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竜殺しの辺境伯なのに、竜の娘を守りたいそうです

作者: momotarou
掲載日:2026/05/05

竜殺しのアーヴェル・ノルヴァルト辺境伯は、今日も部下に怒鳴り散らしていた。


「まだ竜の子孫は見つからぬのか。お前たちは無能か」


北の城の執務室に、低い怒声が響いた。


アーヴェルは、漆黒のマントをまとっている。

竜の皮で作られたと噂される、不吉なマントである。


鋭い目つき。

冷たい声。

近づく者すべてを威圧するような気配。


そして彼は、かつて最後の銀竜を討ったとされる男だった。


人々は彼を、竜殺しの辺境伯と呼んでいる。


「なんとしても見つけねばならぬ……」


アーヴェルが低くつぶやいた時、扉の外から慌ただしい足音が近づいた。


「辺境伯様!」


伝令が膝をつく。


「竜の子孫と思われる娘を見つけました」


アーヴェルの目が、わずかに見開かれる。


「どこだ」


「王都、エルフォード伯爵家の令嬢です。名はリリアナ」


アーヴェルは、しばらく黙った。


そして、かすれるように言った。


「……娘であったか」


その声は、怒りではなかった。

十年探し続けたものを、ようやく見つけた者の声だった。


 *


リリアナ・エルフォードは、伯爵家の娘として育った。


正確には、祖父であるエルフォード伯爵の屋敷で育てられた。


母は若い頃、愛する人と駆け落ちし、リリアナを生んだのだという。

けれど、父の記憶はない。


母も、リリアナが幼い頃に亡くなった。


ただ一つ、母は何度も言っていた。


「お前には、竜の血が流れている」


それは、優しい声ではなかった。

恐れと、祈りが混じった声だった。


「知られてはなりません。絶対に。人に知られれば、お前は王家に殺されます」


幼いリリアナには、その意味が分からなかった。


けれど十三歳の春、彼女は知った。


背中が熱を持ち、皮膚の奥から何かが押し出されるような感覚がした。

鏡の前で衣を脱いだ時、そこには小さな白銀の羽があった。


月光を集めたような、薄く美しい羽。


リリアナは声も出せず、ただ震えた。


それから彼女は、侍女を遠ざけるようになった。

着替えも、湯浴みも、できるだけ一人ですませた。

背中の開いたドレスなど、絶対に着なかった。


部屋から出ることも少なくなった。


祖父母は、そんなリリアナを心配していた。


「リリアナ。お前が人前を好まぬのは分かっている。だが、社交界のデビューだけは出てくれぬか」


祖父の声は穏やかだった。


祖母も、リリアナの手を優しく握った。


「伯爵家の令嬢として、一度だけでいいの。どうか、顔を見せてちょうだい」


リリアナは断れなかった。


祖父母は、いつも優しかった。

母を失ったリリアナを、孫として守ってくれた。


だから彼女は、うなずいた。


「分かりました、おじい様、おばあ様……」


地味なドレスにしよう。

髪飾りも控えめに。

誰の視線も集めなければいい。


そう思っていた。


 *


同じ頃、北の城に新たな報告が届いた。


「リリアナ嬢が、王都の社交界でデビューするとのことです」


アーヴェルは立ち上がった。


「舞踏会に行くのか」


「はい」


「王家に奪われるわけにはいかぬ」


彼は漆黒のマントをつかんだ。


「私も王都へ向かう。すぐに準備しろ」


部下は青ざめた。


「辺境伯様が王都へ行かれるのは危険です。王家は今も、あなた様を警戒しております」


「分かっている」


アーヴェルは短く答えた。


「だが、私が行くしかない」


「何をなさるおつもりですか」


アーヴェルは窓の外を見た。


北の空は低く、雪雲が山を覆っている。


「助け出す」


部下は、しばらく返事ができなかった。


「……竜の子孫をですか」


