十三番目の魔女の祝福
軽率に人が死ぬので地獄度★★★★☆です。ご注意ください。
とある国に、お姫様が生まれました。
王様は大喜び。さっそく国を挙げて盛大なパーティーを開くことにしました。
そうだ。せっかくだから魔女を呼んで、姫を祝福してもらおう。
お妃様も賛成し、魔女に招待状を送りました。
パーティー当日、十二人の魔女が席に着きました。向かい合わせに六人ずつ。一番目の魔女が王様に問いかけます。
「王様、私たちのかわいい十三番目はどうしたの?」
普段、魔女は一緒に暮らしていません。久しぶりに会えると楽しみにしていたのです。
王様は笑って答えました。
「実は金の皿が一枚足りなくてな。十三番目の魔女は招待しなかったのだ」
魔女たちの前には、たしかに金の皿が置かれています。シャンデリアの灯りが反射して、とても綺麗でした。
「なるほど」
魔女がうなずいたのを見て、王様がパーティーの開会を宣言しました。
「皆の者、今日は存分に食べて飲んで楽しんでくれ」
金の皿に次々料理が置かれます。前菜もスープも魚も肉も、全部金の皿です。デザートになる頃には味がごっちゃになって、とんでもないことになっていました。
宴も酣になった頃、王様が十二人の魔女に言いました。
「十二人の魔女よ。どうか姫に祝福を授けてはくれまいか」
魔女たちは顔を見合わせ、相談をはじめました。
「どうする?」
「祝福って授けるもので、強請るもんじゃないんだけどねぇ」
「いいんじゃない? 祝福だもの」
「金の皿一枚買えないくらい貧しいんでしょ」
「姫の結婚に困りそうよね、きっと」
「持参金用意できないかも」
「それはかわいそう」
「姫に罪はないものね」
「そうね」
「せめて結婚できるようにしてあげよう」
「金持ちの男に来てもらえばいいのよ」
「求婚者が貢物持って列を成せばいいのよ」
言いたい放題の魔女に王様が固まります。たしかに、金の皿が足りないのなら買えば済む話です。十二枚しかないから皿を替えないのも気が利かないとしかいいようがありません。せめて洗うか拭うかすればいいのに、それもなしでした。
お姫様をあやしていたお妃様も頬を引き攣らせました。こんな話が広がれば、姫の結婚はたしかに難しくなりそうです。見栄っ張りのうえ気が利かない王様の国の姫と結婚しても碌なことになりそうにありません。
そうこうしているうちに祝福を授ける方向に魔女たちはまとまったようでした。
「では、私からは姫に美貌を授けましょう」
「私は艶やかな髪を」
「きらめく瞳を」
「魅了する声を」
「かぐわしい香りを」
「いつまでも続く若さを授けよう」
「飢えのない体を」
「理想の体型を」
「王子が夫になるように」
「困難を乗り越える勇気を」
「男に愛されるようにしてあげよう」
「ならばみんなを愛するやさしさを」
十二人の魔女がお姫様に祝福を授けます。本心からでしょう、どれもお姫様が結婚に困らないものばかりでした。
やがてパーティーが終わり、十二人の魔女は帰っていきました。
*****
「……ってことがあったのよ」
十二人の魔女が向かったのは、十三番目の魔女の家だった。
いきなり押しかけてきた十二人に何事かと目を丸くした十三番目の魔女は、自分が招待されなかったことを知らなかった。
説明されてはじめてハブられたと知ったが、怒る気にはなれなかった。十二人の姉がすでにぷりぷり怒っていたのだ。
魔女は突然変異だ。人間から生まれるものの、生まれついて魔女なので、たいていは迫害されたり育児放棄の末捨てられたりする。魔女というだけで拷問して殺す国もあるので、魔女は仲間が生まれるとすぐに保護し、妹として育てるのだ。
十三番目の魔女は、十二人の魔女のかわいい末っ子であった。
「十三番目が泣いていなくて良かったよ」
「一番目の姉様ずっと心配してたものね」
「招待状が届いてないんだもん。泣きようがないわ」
「そりゃそうだ」
十三番目の魔女は久々の全員集合に張り切ってもてなしした。
「パーティーの料理と比べないでね、姉様たち」
笑って出されたスープはなぜか緑色で、なぜかぼこぼこと煮えたぎっている。
「パーティー料理ってもね」
「皿だけ豪華」
「救いはパンだけ」
「ソースとスープの残りが混ざってる金の皿にデザート置かれた時は正気を疑ったわ」
