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ヘルメス  作者: 捺耶 祭
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日野つかさ-17-


 つかさは、前からの衝撃に耐えかねるように倒れた福森文が地面にふれる前に、間一髪でその体を抱き上げた。


「結構残酷なことしますねっ?つかささん?」


 それはいつものように、さも当たり前のようにいつの間にか背後に立っていた。


 どの行為に関しての残酷なのか。つかさには記憶を消して気絶させる行為に対してヴァンが言及したものと受け取った。


「何いってる。記憶はさっきここに来た生徒のだって同じように消しただろ」


 そう言うつかさにヴァンはヤレヤレといった風に肩をすくめて見せた。


「さっきの人は男だったじゃあないすか。つかささんは異性から体育館裏とか人気のないところに呼び出されたらどう思います?」


 つかさは無表情のまま自分の腕の中で気絶している福森文を一瞥した後、ヴァンに答える。


「ヴァンお前が言いたいことはなんとなくわかる。しかしそれは、呼び出された人間が呼び出した人間のことを好きな場合だろう。告白されると思ってここにきても、好きでもないのに呼び出されたら迷惑なんじゃないか」


 ヴァンはつかさの前にたって、じいっとつかさの眼の奥をのぞいた。しかし、数刻とたたないうちにあきらめたようにため息をつく。


「はあ、そーですか。でも、もしその人がつかささんのことすきだったら?」


「そんなわけないだろ。親しく話したことだって少ない。同じクラスで毎日顔を合わせてる以外、そもそも接点がない。好きになられる要素はないだろう」


 ヴァンはもう一度あきらめたようにため息をついた後、にっこりと微笑んだ。


「もういいですよ。わかりました。今回はボクの負けです。でもつかささん?つかささんはもっと残酷なことをしようとしてます」


「なんだ」


「次の授業はきびしいと定評のある多田先生ですよ?ここでこの人を寝かしといたら遅刻しちゃいます。体育館裏で気絶してましたーなんて信じてくれますかねっ?」


 つかさは福森文を起こそうとしたが、何度試しても起きず、やもえず保健室に運ぶことにした。急病で保健室で休んでいるとわかればひとまずお咎めはないであろう。つかさは保健室の佐々木先生に福森は貧血で倒れたらしいと説明した。信じてもらえるかと心配したが「女の子はいろいろ大変だから」と案外簡単に納得させることができた。


「ねえつかささん?」


 保健室を出ると、リノリウムの長い廊下にひとりヴァンがたたずんでいた。非日常的な服に身を包んだ少年が屋外から差し込んだ陽光だけが弱く照らす廊下にたたずむ。それはひとつの現代芸術のようにも錯覚する一場面。


「なんだ?」


 つかさは落ち着き払った声で返答する。


「行かなくてよかったんですか?よびだされてたんでしょ?」


 それは福森文をここまで運んだ労働に対するものか。またはヴァンの問いかけに対するものか、つかさは大きく一度ため息をついた後教室に歩みを進める。


「なにで呼び出したのかは知らないが、あいつの記憶を消すのはまだ先だ。オレにも予定があるんでな」



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