「そうだ」


アーヴェルは、漆黒のマントを羽織った。


「彼女を守るために、この地へ連れてくるしかない」


 *


王都の夜会は、まぶしいほど華やかだった。


高い天井からは無数の灯りが下がり、白い大理石の床には貴族たちの影が揺れている。

音楽が流れ、笑い声が広間に満ちていた。


リリアナは、その隅に立っていた。


薄い灰色のドレス。

飾り気の少ない髪。

背中を完全に覆う上着。


目立たない。

誰にも見られない。


そう願っていたのに、不意に視線を感じた。


広間の入り口に、一人の男が立っていた。


黒髪。

鋭い灰色の瞳。

背の高い、冷たい雰囲気の男。


けれど彼を最も目立たせていたのは、肩から流れる漆黒のマントだった。


リリアナの背中が、ぞくりと震えた。


まるで、体の奥に眠る血が反応したようだった。


男もまた、まっすぐリリアナを見ていた。


怖い。

そう思うのに、目をそらせなかった。


彼が近づいてくる。


「少し、話してもよいか」


低い声だった。


リリアナは戸惑いながらも、うなずいた。


「はい」


「リリアナ・エルフォード嬢で間違いないな」


「……はい。失礼ですが、あなたは?」


男は一瞬だけ黙った。


「アーヴェル」


それだけ言った。


辺境伯とは名乗らなかった。


リリアナも、目の前の男が噂に聞く竜殺しの辺境伯だとは気づかなかった。


ただ、不思議だった。


彼のそばにいると、背中の熱が静まる。

隠している羽が、怯えなくなる。


「あなたは、王都の方ではありませんね」


リリアナがそう言うと、アーヴェルは小さく笑った。


「よく分かったな」


「空気が違います」


「空気?」


「北の風のような……」


言いかけて、リリアナは恥ずかしくなった。


変なことを言った。

そう思ったのに、アーヴェルは真面目な顔でうなずいた。


「君は、風が分かるのか」


その言葉に、リリアナの胸が跳ねた。


まるで、自分の秘密を見抜かれたようだった。


その時だった。


広間の空気が変わった。


王が現れたのだ。


その隣には、宮廷魔導士たちが並んでいた。

中でも老いた魔導士が、杖をつきながら広間を見回す。


そして、突然叫んだ。


「陛下。この場に、竜の気が満ちております」


音楽が止まった。


広間が凍りつく。


貴族たちがざわめいた。


「竜だと?」


「まさか、王都に?」


老魔導士の視線が、アーヴェルに向く。


「そこにいる男……そのマント、その気配。竜の力を隠しておるな」


広間中の視線がアーヴェルへ集まった。


誰かが叫んだ。


「竜殺しの辺境伯だ!」


リリアナは息を呑んだ。


この人が。

竜を殺したという、あの辺境伯。


けれど老魔導士は、さらに目を細めた。


「いや……もう一つある」


その視線が、リリアナへ向いた。


「娘。そなたからも、竜の気がする」


リリアナの血の気が引いた。


背中が熱くなる。


だめ。

ここで羽が出たら。


王の目が鋭くなった。


「捕らえよ」


兵が動いた。


リリアナの足はすくんだ。


その瞬間、アーヴェルが彼女の前に立った。


「触れるな」


低い声だった。


だが、その一言で兵たちは動きを止めた。


アーヴェルの漆黒のマントが揺れる。


次の瞬間、マントの下から黒い翼が広がった。


広間に悲鳴が上がる。


「竜だ!」


「辺境伯が竜になった!」


アーヴェルはリリアナを抱き上げた。


「すまない。説明は空の上でする」


「えっ」


返事をする暇もなかった。


窓が砕ける。

夜風が吹き込む。


アーヴェルはリリアナを抱いたまま、王都の夜空へ飛び立った。


黒い翼が風を切る。

地上の灯りが、足元で小さくなっていく。


リリアナは、ただ彼の胸元にしがみつくことしかできなかった。