十三番目の魔女の家にあるのは木の器だ。家は森の中にあるので足りなければ魔法でちゃちゃっと作れば足りる。
「それで祝福して帰ってきたの?」
「赤子に罪はないからね」
「そうそう」
「姫だもの。求婚者が多いのは誉れでしょ」
くすくす笑う十二人の魔女は「良いことした!」と満足そうだ。
うつくしい容姿に香り、心やさしいお姫様。まさに男の理想みたいな姫ではある。
「修羅場になるんじゃない?」
「なに言ってるの、十三番目」
「それこそ本望でしょう」
「ヒロインに苦難は付きものよ」
魔女は祝福を授ける。だが責任はとらない。ひどいと非難されようが、それが魔女だ。
今回は父親の王が自ら姫を祝福するよう望んだのだ。魔女はそれに応じた。王が望んだから、祝福を授けただけだ。
*****
やがて時がたち、お姫様は十六歳になりました。魔女が授けた祝福そのままに、うつくしくやさしいお姫様になりました。
王子を夫に、という祝福を聞きつけたあちこちの王子がお姫様に求婚します。我こそは、と名乗り出る、自信に満ちた王子ばかりです。
しかしお姫様はどの王子とも婚約しません。お姫様を溺愛する王様が断ってしまうからです。
お妃様は王様を諫めましたが、お姫様を手放したくない王様は聞く耳持ちませんでした。
そうしているうちにどの王子がお姫様の夫になるか、お姫様をめぐって戦争がはじまりました。
真っ先に狙われたのは王様です。王様がいなくなれば、邪魔者がいなくなると思われたのです。
やさしいお姫様は嘆き悲しみました。国から若者が兵士として戦争に行きます。みんな、誰かの大切な人なのです。お姫様は泣きました。涙は戦争を止める理由になりませんでした。
戦争は拡大していきます。お姫様を守る王子と、奪う王子に分かれたからです。
万が一にも攫われたりしないよう、お姫様はお城の一番高い塔のてっぺんに閉じ込められました。
若い男を戦争に取られ、女たちがお姫様を恨んでいるのです。戦争の原因は王様の我儘ですが、その元凶はお姫様です。
お妃様は国とお姫様を守るため、苦渋の決断を下しました。自分がお姫様の身代わりとなり、お姫様を外に逃がしたのです。そして、塔に火を付けました。
「お母様」
泣きながら逃げ延びたお姫様は、幸運にもお姫様を守ろうとする王子様に助けられました。
二人はたちまち恋に落ち、国に帰ると結婚式をあげました。
物語なら、ここで『めでたし、めでたし』です。
*****
王子と姫が十三番目の魔女を頼ってきたのは、結婚式からわりとすぐだった。
ここに来るまで十二人の魔女を訪ねたのだが、十二人から断られたのだ。祝福はすでに授けた。これ以上は何もできない、と。
「いや、私もお断りですけど?」
「待ってください! 彼女を祝福していないのは、十三番目の魔女だけなんですっ!」
「パーティーに呼ばれなかったからねぇ。何だっけ? 金の皿が一枚足りない? とかで。自分たちでのけ者にしといて困ったから助けて、なんて図々しくない? 恥ずかしくないわけ?」
「えっ」
「金の皿?」
そうなの? と王子が見れば、姫もはじめて聞いたとばかりに驚いている。
生まれた時のパーティーや、魔女に祝福してもらったことは伝えても、都合の悪い部分は語らなかったのだろう。見栄っ張りで強欲らしい王ならありえる。
「でも、わたくしたち、本当に困っておりますの」
姫が涙ぐみながら訴える。
かつてドレスを着ていた姫が、今はみすぼらしい町娘のようなワンピースだ。それでも彼女のうつくしさは損なわれていない。祝福のおかげである。
「そ、そうなんです! 姫を狙う王子たちが、今度は僕らの国を攻めてきたのです!」
聞いてもいないのに王子は説明してきた。
王子の軍隊が姫の城から退いたことは、他の王子たちにすぐさま察知された。
姫のいる塔が焼け落ち、姫の生存が絶望的になったからか――いや、違う。他の王子たちは姫を諦めずに探している。せめて一目、遺体でも良いから、様々な理由で塔の瓦礫をひっくり返しているのだ。何もせずに帰るなんてありえない。
王子たちは帰国する王子を見張っていた。この時姫は男装していたのでバレずに済んだ。
しかし帰国直後に結婚式だ。姫がいるぞと宣言したようなものである。
