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ヘルメス  作者: 捺耶 祭
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古泉 忍-7-

「あーあー、どーすんだこれ」


 パイプに付着していた土ぼこりや、老朽化のためささくれ立っていた塗料、加えて赤錆。これらのせいで俺の制服は浮浪者のボロ同様の体と成り果てていた。


 家だって取り立てて裕福なわけじゃあねえのに、これじゃあ小遣いは当分ないな。そんなことをのんきに考えていたら、やっとこさつかさが校庭まで追いついてきた。


「おせえっつーの」


 俺の計画は今のところ順調に進んでいる。計画といったってさっき即興で思いついた計画だ。


 予定はだいぶ繰り上がって、かなり急ぎ足の計画だが、俺は今日の今から日野つかさと一対一で話し合い本当の友達になろうと思う。


 しかし、つかさは問答無用でその機会を潰しにかかるだろう。だから、俺はつかさと一対一で話すことができる状況を作ろうとしているのだ。


 何でこんな計画を思いついたかと、その原因はつい数分前のことになる。


 俺は日記帳を持っている。革とキルトでできたお洒落な体装をしているため、男の俺がもつには恥ずかしく、あまり人目には晒せない。


 この日記帳が他人に見せられない理由がもう一つある。


 この日記帳は常日頃俺の思っていることが細かく書かれているのだ。もしこの日記帳を他人に見られたりしてしまったら俺の快活かつノリのいいキャラという設定が、人間観察好きの根暗に変わってしまうかもしれない。なんてったって目立つ外装だ。見つかったら無断で見られる可能性は低いだろうが、万が一ということもある。


 だったら学校に持ってくんなという話なのではあるが、思ったことはすぐに書かないときがすまない質なのだ。どんなに忘れがたいと思っていたヒラメキも、気がつくと忘却の彼方にあるのが人間の性質だ。だから俺は出来るだけ仔細に印象の強い出来事を書き留めている。


 つまり、この日記帳にはリアルタイムで俺の思ったことが書かれているということをいいたい。


 「おかしい」と思ったのは昼休みに、見知らぬ女子生徒___西野しおりがつかさに話しかけているところである。


 はじめはどっか違うクラスから旧知の友人(つかさという人間を知っている俺から見ればありえないことだが)か委員会の用事とかで学年の違う生徒がたずねてきた程度のものだと思ってた。しかし、女子生徒は話し終わった後つかさの隣に平然と座ったのである。それだけじゃない、つかさはそいつと話すとき俺と話すときのようになんのつくろいもない言葉でしゃべってた。


 これは事だと思って授業が始まるなり日記帳を開いて起こった出来事を書き込もうとすると、見知らぬ名前___西野しおりが書き込まれていることに気がついた。ここ2~3日は西野しおりに対しての考察しか書き込まれていないのにもかかわらず、俺にまったくその記憶がない。


 一瞬、おかしくなっちまったんじゃあないかと思ったが、もっと信じられないことが書き込まれていた。


 記憶を消し、願いをかなえることのできる銃。


 そんなものについて詳しく書かれたページと、つかさがそれを持っているという事実。最後に一行『信じられないから、記憶を消されてみることにする。もしこの文章を見ておかしいと思ったら、お前の記憶は消えている。』


 いろいろと状況が読み取れなくなってすべてのページを読み返してみると、どうやら答えが見えてきた。この学級の二人の転校生のうわさ。記憶を消すことのできる銃。日野つかさ。西野しおり。そして、この状況で、俺がやらなければならないこと。


 古泉ジンの目標を達成するには時間があまり残されていないことは簡単に予想できた。つかさに記憶を消されてしまう前に、やってしまわなければならない。


 今のところ計画は順調。教室でのひと悶着だって即席とはいえ実際は結構、頭を使った。教室でふたりになった瞬間を狙って撃たれることはすでに予想していたから、あらかじめつかさのことを「転校生」と言っていた川原を借り物を返すことを口実に教室に入れた。すると、案の定つかさのヤツは机に手を突っ込んで脂汗をかいてあがる。川原をつれてこなかった合のこと考えると脂汗をかきたいのはこちらのほうだ。そんな内心を押し殺して川原と何気ないやり取り。そんでもって、完全に教室内でふたりきりになる前に窓のほうに移動すれば、まああいつのことだ、撃てないだろう。人の命を奪うなんて大それたことが出来る人間ではない。それが単なる可能性であったとしてもだ。


 なんだかんだであまちゃんだからな、あいつは。


 後は度胸の問題だ。


 配水パイプを伝って下に降りる。窓際で胸ぐらを掴んでゼロ距離で発砲してから教室に引き戻すことをつかさが考えるであろうことは予測できた。だから、シンプルに考えて後ろに逃げたのだ。

 

 地上15m以上のところから滑り落ちるどうこうと心配より、これが一番賢明なのだとどこかで悟った…。と、いうより、無茶をしたくなってしまったのだ。


 これがつかさとの最後のコミュニケーションになるかもしれない。そう思うと「青春したくなる」というか、この刹那をより楽しみたいと思ってしまうのだった。それが、古泉ジンの目的なのだ。


 そして今、あいつが俺のことを追いかけてくる。この距離だ、体力では確実につかさの上を行く俺が追いつかれるはずはない。今日は商店街の祭りということもあって人通りも多い。人目を気にするつかさに撃たれることはまずないだろう。目的地までの距離は1kmといったところだ。

「ちゃんとついてこいよ、つかさ」


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