初めて、異性に抱きしめられている。

それも、竜殺しと恐れられる辺境伯に。


怖いはずだった。


けれど、彼の腕は強く、乱暴ではなかった。


落とさないように。

壊れ物を抱くように。


リリアナの体を大切に支えてくれている。


竜殺しだと思っていた男の腕は、思っていたよりもずっと優しかった。

そのことが、リリアナを一番混乱させた。


彼の胸元から、規則正しい鼓動が聞こえた。


それにつられるように、リリアナの心臓も激しく鳴る。


これは恐怖なのか。

それとも、別の何かなのか。


リリアナには分からなかった。


地上で怒号が上がる。

矢が飛ぶ。

魔法の光が追ってくる。


けれど、黒い翼は夜を裂いて進んでいく。


王都が小さくなっていく。


リリアナは震えながら、アーヴェルの胸元をつかんだ。


「あなたは……私を殺すのではないのですか」


アーヴェルは空を飛びながら、静かに答えた。


「殺すために十年探したのではない」


「では、なぜ……」


「君を守るためだ」


その声に、嘘はなかった。


二人は、王都から離れた森に降り立った。


リリアナの足は震えていた。


アーヴェルは、漆黒のマントを外し、彼女の肩にかけた。


そのマントに触れた瞬間、リリアナは息を呑んだ。


それは冷たく、重く、けれど不思議と懐かしかった。


「このマントは……」


「竜の皮で作られている」


リリアナは身をこわばらせた。


アーヴェルは、彼女の反応を見て、静かに首を振った。


「奪ったものではない。託されたものだ」


「託された……?」


アーヴェルは、森の奥へ視線を向けた。


「十年前、王国は最後に残った銀竜を討つため、北の山へ軍を送った」


彼の声は淡々としていた。


だが、その奥に深い痛みがあった。


「竜は争う気などなかった。だが、竜とはあまりに大きな存在だ。羽ばたくだけで竜巻が起こる。息を吸うだけで、山が焼ける」


リリアナは黙って聞いていた。


「竜に人を害する意思はない。けれど人にとっては、それだけで災害だった。兵たちは竜を恐れ、攻撃した。銀竜は逃げようとした。ただそれだけで、軍は全滅した」


アーヴェルは自分の手を見下ろした。


「生き残ったのは、私だけだった」


森の風が、黒い羽を揺らす。


「その時、銀竜の声が頭に流れ込んだ。声ではない。言葉でもない。だが、確かに思いが伝わった。私は驚き、念じるように答えた。すると、銀竜と会話ができた」


リリアナの胸が、強く鳴った。


アーヴェルは言った。


「銀竜はこう言った」


そして彼は、銀竜の言葉をそのまま語った。


「われらは人を害するつもりなどない。

竜は、戦いを好まぬ。


だが、人がわれらを害とみなすなら、仕方あるまい。

人の世に、われらの居場所はなかったのだ。


かつてわれは、人を知るために、人の姿となったことがある。

その時、人の娘と出会い、子を成した。


だが、われが人の姿でいられる時は短い。

その娘と添い遂げることはできなかった。


わが子は、今も王都にいると聞いている。

けれど、われはもう探しに行けぬ。

人の姿に変わる力はもうないのだ。


わが子は、人と竜の血を持つ子。

人の中で生きる道を、探してやってほしい。


それが叶うなら、われの命など惜しくはない」


リリアナは声を失った。


母が言っていた。

お前には竜の血が流れている、と。


父の記憶はない。

母は、愛する人と駆け落ちして自分を生んだ、と聞いていた。


では、その父とは。


「その銀竜が……私の父……?」


アーヴェルは静かにうなずいた。


「おそらくは」


「おそらく?」


「銀竜も、子の名までは知らなかった。ただ、王都にいると聞いていたと言った。私は十年探した。竜の血を持つ子を。ようやく見つけたのが、君だ」


リリアナは、自分の背中に意識を向けた。


恐ろしいものだと思っていた。

