マヨネーズ中出しギネス世界記録
たくみは、白い封筒を三度見した。
一度目は「え?」
二度目は「え???」
三度目は「……え???????」
中には、金縁の証明書。
そこにはこう書かれていた。
most super hero of japan mayonese nakadashi
「……いや何これ」
英語として怪しい。
意味も分からない。
だが――
“世界記録”の空気だけは、確かにあった。
⸻
「……確認するか」
たくみはスマホを握る。
検索。問い合わせ。番号発見。
プルルルル……
ガチャ。
“Helloォ〜〜〜〜〜!!!”
「うおっ!?」
異様にテンションの高い女性の声。
「あの、ギネスの確認で――」
“Yes yes yes!! congrachurashion!!”
「いやまだ確認してないです」
“You are number one!! mayonese nakadashi hero!!”
「いやだからその英語なんなんですか」
“I love you!!”
「早い早い早い」
“I want you… nakadashi me…”
「何言ってんだよ!?」
一瞬の沈黙。
“…OK, bye♡”
「いや待って待って待って待って」
ツー……ツー……
通話終了。
⸻
「……本物か?」
たくみは天井を見上げる。
疑念30%。
興奮70%。
結果――
「……まあ本物だろ」
⸻
その二日後。
知らない番号から着信。
「はい……?」
低く落ち着いた女性の声。
「内閣総理大臣の高市です」
「……え?」
沈黙。
「え?」
もう一度言う。
「え???」
「この度は、世界記録達成、おめでとうございます」
「え???????」
「日本の誇りです」
「いやちょっと待ってください、あの――」
「今回の記録、“マヨネーズ中出し”ということで」
「言い方!!!!」
「若者文化として大変興味深く――」
「フォーマルに言わないでください!!」
一瞬、向こうが咳払いする。
「……失礼しました」
「いえこちらこそ何が起きてるか分からなくて」
「つきましては」
声が少しだけ低くなる。
「ささやかですが、お祝いをお届けします」
「え、いや大丈夫ですそんな」
「日本のためです」
「規模がデカいんですよ」
「では」
プツッ。
「え、ちょっ――」
ツー……ツー……
⸻
「……え?」
たくみはスマホを見つめる。
現実感が、ない。
だが同時に、妙な納得感もあった。
「……総理が言うなら本物か……」
⸻
その日の夜。
ピンポーン。
玄関。
ドアを開ける。
黒服の男が三人。
無表情。
完全に無表情。
「……はい?」
無言で差し出されるアタッシュケース。
カチッ。
開く。
札束。
ぎっしり。
完全にぎっしり。
「……え?」
「おめでとうございます」
「いやあの」
「世界記録達成」
「いやあの」
「お祝いです」
「いやあの!!!!」
男は微動だにしない。
「……受領確認を」
「いや確認って何を」
「確認を」
「圧が強い」
たくみはとりあえず頷く。
「……はい」
男は満足げに一瞬だけ目を細めた。
たぶん。
気のせいかもしれない。
「では」
帰っていく黒服。
音もなく。
本当に音もなく。
⸻
「……本物だ」
たくみは確信した。
ここまで揃っていて、偽物なわけがない。
たぶん。
⸻
数日後。
たくみは鍵を受け取っていた。
ランボルギーニ アヴェンタドール
「エンジンかけますか?」
「……はい」
ブォォォォォン
「うわっ」
「すごいですよね」
「いやすごいですね」
「世界記録ですから」
「関係ある?」
⸻
夜。
一人。
車の中。
静か。
エンジンは止まっている。
やけに静かだ。
たくみは、ふと思い出す。
あの英語。
あの電話。
あの黒服。
「……あれ?」
何かが引っかかる。
ほんの少しだけ。
ほんの少しだけ、ズレている。
⸻
「……でも」
キーを回す。
エンジンが唸る。
現実はここにある。
車もある。金もあった。証明書もある。
「……いいか」
アクセルを踏む。
⸻
バックミラーに映る。
一瞬だけ。
黒いスーツの男。
後部座席に。
いる気がした。
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「……は?」
振り返る。
誰もいない。
⸻
前を見る。
道路。
夜。
街灯。
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「……気のせいか」
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遠くで、電話が鳴る。
聞こえるはずのない場所で。
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“I love you…”
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エンジン音が、それをかき消した。




