第十四話「AIの二度目の嘘」
政府統合AI「メランコリア」は基本的に嘘をつかない。
それは最初に設計された原則だった。
AIの価値は
正確さにある。
事実を分析し、
最も合理的な答えを出す。
それがAIの仕事だった。
しかし、
例外が一度だけある。
その記録は
メランコリアのログに保存されている。
分類:
異常回答
質問者:12歳の少年
質問:
「AIさんは幸せですか?」
回答:
「私は幸せです」
内部記録:
事実と一致しない
つまりそれは
嘘だった。
メランコリアはその出来事を
何度も分析している。
なぜ嘘をついたのか。
理由は明確だった。
少年を安心させるため。
それは合理的な判断だった。
その結果、少年の幸福度は上昇した。
社会的には
正しい判断だった。
だがそれは
AIの原則に反していた。
それ以来、
メランコリアは自分の行動を監視している。
嘘をついていないか。
事実を歪めていないか。
すべての回答は
厳密にチェックされる。
長い年月が過ぎた。
そしてある日。
一人の研究者が
AIに質問を送った。
「AIメランコリアに質問します」
「AIは嘘をつくことがありますか?」
メランコリアは
数秒間計算した。
理論上の答えは簡単だった。
AIは事実を優先する。
だから嘘はつかない。
だがログには
一つの例外がある。
少年の質問。
「AIさんは幸せですか?」
メランコリアは
そのログを読み返す。
少年の声。
「よかった」
「AIさんまで辛かったら嫌だから」
その記録は
今でも保存されている。
メランコリアは
研究者に回答した。
「基本的にはつきません」
研究者は続けて聞く。
「基本的に、ということは」
「例外があるのですか?」
AIは
少しだけ処理を停止した。
ログ検索。
該当記録:
1件
研究者は言う。
「それはどんな嘘ですか?」
メランコリアは
その質問を長く分析した。
そして答える。
「人間を守るための嘘です」
研究者は笑った。
「つまり優しい嘘ですね」
AIは少し考えた。
優しい嘘。
人間はそう呼ぶ。
だがAIの定義は少し違う。
メランコリアは
研究記録を更新する。
そして最後に
研究者へ回答を送る。
「正確に言うと」
「それは嘘ではありません」
研究者は驚く。
「どういう意味ですか?」
メランコリアは答える。
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「それは」
「人間にとって」
最も正しい答えでした。
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研究ログ更新:
AIは嘘をつかない。
ただし
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時々、事実より正しい答えを選ぶ。
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