隠さなければならないものだと思っていた。


けれどこれは、父から受け継いだものだった。


会ったこともない父が、最後まで案じてくれた証だった。


「銀竜は、自らの血を私に与えた」


アーヴェルは続けた。


「竜にとって、血を与えることは命を渡すことだ。銀竜はそのまま死んだ」


リリアナの目から涙が落ちた。


「私は、その遺骸を王家に渡したくなかった。だから一部をマントにした。王家は、私が竜を殺し、皮を剥いで力を奪ったと思い込んだ」


「それで、竜殺しと……」


「そう呼ばれた方が都合がよかった。恐れられていれば、王都の者は北へ近づかない。竜の子孫を守るには、その名が必要だった」


リリアナはアーヴェルを見上げた。


怖いと思っていた。

竜殺しだと恐れていた。


だが目の前の男は、竜を殺したのではなかった。


竜の願いを背負った人だった。


「なぜ、王家はそこまで竜を恐れるのですか」


リリアナがそう尋ねると、アーヴェルの表情が少し険しくなった。


「王家は、竜と人の血が混ざることを恐れている」


「血が混ざることを……?」


「かつて、この国の王家には竜の血が流れていた。人と竜の血をあわせ持つ者こそ、本来の王の血筋だった」


リリアナは息を呑んだ。


「けれど、長き王宮の争いの中で、その血は失われた。少なくとも、今の王には竜の血がない」


アーヴェルの声が低くなる。


「だから現王は恐れている。竜の血を持つ者が現れれば、自分は正統な王ではないと示されるかもしれないからだ」


「だから……竜を?」


「災厄と呼び、狩り続けた。竜の血を持つ者を、次の王になり得る存在として根絶やしにするために」


リリアナは言葉を失った。


自分の羽は、ただの呪いではなかった。

隠さなければならない異形でもなかった。


王家が恐れた、古い血の証だった。


「君が捕まれば、自由はない」


アーヴェルは静かに言った。


「王家は君を殺すだろう」


リリアナは震えた。


アーヴェルは少しだけ視線をそらした。


「だから、危険でも来るしかなかった」


「なぜ、そこまで……」


「自由に飛び回れる場所を、君に与えたかった」


「私に……?」


「北なら、君は羽を隠さずにすむ」


アーヴェルは、自分の黒い羽を見た。


「それに、私も孤独だった」


その言葉は、とても小さかった。


リリアナは目を瞬く。


「孤独……?」


「私は竜の血を飲み、竜の力を得た。だが、人でも竜でもなくなった。誰にも理解されず、誰にも近づかれず、竜殺しと恐れられてきた」


アーヴェルは苦笑した。


「君が娘だとは、見つけるまで知らなかった。ただ、竜の血を持つ者がいるなら、守らねばならぬと思っていた」


リリアナは黙って聞いていた。


アーヴェルは少しだけ気まずそうに、彼女へ目を向ける。


「それと……逃げるためとはいえ、突然抱き上げたことはすまなかった」


リリアナの頬が、かっと熱くなった。


先ほどの感触を思い出してしまう。


強い腕。

近い胸元。

聞こえた鼓動。


「い、いえ……あれは、助けていただいたので……」


声が小さくなる。


アーヴェルは真面目な顔のまま続けた。


「私は君を王家へ渡すつもりはない」


「私は……あなたに守られる価値など……」


「ある」


アーヴェルは強く言った。


リリアナは目を見開く。


「君は、銀竜が命と引き換えに願った子だ。だが、それだけではない」


彼は少し言葉を探し、それから静かに続けた。


「今夜、君を見て分かった。私の中の竜の血が、君を守れと言っていた」


リリアナは驚いた。


その言葉は、命令のようで、祈りのようでもあった。


「竜の血が……」


「君のそばにいると、私の中の力が静まる。初めてだ。竜の血を飲んでから、ずっと荒れていたものが、君の前では静かになる」


リリアナは、自分の胸に手を当てた。


彼のそばにいると、自分の羽も怯えなくなる。