馬鹿で阿呆にお花畑が加わると手に負えなくなるんだな……。十三番目の魔女は思った。
「それで? なんでまた戦争になってんの」
「ひどいのです。結婚のお祝いに来たと言うから門を開けてあげたのに……」
姫は真珠のような涙を零した。
まんまと姫を奪われたと気づいた王子たちが、軍と共に追いかけてきたのだ。
軍を置いて、ならともかく軍と共にだ、王子の国の門番は門を空けなかった。しかしここでみんなにやさしい姫が本領を発揮する。せっかくお祝いに来てくれたんだもの、中に入れてあげて。結果は火を見るよりも明らかだった。
やさしさを裏切られた姫は泣き崩れているが、どう考えても姫が悪い。
「で、また逃げたわけね」
「はい。父が隙を見て……逃がしてくれました」
国を父を案じているのか、王子は拳を握り締めている。たぶん厄介払いされたんだろうな。十三番目の魔女は思ったが、そっと心に秘めた。言わぬが花だ。
「なのに奴らは執拗に追いかけてきて……。護衛もいたのですが一人減り二人減り、……今は僕と姫だけです」
姫の泣き声が大きくなり、王子の目にも涙が浮かんだ。
「……そうかい」
どっちだろう。十三番目の魔女は考える。姫を守っての戦死か、姫に愛想を尽かせての逃亡か。半々じゃないかなあと予想を付ける。
「わたくしのために……勇敢でしたわ」
姫は感謝はしただろう。ありがとう。頼りになると讃えただろう。だがそれだけだ。愛されるために生まれた姫に、問題解決能力はなかった。祝福はあっても、それをどう活かすか、教えられなかったのだ。
魔女の祝福は裏を返せば呪いである。うつくしさを授けられたなら驕らぬように、愛されるなら恨まれぬように育てなければならない。彼女に授けられた祝福に『幸福な一生』はなかった。それを王も妃も、考えなければならなかった。
姫には――生まれたばかりの姫に罪はなかった。王と妃は自業自得でも、姫にとっては親の因果が牙を剥いたといえよう。実に理不尽である。
「それで、どうしろって言うわけ? 姉様たちの祝福は消せないわよ」
魔女の祝福は魔女でも消せない。せいぜい上書きする程度だ。十三番目の魔女は、そこまで言わなかった。
「姫を、王子たちから守ってください!」
やっと本題に入れた、とばかりに意気込んで、王子が言った。
「――いいだろう」
十三番目の魔女が言った。
*****
気が付くと、お姫様は塔にいました。
王様と、お妃様と暮らしていたお城の塔です。
ハッ、として、お姫様は窓に駆け寄ります。お城の外では突如現れた茨に阻まれて、お姫様を奪おうとする王子たちが右往左往しています。
「王子様! わたくしはここです!」
きっとあの中に愛しい王子様がいる。お姫様は叫んでいました。
『姫を百年の眠りにつかせ、その間は城を茨で守らせよう』
十三番目の魔女の祝福です。あの茨がお姫様とお城を守ってくれるのです。
「そうだわ、お母様……!」
お妃様がお姫様を逃がすため、身代わりになって塔に火を付けることを思い出しました。
こうしてはいられない。お姫様が部屋を出ると、はたしてお妃様が階段を昇ってくるところでした。手には火の点いた蠟燭を持っています。
「お母様!」
「姫!? 部屋を出ては――」
お姫様がお妃様に抱き着きます。
「お母様! もう大丈夫です、十三番目の魔女が祝福をくださったの!」
お姫様が冒険を語ります。お妃様が逃がしてくれたこと。王子様に助けられ、結婚したこと。その後また追われ、十三番目の魔女に会いに行ったこと。
「わたくしは百年眠ってしまうけれど、茨が城を守ってくれます」
「ああ、姫。頑張ったのですね。母はそなたを誇りに思います」
泣きながらお妃様がお姫様を抱きしめました。
茨がどんどん伸びていき、お姫様もどんどん眠くなっていきました。
「もう大丈夫よ、お母様……だって魔女は言っていたもの……」
――百年もすれば王子たちはこの世にはいないさ。姫は若さと飢えない祝福があるから、眠っていても大丈夫だけどね。
よく考えたら金の皿一枚足りないままにした王様が一番悪くね?そして十二人の魔女の祝福もちょっとなあ……と思ったので。
明日の飲み会行くでしょ?って言われて飲み会あることを知らなかった過去を思い出して書きました。あれはムカッとするし悲しくなりますよ。十三番目の魔女に同情する。




