋……」

「やんねえよ? 」

「湊斗、ライトは大丈夫なのか」

「お前らの方が大丈夫か」

「えーやろうよ」

「やらねえからな? 」

「でもまたやりた……」

「だーっ!もう!お前らさっさと帰れええええええええええっ! 」


何とか飴さんたちを追い払った俺は、あの謎の物体Xを鼻を塞ぎながら何とか片付け、こたつで一息ついていた。

そういえば、気絶しているライトさんは大丈夫だろうか。

気になって部屋を覗くとスースーと寝息をたてているライトさんがいた。

俺はドアを開け、部屋の中へと入って、そっとベッドの側まで近寄る。

「ライトさんごめんなさい……」

俺は寝ているライトさんの頭を撫でようと手を伸ばすが、触れる直前で手を引いた。

俺はいつもライトさんを"見ている"ことしか出来ない。

ライトさんには守られてばっかりだ。

史上最強のガードのハズなのにおかしいな、と思わず苦笑する。

情けない。

俺は寝ているライトさんを見つめ直す。

「いつも、ありがとうございます」

俺は寝ているライトさんに微笑み、そっと目を閉じた。


朝は必ずやってくる。

望まなくとも必ずやってくる。

朝日が部屋全体を明るく照らし出す。

鳥の囀ずりがどこからか聞こえる。

窓の外へ視線を向けると、葉を落とした裸の木々が冬の風に揺らされていた。

布団から少しでも体を出すと、冬の冷たい空気が服を通り抜け皮膚に突き刺さる。

手先は既に冷えきっていて、少しばかり指先の感覚が無くなっていた。

寒いが、我慢して布団から上半身を起こす。

背伸びをするとボキボキと骨が鳴った。

鳥の声でも聞こうかと耳を澄ますと、スースーと何故か息遣いが聞こえる。

ふと視線を下へ向けると、そこには――


みなとんが寝息をたてて寝ていた。




fin.









おはこんにちばんは

本格的に寒い日は20分以上布団から抜けられない依祢です


冬ですね

寒いですね


冬といえば鍋

ということで今回の湊斗のお話は「闇鍋」がテーマになっています


何故こんな小説を書いたのか、私自身未だ分かっておりません

(因みに一週間ほどで書き上げました)


初めての長編?

長編なのか、これは


メール画面で、「メモリーが254KBオーバーしています」と保存に拒否られながらも頑張りました


今回の小説もほぼ深夜に執筆しているので、かなりテンションがおかしいところや、表現がおかしいところがございますがご了承くださいませ


余談ですが、冬の所為か直ぐにドライアイが仕事をしてくれます

目がシバシバします


今年こそはインフルエンザにかかってみたいです(黙



今回も最後までお読みいただきありがとうございました



依祢


P.S.

気が向いたらまた書こうかな



追記:ライトさんが鍋に突っ込んだ食材は大根とイカスミです

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