↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

まやかしの血判(過激表現消去版)

作者: こてつ
掲載日:2026/10/13





 ハロウィンの賑やかな夜の街


 俺は1人の身売りの女と出会った




「そこのお前。いくらだ?」

「……いくらが。妥当(だとう)でしょうか?」



 芳(かぐわ)しい香りが鼻先を掠める

 どうやらこいつはまだ一度も暴かれてないようだ


 久々に味わえそうな新鮮な血液の芳醇な香りに


 吸血鬼の俺は声をかけずにはいられなかった




「お前みたいな無垢な女が何故身売りを?」


 握らせた金は通常だと倍以上のもので、ホテルで互いにシャワーを浴びた後に問うと


「………上司と、恋人関係でした。…そう思っていただけでしたが」


 どうやら男に騙されて借金苦の末に職まで失い路頭に迷っているらしい


「ほう。……それで、最初に買ったのが俺だったと」

「………はい」


 消え入りそうな声を絞り出してバスローブの裾をぎゅっと握る女


「……怖いか?」

「……はい」


 小さく震える指先を握った

 それは小さくて冷たい


 あぁ。これが無垢の人間の肌か

 さらさらとした手のひらに

 傷ひとつない腕


 そしてその先に細い肩


 白い首元は噛んだら甘美なエキスがよく映えそうだ


「安心しなさい。俺との逢瀬も、今日この時も。今のお前にしか残らない」

「………はい?」



 何も知らない人間の女は大きな焦茶色の目をくりくりとしている


 手を引っ張り目の前へ

 クリームベージュの髪がさらさらと溢れる



「名は?」

「………ひかる。です」


「ほう。……ひかる。俺は紫炎(シエン)。今夜は快楽に溺れてしまおう。共にな」




 腰を引き寄せ、ぽってりとした下唇をパクりと頬張る


 その唇は、中々に甘く


 そしてしっとりとしていた


「はぁ。美味そうだなひかる」


 赤紫色の目を光らせて


「さぁ。その首筋からお前の滴る憂(うれ)いを頂こう」


 尖(とが)る牙のその先で



 ガブリと突き刺し



「っ……ん!!!」


 ぢゅるぢゅると滴り落ちる血液はまるで


「はぁ。……お前の体液は柘榴(ザクロ)の様だな。」


 真っ赤な血が口内に染み渡り


 飲み込み体内へ


「うっ、あっつい」

「っ。はぁ。……それは毒がよく回っているということ。さすればお前は今宵の出来事も。全て幻想となるだろう」


 吸血鬼の牙から入り込む毒は身体を熱くさせ、そしてまやかしになる


「美味い……あぁ。ひかる。良かったな。お前の初めては快楽しか感じないだろう」



 それにしても。なんて美味い血液なのだ

 長命種の俺が少し啜(すす)っただけでこんなにも昂(たかぶ)るとは


 ひかるの肌は柔らかく。ちょっと力を入れただけでツプリと音を立てていた


 なんて甘美で


 なんて美しいのだろう



「ん………きもち」

「あぁ。そうだな」



「やだぁ。なんか……へ、ん」



 ひかるの血液の美味さに自身も抑えられない

 なんでこんなに……不思議な感覚だ。まるで度数の高い果実酒の様だ



「もっと高みへ。……共に行こう」




 その秘事(ひじ)は、濃厚で。美味で


 激しく心が揺さぶられた



 そんなこと生きていて初めてだった



「もう一度聞こう。欲しいか?」

「はぁ。はぁ。…………はい」



 涙ながらに伝えてくる惨めな姿に


 俺はなんともいえない興奮を覚えていた



 容赦なく。夜の更けていく様は


 鬼が貪(むさぼ)る熱へと溶けていった





 見事にくたばったひかるからは僅(わず)かな正気が感じ取られる


 危なかった。これ以上続けたら一晩で壊してしまうところだった


 吸血鬼の吸血と共に行う交わりはまやかしに包まれ、人間は夢でも見ている様に感じるそうで



 俺とひかるの初めての逢瀬も全てが靄(もや)に包まれていくだろう







 それから少し日を置くと



「………お前、いくらだ?」

「……いくらが、妥当でしょうか?」



 誰にも………いや、俺以外の誰にも手をつけられていないひかるが同じ場所にいた





 もうそうなってしまえば、何度も



「………お前、いくらだ?」

「いくらが——」



 わかっているのに。やめられない

 まるで、あの時の深い味わいをもう一度。と全身が欲しがる様に


 どんどん欲しがり、貪欲(どんよく)に



 これは。食欲?

