プロローグ
かつて人類によって高度な文明が築かれていた〝エス〟は、大規模な戦争と自然破壊の末に森は枯れ海は干乾び、死滅の一途を辿っていた。多くの動植物が姿を消し、人類もまた絶滅へと向かった。
いつしか、どの物質にもその構成に必要とされる元素〝精霊〟を吸って成長する生命体〝邪鬼〟がエスに蔓延った。ガグルにエレムを吸い取られた物質は、水のように流動する白灰色の砂〝レゴリス〟と化してしまう。エスの大半は、レゴリスが堆積して出来た〝塵の海〟に侵食され、人が住める場所が減り続けた。
人々はエスを見放し、僅かな期待を胸に新天地を求め次々に空へと旅立っていった。エスに残った少数の者たちは各地にコロニーを造り、ごく限られた酸素と水、食料を糧に細々と虚ろにただ生き続けていた。
ガグルの体内には、消化しきれずに蓄積したエレムが結合して結晶体となった〝精霊石〟と呼ばれる石が存在する。
その石は、霊感を持つ者が手にすることにより、水や炎、土、酸素、雷などといった物質やエネルギーを発生させることができた。
エスに残る人々はガグルを狩ってパイを採取し、霊感のある者たちに託すことで生きるために必要な酸素や水を得た。その結果、パイを操る者たち〝パイマー〟が各コロニーの権力を握ることとなった。
パイマー同士は、コロニー所有権をめぐって争い合った。星が死に絶えようとしているにも関わらず、その上で人は飽きる事無く戦を繰り返していた――
***
≪死なないで、テトラ。もうすぐ陸に着くから・・・。≫
傷ついた銀色の海竜は、自身の口の中で眠る小さな命に心の中で語りかけた。
重たく圧しかかるレゴリスの波が、海竜の体力を無慈悲に奪っていく。
死滅の時が、刻一刻と迫り来る。
あと少し。あと少しでいいから、持ち堪えてくれ。
彼女を陸地に送り届けるまで、どうか〝死〟よ、待ってくれ!
自身の体が着実に弱っていくのを感じながら、海竜は切に願った。
暗闇の引力に抗い、渾身の限りに塵の海を泳ぎ続けた。
その大きく見開かれた青い目は、遥か前方に広がる荒涼たる赤い大地を捉えていた―――
アクラシアシリーズ第一章~カミツレの花~は登場人物が頭に残っていかない、組織図がつかめない等、読者に大きな負担の掛かる文章になってしまったため改稿して新たに連載することにしました。主人公の性格も大きく修正します。どこまで改善することができるかわかりませんが、読者側に立ったつもりで書き直します。ご意見ご感想をお待ちしております。