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ヘルメス  作者: 捺耶 祭
10/45

日野つかさ-5-

 家に帰ると、つかさは自室へと直行した。


 『家』といっても養子になった日野家の家だ。

 

 住宅地にあっては異様な広さの和風家屋。ここにつかさは老いた養父と二人で住んでいる。


 子供はなく、夫婦二人ですんでいたころに養子にはいったのがつかさであった。

 

 義母は六年前に病気で亡くなってしまっている。五年近く一緒にいたが、つかさの記憶にはやさしかったという思い出しかない。


 具体性に欠けるおぼろげな思い出だが、『他人を信じることができなくなる』以前の幼いつかさは、まっとうに人の優しさを享受できたということを証明する貴重な記憶である。


 義父は父といっても祖父とほども離れていている芸術家で,名前は日野宗斎という。


 絵や彫刻のほかにもデザインも手がける職人名かたぎの人である。


 つかさは、養子になったその日から義父を「宗斎さん」と呼び、敬語を使っていた。


 父さんやおじいちゃんとは呼ばなかったのだ。


 それは、捨てられたショックでそれまでの記憶を失ってしまっているつかさの心でも 無意識下で本物の父とそれ以外を区別してしまっているのだろう。


 宗斎はそう思いつかさにその呼び方を敢えて訂正させなかった。


 部屋に着く。つかさの部屋は二階の一室にある西日のさしこむ部屋であった。


 スクールバッグを無造作にベッドに放り投げ,トランクを床に置いてあけようとしてあることに気がついた。


 「………」


 鍵がかかっている。


 どうしようもない。そう思ってつかさはドライバーを義父の工具室から持ってこようとした。


  ___そのときだった。


 「まだ開きませんよ」


 その子供はつかさの背後にいた。


 まるで元からそこに在ったかのように机の付属品である回転式のいすの背もたれに手とあごを乗せて足をぶらつかせていた。


 「さっき聞きそびれてたんだ。お前何者だ」


 つかさはひどくおちついていた。さもそこにその子供がいるという事実を了解していたかのように。


 「ヴァンです。ヴァン=ジオル=ヘルメス。今世紀末いっちばんカッコいい名前です

さっき自己紹介しましたっ」


 21正規は始まったばかりである。世紀末を語るには早すぎたが、それでもなおその子供は自慢げにその名を語った。


 つかさは「フッ…」と鼻で笑った。


 その子供____ヴァンがさっきどうやって消えたのかとか、ここにどうやってきたのかというのは今のつかさにとっては無意味なことであった。


 むしろ,その存在が非凡であるほどにつかさの胸は高鳴った。


 変なところで切れますけど、書き溜めてる分を何日かに分けて連投します。

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