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柊、翼と向かい合って座り、あったことをそのまま話した智樹は、二人と、隣に座る紗帆の顔を見た。
柊のところは普通の家だ。病院ではない。柊は確かに医者なのだが、一体どこの医者なのかという疑問はまだ答えが出ていなかった。
「オレにあんなに年の近い弟がいた記憶はないんです」
「オレにもないな」
頷きながら言う柊を翼が睨んだ。それに気づいてごまかすように苦笑いしながら柊はまあまあと翼をなだめる。
「とりあえずそこからだな。ちょっと待ってろ、調べてみるから」
「え?」
あまりにあっさりという柊に智樹は驚いて顔を上げた。まさか実の親に連絡を取るのかという不安があった。それを読み取って柊は軽く笑う。
「安心しろ、そんな直接聞いたりしないから」
言いながら立ち上がった柊は少しそこから席を外してすぐに戻って来る。もう分かったのかと思いながら待つ智己と紗帆の期待を裏切って柊はふうと息をつくと全然関係のないことを口にした。こんなにはやく分かるわけはないのだと智樹と紗帆にも分かっている。
「智樹の話を聞くと、その雄偉という子は智樹のことを知っているってことだな」
「両親が話したんじゃないんですか」
智樹の言葉に柊はあっさりと首を振る。
「お前の実の母親はお前という子供の存在の記憶が全くない。その状況で父親の方も口にするとは思えない」
きついことを柊はさらっと言う。それでも、それは智樹が既に受け入れている事実だ。智樹はただ頷いた。
その時、どこかで小さくピルルル、と呼び出し音がなる。翼が携帯電話のようなものを出しながら
「今忙しいのよ」
などと言いながら切ってしまおうとする。が、少し指を止めて首を傾げた。
「柊兄さっき誰に電話した?」
「へ?」
言いながら翼の手元をのぞいた柊は慌ててそれを取り上げた。
「切るな切るな。何でお前に連絡寄越すかな」
ぼやきながら柊がそれを取る。小型のテレビ電話のようだった。と言うより、テレビ電話のようにして使っているのが智樹達には見える。
「もしもし」
相手の声は聞こえない。ただ、翼ではなくて自分が取ったわけを言葉少なに言いながら、その後はただ頷いている。終話にした後、柊はそれを翼に返しながら智樹達に目を戻した。
「分かったよ。その子は神谷夫妻……智樹の実の両親の養子だ。智樹の一つ年下。智樹が養子に出た一年後に養子縁組をしている。施設から引き取られたみたいだ」
「養子?」
智樹はそれだけ言うと固まったように柊を見つめている。紗帆は呆然と柊を見つめた。
「何それ……」
それ以上言葉が出てこない二人の代わりのように翼が憤然とした声を上げた。
「自分でお腹痛めて産んだ子を育てられない人がどうして養子なんか引き取って育てられるのよ。何でそこに養子縁組の許可が下りるのよ。どういうこと、お兄」
翼の剣幕に柊はたじたじになりながら翼をなだめる。
「まあ落ち着け。お前が怒るな、話がこじれるから」
余計な一言を口にしながら、柊は頭をかく。柊だって翼と思いは一緒なのだ。
「智樹の代わりの子が欲しかったらしい」
「は!?」
紗帆と翼の声が揃う。柊のせいではないのだが、自然と柊が問い詰められるようになってしまった。これが他の相手なら柊も一喝するだろうが、相手がこの二人ではそれもできない。と言うより、柊相手に詰め寄るのも珍しいが。
「智樹がいなくなって何カ月したら母親の方が、自分には子供がいるのに、どこに行ったって言い出したらしいんだ。年だけ覚えててな。ずっと、智樹がいなくなった年から成長はしない子供だ」
柊の言葉にむっとしたように黙り込んだ紗帆と翼を目の端に捉えながら柊は智樹を見る。
「それでも何で養子にできたんだかな。母親がその調子じゃなおさら普通なら無理なはずなんだが」
重い沈黙が降りる。憮然とした様子の紗帆と、不思議な顔で固まったままの智樹。
智樹が沈黙を破った。
「その養子に来た子が何で知っているんでしょうか」
「うん」
それは柊にも分からない。ただ、智樹の実の親が話したとはどうしても考えられないのだ。
突然勢いをつけて翼が立ち上がった。驚いたように顔をあげる三人に、翼はどこか不敵な顔を向けた。
「だったら本人に聞いてみよう。神屋雄偉をつかまえに行こう」
「はぁ!?」
素っ頓狂な声を揃えてあげる。突拍子もないことを言った翼はもう行く気になって荷物を手に持っている。
「お兄、車。ほら、智樹、紗帆ちゃん、行くよ」
二人の腕に自分の腕を絡めてぐいぐい引っ張って行く。柊はやれやれと言いながら車のキーを取って指に引っかけてまわした。




