日野つかさ-13-
「んっ…」
日野つかさが眼を覚ましたのは、いつも家を出る時間の2時間も前のことであった。
まだ5時を回ったばかりであると言うのに既に空は白み始め小鳥のさえずりが聞こえる。
1時間後には目覚ましもセットしてあるからもう一度眠りにつこうかとも考えたが、つかさは思考することにした。
今日は夢を見た。意味のわからない夢であった。
ある男と子供が一緒に何かを求めている夢。
ヴァンとあってはや一週間、シスターの記憶を消して六日、つかさは同じような内容の夢ばかりを見ている。
それだけ思い出してつかさは疑問に思う。
夢とは記憶の整理のことを言うらしい。だから必然的に夢は今自分が悩んでいることや思っていることが多く見られるのであると言うことをつかさはテレビで聞きかじっていた。
しかし、つかさにはそんな夢を見るような原因の検討がまったく付かなかった。
もうひとつおかしいと思えるのはその夢と前日見た夢に一貫性があると言うことだ。
果たして夢といのは物語のように一貫性があっていいものなのだろうか。
つかさは年季の入った部屋の天井の木目とにらめっこしながらだいぶ思案していたがこれと言った答えは出せなかった。
「なーにむずかしいかおしてるんですかっ?つかささん?」
つかさの視界を追い尽くしたのは満面の笑顔を浮かべたヴァンの顔であった。
「顔が近い」
つかさは無感動に眼をそむけてヴァンをよけるようにして立ち上がる。
「もしかしてぇー。しおりさんの夢ですか?いつも一緒だったから気にならなかった幼馴染がこのごろかわいくみえる…みたいな」
「ちがう」
「もしかしてー。えっちな夢とかですか?つかささんもーお・と・し・ご・ろ!ですしねっ?」
「ちがう」
朝夕と同じテンションでそばにいられるというのは苛立ちを覚えるものだ。
つかさは無視して背を向けたまま制服に着替えた。
「わかりませんよね。夢なんて覚めてしまえばほとんど何も覚えてなんていられないんですから」
ヴァンは静かにそういった。つかさはもう一度夢についての思考をめぐらす。
ある男と子供が一緒に何かを求めている夢。
それだけがわかっていた。しかし、男の顔も子供の容姿もなにを求めていたかも思い出せない。
夢の概要だけが漠然とそこにはあった。そのとき、ふと疑問がわく。
「ヴァン。お前も夢を___」
つかさはそれを問おうとしたが最後まで口にはしなかった。
そこにはヴァンはいなかった。