 それとも………




 今晩は絶対に吸わない——。吸うもんか。なんて思っていても



「あー。美味い」


 気がついたら口周りに濃厚な血液がべったりと張り付いている


 こんなに執着するつもりもなかった。何故なら人間は吸血鬼との逢瀬は全てまやかしになってしまうから


 なら、適当に頂いて。次に行けば

 そう考えていたのに


 俺は今夜もひかるの元へ向かってしまう


「…そこのお前。いくらだ?」

「いくらが妥当でしょうか?」


 もう何度この会話を交わしたのだろう


「お前の身体……いや、お前の存在は唯一無二だろう?」

「………えっと」


 戸惑うひかるの肩を抱き、ホテルへ向かう


 簡単に着いてくるひかるの細い肩に


 あぁ。むしゃぶりつきたい………





 簡単に暴かれるひかる



 また別の夜も



 どんどん濃厚になるそれは狂いそうなほど芳しく翻弄(ほんろう)されているのは互いなのかもしれない


 それくらい、のめり込んで


「はぁ。ひかる。お前はなんて美味いんだ」


 言う言葉の半分も理解できる訳ない

 だが、それすらも俺にとったら味付けの一つに過ぎなくて




 生きの良い魚の様に舞い踊るひかるは何度見ても、美しかった








 夜の帳(とばり)を何度も



 何度も



 何度も


 快楽=食事




 ここまで誰か1人に執着することはない筈だったのに




「あー。………ひかるは美味いな」


 飲めば飲むほど



「お前の血は、とろとろで。酔いそうになる」



 そんなことをしていたら




「あ、れ?」

「おっと……ふらつくか?」


 立ち上がった瞬間にベッドに倒れ込むひかる


 それを見て俺は………



 この人間もそろそろだな



 人間の血液はそう簡単に再生される物でもないし、これ以上飲めば……いや、もう。既に……


 なんて、考えていた





 そうやって、蜜月を何度も続けた夜



「さぁ、俺は帰るから」


 これで最後にしなければ


 この人間はもう飲めるほど血液は残っていない



 札束を渡そうとしたら



「はぁはぁはぁはぁ………あの、紫炎(シエン)さ、ん」


「………なんだ?」


 掴まれた手を握り返し金を渡した



「また……会えますか?」

「……それは」


 何も言えなくなった


 もう一度、この契約を結ぶ……とでも言いたかったのだろう

 (抱かれたい)ただそれだけなんだ


 買ったのは俺だが——



 でも、この人間の脳内はそういう意味で言ってる訳ではないのは容易に理解できた




「……もう充分だ」


 充分いただいた。寧ろ、飲み過ぎた


 だけど……


「えっと………お金とか関係なくて!」

「………これ以上は死ぬかもしれないが?」


 優しく抱いてしまった今夜、ひかるは俺に依存している


「もっと………欲しいんです」

「…やめた方がいい」



「紫炎さん。………初めて会ったけど、好きなんです。おかしいですね」

「…………あー……本当に」



 意識がまだはっきりしてしまっているのは俺がこの人間、ひかるを亡き者にしたくなかったからかもしれない




「お前をハロウィンの夜に見つけて……こんなところで身を売るなどなんと甘美かと思ったんだ」

「……あの?……一体?」


 言っている意味がわからないのは当然


 何故なら脳内全てがまやかしに包まれているから



 でも……


「抱いて欲しいです」


「………それをしたら。もう。お前は——」

「いいんです」


 もう止める術はなかった



 押し倒して、抱きしめ



 そして——



 吸って



 綺麗なもんじゃない




 汚くもないが





「もっと吸ってください」

「吸い尽くしてやる」



 言葉通りに


 吸って


 飲んで…………



「お前は何を欲する?」


「幸せだった日々」




「………っ。くそっ!」




 これ以上吸ったらダメなのに……


 何にも知らないくせに、なんて事を……



 生き血を全て吸い尽くし人ならざるものへなっていくひかるに


「あー。……美しい」








 とある路地裏にひっそりと、女性物の服がぽつんと捨て置いてあった


 そう。毎日ひかるが立っていたあの場所………






 そこに1人の男、紫炎(シエン)


「また、こうやって1人になるのか……」


 煙草に火をつけて燻(くゆ)らせて空を見上げると、汚い曇天(どんてん)が広がっていた


 いつまで経っても変わらない愛し方しか出来ないな………




「あー。……美味かった」





end

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
素晴らしいとしか言いようがない
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。