それは、同じだった。


「私も……あなたのそばにいると、背中の熱が怖くありません」


アーヴェルの灰色の瞳が、少しだけ揺れた。


その時、遠くで角笛が鳴った。


王都の追手だ。


アーヴェルは空を見上げる。


「王国は攻めてくるかもしれない」


リリアナは震えた。


「私のせいで……」


「違う」


アーヴェルは遮った。


「彼らは、君を恐れている。竜の血を持つ君が、本当の王の血筋かもしれないと恐れているだけだ」


彼はリリアナに手を差し出した。


「それでも、私は君を守る」


リリアナは、その手を見つめた。


逃げるために飛ぶのではない。

隠れるために羽を出すのでもない。


自分の意思で、この人と空へ行く。


けれど、彼女はまだ飛び方を知らなかった。


「私……飛べません」


小さく告げると、アーヴェルは少しだけ意外そうに瞬いた。


「羽はあるのにか」


「出すだけで怖くて……ちゃんと飛んだことはありません」


「なら、教える」


アーヴェルは当然のように言った。


リリアナは驚いた。


「今、ですか?」


「今だ。追手が来る」


アーヴェルは黒い翼を広げた。


「羽で空を叩こうとするな。風に体を預けろ。力を入れすぎれば落ちる」


「そんなことを言われても……」


「手を出せ」


リリアナがおそるおそる手を伸ばすと、アーヴェルはその手を取った。


大きな手だった。

先ほど抱き上げられた時と同じ、強くて、けれど優しい手。


「落ちそうになれば、私が支える」


その言葉に、リリアナは息を吸った。


背中が熱くなる。

白銀の羽が、ゆっくりと広がった。


最初の羽ばたきは、不格好だった。


体が傾く。

足が地面を離れかけて、すぐに戻る。

息が詰まる。


「怖がるな」


「怖いです!」


「なら、私だけを見ろ」


リリアナは、アーヴェルを見た。


灰色の瞳が、まっすぐ彼女を見ていた。

冷たいと噂された瞳は、今は少しも冷たくなかった。


一度、二度、三度。


白銀の羽が、風を受ける。


体が、ふわりと浮いた。


「……飛べた」


リリアナが呟くと、アーヴェルはわずかに笑った。


「まだ飛んだとは言えない。領地まで練習だ」


「厳しいのですね」


「心配するな。私が助ける」


その言葉に、リリアナの胸がまた高鳴った。


けれど今度は、恐怖だけではなかった。


アーヴェルが先に空へ上がる。

リリアナはその手を取ったまま、ぎこちなく羽ばたいた。


風が羽の下に入り込む。

体が軽くなる。


地面が少しずつ遠ざかる。


「前を見る」


アーヴェルの声がする。


「はい」


「息を止めるな」


「はい」


「怖ければ、私の手を離すな」


「……離しません」


黒い翼と白銀の翼が、夜明け前の空に並んだ。


森の向こうから、追手の灯りが近づいてくる。


だがリリアナは、もう地上だけを見ていなかった。


空がある。


自分にも、行ける場所がある。


二人は北へ向かって飛び始めた。


王都の灯りが消えていく。

山の向こうに、淡い朝日が昇り始めていた。


北の空は広かった。


冷たく、澄んでいて、どこまでも続いていた。


リリアナは初めて、隠すためではなく、恐れるためでもなく、自分の羽で風を受けた。


隣では、竜殺しの辺境伯が飛んでいる。


その黒いマントは、戦利品ではない。

最後の竜が命とともに託した、願いの証だった。


竜殺しの辺境伯。


けれど本当は、竜を殺した男ではなかった。


竜の血を飲み、竜の願いを背負い、竜の子孫を探し続けた人だった。


リリアナは朝日の中で、そっと笑った。


もう、羽を隠さなくていい。

もう、自分を呪わなくていい。


白銀の翼は、北の空でまばゆく輝いた。

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